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原根健太の徹底解説!スタンダード・アナライズ
第16回:ローテーションと『ブルームバロウ』によるスタンダードの一新
皆さんこんにちは。原根健太(@jspd_)です。
本稿は『ブルームバロウ』リリースを受けてのスタンダード環境に関する記事です。先日開催された「ジャパンオープン2024」の大会結果分析を中心に行います。現在のスタンダード環境を理解する一助になれば幸いです。
また今週末8月24日よりマジック公認店舗にて「ストアチャンピオンシップ」が開催されます。今回は優勝者にテキストレス版《ウルザの物語》、トップ8入賞で《サメ台風》、参加者に《僧院の速槍》が配布されるなど、内容も非常に豪華です。奮ってご参加ください!
スタンダードローテーション
さっそく『ブルームバロウ』のカードの話を中心にしていきたいところですが、現在、そしてこれからのスタンダードについてお話しするにあたっての前提条件を共有しておく必要があります。ずばり、ローテーションです。実際、ローテーションは新セット追加の何倍ものインパクトがあります。というのも……
スタンダードで使用不可になったセット
- 『イニストラード:真夜中の狩り』(MID)
- 『イニストラード:真紅の契り』(VOW)
- 『神河:輝ける世界』(NEO)
- 『ニューカペナの街角』(SNC)
スタンダードで現在使用可能なセット
- 『団結のドミナリア』(DMU)
- 『兄弟戦争』(BRO)
- 『ファイレクシア:完全なる統一』(ONE)
- 『機械兵団の進軍』(MOM)
- 『機械兵団の進軍:決戦の後に』(MAT)
- 『エルドレインの森』(WOE)
- 『イクサラン:失われし洞窟』(LCI)
- 『カルロフ邸殺人事件』(MKM)
- 『サンダー・ジャンクションの無法者』(OTJ)※ビッグスコア(BIG)含む
- 『ブルームバロウ』(BLB)New!!
『ブルームバロウ』1セットが追加されたのに対し、使用不可能になったセットは4つ。単純に考えれば4倍の影響力があります。単純すぎる計算ですが、実際の影響力はそれ以上かもしれません。長きに渡り活躍し、そして姿を消すことになったカードたちを紹介しましょう。
白系ミッドレンジの一時代を築いた主役たち。3年間みっちり結果を残し続けていましたね。
青の打ち消しやドロー呪文にも変化があります。他の追随を許さず、ほぼ一強レベルの性能を持っていた《かき消し》と《記憶の氾濫》もなくなり、他の選択肢が脚光を浴びることになります。
赤いアグロデッキを支え続けた《熊野と渇苛斬の対峙》の活躍もここまで。1ターン目のアクションと言うだけでなく、後続のアクションまで強化する最高の1マナ域でした。
版図ランプを中心に多色デッキのマナベースを担ってきた3色サイクリング土地。今後は3色以上のデッキは色マナや基本土地タイプの確保に苦労することでしょう。
前環境終期、ティムールアナリストの中枢を担ったオートフェッチランドも全てご退場。これにより同デッキは解体されています。
数々の盤面展開デッキを打ち滅ぼしてきた《告別》ともお別れです。クリーチャーだけだったり、墓地だったり、エンチャントやアーティファクトだけだったりをまとめて対処するカードは他にもありますが、その全てを一緒くたに行えるリセットボタンはもうありません。
歴代最強の墓地対策候補である《未認可霊柩車》も使用不可となります。墓地を追放するという性能だけで見れば《安らかなる眠り》のようなカードもありますが、どの色でも採用でき、最終的にはフィニッシャーにもなり得るという2点が非常に強力でした。
挙げればキリがありませんね。とにもかくにも、これらのカードはスタンダードシーンから去ってしまったという訳です。
『ブルームバロウ』リリース
そして入れ替わりに、今月8月2日に『ブルームバロウ』がスタンダードへとやってきました。
