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市川ユウキの「プロツアー参戦記」
プレイヤーズツアー・名古屋2020 前編
こんにちは! 市川です!
今回からタイトルを 『市川ユウキの「マジックeスポーツ参戦記」』と改めましてお送りします。
タイトルが変わる理由としましては、テーブルトップ(紙)は「プレイヤーズツアー」、MTGアリーナは「ミシックインビテーショナル」と、いろいろ名称や大会の形式が変わったりして特定のトーナメントへの参加が主題ではなくなって来ているためとか、大体そんな感じらしいです。(ふんわり)
私がそのような大規模トーナメントに出るたび、また記事が好評であり続ける限り執筆依頼するとのことでしたので、その辺りも含めてプレイヤーズツアー、ミシックチャンピオンシップに出続けられるように頑張っていきたいと思います!
0.権利の飛来
前制度最後の大イベントである、「2019ミシックチャンピオンシップⅥ(リッチモンド)」はあえなく権利不所持で不参加となってしまいました。2014年に行われたプロツアー『ニクスへの旅』から約5年程度継続してプロツアー/ミシックチャンピオンシップに参加していた自分が、その最後のイベントに参加できないのもなんとも寂しいものでした。
2020年より新たなテーブルトップにおける競技イベントの最高峰に位置することとなった「プレイヤーズツアー」。
ざっくりとした説明になりますが、「プレイヤーズツアー」はまずアメリカ、ヨーロッパ、アジアと地域ごとに行われ(地域ごとに開催されますが、権利があればどの地域のプレイヤーズツアーに出ても問題ありません)、その大会での成績上位者がアメリカで行われる「プレイヤーズツアーファイナル」に進出することができます。
地域ごとのプレイヤーズツアーはプロツアー/ミシックチャンピオンシップと比べて(各地域トータルでは)参加人数が多いので、比較するとプロツアーよりレベルが低く、一方プレイヤーズツアーファイナルはその中から一握りのプレイヤーしか参加できない関係上、プロツアー/ミシックチャンピオンシップよりレベルの高い大会になると予想されます。
また、「プレイヤーズツアー」は「プロツアー/ミシックチャンピオンシップ」と異なりプロレベル制度による招待枠が存在せず、MPL/ライバルズのメンバー以外は全員権利がない状態でのスタートとなります。
権利の獲得方法は「プロツアー」時代と同じくシーズンに準じた「グランプリ」での13勝2敗以上の成績、もしくは「プレイヤーズツアー予選」での優勝が求められますから、非MPL/ライバルズのメンバーたる私はすっぽりとプロレベルでの招待が抜け落ちた格好に。
これはまずプレイヤーズツアーの権利を取るところからスタートと、いそいそと関東でのプレイヤーズツアー予選に出始めたところで朗報が。
Before the start of #MythicChampionshipVI we made some exciting Players Tour announcements!
— Magic Esports ✈️ #MTGWorlds (@MagicEsports) November 8, 2019
The complete Invitation Policy will be published prior to MC VII.
In the meantime, tune into Round 1 of MC VI to catch some sweet Throne of Eldraine action! https://t.co/we35sjOtfe pic.twitter.com/wmUFqnNUFn
(ざっくり言うと、『基本セット2020』サイクルと『エルドレインの王権』サイクルでシルバーレベル以上だったプレイヤーはプレイヤーズツアー2020#1に招待されることになりました)
なんと、リッチモンドにて、前年のプロレベルに応じてプレイヤーズツアー#1に招待されるとのお達しが!
この枠組みに私も入っており、棚ぼた的にプレイヤーズツアー#1への権利が降ってきました。
こんなんだったらプレイヤーズツアー予選出なかったよ!と発表された時は思いましたが、もらえるものはもらっておきましょう。ありがたいことです。
前置きが長くなりましたが、今回は「プレイヤーズツアー・名古屋2020」への調整レポートとなります。よろしくお願いします。
1.再結集
プレイヤーズツアーへの参加、ともすればそれはプロツアーと同じく調整チームが必要です。
ともなれば旧知の仲たる調整チーム『武蔵』が再結集される運びになるのは自然のこと。
前回の2019ミシックチャンピオンシップⅥ(リッチモンド)は私含む他のメンバーも権利を持っていない者が多く、チーム調整は行われていなかったようで、このプレイヤーズツアーは2大会ぶりのチーム調整となります。
今回はプロレベル的な権利の投下により、調整チーム『武蔵』もほぼフル(川崎 慧太を除く)メンバーでの参加。
また、1回目のプレイヤーズツアーは好成績を収めた時のバリュー、具体的にはMPL/ライバルズへの道程として大きく前進します。
また「プレイヤーズツアー・名古屋2020」に向けて、本格的に調整チームとして活動するところは少ないと考えられ、手ごたえのある調整が行えればチーム全体での大勝もあり得るだろうねという見解で一致。
一度は空中分解をした調整チーム『武蔵』ですが、再起を賭けて「プレイヤーズツアー・名古屋2020」に挑むこととなりました。
2.フォーマット
そこで重要なフォーマットですが、まずは新セットである『テーロス還魂記』ドラフト。そして、新しく制定された「パイオニア」です。
