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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

スタンダードの決定

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Making Magic

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スタンダードの決定

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年8月6日


 スタンダード特集にようこそ。これはフォーマットをテーマとした特集の一環である。以前、ヴィンテージ(リンク先は英語)とモダン(リンク先は英語)についてはこのコラムで書いた。今回は、スタンダード・フォーマットについて、なぜそれが作られたのか、そしてマジックにどんな影響を与えたのかについて語ろう。最初に、強く記しておくべきことがある。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが最初にマジックを作った時に築いた黄金の三本柱(トレーディング・カードゲームというジャンル、カラー・ホイール、マナ・システム)を除いて、マジックのデザインやデベロップにおける最大の決定はスタンダード・フォーマットの制定だったのだ。さて、ここからはその理由についてとっくりと話させてもらおう。


リチャード・ガーフィールド/Richard Garfield

生活のスタンダード

 最初にちょっとした質問をしよう。「トレーディング・カードゲームにとって最大の脅威は何か」。はは、そうとも。今までにも言った、複雑さの水準がじわじわと上がっていくこと(読者諸兄に感謝するよ)――ではない。それは、現時点でのマジックの最大の脅威である。さきほどの質問は、この19年間で問題になってきたもののことではない。リチャード・ガーフィールドがトレーディング・カードゲームというジャンルを思いついたときに、彼自身の見付けた最大の脅威のことを聞いているのだ。さて、トレーディング・カードゲームにとって最大の脅威とは?

 これに答える前に、一歩引いてみてみよう。トレーディング・カードゲームに必要なものは何なのか? そもそも、ゲームをするためには、そのゲームで使うためのカード群を含むより多くのカードが存在する。もう一つ、トレーディング・カードゲームに重要な要素は、そのゲームの命脈を保とうというのであれば、そのシステムに新しいカードを追加する拡張セットを作ることが必要である(トレーディング・カードゲームの本質については、2009年にコラムに書いたことがある(リンク先は英語)。)

 そのシステムにカードを加えるとなると、問題が発生する。構築で使えるカードの種類には限りがあるのだ。以前のコラム(「カードがダメになるとき」(リンク先は英語))で書いたとおり、全てのカードを良いカードにすることはできない。実際、システムの性質から言って、最高のものは一部しかあり得ないので、カードの大部分は最高のカードではない。より強いカードを作ったとしても、その数は変わらない。構築で使えるカードのリストが1枚入れ替わるだけなのだ。

 拡張セットで多くのカードを追加しても、この数は変わらない。つまり、カードを作るということは、直接にせよ、あるいはそれまで使えたカードを追い出すにせよ、使えないカードを作るということなのだ。新しいセットが古いカードを追い出すような作りになっていれば、それは強さの水準という面で問題が生じることになる。セットごとに強さの水準が上がっていき、いずれはゲームの限界を超えることになる(「第1ターン、そっちが何かする前に俺の勝ちだ」)。

 ゲームを完全に破壊するだけでなく、強さの水準が上がっていくことによってそれまでのカードの価値が暴落してしまうことも問題である。新しい強力なカードは他のものを押し出すが、その押し出されたカードはそれまでは強力なカードだったのだ。つまり、プレイヤーの持っているカードの価値がなくなるということになるので、良い気分ではない。

 それでは、強さの水準に問題を生じさせない形で新しいカードを作る方法は? リチャードはこの問題への答えを持ち合わせていた。彼は、マジックは毎年異なるマジックになるという計画を持っていた。マジック:ザ・ギャザリングという名称がずっと使われるのではなく、これはウィザーズが最初に売り出した1年間のマジックの名前だったのだ。そして次はマジック:アイスエイジが発売される予定だった。マジック:アイスエイジはよく似たルール・システムだが、裏面の異なる別のゲームになる予定だったのだ。

 アラビアンナイトの裏面が違うものになるところだったという話は以前にこのコラムでもした(リンク先は英語)が、改めてこの文脈で説明しておこう。リチャードは、各拡張セットをこのゲームの1つの版として考えており、全体の一部とは捉えていなかったため、カードの裏面を変更しようとしたのだ。幸いにして、アラビアンナイトが印刷される前に、リチャードと開発部はすべてのマジックのカードを続けて使えるようにしたいとプレイヤーが考えていることを理解した。そして、混ぜるためには、裏面が統一されていなければならない。カードの裏面を全て統一するという決定をしたので、リチャードと開発部は強さの水準という問題を解決するための他の方法を探さなければならなかった。

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スタンダードな偏り

 考えた後に、彼らは、セットのパワーレベルを保つためにはシステム内のカード枚数を制限するしかないと結論づけた。このことから、フォーマットという考え方が生まれたのである。この決定が下されるまでは、マジックは一つのカードゲームだった(正確に言えば2つだ。リミテッドと構築)。フォーマットは何なのかという問いかけは存在しなかった。ただ「マジック」があるだけだったのだ。

