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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

構築譚 その2:アリストクラッツ

岩SHOW

 今回も過去活躍した・歴史を築いたデッキを紹介する構築譚シリーズだ。前回は22年前と、読者の方の中にはまだ生まれていない方もいるんじゃないかってくらい古い時代の話をしたが……今回は5年前のプロツアーにて活躍したデッキを紹介しよう。

 5年ならまあ、まだまだ最近のこと。そんな前の話じゃないよな……と思いながら5年前の今頃のプロツアーについて調べると……プロツアー『ギルド門侵犯』!? わ~お、あれがもう5年前か……いや、5年しか経っていないのか? この5年間、マジック的には本当に濃い時間が流れていたんだなぁといろいろ振り返りつつ……肝心のこのプロツアーの話をしていこう。

 このプロツアーで起きたエピックな出来事いえば2つ。まずは今ではウィザーズ・オブ・ザ・コーストの中の人になったメリッサ・デトラ/Melissa DeToraが、女性プレイヤーとして初めてプロツアートップ8・決勝ラウンドに進出したこと。あれからもう5年なんだなぁ。彼女を皮切りに、マジックにかかわる女性たちが大きくクローズアップされるようになったと思う。世界中のすべての人々が楽しめるゲームであるマジックにとって、彼女のこの活躍は1つの転換点であり、多くのプレイヤーに勇気や希望を与えたのだった。

 そしてもう1つの出来事は……トーナメント前には全くノーマークだった異形とも言えるリストが優勝したことだ。これには当時仰天するとともに、大変に興奮させてもらったものだ。そのデッキの名は「アリストクラッツ」。

 《カルテルの貴種》《ファルケンラスの貴種》と2種類の貴種=Aristocratをキーカードとして用いる、シナジー満載のビートダウンデッキだ。これらのクリーチャーは両方とも生け贄を要求する能力を持っている。この生け贄を美味しく活用する、僕にとっては大変好みなデッキであったのだ。

Tom Martell - 「アリストクラッツ」
プロツアー『ギルド門侵犯』 優勝 / スタンダード (2013年2月15~17日)[MO] [ARENA]
3 《平地
4 《神無き祭殿
4 《聖なる鋳造所
4 《血の墓所
4 《孤立した礼拝堂
1 《断崖の避難所
3 《魂の洞窟
1 《大天使の霊堂
-土地(24)-

4 《教区の勇者
4 《宿命の旅人
4 《カルテルの貴種
3 《悪名の騎士
2 《スカースダグの高僧
4 《ボロスの反攻者
2 《銀刃の聖騎士
4 《ファルケンラスの貴種
1 《修復の天使
2 《士気溢れる徴集兵
-クリーチャー(30)-
4 《オルゾフの魔除け
2 《未練ある魂
-呪文(6)-
1 《スカースダグの高僧
1 《弱者の師
2 《幽霊議員オブゼダート
3 《悲劇的な過ち
2 《安らかなる眠り
2 《未練ある魂
2 《冒涜の行動
2 《イニストラードの君主、ソリン
-サイドボード(15)-
 

 う~ん、今見ても他に例えようのない美しいデッキリストである。貴種を中心にやりたいこと詰め込んでやったぜ!という腕白さがたまらない。とはいえただカードを寄せ集めたのではなく、ある一本の道をベースにしてある。それもまたこのデッキの強さの秘密だったんだろうな。

 その一本道とは、人間ビートダウンである。『イニストラード』は人間という部族をはじめて前面に押し出したセットであり、特に《教区の勇者》の登場によって軽い人間クリーチャーを展開して殴るビートデッキが多数生まれることになった。

 このデッキも基本の部分はそうで、勇者から順に最大効率で人間を展開して殴り、勝利するというのがメイン戦略である。《悪名の騎士》や《銀刃の聖騎士》など、スペックに優れた人間が同環境存在したこともこのデッキを後押ししたのだろう。相手がちょっと処理に手間取るようであれば、これらの人間が瞬く間にゲームを終わらせる。《カルテルの貴種》も人間である点はこのデッキにとっては大変に意味のあることだった。

 で、この人間ビートの骨格につけられた肉の1つが貴種による生け贄システムである。どちらの貴種もクリーチャーを生け贄に捧げることでプロテクションおよび破壊不能という除去耐性を得る。普通はこれを用いるとクリーチャーが減るというデメリットがあるのだが……この生け贄に《宿命の旅人》を用いれば頭数が減ることがない。

 旅人は飛行を持ったスピリットに生まれ変わって殴りやすくなるし、ファルケンラスは人の血を喰らうことで+1/+1カウンターを得るパワーアップを遂げる。《未練ある魂》もカード1枚で最大4体の生け贄を用意できるし、生け贄に捧げたクリーチャーは《オルゾフの魔除け》で戦場に戻すという手もある。手軽な生け贄で盤面にクリーチャーを維持し続ける、これが「アリストクラッツ」の誇る強さの1つ。

 そしてこのデッキの場合はそれでとどまらず、生け贄が更なる恐怖を呼び起こす。生け贄=クリーチャーが死亡することで《スカースダグの高僧》の陰鬱能力が起動可能となり、5/5飛行のデーモントークンを生成することができるようになるのだ。

 ちっぽけなやつは、でっかく転生! 初動の人間ビートで押し切れずににらみ合いに突入した場合は、高僧によるデーモン量産ルートで盤面を支配するのだ。

 また、生け贄に捧げるクリーチャーを《士気溢れる徴集兵》で相手から奪うという悪どい手段もある。後にこのシナジーを最重要視し、《反逆の印》などを取りそろえた形の「アリストクラッツ」も流行ることになる。そう、アリストクラッツ・ブームはここから始まり、さまざまな派生形が誕生した。その名残で、今でもクリーチャーを生け贄に捧げて何かをするデッキをアリストクラッツと呼ぶ習慣があるくらいこのデッキは人気だった。

 作成者はサム・ブラック/Sam Black。この手のデッキをデザインさせれば世界トップクラスのデッキビルダーであり、デッキをシェアした調整仲間が優勝したことでその能力を世界に見せつけたのだった。マジックの歴史は、彼のようなデッキビルダーたちの挑戦の歴史でもある。このシリーズでそれを新しい世代に伝えることが出来たら……嬉しいなぁ。

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