パイオニアは『ラヴニカへの回帰』以降のカードを使用できるローテーションなしの構築フォーマットです。
これもまたひとつの好機だと考えました。「スタンダード」や「モダン」では新しいデッキや強力なデッキの情報が出回りやすく、現代ではなかなか「デッキ勝ち」は難しいものとなっています。
ですが、「パイオニア」ならそれは例外でしょう。確かにデッキの情報はSNSなどで出回ることもありますが、その情報の精度を保証するようなグランプリのような大規模トーナメントが存在しませんし、大いにデッキ勝ちの可能性があります。
恒例の新セットで行われるドラフトも、重複しますがチーム調整のリターンを存分に享受できるフォーマットです。
新セットのドラフトは構築よりチーム調整での成果が出るフォーマットだと考えます。
地力の高いプレイヤー同士でのドラフトという実践から、個々のカード評価はもちろん、どの色が強い、どのカラーリングが弱い、このカードがN手目で流れて来るようなら参入しても良い、このカラーリングのこのパーツが大事、アーキタイプの詳細などなど、チーム内でそれらの擦り合わせを行うことによって精度を高く環境を理解することが可能です。
特に八十岡さん、行弘さんを筆頭に調整チーム『武蔵』は生粋のリミテッダーが多く、生粋のリミテッダーではない私は彼らの爪の垢を煎じて飲むがごとく、彼らの知見を吸収する側に回り続けます。ありがたいことです。
3.パイオニア
ドラフトへの所感はいつものように後編に任せることにして、これからはパイオニアの話をしましょう。
チーム調整がはじまったのはパイオニアの禁止改定が出揃った1月の頭からとなりました。
チームメンバー総動員でいろいろなデッキを手当たり次第に試していき、そのデッキの可能性を見出したり、逆に見限ったりといったような形で、手当たり次第に意見をチームで共有していきます。
「赤単ミッドレンジ」
16 《山》 4 《ラムナプの遺跡》 2 《エンバレス城》 4 《変わり谷》 -土地(26)- 4 《損魂魔道士》 2 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》 4 《砕骨の巨人》 4 《ゴブリンの熟練扇動者》 2 《軍勢の戦親分》 2 《朱地洞の族長、トーブラン》 4 《栄光をもたらすもの》 -クリーチャー(22)- |
4 《乱撃斬》 4 《稲妻の一撃》 1 《エンバレスの宝剣》 3 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文(12)- |
4 《瘡蓋族の狂戦士》 4 《トーモッドの墓所》 2 《削剥》 2 《丸焼き》 2 《ミジウムの迫撃砲》 1 《エンバレスの宝剣》 -サイドボード(15)- |
まず、さまざまなパワーカードが禁止になった後にトップメタの座についたのは「赤単ミッドレンジ」。
このタイミングでは、《ボーマットの急使》擁する「赤単アグロ」や《ボロスの魔除け》などを用いた「ボロスバーン」など、赤単系の速いデッキが隆盛していました。
そうなってくると、同色でちょっと遅いデッキがそれらを食い物にするのはマジック的な自然の摂理、そういう事情から「赤単ミッドレンジ」は台頭してきました。
《朱地洞の族長、トーブラン》や《栄光をもたらすもの》のタフネスは4と赤系のデッキ同士では除去耐性に近く、戦場に残るとゲームを決めてしまうインパクトがあります。
プレイしてみて、「赤単ミッドレンジ」はモダンの「エルドラージ・トロン」に近い性質を持っているなと考えました。
《ゴブリンの熟練扇動者》を絡めたビートダウンもあれば、《反逆の先導者、チャンドラ》を軸としたコントロールプランもあり、その多角さが売り。
ですが、その多角さを自分で操作できるようなドロー操作があるわけでもないので、手札に来たもので変わっていく多角さ、といった形がそっくりだなと感じました。
ここまで回りくどく説明しましたが、ざっくり言うと「出たとこ勝負」で全然使いたくはないです。
隆盛を極めたのであれば野に下るのもやむを得ないでしょう。
《ニヴ=ミゼット再誕》を軸とする「5色ミッドレンジ」が環境に登場。
環境最重の《ニヴ=ミゼット再誕》。なのにミッドレンジという呼称はなんか大きく間違っている気もしますが、それによりミッドレンジの王として君臨していた「赤単ミッドレンジ」は陥落します。
17 《山》 4 《ラムナプの遺跡》 2 《エンバレス城》 1 《変わり谷》 -土地(24)- 4 《僧院の速槍》 4 《損魂魔道士》 4 《ケラル砦の修道院長》 3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ》 4 《砕骨の巨人》 4 《ゴブリンの鎖回し》 4 《朱地洞の族長、トーブラン》 -クリーチャー(27)- |
4 《乱撃斬》 4 《稲妻の一撃》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -呪文(9)- |
4 《瘡蓋族の狂戦士》 4 《トーモッドの墓所》 1 《チャンドラの敗北》 3 《丸焼き》 2 《溶岩コイル》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード(15)- |
チームきっての赤単好きである覚前さんは《ケラル砦の修道院長》を採用した特徴的な「赤単ミッドレンジ」を制作し、プレイヤーズツアーの前週にあった「Pioneer Showcase Challenge」というMagic Onlineで行われた大会で見事優勝!
