READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『ラヴニカのギルド』

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2018年10月29日

 

 各セットごとに、私は、最新セットに関する諸君からの質問に答える一問一答記事を書いている。今回は、『ラヴニカのギルド』に関する質問に答えることにしよう。

 私のツイートは次の通り。

 『ラヴニカのギルド』に関する一問一答記事を書くので、『ラヴニカのギルド』に関する質問を1ツイート1問で送ってくれたまえ。よろしく。

 

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で語ることができない話題もある。

 伝えるべきことは伝えたので、さっそく質問に入るとしよう。


Q: 「変身」(と2.0)よりも前から、ラヴニカに2018年に再訪することは計画されていましたか?

 

 3回目となるラヴニカへの訪問は、基本的には『ラヴニカへの回帰』ブロックが大好評を得た直後に計画された。我々の仕事は、諸君がプレイしたいと思うセットを提供することである。ラヴニカは大人気で、統計的に言っても、我々が作った中で最も人気のある世界である。ギルド、多色カード、混成マナ、都市の物語と登場人物、その他いろいろなものが組み合わさって、我々が訪れるたびにプレイヤーが楽しめる何かが出来上がったのだ。

 そして、その後でそれを大きなボーラスの物語に組み入れ、そしてスケジュールが確定することになった。変身1.0の中で世界を公開する比率を速めたという話をしたが、それによって少し早く登場することになるということは問題ではなかった。変身2.0までにはすでに取り掛かっており、その時点では何の変化もなかった。

 4回目の訪問があるなら、そのときには、これから1年にラヴニカに起こることから大きな影響を受けていることになるだろう。


Q: MTG Arenaによってデザインにどれほど影響が出ていますか?

 

 デザインをするとき、我々はそれがデジタル製品(Magic: The Gathering ArenaとMagic: The Gathering Online)にどのような影響を与えるかを意識している。何かが完全に禁止されるということはないが、重要視している影響を踏まえて選択が行われることはある。その懸念を、3種類に分類しよう。

 1種類目は、「ちょっとしたこと」だ。例えば、そのカードを使ったときに必要となるクリックの数を意識する。同じような効果のままでクリックを減らすことができるなら、カードを総変更することを検討することはよくあることだ。ミスクリックの可能性についても考え、そのカードが別の形で使われる頻度を決める。別の用途で使われる頻度が充分少なく、ミスクリックが充分問題になるようであれば、そのカードが影響を及ぼすものを制限することを検討することになる。

 2種類目は、「大きなこと」で、ルール・エンジンがそれまで扱ったことのない何か新しいものや、機能させるために新しいプログラムが必要な何かを導入するときのことである。この場合、我々はデジタル・チームとともに、その要素がデザインにおいてどれほど重要か、そしてその実装のコスト(人員、時間、その他のリソース的に)がどれほど大きいかについて話し合うことになる。その要素がデザインにとって有益であれば、我々はそれを実現させる方法を考える。その逆に、セットにとって有益ではないカード1枚、サイクル1つのために大量のリソースが必要となるのであれば、そのカードを他のものに変更することを検討することになる。

 3種類目は「1本勝負問題」であり、これは主にMagic: The Gathering Arenaに関する話である。MTG Arenaのゲームのほとんどは1本勝負であり、サイドボードが存在しない。これまで、マジックがメタゲームの対策を扱う方法の多くは、問題が生じたときにサイドボードから投入できるようなカードを作ることであった。1ゲーム・マッチによって、対策カードを扱う方法を考えることが必要になった。もちろん、これは、我々がデザインする方法の多くを再考することにつながったのだ。

 『ラヴニカのギルド』にはもちろん第1種のカードが多く存在し、紙のゲームに最小限の影響しか与えないようにしたまま、より良いデジタル体験を作るために調整された。第2種の問題は存在しなかった。『ラヴニカのギルド』では、これまでにデジタルで扱ってきたものから大きく離れたことはしていない。第3種は、『ラヴニカのギルド』を作っている時期にはまだ問題になり始めたばかりだったので、小さな影響はあったかもしれないが大きな影響はなかった。


Q: 郵便配達を担当しているのはアゾリウスですか、ディミーアですか?

 

 想像するに、通常の手紙はアゾリウスが担当しているが、誰にも知られたくないような特別な配達があったらディミーアに任せるだろう。

 郵便受けに届けられる手紙なら、アゾリウス。

 いつのまにか家の中に置いてある小包なら、ディミーアだ。


Q: 緑で自分のライブラリーを削るカードがゴルガリにないのはなぜですか?

