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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

さらなるこぼれ話:『ラヴニカのギルド』

Mark Rosewater
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2018年11月5日


 先週、『ラヴニカのギルド』に関する諸君からの質問に答え始めた。興味深い質問が大量にあったので、今週もその続きをすることにしよう。


Q: 混成マナは大きなデザイン上の話題でしたか? 必要な次元だと思われるのに、混成が非常に少なかったです。デザインや上限が難しくて格下げになったんですか?


 混成は、これまでのラヴニカのセットと全く同じ水準で存在している。垂直サイクル1つ、つまりコモンに1枚、アンコモンに1枚、レアに1枚である。ディミーアを例に取ってみよう。

『ラヴニカ:ギルドの都』
『ギルド門侵犯』
『ラヴニカのギルド』

 『ラヴニカのギルド』が特殊なのは、混成カードのうち2枚が分割カードの一部であることである。ただし、混成カードの総枚数はこれまでの2回のラヴニカと全く同じなのだ。


Q: ゴルガリの強力なカードの中に、墓地からクリーチャーを取り除き、宿根を弱体化させるカードがあるのはなぜですか?


 ゴルガリは、墓地を使うギルドである。その方法はいくつか存在する。その1つが、墓地にあるカードを見て、そこに存在するカードから力を得るという方法である。宿根のやり方がこれだ。

 2つ目の方法が、墓地にある間に能力を持つカードを使うというものである。墓地に残り続けることもあるが、使うことによって墓地から取り除かれることが多い。『ラヴニカのギルド』では、イゼットの再活がこの空間を用いている。

 墓地をリソースとして使うのが3つ目の方法である。自分の墓地にあるカードを「食べる」(通常、追放する)ことで効果を生み出せるようにするのだ。《納骨堂のトロール》はこの一例だ。

 4つ目の方法が、カードを自分の墓地に送ることを助けるカードである。《納骨堂のトロール》はこちらにも当てはまる。

 5つ目の方法は、墓地にあるカードを、手札や戦場といった別の領域に動かすなど、操作できるようにすることである。《ゴルガリの拾売人》がこの一例である。

 ゴルガリを深みのある重層的なギルドにするため、我々はこの全て(2つ目については今回はイゼットに譲っているので使っていない)を使うことにしたのだ。つまり、さまざまなカードがお互いに対立することもある、ということである。対立が多すぎるのは問題だが、少し対立があることでプレイヤーは興味深い判断をすることになり、ゲームプレイがいくらか違うものになってくることになる。これが、宿根と墓地のカードを「食べる」カードが併存している理由である。


Q: 『ラヴニカのギルド』のコモンやアンコモンの複雑さは、私がマジックをプレイしてきた中で一番高くなっています。今回のセットに関して、複雑さについての議論はどうでしたか?


 それにはいくつかの理由がある。1つ目に、『イクサラン』からの教訓として、(特にコモンの)複雑さが低すぎたということがわかったので、複雑さの水準を変えることを実験しているということ。2つ目に、何年もの経験から、緻密な構造は新規プレイヤーのデッキ構築を助け、複雑さを少し高めることができるようにしてくれるということがわかったこと。例えば、ラヴニカのセットはプレイヤーに2色(特定の組み合わせの2色の組み合わせ)をプレイすることを強く推奨するので、プレイヤーがデッキを構築するにあたって悩みこんでしまうことを減らす助けになりうるのだ。

 3つ目に、我々は常に新しいレンズ状のデザイン空間(そのカードがプレイ上で使えるあらゆる方法を見ることができないような経験の浅いプレイヤーには単純に見えるもの)を実験しているということ。4つ目に、現在のセットはそれ自身だけでドラフトされるので、ブロック全体を組み合わせてプレイされるときのために抑えておいた複雑さをいくらか引き出すことができること。

 これらすべての要素を合わせ、『ラヴニカのギルド』はこれまでの平均的なセットよりも少し複雑にしている。しかし、そう遠くない過去のブロック全体(例えば『アモンケット』『破滅の刻』環境)より複雑になってはいない。


Q: 今回でラヴニカのセットは3回目ですが、この次元に必要な条件をすべて満たしたカードをデザインするのはどれぐらい難しくなっていますか?