……を飾りましたが、《ニヴ=ミゼット再誕》デッキにはどうやっても不利、また『テーロス還魂記』発売後に注目を浴びていた《太陽冠のヘリオッド》デッキもお手上げとのことで、本人いわく「プレイヤーズツアーで使うことはないでしょう」とのこと。
本番の前週に行われた大会で優勝という成績を残しつつも、赤単好きの覚前さんが使わない選択をすると発言しているデッキにどんな伸びしろがあるのか。
チーム全体で回避の流れになるのは自然なことです。
「5色ニヴ=ミゼット」
誤解を恐れずに申し上げます。パイオニアにおいて「5色《ニヴ=ミゼット再誕》」が登場するまでは多色のミッドレンジデッキは存在しませんでした。
原因はカードパワーです。なぜ人は多色のデッキを組むのかと言いますと、それによって強力なカードが使えるからです。
ただ、パイオニアにおいて多色化におけるカードパワーの上昇は微差、いや誤差かもしれません。《探索する獣》は《包囲サイ》と比べても遜色ない強さを持っています。
《鉄葉のチャンピオン》はなんなら伝説のクリーチャーでない分《先頭に立つもの、アナフェンザ》より強いかもわかりません。
単色で同じカードパワーの同じようなレンジのデッキが組めるなら単色デッキの方が優れています。
単色デッキは色事故せず、マナフラッドを解消する土地を採用でき、タップインランドで展開が遅れたり、《草むした墓》で2点のライフ損失をすることもないからです。
そのためパイオニアでは多色化によるデメリットをメリットが上回ることはなく、単色のデッキが主流でした。
1 《平地》 1 《島》 1 《沼》 1 《山》 1 《森》 4 《寓話の小道》 1 《砂草原の城塞》 1 《華やかな宮殿》 2 《神無き祭殿》 1 《聖なる鋳造所》 2 《寺院の庭》 1 《まばらな木立ち》 1 《湿った墓》 1 《蒸気孔》 1 《繁殖池》 1 《内陸の湾港》 1 《植物の聖域》 1 《血の墓所》 1 《草むした墓》 1 《森林の墓地》 1 《隠れた茂み》 -土地(26)- 4 《森の女人像》 1 《秋の騎士》 2 《包囲サイ》 1 《人質取り》 3 《ニヴ=ミゼット再誕》 1 《狼の友、トルシミール》 1 《ハイドロイド混成体》 -クリーチャー(13)- |
2 《突然の衰微》 1 《戦慄掘り》 2 《ケイヤの誓い》 1 《コラガンの命令》 1 《至高の評決》 1 《完全なる終わり》 4 《白日の下に》 2 《木端 // 微塵》 2 《発見 // 発散》 4 《時を解す者、テフェリー》 1 《ゴルガリの女王、ヴラスカ》 -呪文(21)- |
2 《探索する獣》 1 《龍爪のスーラク》 2 《冥府の報い》 2 《思考消去》 4 《虚空の力線》 1 《至高の評決》 2 《ラクドスの復活》 1 《オルゾフの簒奪者、ケイヤ》 -サイドボード(15)- |
つまり多色化によるメリットがデメリットを上回れば良い、上回りました。
《ニヴ=ミゼット再誕》はパイオニア屈指のパワーカードで、それに合わせてデッキをデザインすれば3枚以上の有効牌を引き連れて6/6飛行というフィニッシャー級のボディが5マナで登場します。
特に《白日の下に》とのシナジーは凄く、《白日の下に》から《ニヴ=ミゼット再誕》をサーチできる関係から5枚目以降の《ニヴ=ミゼット再誕》としてのカウントも可能ですし、《ニヴ=ミゼット再誕》の効果で《白日の下に》をピックすることができれば第2第3の《ニヴ=ミゼット再誕》を対戦相手に予告することになり、それは実質ホームラン。2つを合わせると予告ホームランと言えます。
1 《平地》 1 《島》 1 《沼》 1 《山》 1 《森》 4 《寓話の小道》 2 《マナの合流点》 2 《砂草原の城塞》 2 《華やかな宮殿》 1 《神無き祭殿》 2 《寺院の庭》 2 《尖塔断の運河》 3 《植物の聖域》 1 《草むした墓》 2 《踏み鳴らされる地》 -土地(26)- 4 《楽園のドルイド》 4 《森の女人像》 3 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》 1 《人質取り》 1 《包囲サイ》 4 《ニヴ=ミゼット再誕》 -クリーチャー(17)- |
2 《突然の衰微》 1 《戦慄掘り》 1 《漂流自我》 1 《至高の評決》 1 《完全なる終わり》 4 《白日の下に》 1 《木端 // 微塵》 1 《発見 // 発散》 4 《時を解す者、テフェリー》 1 《先駆ける者、ナヒリ》 -呪文(17)- |
3 《漁る軟泥》 1 《エイスリオスの番犬、クノロス》 1 《狼の友、トルシミール》 1 《耳の痛い静寂》 2 《思考消去》 1 《セレズニアの魔除け》 3 《神秘の論争》 1 《轟音のクラリオン》 1 《思考のひずみ》 1 《ラクドスの復活》 -サイドボード(15)- |
《白日の下に》でいろいろなカードをサーチできる見た目の重厚感とは裏腹な柔軟さ(このリストのプレイヤーの話をしているわけではないです)が取り柄で、「5色ニヴ=ミゼット」は登場以後も数を伸ばし続け、プレイヤーズツアーの1週間前までは間違いなく環境のトップでした。
『テーロス還魂記』で《自然の怒りのタイタン、ウーロ》なんかも増えちゃって、懸念材料でもあったマナフラッドも解消できたりするようになったり。
ただ、それは1週間前の話。プレイヤーズツアー2日前には事情が変わります。
《タッサの神託者》と《真実を覆すもの》2枚によるコンボを目指す「青黒《真実を覆すもの》コンボ」。