キャッチコピーである「ちいさなしっぽのおおきなぼうけん」の通り、マジックでは珍しい部類の可愛らしいイラストの数々。小動物を中心とした非常に愛くるしい世界観が広がっています。
新たに追加されたキーワード能力も、同じ能力を持っているがサイズが小さい子供トークンを生み出す「新生」や、リスが溜め込んだ食物をコストとして用いる「給餌」など、世界観を大事にした能力が多く存在し、個人的にはかなり好きなデザインです。
カードの方もなかなか味のあるものが揃っており、ユニークな役割を有しているものが多いです。「季節」や「才能」のサイクルは単一で複数リソースを稼ぎ出す物が多くあり、カードの入れ替わりが大きいローテーション直後ということもあって活躍が見込めます。
そしてサイクルと言えば、今セットにはいわゆる多色土地サイクルは存在しないのですが、《寓話の小道》が再録されており、この追加は今後長期に渡りスタンダード環境に影響を与えると予想されます。
というのも、前述のローテーションによりスタンダードは大きな変化を迎えました。『イニストラード:真夜中の狩り』および『イニストラード:真紅の契り』に収録されていたスローランドや、『ニューカペナの街角』の3色サイクリング土地のスタンダード落ちにより多色デッキは大きな損失を受けています。
《感動的な眺望所》をはじめとしたファストランドはありますが、これらの土地は4ターン目以降タップインとなってしまうため、重いアクションを軸とする中速以降のデッキでは多くを採用できません。特に3色以上のデッキのマナベースを形成する際には致命的になります。
アンタップインの観点でいえばダメージランドは有用ですが、これに色マナの発生を寄せてしまうと受けるダメージは無視できないものになります。
また《力線の束縛》や《群れの渡り》のような版図ギミックを用いる際は基本土地タイプを有していることが重要になり、『カルロフ邸殺人事件』でリリースされた諜報土地が有用ではあるものの、それだけでは限界もあります。
ここで活きてくるのが《寓話の小道》です。序盤こそファストランドに劣りますが、4ターン目以降の土地としては非常に価値が高く、アンタップインであり任意の基本土地タイプでありダメージもなしと、言うこと無しです。今後も2色以上のデッキのマナベースを構築するにあたって重宝され続けることでしょう。
マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2024
さて、ここからは直近開催されたイベントの結果をもとに、現在のスタンダードで実際に活躍しているデッキを紹介していきましょう。
ローテーション直後のこの時期、2022年からの継続開催となっているMTGアリーナを用いた大規模オンライントーナメント「マジック:ザ・ギャザリング ジャパンオープン2024」です。参加者はのべ462名、現環境にて今時点で開催されたトーナメントの中では国内外あわせて最大規模と言えるでしょう。
参加者全体のメタゲームブレイクダウンは以下の通りです。
まずはシェアの多かったデッキについて解説を行っていきます。
ゴルガリ・ミッドレンジ
4 《花盛りの湿地》 4 《ラノワールの荒原》 6 《沼》 2 《寓話の小道》 2 《噴水港》 4 《森》 4 《眠らずの小屋》 -土地(26)- 3 《思考忍びの邪術師》 2 《名もなき都市の歩哨》 1 《分派の説教者》 4 《大洞窟のコウモリ》 1 《グリッサ・サンスレイヤー》 4 《苔森の戦慄騎士》 1 《黙示録、シェオルドレッド》 1 《最深の裏切り、アクロゾズ》 2 《耕作する高原導き》 -クリーチャー(19)- |
2 《ヴェールのリリアナ》 2 《切り崩し》 1 《苦痛ある選定》 4 《亭主の才能》 3 《裏切りの棘、ヴラスカ》 3 《喉首狙い》 -呪文(15)- |
