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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
2019ミシックチャンピオンシップⅢ(MTGアリーナ)のデッキをおさらい! 後編(スタンダード)
マジックには絶対というものがない。それがマジックの良いところだと思っている。
初めて1か月の初心者と、10年以上プレイしているベテランとが対戦を行って、どっちが勝つかはわからない。とても相性が悪いデッキとの対戦でも、相手がドローに恵まれずこちらが完璧な手札でゲームを始められれば案外勝てたりもする。そのフォーマットにおいて最強格のデッキが登場することはあっても、それがトーナメントで絶対に優勝する、とは言い切れない。過剰なまでの対策の嵐の中、優勝候補のデッキが上位に残れなかったという光景は何度も見てきた。
どのデッキが流行りそうだからどういうデッキを使うべきか、という実際にゲームをプレイする前から始まっている戦いを「メタゲーム」という。このメタゲームは流動的なものだ。トーナメント当日、最大勢力はどのデッキになるのか、どのデッキが仮想敵となるのか。これを読み切って「絶対にこうなる」と言い切ることもまた、超能力者ぐらいにしかできることではないのだ。
2019ミシックチャンピオンシップⅢ(MTGアリーナ)では、試合が始まるより先にプレイヤーたちが使用するデッキが公開された。68名中のうち17名が選択したのは「エスパー・コントロール」。《ケイヤの怒り》などで盤面をクリーンな状態に保ち、各種プレインズウォーカーで悠々とアドバンテージを得ていくデッキだ。実に25%と最多勢力を誇ったこのデッキに続くのは「イゼット・フェニックス」。《弧光のフェニックス》をキーとしたお決まりのデッキだ。そしてそのフェニックスと同じ使用率となったのが、先日紹介した「エスパー・ヒーロー」。これらの情報から、この3つのデッキが3日目の決勝ラウンドに進出するだろうなと予測したプレイヤーも少なくはないだろう。
結果として、「エスパー・ヒーロー」は2名を送り出した勝ち組となった。しかし「エスパー・コントロール」と「イゼット・フェニックス」の姿はそこにはなかったし、優勝デッキはその「エスパー・ヒーロー」でもなかったのだ。ではどのデッキかというと……
5 《島》 5 《森》 4 《繁殖池》 4 《内陸の湾港》 1 《シミックのギルド門》 3 《天才の記念像》 3 《爆発域》 1 《総動員地区》 -土地(26)- -クリーチャー(0)- |
4 《選択》 4 《成長のらせん》 4 《根の罠》 3 《アズカンタの探索》 1 《一瞬》 1 《無神経な放逐》 4 《荒野の再生》 3 《薬術師の眼識》 4 《運命のきずな》 2 《覆いを割く者、ナーセット》 3 《伝承の収集者、タミヨウ》 1 《世界を揺るがす者、ニッサ》 -呪文(34)- |
4 《楽園のドルイド》 3 《生体性軟泥》 3 《否認》 2 《繁茂の絆》 2 《押し潰す梢》 1 《世界を揺るがす者、ニッサ》 -サイドボード(15)- |
青緑の2色からなり、《運命のきずな》を勝利の鍵とする「シミック・ネクサス」だ。
《荒野の再生》の能力がターン終了時に誘発した際、それを解決する前に土地をすべてタップしてマナを得る。能力解決後、アンタップした土地からまたマナを得て、その大量のマナから7マナという《運命のきずな》の重いコストを捻出して追加ターンを得る。
同時に《薬術師の眼識》《覆いを割く者、ナーセット》《伝承の収集者、タミヨウ》《水没遺跡、アズカンタ》などでライブラリーに戻った《運命のきずな》を探し出し、毎ターン追加のターンを得て対戦相手の勝利を奪い去るという強烈な勝ち方をするコンボデッキだ。
『ラヴニカのギルド』環境では高い人気を誇り、『灯争大戦』環境開幕当初も数の多いデッキだった。
過去形で「多かった」ということは、今はその数を減らしているということである。このデッキのメインコンセプトである《荒野の再生》からの《運命のきずな》という動きを、たった1枚先置きで完封してしまうカードに駆逐されたのだ。《時を解す者、テフェリー》である。
インスタント・タイミングで呪文が唱えられなくなるので、ターン終了時にマナを得ても、きずなには繋げられない。この3マナのプレインズウォーカーがどうしても苦しいので、「シミック・ネクサス」のような青緑系のデッキは、《世界を揺るがす者、ニッサ》を中心とした別方向のデッキへと姿を変えていった。
また、《荒野の再生》ではなくこのニッサと《楽園のドルイド》などのクリーチャーでマナを増やしてきずなを唱える「クリーチャー・ネクサス」と呼ばれる派生形が誕生するなどして……とにかくスタンダードにおいて《荒野の再生》を見るのはとても珍しいことになったのだ。
ただ、そんな状況でもやっぱり絶対というものはないってことで、結果としてテフェリーの海の中をこの「シミック・ネクサス」は見事に泳ぎ切って優勝している。だからマジックは面白い。
テフェリーが出てきても、何もせずに負けるデッキというわけではないのも事実だ。このトーナメントで使用枚数で1位となったのは《時を解す者、テフェリー》、2位は《覆いを割く者、ナーセット》だ。このどちらも「シミック・ネクサス」からすると嬉しくないカードではあるのだが……《一瞬》《無神経な放逐》で手札に戻す、《爆発域》で破壊してしまうという方法で対処可能だ。
また、テフェリーがいる状況でも、ニッサで大量のマナを得られるようにしてメインで《運命のきずな》を唱えて、ターン終了時には《荒野の再生》でアズカンタを複数回使用するという形に持って行けば問題なくターンは得続けられる。また、ナーセットに対しても《薬術師の眼識》の枚数は3枚に抑えて、アズカンタ、タミヨウ、ナーセットでカードを手に入れるという形にすることでハマってしまうことを避けている。ただ黙ってやられるデッキではないのだ。
テフェリーの数は多くても、天敵である「赤単アグロ」の使用者が5名と少なかったという追い風要素もあったことも無視はできない。最序盤からクリーチャーでライフを詰めてきて、《根の罠》でダメージを抑えられないダメージ呪文を用いる赤単相手には苦戦を強いられるデッキなのだ。赤単が最大勢力となっていたら、テフェリーだらけの今大会よりも優勝するのは難しかったかもしれない。
この「シミック・ネクサス」を使用し、見事優勝して賞金10万ドルとチャンピオンの栄誉を勝ち取ったのはマティアス・レヴェラット/Matias Leveratto。世界屈指の強豪ブラッド・ネルソン/Brad Nelson、2度の世界王者に輝いたシャハール・シェンハー/Shahar Shenhar、そして生ける伝説カイ・ブッディ/Kai Buddeというこれ以上ないほどの強敵らを決勝ラウンドで打ち破っての優勝だ。しかも彼らの使用デッキは赤単とエスパーだ……つくづく、マジックに絶対はないのだなと思い知らされた。
こりゃダメだな、という時にはこのことを思い出して、あきらめずに最善を尽くせば、マジックは応えてくれるかもしれない。
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