これがMagic Onlineで爆発的に増加し、また「5色ニヴ=ミゼット」は劇的に減少しました。
そのため「青黒《真実を覆すもの》コンボ」を主に調整していた八十岡さんにこのマッチアップの相性を聞いてみましたが「まぁ(『5色ニヴ=ミゼット』には)負けんね。」とのこと。
八十岡さんの「まぁ負けんね。」と「ほぼ勝つ。」はS~Eまでの判定でAに位置する判定ワード(ちなみにS判定ワードは「流石にBye」)で、つまりかなりの相性差がそこには存在していることになります。
また、「5色ニヴ=ミゼット」を主に調整していた原根さん、川崎さんの感触もあまり良いものではなかったらしく、すこぶる悪そうな報告が上がってきます。
とりわけ、その重厚過ぎるミッドレンジデッキよろしく除去呪文以外の妨害を絡められるアグロデッキ、具体的には「黒単アグロ」「青赤《アーティファクトの魂込め》」との相性が悪いとのこと。
前門のアグロデッキ、後門の青黒《真実を覆すもの》コンボ。
といった様相で、環境に包囲された恰好。《包囲サイ》された恰好。なんちって。
「黒単アグロ」
16 《沼》 3 《ロークスワイン城》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 4 《変わり谷》 -土地(24)- 4 《血に染まりし勇者》 4 《戦慄の放浪者》 4 《漆黒軍の騎士》 4 《屑鉄場のたかり屋》 4 《残忍な騎士》 3 《悪ふざけの名人、ランクル》 1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 -クリーチャー(24)- |
4 《思考囲い》 4 《致命的な一押し》 2 《喪心》 2 《霊気圏の収集艇》 -呪文(12)- |
2 《冒涜の悪魔》 1 《ゲトの裏切り者、カリタス》 2 《強迫》 3 《減衰球》 3 《究極の価格》 4 《虚空の力線》 -サイドボード(15)- |
《密輸人の回転翼機》が環境に存在していた頃からデッキとして幅を利かせていた「黒単アグロ」ですが、《密輸人の回転翼機》がなくなったとしても一生幅を利かせていました。
《思考囲い》、《致命的な一押し》とパイオニア屈指の軽量妨害呪文を有しながら、軽くしぶといクリーチャーたちでプレッシャーをかけられるのが特徴の黒単。
土地が強い、というか強過ぎるのが黒単の最も大きな長所で、《変わり谷》と《ロークスワイン城》は生半可な除去ミッドレンジデッキを全員環境から退場させてしまうほどです。
そんな環境初期から存在するアグロ筆頭の「黒単アグロ」ですが、その環境初期から居座り続けてしまったことがネガティブな要素です。
常に一定の割合以上環境に存在し続けた結果、「黒単アグロ」を意識していないデッキは存在しません。
「黒単アグロ」に相性が悪いといっても4:6くらいの相性差で収めているでしょう。
また、およそパイオニアのデッキにおいて世界で一番試行回数の多いデッキ、デッキ構築の伸びしろも全く感じません。
メインのカードはほぼ固定で、せいぜい2マナの除去を《闇の掌握》と《死の国への引き込み》で良い塩梅に散らすくらいしかやることがありません。
サイドボードも「5色ニヴ=ミゼット」用に《自傷疵》が入って以降のイノベーションはなく、プレイも比較的パイオニアのデッキの中で簡単なことから、プレイヤーズツアーで上位のプレイヤーであると自覚するなら使うべきではないでしょう。
「プレイヤーズツアーに『黒単アグロ』で出た場合、良くて6勝3敗。運が悪いと5勝4敗。それ以下もあり得る。」
という感想がチーム内での共通見解でした。使いません。
「青赤《アーティファクトの魂込め》」
1 《島》 1 《山》 2 《蒸気孔》 4 《尖塔断の運河》 4 《シヴの浅瀬》 3 《産業の塔》 4 《ダークスティールの城塞》 2 《変わり谷》 -土地(21)- 4 《ボーマットの急使》 4 《ジンジャーブルート》 2 《ギラプールの希望》 4 《技量ある活性師》 2 《湖に潜む者、エムリー》 1 《つむじ風のならず者》 4 《石とぐろの海蛇》 -クリーチャー(21)- |
2 《頑固な否認》 2 《乱撃斬》 4 《アーティファクトの魂込め》 4 《爆片破》 4 《幽霊火の刃》 2 《王家の跡継ぎ》 -呪文(18)- |
2 《搭載歩行機械》 1 《猛火の斉射》 1 《潜水》 1 《乱撃斬》 2 《霊気の疾風》 2 《焙り焼き》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《金属の叱責》 2 《アンティキティー戦争》 2 《霊気圏の収集艇》 -サイドボード(15)- |
環境初期から《アーティファクトの魂込め》を使用したデッキは存在していましたが、イマイチ「シュッ」としていませんでした。
そんな《アーティファクトの魂込め》デッキを「シュッ」とさせたのは加藤健介さんで間違いないでしょう。
「シュッ』という擬音を具体的に挙げますと、《湖に潜む者、エムリー》です。
《湖に潜む者、エムリー》はデッキ内の大部分の呪文を墓地から再利用できるため対戦相手からするとマスト除去に近いクリーチャーでありながら、このデッキにおいては概ね1マナで展開することができます。1マナで展開できてマスト除去のカードは、つまるところすごく強いということです。
また、《アーティファクトの魂込め》という除去によってカードカウントで損をしてしまうカードをキーとしているデッキですから、それの前段階で相手に除去を吐き出させる《湖に潜む者、エムリー》は良い露払いとなります。