1 《ギックスの残虐》 1 《ギックスの命令》 1 《向上した精霊信者、ニッサ》 2 《羅利骨灰》 2 《強迫》 2 《切り崩し》 2 《締めつける瘴気》 2 《温厚な襞背》 1 《ヴェールのリリアナ》 1 《黙示録、シェオルドレッド》 -サイドボード(15)- |
優秀なクリーチャーと除去呪文を組み合わせた骨太のミッドレンジ、ゴルガリ・ミッドレンジが最多勢力となりました。このデッキがシェアを伸ばした要因は2つあります。
まず1つは前環境からの生き残りデッキの筆頭であること。ローテーションの影響をそれほど受けておらず、マナベースの内《死天狗茸の林間地》を失いましたが、《寓話の小道》というわかりやすい入れ替え先がありますし、呪文に関してはほとんどそのまま使えます。
そしてもう1つの要因が一撃必殺のコンボを手に入れたことです。《亭主の才能》のクラスレベルを3まで上げ、パーマネントおよびプレイヤーに載せるカウンターの数が2倍になれば準備完了。《裏切りの棘、ヴラスカ》の-9能力により対戦相手に18個の毒カウンターを与え、一瞬で勝利することができます。ちなみに、このコンボはヴラスカを完成化の能力で唱えても有効です。一見すると、元々6の忠誠度が-2されて4で場に出るところを才能の効果により倍になり8で場に出るように見えます。しかし、マジックのルールに「同時に置換される効果の処理順は影響を受けるプレイヤーが決定できる」というものがあり、倍にする→-2にするの順に適用すれば忠誠度10でプレイ可能という訳です。
前環境から存在したデッキという実績に加え、新カードによるコンボギミック追加という2点がプレイヤーに評価され、最大シェアを獲得するに至っています。
版図ランプ
3 《魂の洞窟》 4 《寓話の小道》 3 《森》 3 《迷路庭園》 1 《島》 4 《草萌ゆる玄関》 3 《行き届いた書庫》 1 《山》 3 《平地》 1 《沼》 -土地(26)- 4 《怒りの大天使》 3 《偉大なる統一者、アトラクサ》 -クリーチャー(7)- |
2 《失せろ》 4 《山積みの収穫》 4 《群れの渡り》 2 《完成化した精神、ジェイス》 4 《力線の束縛》 4 《太陽降下》 3 《一時的封鎖》 4 《豆の木をのぼれ》 -呪文(27)- |
3 《エルズペスの強打》 1 《失せろ》 3 《否認》 1 《向上した精霊信者、ニッサ》 1 《一時的封鎖》 3 《温厚な襞背》 3 《ティシャーナの潮縛り》 -サイドボード(15)- |
こちらもゴルガリ・ミッドレンジ同様、前環境からの生き残りです。3色サイクリング土地を失い版図に必要なマナベースが崩壊してしまったかと思われていましたが、諜報土地と《寓話の小道》によりなんとか形を留めています。
また新たに追加された《山積みの収穫》も強化ポイントで、色マナおよび基本土地タイプの整理はもちろんのこと、単純に1枚のカードから2枚のカードを獲得できるアドバンテージソースであり、3点ライフのおまけも付いています。カードとしての質が高いので、今後版図ランプ以外のデッキでも見かけることになりそうです。
オルゾフ・ミッドレンジ
5 《沼》 5 《平地》 2 《眠らずの城塞》 4 《秘密の中庭》 4 《コイロスの洞窟》 2 《スランの門》 1 《立藤村》 1 《泥干潟村》 -土地(24)- 4 《星界を呼ぶ者、ゾラリーネ》 4 《大洞窟のコウモリ》 4 《遺跡潜みのコウモリ》 4 《本質の媒介者》 4 《暗黒星の占い師》 2 《残忍な巡礼者、コー追われのエラス》 -クリーチャー(22)- |
3 《月の集会》 2 《苦々しい勝利》 2 《ヴェールのリリアナ》 3 《手つかずの饗宴の事件》 2 《喉首狙い》 2 《切り崩し》 -呪文(14)- |
3 《強迫》 2 《エルズペスの強打》 2 《鋼と油の夢》 1 《ヴェールのリリアナ》 1 《第三の道のロラン》 3 《害獣駆除》 2 《黙示録、シェオルドレッド》 1 《軍勢を灰に》 -サイドボード(15)- |
