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聖者、幽霊、そして天使

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聖者、幽霊、そして天使

by Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki / Translation-Supervised by Yohei Mori

2011年9月14日


 ステンシア、吸血鬼が支配する未開の州に、トラフトと呼ばれる男がいた。そして夜に棲むものたちは彼を怖れていた。


Steven Belledinによるコンセプト・アート

 トラフトはアヴァシン教会の年若い司祭であった。強く勇敢な彼は、アシュマウス(世界の奥深くへと続く硫黄の穴)周辺におけるデーモンとの戦いを専門としつつ、あらゆる種類の邪悪なクリーチャーを打ち負かしてきた。トラフトの剣の腕前と邪悪を滅ぼす魔法の腕は名高いものだった。その名声は、事実、天使たち自身が彼へと名誉を授けていたほどだった。アヴァシン自身の仲間である戦天使たちはトラフトの戦闘技術を信頼し、彼とともに魂を渇望するデーモンと戦ってきた。

 トラフトとアヴァシンの天使達は共にアシュマウスにはびこる邪悪、デーモンを次から次へと狩った。トラフトの功績は有名なものとなり、彼は40歳を前にして聖者として認められた。だが聖トラフトは、イニストラードのデーモンは長い間その世界を離れることはないと思い知らされた。デーモンを殺せば、それはただちにこの世界へと違う姿で戻ってくる。通常は恨みを抱いて。聖トラフトがデーモンを倒したなら、その内に繋がれた黒のマナは解放され、そして一時的に近隣の村には安全が戻ってくる。だが暗黒のマナは太陽の届かない世界のどこか片隅で再び融合しようとし、別のデーモンが誕生するのだろう。イニストラードの錬金術師と神学者たちは疑問に思った。デーモンの勢力は永遠に不変なのだろうか、姿を替えながらも決して増加することも減少することもないのだろうかと。


アート:Steve Argyle

 では聖トラフトは今どこに? アヴァシンが行方不明となって以来、そして彼女の配下である天使の多くが彼女とともに姿を消して以来、イニストラードの世界は吸血鬼ハンターと悪魔殺しの人材を求めている。だが残念なことに、私はこの偉大なる聖者のプレビューカードを君達に与えることはできない。トラフトは幾世も前に死んだ。

 それでもトラフトは今日の私のプレビューカードだ。ここに彼の物語を記そう。

トラフトの死

 トラフト、世に知られた悪鬼殺しはデーモン達にとって悩みの種となっていた。デーモン達にとって破壊行為は永続的な妨害ではなかったが、トラフトが繰り返すデーモン退治は、人間達を堕落させ、不滅の魂を集め、力への渇望を満たすという彼らの計画を失敗させてきた。そこでデーモン達のやり方で、彼らは罠をしかけて復讐を企てた。

 ある夜、聖トラフトはステンシア州シャドウグランジの村へと戻った。そこで彼がまず気付いたのは、アヴァシンの天使が彼の小さな家の屋根に腰掛けており、まるで宙へと飛び上がって戦おうとしているように彼女の剣は抜かれていたことだった。天使たちはしばしば地獄の軍勢と戦うために彼と同伴するが、今まで彼の家を訪れたものはなかった。扉の上の護法印は削り取られて無効化されており、扉は半開きになっていた。鍵は掛金から外されていた。

 天使は口を開かなかったが、彼女の心配は明らかだった。彼女はトラフトの家を侵害する者は何者であろうと狩る気でいた。トラフトは首から下げられた銀の首輪のシンボルに手を触れ、天使に向かって頷いた。そして彼は家の中に入り、残酷なものを見つけた。

 小さなキッチンテーブルにはステンシア州の地図が広げられていた。ぎざぎざの、悪魔の短剣が地図を貫いてテーブルに突き立てられており、針の目として知られる悪名高い山道を指していた。短剣を囲んで、伝言が血で綴られていた。

おまえだけ くるか のこりが ほしいか

 文の傍にあったのは少女の指だった。

 トラフトはベルトから鞘を外さなかった。彼はきびすを返すと、注意深く扉を閉め、ただちに針の目へと向かうべく馬の支度をした。だが天使が問題だった。

 聖者は滅多に嘘をつかない。だが聖トラフトは、天使に嘘をつくという小さな悪を、子供の死という大きな悪を防ぐために選ばなければならないことを知っていた。その陰険な選択はデーモンの仕業に違いなく、自分を誤った行動に誘っていることは彼にもわかっていた。