このデッキはマナベースがストレスフリーな点が高評価があげられるポイントです。
パイオニアにおいて対抗色は友好色です。わかりづらく言ってみていますので、わかりやすく言いなおします。
《尖塔断の運河》などの通称ファストランド、《シヴの浅瀬》などの通称ダメージランドは対抗色にしか存在しません。
これらの土地は序盤の快適なゲームプレイを約束してくれますから、「青赤《アーティファクトの魂込め》」のような土地を切り詰めた2色のアグロデッキも対抗色であれば安定した展開が取れるようになります。
さらに青赤《アーティファクトの魂込め》は《産業の塔》を運用できますから、デッキ内の有色呪文の少なさも相まって《ダークスティールの城塞》の上から《変わり谷》を追加で2~4枚採用したりと、2色デッキにあるまじき量の無色土地を投入することが可能です。
「青赤《アーティファクトの魂込め》」は調整チーム内で面白いデータを出していました。
自分たちが使用している場合の勝率と、対戦相手とした場合の勝率が非常に近い、というものです。
調整チーム『武蔵』は国内でもきってのプレイヤー(そこに当然ながら私も含まれます)が在籍していますから、自分たちが使用している場合の勝率は高く、逆に対戦相手とした場合の勝率は低くなります。
具体的には、前者は8割前後でチーム内で注目されはじめ、6割を下回ると弱いデッキ。後者は5割前後で結構負けているな、といった感想を覚え始めます。
この前提を踏まえて先ほどの話に戻りますと、「青赤《アーティファクトの魂込め》」を自分たちが使用している場合の勝率が55%程度で、逆は45%程度でした。
体感では自分たちで使うと勝っておらず、相手にするとよく負ける。
国内でもきってのプレイヤー(そこに当然ながら私も含まれます)が在籍している『武蔵』においてこのデータから自分たちのプレイが悪い可能性がある、という考慮にはなりません。つまるところプレイの介入の余地より、ドロー依存によって結果が出やすいだろうと考えました。自分たちの勝率が出ていないことも後押しして、使用には至りません。
「ロータス・コンボ」
1 《森》 1 《島》 4 《植物の聖域》 4 《神秘の神殿》 2 《ヤヴィマヤの沿岸》 4 《マナの合流点》 4 《睡蓮の原野》 4 《演劇の舞台》 -土地(24)- 1 《タッサの神託者》 4 《砂時計の侍臣》 -クリーチャー(5)- |
4 《慢性的な水害》 4 《見えざる糸》 4 《巧みな軍略》 4 《森の占術》 4 《死の国からの脱出》 4 《狼柳の安息所》 4 《熟読》 3 《時を越えた探索》 -呪文(31)- |
1 《爆発域》 3 《濃霧》 3 《漸増爆弾》 3 《自然への回帰》 4 《神秘の論争》 1 《神秘を操る者、ジェイス》 -サイドボード(15)- |
もともとあるにはあったデッキでしたが、《死の国からの脱出》を得て大幅バージョンアップされた「ロータス・コンボ」。
《睡蓮の原野》を《演劇の舞台》でコピーし、《熟読》などのドロー呪文でデッキを回していく展開はもちろん、
《睡蓮の原野》がなくとも向かえる新たなコンボルートである《死の国からの脱出》と《慢性的な水害》。これは墓地にあってもいいのですが、《見えざる糸》の組み合わせによって自分のライブラリーが0枚になるまで掘り進めることができます。
2マナは常にフリーな状態ですから、掘り進めていった先にある《タッサの神託者》を唱えて勝利します。
まさにアンフェアを体現したデッキ!と思いプレイしてみましたが、あまり感触は良くなく。
気になる点は《熟読》などのドロー呪文でデッキを回していく展開、チェインコンボルートでのストップ率です。
前環境では《願いのフェイ》からのウィッシュボードで《全知》、《無限への突入》、《神秘を操る者、ジェイス》と大量に生み出たマナを使うことによって勝利に向かうルートがありましたが、この構成だとどれだけドローを重ねても《死の国からの脱出》+《慢性的な水害》の2枚コンボを掘り当てないとゲームに勝つことができません。
また《願いのフェイ》はアグロデッキに対しての壁役としても悪くなく、序盤の壁、フィニッシャーと八面六臂の活躍を見せていました。
そこに《マナの合流点》も加わると対アグロデッキは絶望的な相性差に。
8 《島》 4 《蒸気孔》 4 《尖塔断の運河》 2 《天啓の神殿》 2 《シヴの浅瀬》 4 《睡蓮の原野》 -土地(24)- 4 《遵法長、バラル》 1 《ゴブリンの電術師》 1 《タッサの神託者》 -クリーチャー(6)- |
4 《選択》 4 《抗えない主張》 4 《見えざる糸》 4 《巧みな軍略》 4 《死の国からの脱出》 2 《安堵の再会》 2 《慢性的な水害》 1 《非実体化》 1 《時を越えた探索》 4 《発見 // 発散》 -呪文(30)- |
3 《氷の中の存在》 1 《願いのフェイ》 3 《削剥》 2 《一瞬》 1 《否認》 3 《神秘の論争》 1 《標の稲妻》 1 《神秘を操る者、ジェイス》 -サイドボード(15)- |
土地から受けるダメージを減らしたかったので、青赤2色の形も試してみましたが、こちらはこちらで極度に《死の国からの脱出》に依存していて、《死の国からの脱出》を引けない限り絶対に勝てません。
また、この時は「ロータス・コンボ」が《死の国からの脱出》の加入によって注目を浴びており、《虚空の力線》などの墓地対策はサイドに4枚は当たり前で、それプラスで《減衰球》が2枚追加で取られていたりと、対策意識が過度にありました。