 最初の告知で、マジックには2つのフォーマットがある、と定められた。1つは「タイプ1」で、これはすでにプレイヤーがプレイしていたフォーマットであった。そしてもう一つが「タイプ2」。これは最新2年間のセットに限られるというものだった(歴史的に正しく言うと、初期は本当に2年間だった)。この期間がブロックによるものではなかったのは、ブロックという考え方がまだ誕生していなかったからである。新しいセットはそれぞれに2年前のセットと入れ替わるというものだったのだ。

 マジックはプレイヤーに混乱を起こしてきたことがある。第6版ルールの導入やマジック2010でのルール変更は、混乱を招いた。神話レアというレアリティの設定にも反発はあった。カード枠を変えたときにも、想像を超える量のメールが届いた。しかし、それらはどれもこのタイプ2の導入時のリアクションに比べたらたいしたものではなかった。(「つまり俺のカードが使えなくなるってことか!?」)

 当時のインターネット上の反響を掘り返してみれば、タイプ2がどれだけ不評で、この決定がどれほど悪かという主張を見付けることができるだろう。興味深いことに、それから17年後、スタンダード(「タイプ2」という名前は第一位のフォーマットにふさわしくなかったので数年後に名称が変更された)はマジック界でもっとも遊ばれている構築フォーマットになっている。

 強さの水準という問題を解決するため、必然的に、スタンダードというものが作り出されたのだが、これが重要なのには他にもいくつもの理由がある。ここからはそれについて見ていこう。

メタゲームを変化させる

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 あらゆる比喩において(私は比喩が好きだ)、もっともよく使っているのは、マジックを振り子に喩える話だろう。開発部の仕事は、マジックを淀ませないために振り子を押す方向を変え続けることだ。振り子のように、マジックはその中心の普通の状態に戻ろうとする性質を持っている。カードがフォーマットで使えなくなることが重要な理由の1つには、もしカードが使えなくならなければ、振り子を新しい方向に押すことはどんどん難しくなっていくからということがある。

 たとえば、単一のエキスパンションがヴィンテージに大きな影響を与えるようにすることは非常に難しい。いくら多くても数枚のカードが使われるようになる程度で、その新しいカードによってフォーマットが少しだけ変化する程度のものだ。スタンダードではそうではない。新しいセットはスタンダードには大きな影響を与える。プロツアーに向けて準備しているプロプレイヤーたちは最新セットの発売(あるいはその情報の開示)を待ち望み、そしてメタゲームを把握する機会を求めるのだ。

 新しいカードが追加されることに興味が行きがちだが、カードが使えなくなることの方が影響が大きいものである。その理由は非常に単純で、追加される分には既存のカードを使い続けることもできるし、その知識も使える。使えなくなるほうは、そういう前提になる知識は存在しないのだ。

 もう一つ、ものが消えるということは、デザインやデベロップが新しい環境を作れるようになるということである。2年分のカードだけを注目すれば良いので、計画を進め、相互関係を作ることができるようになる。単にカードを環境に加えるだけであれば、現在の環境を前提に変化させる形になるので、新しいことを起こすのは非常に困難になる。

失敗を取り除く

 取り除くことには他にも重要な役目がある。マジックを作ることは難しいことだ。最善を尽くしてはいるし、過去の履歴も非常に良いものだが、ミスを完全になくすことは不可能だ。カードがシステムから消えるということは、つまりミスと永遠につきあう必要は無いということを意味する。ヴィンテージやレガシーのような広いフォーマットでは、この問題のために禁止カード、制限カードが設定されている。

 プレイヤーが強力なカードに対して取る行動は大体決まっている。まず、そのカードが強力であることを見付けて興奮する。それから、そのカードをどうやったら悪用できるかを心を込めて探し出す。しかしやがて、そのカードを何度も何度も見て、環境がそのカードによってゆがめられているということにうんざりしていく。カードが使えなくなることの良い点は、この最終段階に至ったときは大抵そのカードがまもなく使えなくなるということなのだ。

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焦点を生む

 長年デザインをしているあいだに得た大きな教訓の一つに、デザインは道を作るのではなく方向を決めるのだ、ということがある。新しい環境は、新しいものを扱うものだ。常時変化し続けることによって、開発部は各環境を促進する要素を含むようにするだけでなく、その慣用を否定するものを取り除くこともできなければならない。

 より広いフォーマットでは、すでにあらゆる方向に動かす慣性が働いているので、デザインのこの面はほぼ不可能だ。たとえば、スタンダードでは、それまで光を当てられていなかった部族に焦点をあてたシーズンを作ることができる。より広いフォーマットでは、強いことがすでに証明されているいくつかの部族をプッシュすることがせいぜいで、そうしたとしても過去の最強のカード群の中に入れて見劣りしないようなカードを入れることは強さの水準の面から見て難しい。かつては意識していなかったことでも、今は考慮に入れなければならないことがあるのだ。