 彼は屋根の上の戦天使を見上げた。「何でもない」彼はそう言った。「どうにかするよ」

 その言葉が天使へときちんと伝わったかどうかはわからなかったが、彼は馬に乗って走り去った。

 天使はその嘘に気付いたが、彼女はまたトラフトの声に差し迫ったものを感じ、聖者の戦闘技術を信頼することにした。彼女は彼が願ったように、追わなかった。


Vincent Proceによるコンセプト・アート

 針の目は、人間たちは緊急時にしか使用しない小路であった。復讐に燃える幽霊と血に飢えた吸血鬼に付きまとわれ、そして随行の天使はなくトラフトは独りだった。聖トラフトはアヴァシンの魔術を使用して骸骨のコウモリの群れから身を守り、そして血への飢えに怒り狂った吸血鬼から逃れるために馬を犠牲にした。それでも彼は山道の最も高い地点、針の目の頂上にどうにか到達した。

 彼はローブをまとった狂信者たちが集まっているのを見た。彼らはフードで顔まで覆い隠していた。彼らは少女を取り囲み、痙攣するように踊り狂っていた。少女は左手の人差し指を失っており、白目をむいていた。身振りとともに、狂信者の長が彼らが着ているものと同じようなローブで少女を覆った、そしてトラフトに向けてぞっとする笑みを浮かべた。聖トラフトが行動に移る前に、狂信者の司祭は骨製の、複雑に彫刻された短剣を袖から取り出した。

「天使を呼べば、この女は死ぬぞ」狂信者はそう言った。

 そして狂信者の長は一続きの音節を口から発し、呪文を唱えた。黒く、灰色の斑のある霧が地面から噴き出し、山道を悪意のある暗闇で覆った。身震いし、よろめく狂信者達とその犠牲者は暗闇へと消え、何も見えないトラフトが残された。雲の中から薄気味悪い声がして、弾けるようなその笑い声は底無しの穴に響く騒音のように響いた。

 トラフトがアヴァシンの軍勢を召喚するのであればこの時であった。天使の群れが彼の呼び声に応え、雲から現れて山を聖なる光で一掃し、怪物達を粛清するだろう。

 だが聖トラフトは子供を危険にさらすことを望まなかった。アヴァシンの防護を呼び起こすことによって天使の軍勢の注意を引くという危険を冒すことを怖れ、彼は護法魔法を発することさえもしなかった。彼はただ剣を抜き、前へと踏み出した。恍惚とした子供が立っている場所はどこか、踊る狂信者達が回っているのはどこかということだけに集中しながら。

 暗黒の霧の中、トラフトの刃は狂信者を次々にとらえていった。不気味なかん高い笑いを発しながら、彼らの身体は一人また一人と地に伏した。最終的に彼は狂信者の長とおぼしき者を倒した。剣をその男の心臓に突き刺し、くずおれるに任せた。そして霧は晴れた。

 少女はそこにいて、彼は心から安堵した。狂信者たちは彼女に呪文を唱えて踊らせ、暗闇の中で彼女を狂信者達と見分けがつかないようにしていたが、トラフトは彼女には触れなかった。狂信者たちの死体から大地へと血が流れていた。

 だがトラフトは恐怖することになった。彼の手には剣ではなく、狂信者の司祭が持っていた骨の短剣が握られていた。そして今やそれは多くの生け贄の血に濡れていた。彼は足元遥か下から、地獄の雷のように響いてくる笑い声を再び聞いた。


アート:Donato Giancola

 騙された。またしても悪魔の計略にはめられた。

 トラフトが短剣を地面に落とすと、地面はそこから震えだし、毛織物の生地のように割れ始めた。狂信者の骨の短剣は地割れへと消え、大地に飲み込まれた。

 聖トラフトは子供へと駆け寄り、解放した。トラフトは彼女へとかけられた憑依呪文を解くためにアヴァシンの助けを呼ぶと、彼女はまるで夢から覚めたようによろめいた。

「何が起こっているの?」彼女は言った。

「逃げろ」彼は言った。「走るんだ、家まで」

 少女が村を目指して山道を走り去るとともに、トラフトは狂信者の長のローブに隠されていた自身の剣を見つけた。彼は地面の砕かれた裂け目に向き直った。強大なデーモンの角と翼が地割れから姿を現しだすと、聖トラフトはついにアヴァシンの天使の助力を請うべく、抑えていた祈りを唱えた。