デッキの最適な構築が見つからない、過度な対策カードを前に失神しそうですし、湿疹が出そうなので「ロータス・コンボ」にはとりあえず押し入れで眠っていてもらいましょう。
「アゾリウス・スピリット」
8 《島》 3 《平地》 4 《神聖なる泉》 4 《氷河の城砦》 2 《港町》 2 《変わり谷》 -土地(23)- 4 《霊廟の放浪者》 4 《幽体の船乗り》 4 《鎖鳴らし》 4 《至高の幻影》 3 《無私の霊魂》 4 《厚かましい借り手》 4 《天穹の鷲》 4 《ネベルガストの伝令》 4 《呪文捕らえ》 -クリーチャー(35)- |
2 《呪文貫き》
-呪文(2)- |
2 《疎外》 3 《敬虔な命令》 2 《軽蔑的な一撃》 2 《安らかなる眠り》 1 《ドビンの拒否権》 3 《神秘の論争》 2 《残骸の漂着》 -サイドボード(15)- |
「ロータス・コンボ」の増加につき注目を浴びたのは「アゾリウス・スピリット」です。
《霊廟の放浪者》や《呪文捕らえ》などの殴れる妨害手段を有していながら、《至高の幻影》《天穹の鷲》と8ロード体制でクロックの跳ね上がり方も凄く、対戦相手に立て直す時間を与えません。
もちろん取り敢えず試してみるも、気になったのはマナベース。
友好2色のアグロデッキのマナベースは壊滅的です。
アンタップインできたら感動するレベルでアンタップインしない《港町》、呪文を唱えることに貢献しない《手付かずの領土》、めちゃくちゃ弱い《アダーカー荒原》として運用されている《マナの合流点》だったりがちょっとずつ採用されているマナベースが多く、苦しさが伝わってきます。
その壊滅的なマナベースに起因するテンポの悪さも致命的です。
1ターン目に青マナがアンタップインで出ないこともよくあり、1マナのスピリットがゲーム後半まで手札で浮くパターンが多かったです。
そのテンポの悪さはデッキのマナカーブの悪さからも来ています。
特筆すべきは3マナ域の多さで、《天穹の鷲》《呪文捕らえ》《厚かましい借り手》《ネベルガストの伝令》と、どっちゃり、具体的には15~16枚入っているのが標準的でした。
ただでさえ1ターン目からカードをプレイできないパターンもあってテンポが悪いのに、これだけ3マナ域を採用してしまうと、2アクション取れるターンが5ターン目以降だったりととても遅いターンになってしまいます。3マナのクリーチャーを連打しているだけで勝てるほどパイオニアは甘くありません。
アドバンテージ獲得手段も《幽体の船乗り》と乏しく、マナフラッドを受け入れる術がありません。
「アゾリウス・スピリット」にはマナフラッドの受け入れ先として1~2枚の《変わり谷》が採用されているのが主流でしたが、これにも納得いきませんでした。
《変わり谷》以外のすべてのクロックが飛行を持っていますから、《変わり谷》が攻撃に参加してゲームの勝敗を分けることはほとんどなく、無色マナしか出せないデメリットの方が高くつくなと思ったからです。
2 《平地》 2 《島》 4 《神聖なる泉》 4 《氷河の城砦》 4 《寺院の庭》 4 《繁殖池》 4 《植物の聖域》 -土地(24)- 4 《霊廟の放浪者》 4 《幽体の船乗り》 4 《鎖鳴らし》 4 《至高の幻影》 2 《無私の霊魂》 4 《天穹の鷲》 4 《ネベルガストの伝令》 4 《呪文捕らえ》 2 《厚かましい借り手》 -クリーチャー(32)- |
4 《集合した中隊》
-呪文(4)- |
4 《拘留代理人》 1 《大天使アヴァシン》 2 《ドロモカの命令》 2 《安らかなる眠り》 1 《軽蔑的な一撃》 4 《神秘の論争》 1 《残骸の漂着》 -サイドボード(15)- |
テンポが悪く、アドバンテージ獲得手段に乏しいデッキに何が必要か。
そう、テンポアンドアドバンテージの権化たる《集合した中隊》の出番。これは歴史が証明しています。
これほどクリーチャーが採用されていたら《集合した中隊》をプレイした時のバリューは高く、むしろなんで《集合した中隊》が採用されていないのか甚だ疑問でした。
覚前さんが「赤単ミッドレンジ」で優勝した「Pioneer Showcase Challenge」では《集合した中隊》を採用したバントスピリットで20位(6勝2敗)とまずまずの成績でしたが、感想も実にまずまずでした。
その時の調整メモに記していたものは以下。
スピリットをプレイするならバント以外ありえない。
スピリットが得意としていないテンポ、アドバンテージ両面を獲得することができるのは唯一無二。
青黒系への相性が悪い。
マイナス系除去、確定除去と苦手としている部分が多く、双子(編注:「青黒《真実を覆すもの》」)だと6/6がマスカンではあるが、捉え(編注:《呪文捕らえ》)も除去されやすいのでこちらがフルアクセルで走り切らないと抑えきれない。
ロングゲームになると《神秘の論争》が浮き出して相手の6/6や《衰滅》などのカードが通ってしまうが、3テフェリー(編注:《時を解す者、テフェリー》)などの序盤に通せないカードが多くなかなか《軽蔑的な一撃》と割るのは難しい。
サイドボードカードは偏った当たり方だったので使っていないカードが多い。ドロコマ(編注:《ドロモカの命令》)などは使用感がわからず。
1/1飛行のドローする方(編注:《幽体の船乗り》)は果たして4枚なのかかなり疑問。カードとして弱過ぎて2枚目以降を看過できない。
カンパニー(編注:《集合した中隊》)でテンポは取り返せるし《無私の霊魂》をもっとドカっと取っても良い。
