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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

デザインのプレイからプレイのデザインへ

Jadine Klomparens
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2019年6月7日

 

 こんにちは皆さん!

 私はジェイディーン・クロンペアレン/Jadine Klomparensといいます。もしあなたが以前に聞いたことがあるなら、多分私が6か月前まで競技マジックにどっぷりハマっていたからでしょう。私はStarCityGames.comに週刊記事を連載し、マジックのトーナメントに出るためにいたるところに旅をして、モダンの「ジャンド」を進歩させるために自分のできることなら何でもやっていました。

 私はまだその生活を時々懐かしく思いますが、それを止めたことに後悔はありません。今は、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストでプレイデザイン・チームと一緒に働く契約を結び、印刷される全てのマジックのカードを可能な限りプレイして楽しいものにするお手伝いをしています。私はこの仕事を始めてから、ここにいるのがわずか6か月だというのが変だと思うぐらいに、とても多くの事柄を学びました。

 私がここに来てから学んだ最も重要な事柄は、すべてプレイデザインの仕事と関係があります。プレイデザインで働き始める前、私はその仕事について見当違いなイメージを持っていました。彼らの任された仕事はマジックのフォーマットを楽しくバランスが取れたものにするためのものだと知っていましたが、その情報を受けて完全に間違った方向へ向かっていたのです。

 もちろん、私がプレイデザインが抱えていると思っていたこのタスクは初めから不可能なことなので、私が間違っていてよかったと思ったことのひとつです。

勝てない競争

 プレイデザインのこの仕事が不可能であるという考えは一見信じられないかもしれませんが、これは私が競技マジックのプレイヤー時代にたどり着いた結論です。当時、プレイデザインは私の敵対者のようでした。彼らはマジックのフォーマットのバランスを保つ仕事をしていて、そして私は自分に有利なようにそれらを壊そうとしていました。私は彼らがどうすれば勝てるか分かりませんでした。

 これは思い上がったことを言っているわけではなく、集合知の問題です。毎回マジックのセットが出るたびに、「プレイ・デザインがそのセットが完成するまでにプレイできる時間」を、「世界中のマジック・プレイヤーがそのセットのカードをプレイした時間」が桁違いに上回るぐらい蓄積するまでに、1週間もかからないのは言うまでもありません。たとえ、どれだけ優れた集団でもこの厳しい数の不利を背負って勝負になるなどとどうすれば思えるでしょうか?

 競技マジックの世界に長い間身を置いていた人なら、多分「メタゲーム」という言葉が頻繁に使われているのを聞いたことがあると思います。簡単に言うと、フォーマットのメタゲームとはそのフォーマットのトーナメントに出たときに対戦することが想定できるものを表しています。ある環境で最強のデッキはメタゲームのトップにのし上がり最もよく見かけられ、他のデッキはその最強デッキよりどれぐらい劣るかによって遅れを取ります。

 競技マジック・プレイヤーがフォーマットのバランスを考えるとき、彼らはそのメタゲームを考えます。バランスの概念とメタゲームは根本的に結びついています。バランスの取れていない環境は1つか2つのデッキに支配された歪んだメタゲームになりますが、バランスの取れたフォーマットはデッキの多様性が豊かで健全なメタゲームになります。

 環境に新しいセットが加わった時、メタゲームが安定するまでに数週間かかることがよくあります。これはプレイデザインが敵うべくもないプレイの量でも数週間かかるということで、このことが不可能性の本質だと私は思っていました。プレイ・デザインはそもそも見つけることのできなかったメタゲームのバランスをどうやって望むことができるのでしょうか?

不可能の達成

 私が、プレイデザインがその仕事が可能であると伝えても、まさしく誰も驚かないことは分かっています。それが可能なだけではなく、プレイデザインはその仕事がかなり上手いということも判明しました。その秘訣は、メタゲームを楽しいものにするためには、それを解明しなくてもいいということです。

 プレイデザインが新セットの発売によってメタゲームがどうなるかを予想できないのは事実です。もしそれができるのなら、彼らは正しく仕事をしていないことになります。結局のところ、プレイデザインによって解明できるほど単純な環境というものは、マジックのプレイヤーが長い間楽しめるほど豊かで面白いものとはかけ離れています。

 プレイデザインは競技マジック・プレイヤーの敵対者ではありません。彼らは外の世界が達成できる莫大な量のプレイを必死に出し抜こうとしているのではなく、またそれよりも優れているわけでもありません。彼らはその「敗北」の必然性を受け入れており、そして最終的にトーナメント・プレイヤーが見つけることになるメタゲームの答えを探し求めません。彼らはこの不可能なことを行わないのです。

 そうではなく、プレイデザインは新しいセットで起こりうる、すべてのメタゲームを楽しくバランスが取れたものであるようにしているだけです。ええ、「だけ」というのはこれを表す一番良い言葉ではないかもしれません。この仕事は信じられないほど複雑で困難ですが、少なくとも不可能ではありません。そしてプレイ・デザインはこの仕事に関して複数の技術を用意しているのです。

 
集合妖術》 アート:Steve Argyle

変更の影響

 プレイ・デザインの武器庫の中で最も重要なものが変更です。実際、これはこの仕事の中心です――プレイヤーにとってもっと楽しくなるようにカードに変更を行うのです。私はここ6か月で変更について多くのことを学びました。

 私が最初に学んだことは、大きな変更が常に大きな影響を持っているわけではないということです。私のワシントン州への引っ越しを例にします。私はわずか4日間で2500マイル以上の距離と3つのタイムゾーンを超えてアメリカを横断しました。私は以前に来たこともない、誰も知っている人のいない街に新居を構えました。私はこれが人生の大きな転機になると思いましたし、ある意味そのとおりでした。しかし本質的には変わりませんでした。

 私は変わらずほぼ毎日朝に起きて、マジックのカードについて考える忙しい日々が始まります。何回かゲームをして、新しいデッキを1つ2つ組んで、さらに何回かゲームをして、仲間とある理論についての話をします。私の1日の全体的構造は環境が変わってもとてもよく似ています。

 私の毎日の最大の変化は、マジックのことを考えるときに広い視野を持ってそれをするようになったことです。競技マジック・プレイヤーだったとき、私は存在しないもののことを考えるのは損だと信じていました。私の目的はできるだけ多くの試合に勝利することであり、私にできたのは存在するそのままのカードで試合に勝つことだけで、それらをどのようにすることができるかではありませんでした。

 今、カードをどのようにすることができるか考えることは、私がしている中で最も大事なことです。私の責任はカードを微調整する方法を探すこと、機能しているものとそうでないものについて考えること、そして全く異なる要素をまとめ上げて楽しい経験にする方法を考え出すことです。たしかに大変ですが、得るものが大きい仕事です。

(Tr. MASUYAMA, Takuya / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)

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