 

 セット・デザインには2つの選択肢があった。緑で自分のライブラリーを削る(緑が常々することではないが、墓地に注目したセットではやることが多いことである)ようにして、それらのカードを軸にして宿根カードのコストを決めるか、プレイヤーがクリーチャーを戦闘や生け贄、捨て札で墓地に送るようにして、それに応じたコストにするかである。

 前者を選べば、宿根カードのコストが自分のライブラリーを削るカードがあることを前提に定められるので、それがなければゴルガリの戦略は効率的には働かなくなる。後者を選べば、プレイ・デザインはより積極的に宿根のコストを定めることができるようになり、ゲームプレイの向上を図れる。また、そうすれば諜報がゴルガリ・デッキにおいて中心的な役割を果たすようになり、青をタッチすることを推奨する助けにもなるのだ。

 セット内のテーマのバランスを取る方法の1つが、どのような前段カードをどれだけさまざまな色に入れるかに注意を払うことであるということを強調しておこう。セット内で前段カードが働くからと言って、必ず含めるべきだということにはならないのだ。


Q: 人々は、他のセットの色による陣営よりも、好きなラヴニカのギルドをずっと強く認識しているように思います。ラヴニカのギルドが独自性を出すのにこれだけ成功した理由は何で、それを他のセットにも活用する方法は何だと思いますか?

 

 プレイヤーが一番繋がっているマジックの要素は、色である。それはおそらく、色が深いレベルで意味を持つからだろう。色は哲学や理想、人生の見方を表している。色は無意識レベルで真実に思えることを語っているのだ。『ラヴニカ:ギルドの都』では、史上初めて、色の組み合わせを取り上げ、陣営としての独自性を与えた。2色は、区別するのに充分な差があり、陣営が依って立つものがわからなくなるほど多くはないという意味でちょうどいいのだと思われる。

 また、多色の組み合わせに基づいて陣営を作ったのが初めてだったので、最も手に入れやすいものが多く選ばれることになった。2色の組み合わせで表されうるものは他にもあったが、我々が選んだのはもっとも明白な見解だったのだ。ギルドには、その陣営の独自性を強調するためにデザインされた、ラヴニカの一部であるという利点もあった。

 我々は当然ギルドの人気を認識しており、その理解をもとに(色に限らず)新しい陣営を作ろうとかなりの時間を費やしてきた。しかし、それは難しいものだった。我々が試したものの例をお目にかけよう。

  • 他の色の組み合わせ ― 単色にはすでに独自性があるので、それ自身で陣営の独自性を持たせるようにするのは難しい。3色はいくらか広く、その依って立つものを明確にするのは難しい。例えば、3色のデザインでは、なぜそれが2色ではできないのかという疑問を持つプレイヤーが常に存在する。(3色陣営には人気があり、また扱うことになると思われる、ということは書いておこう。)4色はカードをデザインするのが非常に難しい。5色だと陣営が1つになってしまう。
  • クリーチャー・タイプ ― クリーチャー・タイプはかなりのフレイバーを持ち、基柱にするのは簡単である(芳醇なものについては特に)。しかし、精神的なつながりは少ない。
  • カード・タイプ ― メカニズム的には基柱にできるものではあるが、難解な感じがするものであり、プレイヤーが精神的なつながりを感じられるようなものではない。

 (特に、色に基づく)陣営は有効なデザイン要素であることがわかっているので、我々はその最高の使い方を探し続けている。今後数年の間に、これまで見てきた組み合わせの再解釈と、興味深い新しいものをお見せすることになるだろう。


Q: イゼットの奇妙なメカニズムの中で、最終的に残らなかったものは何ですか? 今後のセットのために取っておきますか?

 

 展望デザインからセット・デザインに提出したイゼットのメカニズムは、「宝石/jewel」というものだった。あらゆるインスタントやソーサリーが持ち得る能力である。そのカードは、解決された後、追放される。その後、他のインスタントやソーサリーを唱えるたび、その最初のカードを追放領域からコストを払わずにプレイできるのだ。この裏にある考えは、組み合わせることでクールなことをできる小さな効果を作るというものだった。このメカニズムで、イゼットの哲学の大きな部分であるにも関わらずメカニズムで表されたことのない創造性という部分を再現したいと考えたのだ。

 セット・デザインは、コストなしの2回目に唱えることが問題だと見つけ、コストが必要なようにして、インスタントやソーサリーが唱えられたターンならいつでもプレイできるように変更して、それらを同じターンに2回唱えることができるようにした。この実装はうまく行かなかったが、呪文を2度唱えることができるようにする別の方法をセット・デザインが探したときの再活のもとになったので、うまく組み合わせることができた。手札を捨てることが追加されたのは、あまりにも強力になりすぎるカード・アドバンテージを回避するためであり、追放領域から墓地に移ったことで他のギルドが相互作用しやすくなったのだ。


Q: カード上のユーモアの開封比は今後も同じぐらいになりますか?

 

 おそらく、クリエイティブ・チームは、マジックのカード名、フレイバー・テキスト、カードの構想におけるユーモアの量を実験中なのだろう。全体的な合意として、マジックはこれまでよりももう少し増やすことができるだろうが、最終的な適正値がどれぐらいなのかは確信できていない。ラヴニカはユーモアが充分存在できる世界なので、今後の世界がこのレベルになるとは限らない。


Q: ボーラスに属する5つのギルドには指導者として伝説のクリーチャーではなくプレインズウォーカーがいるので、ラルとヴラスカ、そして他の指導者であるプレインズウォーカーに「統率者として使用できる」能力を持たせるということは検討しなかったんですか?