まとめるとスピリットデッキとしての感触は良いが、使うかといったらまだ保留かなといった印象。
当時は「アゾリウス・スピリット」がかなり増加していて、青黒系のデッキは《最後の望み、リリアナ》や《衰滅》などのマイナス修整を与えるカードが多く採用されていて逆風を感じました。
これはアゾリウス2色の頃からそうでしたが、赤系のデッキに対しての相性差は絶望的です。
タフネス1のクリーチャーを多数有しているため《ゴブリンの鎖回し》で壊滅してしまうのはもちろんですが、
単純な相手の軽量クロックからの軽量除去の展開でも余裕で負けます。
これは対戦相手の除去と、こちらのクリーチャーのマナ交換比率が悪過ぎるために発生します。
《僧院の速槍》をプレイ、1マナの《ショック》で2マナの《無私の霊魂》を除去してアタック、2マナの《稲妻の一撃》で3マナの《天穹の鷲》を除去してアタック、のように常に不利なトレードを強いられます。
その他《砕骨の巨人》や《栄光をもたらすもの》などのカードにアドバンテージを取られながらこちらの小粒なクリーチャーを除去されたりと餅つきのような展開でゲームが進んでいきます。スピリットが餅です。
青黒系のデッキからのヘイトが高い、赤系のデッキには絶望的。
この2点はこのデッキの使用を踏みとどまらせるに十分な理由と言えます。
「ヘリオッド・コンボ」
17 《平地》 3 《アーデンベイル城》 3 《のどかな農場》 3 《ニクスの祭殿、ニクソス》 -土地(26)- 4 《スレイベンの検査官》 3 《白蘭の騎士》 2 《族樹の精霊、アナフェンザ》 2 《太陽に祝福されしダクソス》 1 《高名な弁護士、トミク》 4 《太陽冠のヘリオッド》 4 《秘儀術師のフクロウ》 4 《歩行バリスタ》 -クリーチャー(24)- |
4 《停滞の罠》 2 《エルズペス、死に打ち勝つ》 3 《ゼンディカーの同盟者、ギデオン》 1 《太陽の勇者、エルズペス》 -呪文(10)- |
1 《高名な弁護士、トミク》 4 《不可解な終焉》 3 《安らかなる眠り》 2 《減衰球》 2 《異端の輝き》 1 《神討ち》 1 《エルズペス、死に打ち勝つ》 1 《太陽の勇者、エルズペス》 -サイドボード(15)- |
時を同じくして、八十岡さんは『テーロス還魂記』によって新たに生まれた《太陽冠のヘリオッド》コンボで「Pioneer Showcase Challenge」に出場。私と同じく6勝2敗でした。
なぜこんなにチームメンバーが時を同じく「Pioneer Showcase Challenge」に出ていたかと言いますと、プレイヤーズツアーの1週間前であるにも関わらずチーム内で手ごたえのあるデッキが存在せず、とりあえず良さそうなデッキで出てみて、どれか感触の良いデッキが出てくればいいなという願望。
通称『武蔵ロケット』式の調整が行われていました。
「ヘリオッド・コンボ」は「黒単アグロ」や「青赤《アーティファクトの魂込め》」などの大半のアグロデッキに有利です。
《太陽冠のヘリオッド》や《太陽に祝福されしダクソス》など、ライフ獲得をシナジーとしたデッキ構成になっていますから、その部分がダイレクトにアグロデッキには作用します。
一方、《殺戮遊戯》有する「5色ニヴ=ミゼット」、《致命的な一押し》や《思考囲い》などの軽量の妨害手段を持ちながら自分より必要マナ数の少ない必殺コンボを決めて来る「青黒《真実を覆すもの》コンボ」には苦戦を強いられます。
「青黒《真実を覆すもの》コンボ」
5 《島》 2 《沼》 4 《湿った墓》 2 《異臭の池》 4 《水没した地下墓地》 2 《欺瞞の神殿》 1 《詰まった河口》 1 《ヴァントレス城》 4 《寓話の小道》 -土地(25)- 3 《タッサの神託者》 3 《厚かましい借り手》 4 《真実を覆すもの》 1 《スカラベの神》 -クリーチャー(11)- |
4 《致命的な一押し》 4 《思考囲い》 4 《選択》 2 《検閲》 2 《湖での水難》 2 《思考消去》 4 《時を越えた探索》 2 《神秘を操る者、ジェイス》 -呪文(24)- |
1 《スカラベの神》 2 《墓掘りの檻》 2 《軍団の最期》 1 《喪心》 1 《リリアナの勝利》 1 《害悪な掌握》 1 《究極の価格》 4 《神秘の論争》 1 《漂流自我》 1 《煤の儀式》 -サイドボード(15)- |
「青黒《真実を覆すもの》コンボ」はMPLメンバーで、2019ミシックチャンピオンシップⅦ(MTGアリーナ)を優勝された「kanister」ことピオトル・グロゴウスキ/Piotr 'kanister' Głogowskiさんが配信で調整過程を公開し、話題になったデッキです。
《真実を覆すもの》をプレイしてライブラリーを少なくし、《タッサの神託者》ないしは《神秘を操る者、ジェイス》での勝利を目指します。
デッキの特徴は《真実を覆すもの》と《タッサの神託者》以外のスロットはすべてフリーな点です。ここに前述した「ロータス・コンボ」、「ヘリオッド・コンボ」との明確な差があります。それらはデッキごとコンボデッキとしてデザインしないといけませんが、《真実を覆すもの》コンボは違います。
「青黒《真実を覆すもの》コンボ」はそのスロットを青黒系のコントロール然とした構成になっています。
純然たるコントロールデッキとは違い、相手の猛攻を捌き切る必要はありません。
《検閲》などで時間を稼ぎ、《時を越えた探索》をプレイしてコンボパーツを揃え勝利する。