 再訪セットは、デザインするのが簡単になる面もあれば、難しくなる面もある。簡単になるのは、既存の構造が存在するからである。新しい世界を作る上で一番難しい部分の1つが、ゲームプレイの核になる、その世界がメカニズム的に何なのかを決めることである。再訪する世界に関しては、それはすでに決まっている。例えば、ラヴニカは、複数のセットに分かれた2色の組み合わせ10組の陣営を軸とした多色環境である。再訪する世界では、多くのデータが存在する。カードを作ったことがあり、それを使ってプレイヤーがプレイしているのを見たことがあり、それらのカードについての市場調査を見る機会があったのだ。プレイヤーが好きなものや嫌いなものがわかっており、その知識を用いてその再訪を人気のあるものに寄せ、人気のないものを避けることができるのである。

 難しくなるのは、再訪には多くの期待がついてまわるからである。我々は新セットごとに新しいメカニズム的掘り下げを行ないたいと考えているが、ユーザーが多くの要素の再録を期待すればするほどにそれは難しくなるのだ。新しい空間を削り出すためには何を再録しないかを決める必要があり、人気のある世界ではそれは難しいのだ。さらに加えて、新しい要素は、すでに存在するものとつながりが感じられるようなものでなければならない。例えば、我々が新しいギルド・メカニズムを作る場合、プレイヤーが3回の訪問すべてのそのギルドのカードを組み合わせて使うことを想定する。そうすると、我々は既知のデザイン空間内で変種を探す必要があり、特に一部のギルドは扱う範囲が他と比べて狭いため、非常に難しいことになる場合がある。

 つまるところ、一部のギルドは他のギルドよりも難しかったのだ。ディミーアとゴルガリは、歴史的に見て、常に難しいことがわかっている。対照的に、セレズニアとボロスはそうではない。イゼットには、他の9ギルドと違い、メカニズム的空間のようには理念的空間の共通点がないという独特の問題がある。つまり、全体として、課題は存在したが、『ラヴニカのギルド』は全体として、ここ5年間に作ってきた他のセットと比べて一番難しかったということはなかったと言える。この理由のほとんどは、過去2回のラヴニカのブロックにおける尽力の結果、この世界に強力で効果的なデザインの道具を大量にもたらしてくれたことだと考えている。


Q: 諜報に関して、占術と似すぎているとは思いませんか? 他にこれと置き換えられるようなディミーアのメカニズムはありましたか、それとも、これは他のものと比べ物にならないほど優れていましたか?


 25周年を迎えたゲームをデザインする上で現在進行中の問題の1つが、過去のメカニズムとどれほど似たものを許容できるかを決めることである。ここ何年もの間、我々は単にメカニズムをただ再録することで大過なくできるようになってきている。何かがうまく行ったのなら、変更するためだけに変更する必要などないのだ。逆に、我々のメカニズムの一部はあまりにも広く(キッカー、聞いているか?)、新しいメカニズムすべてを古いメカニズムの焼き直しとして定型化したなら、マジックにおいて新しいものが少なく感じられ、新鮮なものとは見えなくなってしまうだろう。言い換えると、これはバランスの問題なのだ。

 諜報は、人気のあるメカニズムの調整形でありながら、そのメカニズムでは不可能な方法で調整しているという点で興味深いものである。(我々は、これを占術の変種として、「闇占術/dark scry」にするということも試した。これがボツになったのは、単に混乱を招くだけだと考えたからである。)捨て札にするという要素は、このセットで有効になるための鍵である。もっと占術と違うものだと感じられるようにするためにさらなる変更を加えるかどうかという話し合いもしたが、そうすると単純さ、明瞭さ、機能の面で最適な位置から離れることになり、それがふさわしいとは思えなかったのだ。その結果、我々は諜報をそのままに残すことにし、占術の変種であるという事実を隠さないことに決めたのだった。

 ところで、展望デザイン・チームもセットデザイン・チームも、ディミーアのギルド・メカニズムについてはさまざまな他のものを試したが、どれ1つとして諜報のようにこのセットにうまくはまるものはなかったのである。


Q: なんで苗木がないんですか? 《若葉のドライアド》や《密航者、スライムフット》(や仲間たち)を踏まえて、セレズニアとゴルガリのトークンが今回違ったのは驚きです。


 それ単体で見れば、セレズニアやゴルガリが苗木・クリーチャー・トークンを使う可能性はあった。セレズニアとゴルガリが両方存在した最初のセットである『ラヴニカ:ギルドの都』には、1/1の緑の苗木・クリーチャー・トークンを生成するカードが9枚(ブロック内にはさらに追加で4枚)存在した。同じく両ギルドが存在した『ラヴニカへの回帰』には、そのセットのゴルガリのギルド魔道士1枚だけだった。問題は、ゴルガリのギルド・キーワードが宿根であり、クリーチャー・トークンとは反シナジーの関係にあった(ゴルガリはクリーチャーが死んで墓地に行かなければならず、クリーチャー・トークンはそうならない)ことであり、そのためデザインはセレズニアのトークン生成を白と緑白に集めた。(《芽吹く更生》だけが例外であるが、これはソーサリーであり、いずれにせよ宿根の助けにはならない。)