 

 我々の規則として、スタンダードで使えるセットではスタンダードで作用しない要素には言及しないことになっているので、全く検討しなかった。何年もかけて、我々はプレイヤーがカードに書かれている要素を無視することが苦手だということを理解したので、プレイヤーが無視するべきルール文を入れないようにしているのだ。

 これは、特定のフォーマットでより良く作用するものを入れられないということではない。スタンダードでも作用する必要があるだけである。これによって、例えば多人数戦でより良く働くカードをブースターパックに入れることができるようになっている。他のフォーマット特有のもの(スタンダードでは意味をなさないルール文を使うもの)は、そのフォーマットのためのサプリメント商品のためのものである。例えば、何かが統率者になれるということに言及したい場合、それを『統率者』製品に入れることになる。


Q: 《虚報活動》はなぜアンコモンなんですか?

 

 アンコモンでできる効果だからである。繰り返せるドローと繰り返せる手札破壊は、どちらもアンコモンが持つことができる。また、アンコモンにすることにより、これは諜報デッキをドラフトすることを推奨する、ドラフトの基柱となるカードになるのだ。


Q: 召集はセレズニアでは非常にうまく作用しています。これを緑白以外で見ることはあり得ると思いますか?

 

 すでに、緑と白以外でそれを見たことはある。召集は『基本セット2015』に採用されており、5色すべてで存在していた。将来、他の色で見かけることがあるかという質問であれば、おそらく見るだろう、ということになる。このメカニズムは人気があり、デザイン空間も広いので、ラヴニカ外での再録の可能性は高いだろう。


Q: ボーラスによって影響されているギルドは、すべてがドラゴン・プレインズウォーカーの固有色(青赤黒)のうち1色以上を持っていますか?

 

 ニコル・ボーラスの固有色は青黒赤で、セレズニアはその支配下にないギルドであるということはすでにわかっている。つまり、必然的に、ボーラスの影響下にあるギルドを含む残りの9つのギルドは1色以上を持っていることになる。


Q: 次元を3度目に訪れるのを新鮮に感じさせるために、メカニズム的、クリエイティブ的にしたことのなかで一番大きなものを1つ挙げるなら何ですか?

 

 最大の違いは、雰囲気でなければならない。大きな物語の中でボーラスが加わり、その影響が10個すべてのギルドそれぞれが彼と協力するかどうかという軋轢という形で感じられている。5つは彼の影響下に落ちたが、残りの5つはボーラス寄りのグループとの内部抗争を続けている。この雰囲気は、没落、雨、暗闇といったアート・ディレクションにもあり、全体としての雰囲気も疑いと不信なのだ。メカニズムももちろんその雰囲気に合わせようとしているが、フレイバーがその大部分を担っているのだ。


Q: なぜ友好色のギルドを先に全部出し、それから敵対色のギルドを出すのではなく、今回の出し方にしたんですか?

 

 マジックは25周年を迎えた。毎年、我々はスタンダードで使えるセット4つと、いくつものサプリメント商品を出している。セット同士が異なった感覚を味わえるようにすることは非常に重要なのだ。つまり、可能な限り、その作っているセットでしかできないことをする方向に向かうことになる。

 友好色セットや敵対色セットは、ラヴニカ以外でもできることである。(『インベイジョン』『プレーンシフト』『アポカリプス』『シャドウムーア』『イーブンタイド』『タルキール龍紀伝』『Unstable』参照。)さまざまな2色の組み合わせを組み合わせるセットはそれよりもずっと難しいことなので、我々はラヴニカのセットを友好色と敵対色に分けることを意図的に避け、他の割り振りの機会が日の目を見るようにしたのだ。


Q: なぜ奇魔はいないんですか?

 

 別に何か極悪な話ではなく、ラヴニカに奇魔は存在し続けている。ただの、数字の問題でしかない。イゼットは呪文の色2色であり、そもそもクリーチャーの数は一番少なくなる。そして、今回は奇魔にふさわしいクリーチャーが存在しなかっただけである。(完全に後知恵で言えば、《遁走する蒸気族》を奇魔にすることはできただろう。)


Q: 他のメカニズムの再録は検討しましたか?

 

 イゼット向けに連繋(連繋(秘儀)ではなく、連繋(インスタントやソーサリー))は検討した。ゴルガリ向けに蘇生を検討した。ボロスに関して喊声の話をした。ディミーア向けに、調整版の忍術を提出した。皮肉なことに、展望デザインで再録メカニズムを考えなかった唯一のギルドがセレズニアだったのだ。

道半ば

 本日はここまで。いつもの通り、今日の記事や私の回答、あるいは『ラヴニカのギルド』そのものについての諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、諸君からのさらなる『ラヴニカのギルド』に関する質問にお答えする日にお会いしよう。

 その日まで、私の回答が『ラヴニカのギルド』をさらに楽しむ助けになりますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索