基本的なデッキ構想はゴルガリ・ミッドレンジと同じで、《切り崩し》《喉首狙い》を筆頭とした黒い除去カードを基盤とし、その上で白と黒のパワーカードを搭載したミッドレンジデッキです。『ブルームバロウ』にて獲得した《星界を呼ぶ者、ゾラリーネ》が非常に強力なカードで、このカードをどこまでフィーチャーするかでリストが分岐します。今大会で最も成績の良かったオルゾフ・ミッドレンジはコウモリギミックをかなり濃く採用しています。
同じ黒系ミッドレンジのゴルガリ・ミッドレンジとの差異はサイドボードの選択に現れやすく、《害獣駆除》と《一時的封鎖》はアグロデッキの対処を考える上で大きな差が出ます。ゴルガリ・ミッドレンジでは《締めつける瘴気》のような全体マイナス修正除去が使われやすいですが、対処できる範囲がクリーチャーに限られてしまいます。オルゾフ・ミッドレンジの全体除去はエンチャントやアーティファクトにも影響が及ぶため、手掛かり・トークンや地図・トークンのようなアドバンテージソースもまとめて対処できるのが利点です。
アゾリウス・コントロール
5 《平地》 4 《島》 3 《アダーカー荒原》 3 《金属海の沿岸》 4 《不穏な投錨地》 2 《行き届いた書庫》 2 《噴水港》 2 《解体爆破場》 2 《沈んだ城塞》 -土地(27)- 1 《ティシャーナの潮縛り》 2 《跳ねる春、ベーザ》 -クリーチャー(3)- |
4 《世話人の才能》 2 《大天使エルズペス》 3 《三歩先》 4 《喝破》 4 《推理》 4 《太陽降下》 3 《失せろ》 2 《巣ごもりの季節》 4 《エルズペスの強打》 -呪文(30)- |
3 《ティシャーナの潮縛り》 2 《第三の道のロラン》 2 《否認》 3 《一時的封鎖》 1 《金属の徒党の種子鮫》 2 《別館の歩哨》 1 《永遠の放浪者》 1 《クチルの側衛》 -サイドボード(15)- |
前環境終期に結果を残してたアゾリウス・コントロールも形を変化させて現在のスタンダードに残っています。青いドロー呪文と白の全体除去で構成された伝統的構造です。
同デッキは生き残り勢力の中でおそらく最も厳しい変化を強いられたデッキです。理由は明白で、《放浪皇》と《記憶の氾濫》というデッキの顔を両方同時に失ったからです。それでもなお環境に残れている要因は、環境屈指のパワーカードである《太陽降下》を使いこなせるデッキだからという点が大きいでしょう。
『ブルームバロウ』からは《跳ねる春、ベーザ》と《呪文渦》の2種類の呪文を獲得しています。《跳ねる春、ベーザ》は今セットでも屈指の注目カードで、おそらく今後長くに渡ってスタンダードで活躍し続けるでしょう。アグロデッキ殺しとしての性能がずば抜けており、サイドボードの選択肢としてはもちろんのこと、カードの性能が高すぎるあまりメインボードからの採用もまったく問題ないスペックとなっています。
《呪文渦》は《記憶の氾濫》が元々採用されていたスロットに収まっていますが、正直代替役としては物足りなさが否めないでしょう。《記憶の氾濫》はフラッシュバックによるプレイが実質のフィニッシャーも務めており、単純なアドバンテージソースの枠を超えていました。打ち消しのモードがあるとは言え、結局「最終的にはどう勝つのか」という問題が生じます。これは《記憶の氾濫》無きアゾリウス・コントロールの今後の課題となっていくことでしょう。
ボロス召集 / ジェスカイ召集
5 《平地》 3 《山》 4 《魂の洞窟》 4 《戦場の鍛冶場》 2 《ミレックス》 4 《感動的な眺望所》 -土地(22)- 4 《ひよっこ捜査員》 4 《ヨーティアの前線兵》 4 《内なる空の管理人》 4 《イモデーンの徴募兵》 4 《毅然たる援軍》 4 《イーオスの遍歴の騎士》 2 《養育するピクシー》 3 《血滾りの福音者》 -クリーチャー(29)- |
4 《上機嫌の解体》 4 《門道急行の事件》 1 《邪悪を打ち砕く》 -呪文(9)- |