 この結果、セレズニアのトークンは白(1/1で絆魂付きの兵士)か緑白(2/2で警戒付きのエルフ・騎士)となり、苗木の色である緑単色ではなくなったのだ。加えて、苗木はバニラ・クリーチャー・トークンであり、セレズニアのトークンは全てキーワードを持っている。これらすべての理由から、苗木は今回のセレズニアやゴルガリにはふさわしくなかったというだけのことである。我々は同じスタンダード内で前のセットのテーマを支援しようとしているが、それは新しいセットのすることと矛盾しない場合に限られるのだ。ご理解あれ。


Q: スタンダードで部族デッキへの支援がないのはなぜですか? ウィザード、苗木、騎士、その他このセットのギルドが簡単に支援できそうなものもあるので、支援されていないのは完全に意図的なものに思えます。


 セットがその前のセットの部族テーマを支援する最大の方法は、その部族のクリーチャーを入れることである。例えば、このセットでは12枚のウィザードが存在し、そのうちの10枚は青と赤に集まっており、これは『ドミナリア』のウィザード部族テーマの色である。騎士であるクリーチャー・カードは9枚あり、騎士ではないが騎士・クリーチャー・トークンを生成するカードが3枚ある。(その中の2枚以外は部分的には白であり、白は強力な騎士部族カードの色である。)上の質問で答えたとおり、苗木は宿根と相性が悪い。(そして海賊や恐竜などはクリエイティブ的にラヴニカに存在するのが難しい。)

 このことからさらなる疑問が生じる。なぜ、このセットにはメカニズム的に特定の部族を参照するカードがそれほど存在しないのか。その答えは、それはラヴニカのクリーチャー・タイプの扱い方と整合しないからである。クリーチャー・タイプの幅が狭い世界(イニストラードでは、クリーチャーのほとんどは少数のクリーチャー・タイプに属している)もあれば、幅が広い世界(ラヴニカのような世界では、さまざまなクリーチャー・タイプが存在している)もある。幅が狭い世界が重要なのは、それらはスタンダードのような狭いフォーマットで部族デッキを支援するからである。幅が広い世界が重要なのは、それらは珍しいクリーチャー・タイプを基柱にしたデッキをプレイヤーが組むことができる広いフォーマットで部族デッキを支援するからである。

 幅が広いセットでは、メカニズム的な部族カードがリミテッドで働きにくく、ドラフトで成立しないテーマに迷い込ませてしまうことになる、いわば「罠」になることが多いので、大量に入れるには問題があることが多い。通常、幅の広いセットで部族カードを作る場合には、レアや神話レアに配置し、その指定されたクリーチャー・タイプが大量には存在しなかったとしても何らかの機能を持つようなデザインを用いるのが通例である。

 つまり、『ラヴニカのギルド』は、さまざまな部族のカードが存在する中で最善の方法で部族デッキを助けているのだ。ただ、メカニズム的な部族カードが揃うようなセットではないというだけのことである。


Q: なぜラヴニカのセットでは、ギルドに属さないキャラクターはカードにならないんですか?(破砕団の兄弟とかクレンコとかイェヴァとか)


 最も大きな理由は、枠の問題だ。セットごとに入れられる伝説のクリーチャーの数は決まっており、その枚数は、ラヴニカにおけるギルドのような、そのセットの大きなテーマを扱うために使うことが多い。サプリメント・セットなど、ギルド外のラヴニカの伝説のキャラクターを採用する他の経路があるので、それらを扱うのはセットそのものではなくそちらで扱うことが多いのだ。


Q: 召集が唯一の再録メカニズムなのは、それがこのセットにおけるセレズニアに完全にふさわしかったからですか、それともセレズニアのデザイン空間が比較的限られているせいですか?


 前者である。セレズニアのテーマはクリーチャーであり、それはギルドのテーマの中でメカニズム的に比較的深いものの1つである。例えば、セレズニアはクリーチャーを参照するメカニズムや、クリーチャーに影響を与えるメカニズムや、クリーチャーをリソースとして用いるメカニズムや、単にクリーチャーに持たせるメカニズムさえも使うことができる。この骨には大量の肉がついているのだ。再録メカニズムとして召集が選ばれたのは、それがこのセットに入る他のあらゆるものと完璧に混じり合うことができるからであって、他に採用できるものがなかったからではない。