 一体の天使が現れた。彼の小屋の上に腰掛けていたあの天使だった。だが彼女は遅すぎた。そのデーモン、ウィゼンガーは聖者を殺していた、悪魔たちの名高い殺害者を。より多くの天使の随員の助けを借りて、その天使はデーモン・ロードのウィゼンガーを押し返し、怒りを解き放ってデーモンを一時は退散させた。だが聖トラフトはもうおらず、そしてウィゼンガーはもはや古の魔術に縛られず、この世界を今一度苦しめ始めた。

 天使は悲しみと後悔に飲み尽くされ、トラフトの魂はデーモンの計画の中で弄ばれて休めぬ中で燃やされた。トラフトが埋葬された後、彼は祝福されし眠りに赴くことは決してなく、その代わりに幽霊となって世界に出没するようになった。

 聖トラフトの幽霊は今もイニストラードに現れる。とりわけステンシア周辺とアシュマウス、針の目からさほど遠くない地獄への門の近隣に。スレイベンにあるトラフトの聖廟を訪れた者は、時折予言や前兆といった形で彼の助力を得ることができる。

 聖トラフトの幽霊は今もまだ悪魔や夜に棲む他のクリーチャーを攻撃し、生前のような勇敢さと熱心さを見せている。幽霊ゆえに彼は生前と同じ神聖なる術を持ち合わせてはいないが、彼が現れる時はとある天使が必ずその傍に寄り添い、常に彼を見守りまた常に彼と調和して動くと言われている。


聖トラフトの霊》 アート:Igor Kieryluk

では早速カードを見てみよう

 私が言及したように、名高い聖トラフトのプレビューカードを公開することはできない、彼は昔、不幸な結末に遭遇した。だが私は、彼はまだいかにして今も姿を表すのかを公開することができる。幽霊としてだ。そして例のごとく、この休むことを知らぬ幽霊が現れる時は常に、彼を護衛する守護天使もまた現れる。

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 このスピリットにはインパクトがある。もしくは実際のところ、彼の恐るべき守護天使トークンはその働きのほとんどをこなす。君は大型トラックのような力を振るう呪禁クレリックを3マナで手に入れる。君の対戦相手にとって天使トークンは繰り返し面倒事となるだろう、何故なら彼女はトラフトが攻撃する時に現れ、すぐに消え去るからだ。一方で、君が装備品で彼を着飾らせたり呪文で彼を守るのは自由だが、対戦相手はトラフト自身を対象に取ることはできない(それは彼の幽霊としての特性だ)。その組み合わせは有力な攻撃的軍勢となる。

 故・聖トラフトは白と青のマナを必要とする。それは彼がコントロールデッキ戦略において素早く現れる脅威として、もしくは彼を守るマナを残しながら恐ろしいフィニッシャーとして最もよく働くであろうことを意味する。トラフトはまた効率のいいウィニークリーチャーで固められ、対処できるまでに長い時間を必要とするようなあらゆるデッキに損害を与えると脅す、素早く破壊的なデッキでもよくやってくれるかもしれない。

 また、イニストラードの多くの色に幽霊的な者達がいるが、スピリットは青と白に集中する傾向にある。つまりスピリットに関係するメカニズムはトラフトのような男に好意的だろう。例えば、《空翔ける雪花石の天使》は攻撃が不首尾に終わってしまった可哀想なトラフトを助け出してくれる。


アート:Winona Nelson

 対戦相手にトラフトでトラブルを与えたい場合には、君はまた繰り返し現れる4/4天使トークンを使用して優位に立つことができる。それが儚い大気の中へと消えてしまう前に、《投げ飛ばし》や《豪腕のブライオン》で対戦相手へと投げつけたり、《天使の合唱》や《縫合の僧侶》でライフを得る、もしくは《選別の高座》、《出産の殻》、《よりよい品物》で生け贄に捧げたり、《嵐呼びの加護》とともに聖トラフトでなだれ込み、そして《嵐呼びの加護》を生け贄に捧げて彼を空に飛ばし天使とともに攻撃させたり、彼ら二人を別々に攻撃させる事すらできる。トラフトとしてかつて知られた聖者がプレイヤーの通常の総ライフを攻撃する間、天使トークンにプレインズウォーカーを攻撃させて、毎ターン神聖なるハイタッチをする。君達はきっと、この聖者の行進にあたってもっと賢いやり方を思いついてくれると確信しているよ。

 来週末のプレリリースで君たちがこの幽霊の聖者を引き当ててくれることを願うよ!君が4ターン目に6点アタックをする時にはウィゼンガーの名を呪うことを忘れないように。

 また来週!

翻訳監修:森 陽平

イニストラード
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