導入の助け

 新世界秩序に関するコラム(リンク先は英語)の中で、私は、新人プレイヤーはゼロから始めるのだということを忘れてはならないと語った。人々をマジックに誘いたいのであれば、彼らに広大すぎるマジック世界を見せるべきではない。1万2千枚以上のカードがあるというのは一旦興味を持ってくれれば武器になるが、それまではただ怯えさせるだけのものでしかないのだ。すでに言ってきたとおり、新人プレイヤーにとっての最大の障壁は、マジックは難しすぎるという思い込みなのだ。

 スタンダードは新人プレイヤーにとっていくつかの利点がある。まず、カードの総枚数が理解できる範囲、1000枚~1500枚に減るということ。これは12000枚に比べるとはるかに少ない。次に、それらのカードは最新の2ブロック(と、1つか2つの基本セット)に含まれているので、意識しなければならないテーマは2つか3つに絞られる。さらに、宣伝や記事で書かれている内容が、手持ちのデッキに直接反映できるようになる。そして、これによってカードの話だけでなく金銭的にも参入障壁が低くなるのだ。

新セットをより関連したものにする

 私はゲーム・デザインの芸術面に焦点を当てるのが好きだが、ゲーム・デザインのビジネス面を完全に無視するのは間違いである。芸術面は最善のものをつくろうとする努力、ゲームを可能な限り楽しいものにしようとする努力だ。ビジネス面は、最新セットを買いたいと思わせるようにするという努力だ。スタンダードのもう一つの重要な面に、顧客が発売中のセットに注目するようになるというものがある。ああ、確かに8年前に作った素晴らしいセットは存在するが、マジックのセットをより最高のものにするためには今売り出し中のセットを買ってもらわなければならないのだ。

 幸いにして、これは人間の本質を突いている。人間は、最新のものを使いたいものなのだ。人間は新しさに惹かれる好奇心の生物である。新しいものには目新しさがあり、人間は最新の商品に目を向ける。プレイヤーはその最新のもので遊びたいと思うもので、スタンダード・フォーマットはそのプレイパターンを後押しするわけだ。

スタンダードな値引き

 もちろん私は、スタンダードはいい仕事をしていると思っているが、スタンダードには欠点なんて存在しない、と言ってしまうと間違いになるだろう。スタンダードはいくつかの問題を内包している。

カードを古くした
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 スタンダードの最大の問題は、最初にスタンダード(と全てのカードが使用可能ではないフォーマットという考え方)を告知したときにプレイヤーが言った文句に示されている。プレイヤーは自分のカードを貴重なものだと思っているのに、スタンダードの存在はカードに寿命を与えてしまった。この問題を解決するため、より広いフォーマットをいくつもサポートし、古いカードでプレイできる環境を整えてきた。ヴィンテージとレガシーではほとんどのカードが使えるし、モダンやエクステンデッドはそれほどではないにせよスタンダードよりも多くのカードが使える環境である。

お気に入りのデッキを使い続けられなくした

 これらの問題点は、実際の所、長所の裏返しに過ぎない。メタゲームの視点からは、スタンダードが進化し続けることはすばらしいことなのだが、それを裏返すとお気に入りのデッキを使える期間が限られているということになる。スタンダードの変化についていくためには、プレイヤーは使いたいデッキを最新のものに保つために時間を費やさなければならないのだ。

メタゲームを加速させた

 プレイヤーの中にはゲームの変転を好むものもいるが、一方で状況を把握できるようにもう少しスピードを緩めて欲しいと考えるものもいる。スタンダードはメタゲームを加速させるものだ。

雑な点を作った

 カラー・パイにおいて、各色に何ができて何ができないのかという長いリストが存在する。それらが常に当てはまるようにしているが、その期間は2年よりも長くなりがちで、つまりある瞬間を切り出すとその色ができるべきなのにできないこと、が存在することになる。これは環境が違うと感じさせる助けになるものだが、デッキ構築においてその色でできたはずなのにカードが存在しないからできないということは苛立ちの種になる。

 見ての通り、スタンダードは完全無欠ではないが、私はこれらの欠陥はマジックというゲームにとっての長所の裏返しだと考えている。

スタンダードな評価

 今回、スタンダードというテーマで語るべきことはこれぐらいだ。幸いにして、スタンダードがなぜ必要で、それがマジックにどんな利益をもたらしたかについての考察を示すことができた。いつもの通り、諸君からの反響を心待ちにしている(スタンダードのメタゲームについて? それは私でなくザック/Zacに投げてやってくれ)。メール、フォーラム、ツイッターTumblrGoogle+、方法は何でも構わない。

 それではまた次回、ワールド・マジック・カップの時に、最初のチーム戦世界選手権、そしてあり得ない話でお会いしよう。

 その日まで、スタンダードのプレイがあなたとともにありますように。

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