Q: ボロスの伝説のクリーチャーを、戦闘関連以外から作ることは検討しましたか?戦闘がボロスの中心だということはわかっていますが、2枠あってボロスには統率者の多様性がどうしても必要だということを考えると可能性を無駄にしているように見えるのです。


 統率者戦は人気があるフォーマットなので、我々はそれについてかなりの時間をかけて検討している。赤と白が2人戦向けに作られていることから、統率者戦においてもっとも問題がある色であることも認識している。統率者戦でそれらの色を助けられる可能性を見つけたら、我々はそれを採用することが多いのだ。(そして舞台裏では、それらの色がカラー・パイを守りながら、統率者戦でできることを広げるための作業を進めている。)ここに問題がある。マジックを統率者戦以外のフォーマットでプレイしているプレイヤーが大量にいて、我々は彼らのためにもカードを作っているのだ。さらに加えて、ボロスの伝説のクリーチャーはボロスらしいものであってほしいと考えており、ゴルガリが墓地に、イゼットがインスタントやソーサリーに特化しているのと同じように、ボロスは戦闘に特化したギルドなのだ。

 教導はクールな新メカニズムであり、それと相互作用するような魅力的な伝説のクリーチャーを作ろうと思ったら、それが可能なのはこのセットだけなのである。統率者戦向けの赤白カードを作る経路はいくつも存在するが、ボロスのクリーチャーを作る経路は(この時期には)1個しか存在しないのだ。なお、《軍勢の切先、タージク》には戦闘以外から味方のクリーチャーを守るクールな能力を持たせていることにも留意してもらいたい。これは、アグロ寄りの攻撃的なデッキ以外の方法でも使うことができるのだ。同様に、《正義の模範、オレリア》のボーナスはコントロール寄りの戦略でも1体(か、彼女が持つ教導のおかげで2体)の攻撃クリーチャーを強化することができる。

 特定のものを意識していると、新セットをその視点だけから見てしまうことは非常によくあることだ。「この新セットは明確に[A]をしていて、それは私がマジックをプレイする上で有用だ。」開発部はマジックを1つのフォーマットだけに最大化するような贅沢はできないので、我々はリソースをどこに割り当てるか選ばなければならないのだ。長期的には、我々は比較的戦闘中心ではない赤白の統率者を増やしていく努力はしているが、戦闘中心であることを基柱とした独自性を持つボロスでは難しいというだけのことである。


Q: ディミーアのポスターやパックに描かれているのは誰ですか?


 今日の最後に、私が大量に受けた質問を取り上げよう。これは誰なのか。


アート:Wesley Burt

 彼はカードには登場していないが、ブースターパックやプレリリースの箱、広告にも登場している。彼は誰か。

 答えは2つあるので、どちらでも満足できる方を選んでくれたまえ。

回答1

 『ラヴニカのギルド』のグラフィック・デザイン・チーム(そのセットの商品や宣伝広告全ての外見を決定するグループ)は、各ギルドを表す画像を必要としていた。その画像はブースターパックやプレリリースの箱、宣伝広告などの様々な場所で使われることになっていた。必要なものそのものを手に入れるため、彼らは5つの画像を発注した。

 大きな問題が、各ギルドが使うキャラクターは誰であるべきかだった。イゼットとゴルガリは、それぞれにプレインズウォーカー(それぞれラルとヴラスカ)がいるので非常に簡単な話だった。次に、チームはセット内の伝説のクリーチャーに着目した。ボロスにはオレリア、セレズニアにはイマーラがそれぞれ良い選択だった。ディミーアについては、エトラータもラザーヴも彼らの需要に応えるものではなかったので、最終的に彼らは新しいキャラクターを作ることにした。これは他のイラストが発注される前の話なので、選択肢となるビジュアル的なデザインがいくらでもあったわけでもないことに気をつけてほしい。

 彼らがその新しいキャラクターをカードに入れる場所を探したかどうかは知らないが、おそらく時間的に完成したイラストを他のイラストの資料として使うことはできなかったと思われる。(外装の画像はどれもカードで直接使われるものではないのだ。)そして、これがパッケージに描かれているディミーアのキャラクターが誰だかわからない理由である。

回答2

 ラザーヴだ。彼は多相の戦士なので、我々は仮装状態の彼の姿をディミーアの普通のメンバーとして選んだのだ。

 この2つの回答のどちらかが、この質問をしてきた多くの諸君に心の平安をもたらせば幸いである。

なにもツイートせずに

 本日はここまで。私の回答を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事や私の発言、あるいは『ラヴニカのギルド』そのものについて感想があれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、(この記事的に)新しい指標を紹介する日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが『ラヴニカのギルド』を充分にプレイし、私への質問をもっとたくさん見つけますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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