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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
ゴルガリ・フード:常識のお話(ヒストリック)
常識を疑う。マジックで勝つには大事なことだ。
マジックにはセオリーがある。コントロール相手に手札のクリーチャーを必要以上に展開しない、とかね。環境に由来するものとしては、この土地を、このクリーチャーを出してくる相手は○○デッキ、という具合に。常識に基づいてプランを立てるとプレイがしやすくなる。
しかしそれは時に、裏切られるというリスクをはらんでいる。常識を追いかけてくるプレイヤーに対してそれを崩してくるプレイングや、デッキ構築を用いてくる者もいる。
たとえばヒストリック。この環境には相棒というシステムを用いるデッキがひとつの派閥を築いている。特に《夢の巣のルールス》。
この相棒を採用しているデッキは、自然とマナ総量3以上のパーマネントカードが入っていない。このルールスの対面に座るプレイヤーとしては、ルールスを見た時点である程度のデッキ候補が絞られる。「ラクドス・アルカニスト」か「アゾリウス・オーラ」か、はたまた環境の最強候補「ゴルガリ・フード」か……逆に言うとゲーム開始時にルールスが見えない時、これらのデッキは想定から消えてしまうということでもある。
そう、この常識を逆手に取り、普通はルールスを相棒に据えるデッキからルールスを外すというテクニックも存在する。対戦相手は想定していないデッキ相手に、初手のキープ基準がズレたり、「あれ? 相棒いないけどあのデッキなのか?」と疑問を持ちながらゲームを進めていくことになる。この時点で情報戦では先制できた形になるね。
デッキリスト公開制のトーナメントでは通用しないテクニックではあるが、非公開で戦う場ではこれが炸裂することもある。
先日MTGアリーナで開催されたヒストリックの予選ウィークエンドでも、この常識を武器として利用したデッキが予選を突破。本戦へのチケットを手に入れていた。
このリストがまた……なんというか味わい深いんだよなぁ。それじゃあ見てもらおう。
2 《沼》 4 《草むした墓》 3 《花盛りの湿地》 4 《闇孔の小道》 2 《目玉の暴君の住処》 4 《カルニの庭》 1 《死天狗茸の林間地》 2 《ファイレクシアの塔》 -土地(22)- 4 《大釜の使い魔》 4 《金のガチョウ》 4 《貪欲なるリス》 3 《よろめく怪異》 1 《リスの将軍、サワギバ》 2 《スランの医師、ヨーグモス》 2 《鋸牙の破砕獣》 -クリーチャー(20)- |
4 《魔女のかまど》 2 《致命的な一押し》 4 《命取りの論争》 4 《パンくずの道標》 3 《食肉鉤虐殺事件》 1 《アガディームの覚醒》 -呪文(18)- |
4 《魂標ランタン》 4 《思考囲い》 2 《致命的な一押し》 2 《定命の槍》 1 《戦慄衆の指揮》 1 《食肉鉤虐殺事件》 1 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》 -サイドボード(15)- |
堂々たる「ゴルガリ・フード」の登場だ。
《大釜の使い魔》×《魔女のかまど》で、対戦相手の攻撃を受け流しつつ何度も食物と使い魔を生け贄に捧げ続けることで少しずつ相手のライフを削っていく。
その過程に《パンくずの道標》も絡めて、使い魔で食物を生け贄に捧げるたびにマナを支払って手札を補充。
この3枚で尽きることのないリソースを確保し続けて物量で対戦相手を圧倒する。これらメインエンジンがいずれもマナ総量2以下なので、ルールスから再利用していつでも形成を立て直せるのがデッキの強みである。
しかしながらこのリストではルールスが不採用。「とりあえずフードじゃないな」と思ってキープすると1ターン目に《草むした墓》から《金のガチョウ》が出てきて「あれぇ?」と予想を裏切られるかもしれないな。
まあこの時点では「じゃあ《騒乱の悪魔》が入ったジャンドかな?」とかそういう方向に思考が進むことになるだろう。そう思っても一向に赤が出てこないあたりがコチラの常識にゆさぶりをかけてくる。ガチで勝ちに行く場面では、こういう高度な情報戦を仕掛けられるのはひとつの武器となるのだ。
ではこのゴルガリがルールスを捨ててでも採用したカードは何だろうか。まず《スランの医師、ヨーグモス》。
このデッキは生け贄をテーマにしたデッキで輝く、圧倒的なカードパワーを誇る1枚。《よろめく怪異》などを生け贄に捧げて、-1/-1カウンターと修整をばら撒いて対戦相手のクリーチャーを根こそぎ潰しつつ、カードも引ける驚異のファイレクシアン・パワーを見せつけてくれる。
《大釜の使い魔》を生け贄に捧げつつ、食物を生け贄に戻してまた生け贄に……と生け贄を連鎖させることで《貪欲なるリス》がモリモリと大成長。にらみ合いの状況から瞬く間にゲームを終わらせる爆発力はルールスを諦めヨーグモスを取ったデッキの特権だ。
さらにこのデッキを使用して予選を突破したプレイヤーいわく、MVPは《リスの将軍、サワギバ》とのこと。
これも珍しい1枚で、常識的なデッキリストに慣れているプレイヤーのそれを破壊することになる。ガチョウやかまどで毎ターンのように食物を生成する際に、ついでにリスもやってくるようになる。
さらにゴルガリの定番の1枚《カルニの庭》や《命取りの論争》もこのカードと噛み合い、リスがワラワラ湧いてくる。
この物量で純粋に戦闘しても良し、ヨーグモスの実験に提供しても良し……サワギバ自身もリスを生け贄に捧げて除去を行えるので、とにかくいっぱいトークンを並べて生け贄、《貪欲なるリス》を筋肉がはち切れんばかりの超生命体に育て上げようじゃないか。
そして最後の最後、ここまでのカードと全くベクトルを別にする1枚がヒストリックの常識を完全粉砕する! 《鋸牙の破砕獣》!
こんなカードがフード・デッキから飛び出してくるなんて、誰が予想できるんだと。相手のデッキのメインエンジンだったり墓地対策になったりするエンチャントやアーティファクトをパリン、3色以上のデッキの大事な多色土地をパリン。本来フード・デッキがメインから触れてこないようなものをパリンパリンと破壊する、恐るべし1枚だ。
ただのパーマネント破壊ではなく、大事なのは変容するということ。これを自身のクリーチャーに重ねることで素のサイズの小さいフードデッキの主力たちを6/6トランプルのビッグボディに大変身させる。カウンターが置かれまくったリスがトランプルを得たり、飛行持ちのガチョウが空から重い一撃をかましたり。
とにかく意識の外からの攻め手になるこの獣、実際に使ってみると対戦相手全員がこのカードにカーソルを重ねてテキストを読んでいるのがわかり、意表を突かれまくってるなと楽しくなってきたものだ。
対戦相手の盤面にビーストを提供してしまうが、ブロックできるトークンや使い魔を多数持つこのデッキにとってただの3/3は恐れるに足らずだ。要所でこの破砕獣を変容させ、ゲームを決めるべし! 自分の食物とか宝物を割って3/3を得るというテクニックも炸裂しうるな。
常識やセオリーはゲームをするうえで大切なことであり、それを沿うことでゲームを有利に進められる。しかしながら相手の常識は時に、このようなデッキにとって武器になり得る。予想外の構成やカードチョイスで、対戦相手と差をつけようぜ。そして相手の常識外れな一手には素直にリスペクトを!
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