《時を越えた探索》はコンボパーツを集めるアクションを取りつつ、増えすぎてしまった墓地を追放することによって《タッサの神託者》での勝利に貢献と、唯一無二の働きを見せます。
打ち消し呪文と手札破壊によって、ミッドレンジ以降の速度のデッキに対して無類の強さを誇る「青黒《真実を覆すもの》コンボ」ですが、一方「黒単アグロ」、「青赤《アーティファクトの魂込め》」への耐性には懸念があります。
特に対黒単の勝率は悪く、「黒単アグロ」の項でも述べましたが軽いクロック、軽い妨害手段を有しているためなかなか「青黒《真実を覆すもの》コンボ」が主導権を握ることは難しいでしょう。
「青黒《真実を覆すもの》コンボ」は青黒コントロールの皮を被ったコンボデッキですが、そもそも青黒コントロールというデッキ自体がパイオニアに存在していなかった以上、青黒コントロール部分はパイオニアにおいて二流であると言わざるを得ません。
もっと上手く《真実を覆すもの》+《タッサの神託者》を組み込んだデッキはないものなのか。
「青単信心《真実を覆すもの》コンボ」
と、思ったらありました。というかできてました。
石村さん、通称「rizer」が作成した「青単信心タッチ《真実を覆すもの》コンボ」。
奇想天外な発想を持つ(褒めています)rizerらしく、{2}{B}{B}のカードを大胆にタッチする発想でデッキに組み込んでいます。
この構成の特徴は《タッサの神託者》のカードパワーの高さです。
青黒コントロール型だと、対地上で殴ってくるアグロデッキ以外には《タッサの神託者》はかなり足を引っ張る存在で、純然たるコンボパーツでしかなくなってしまうのですが、ことこの青単信心型では違います。
《予期の力線》を筆頭とする信心稼ぎカードによって《タッサの神託者》のXの値は青黒コントロール型のそれと比較にならないほど大きいものになります。
それによって《真実を覆すもの》を探してコンボを決めるも良し、《老いたる者、ガドウィック》を探して爆発的にカードをドローしても良しと、コンボパーツでありながらデッキの潤滑油としての働きも見込まれます。
また、青黒コントロール型なら懸念とされていた「黒単アグロ」、「青赤《アーティファクトの魂込め》」ですが、青単信心型はそれらを克服しています。
《潮流の先駆け》や《マーフォークのペテン師》などの青単信心部分のクリーチャー群が対アグロに強く、コンボを決めずとも勝つこともしばしばあるほど。
Magic Onlineでの勝率も高く、感触も良好。
プレイヤーズツアーはデッキリスト公開制ではありますが、ローグデッキを持ち込むことによるバリューは多分にあります。
デッキリストを見ただけでは、デッキがどのような動きをしてきてどういうサイドボーディングをすれば良いかまで正確に把握することは難しいですからね。
チームメンバーのブラッシュアップを経て、プレイヤーズツアーのデッキ提出の数日前には以下のリストに落ち着いていました。
6 《島》 4 《湿った墓》 4 《異臭の池》 4 《水没した地下墓地》 2 《欺瞞の神殿》 2 《ヴァントレス城》 4 《ニクスの祭殿、ニクソス》 -土地(26)- 4 《潮流の先駆け》 4 《マーフォークのペテン師》 4 《タッサの神託者》 4 《厚かましい借り手》 4 《真実を覆すもの》 4 《老いたる者、ガドウィック》 -クリーチャー(24)- |
2 《魔術師の反駁》 4 《予期の力線》 3 《神秘を操る者、ジェイス》 -呪文(9)- 1 フリースロット -自由枠(1)- |
プロトタイプは流石に黒マナが少なすぎました。当然ですが《真実を覆すもの》が全然出ません。
黒マナは展開をギリギリ阻害しないようにと14枚まで増やすことができるだろうという判断に。
確定のタップインランドが6枚と多く感じられますが、デッキにそもそも1ターン目のアクションがありませんから、タップインランドからのスタートが許容される、むしろ望ましいとも言えます。
《海の神、タッサ》が抜けたことによって3マナのアクションが減っていますし、1ターン目タップイン、2ターン目《マーフォークのペテン師》、3ターン目タップインから《魔術師の反駁》のように、3ターン目もタップインランドでもいい展開が多く、タップインランドが展開を阻害することはこの構成であればほぼないなと言った感触でした。
《海の神、タッサ》は青単信心ビートダウンの役割を担っていましたが、サイドボード後《潮流の先駆け》、《マーフォークのペテン師》といった{U}{U}《灰色熊》軍団をサイドアウトするマッチアップが多く、その場合は《海の神、タッサ》も浮きがちで、サイドボード後まで含めると整合性が取れていません。
黒マナを増やしたので青単信心ビートダウンに《真実を覆すもの》が加勢してくれやすくなりましたから、そこまでの痛手にはなっていないなという印象。
勝率も良し、感触も良し。
こんな順調なことはないでしょう。あとは「青単信心《真実を覆すもの》コンボ」を練り上げて成り上がるぞ!
見えたぞプレイヤーズツアーを『武蔵』がオリジナルデッキで席捲する様が!
いやはや、この展開、この連載で何回もありますよね
まさか今回に限ってそんな大変な見落としがあろうはずが
こ、こんなことがあって良いの~???
と、いったところで前編は終わり。
後編はドラフトの所感、使用デッキの解説を含むトーナメントレポートをお届けします。
お楽しみに!
市川
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