3 《邪悪を打ち砕く》 2 《エルズペスの強打》 2 《地盤の危険》 4 《ウラブラスクの溶鉱炉》 2 《ゴバカーンへの侵攻》 2 《稲妻のらせん》 -サイドボード(15)- |
1 《平地》 4 《アダーカー荒原》 4 《戦場の鍛冶場》 4 《感動的な眺望所》 1 《シヴの浅瀬》 4 《金属海の沿岸》 4 《尖塔断の運河》 -土地(22)- 4 《内なる空の管理人》 4 《ひよっこ捜査員》 4 《遠眼鏡のセイレーン》 4 《毅然たる援軍》 4 《イーオスの遍歴の騎士》 4 《イモデーンの徴募兵》 3 《血滾りの福音者》 -クリーチャー(27)- |
3 《戦導者の号令》 4 《上機嫌の解体》 4 《門道急行の事件》 -呪文(11)- |
4 《交渉団の保護》 3 《エルズペスの強打》 2 《抹消する稲妻》 2 《ゴバカーンへの侵攻》 2 《没収の強行》 2 《魔女跡追いの激情》 -サイドボード(15)- |
これも前環境からの生き残りデッキです。白と赤の低マナクリーチャー、特に《毅然たる援軍》のような1枚で複数枚のクリーチャーを並べるカードを中心に展開し、《イーオスの遍歴の騎士》の召集や《イモデーンの徴募兵》の攻めに繋げます。
同デッキはクリーチャーの大量展開に際し《上機嫌の解体》を用いるのですが、その対象として一定数のアーティファクト採用が必要となります。前環境では《ヴォルダーレンの美食家》を採用していましたが、これはローテーションにより失われてしまいましたので、代役が必要です。
ボロス召集では《ヨーティアの前線兵》が採用されます。前環境でも1枚か2枚程度採用されることがありました。しかしながらこのカードにはいくつか欠点があり、1つはクリーチャーゆえに除去カードの影響を受けてしまう点です。《上機嫌の解体》でこのカードを対象にした際、《切り崩し》などを持たれていた場合はトークンの生成に失敗してしまいます。
そして2つ目が、召集デッキの魅力であるブン回りパターン「2ターン目《イーオスの遍歴の騎士》」のプレイに貢献しないことです。2ターン目にイーオスをプレイするためには2ターン以内に解体と「クリーチャー+アーティファクトが同時に出るカード」をプレイする必要があります。《ヨーティアの前線兵》に解体をプレイすると、召集のための頭数が減ってしまうため、2ターンイーオスに必要なカウントが不足してしまいます。そのため、ボロスのカラーリングでは《ひよっこ捜査員》しか2ターンイーオスを実現するためのパーツは存在しません。
そこで注目を浴びたのが《遠眼鏡のセイレーン》です。このカードは《ひよっこ捜査員》同様「クリーチャー+アーティファクトが同時に出るカード」です。これにより同役割のカードは8枚となり、2ターンイーオスのブン回りの確率も一気に上がりました。また前述した除去呪文による「解体失敗」の事態も起きなくなっています。
もちろん色を追加するためには相応のリスクが必要で、各色マナはギリギリの枚数ですし、ファストランドやダメージランドも多く採用されているため、タップインやダメージのデメリットもあります。
しかしながら、《交渉団の保護》のような打ち消し呪文をサイドボードに追加でき、全体除去呪文への耐性が増すなど、さらなるメリットもあります。
ダメージランド9枚は明確に多い部類ですが、他にアグロデッキがあまり存在せず、自分が最速側のデッキなのであれば、それもあまり気になりません。環境ごとにメリット・デメリットを比較し、最適な選択を行うことになるでしょう。タッチの可能性が示された今、今後登場するカードによってはナヤやマルドゥのような組み合わせも見られるかもしれません。
本大会は2日制で、1日目に予選としてスイスラウンド9回戦を行い、上位64名を決定。2日目にその64名でシングルエリミネーションのトーナメントを行う仕組みとなっています。2日目に進出したデッキの内訳は以下の通りです。
基本的には参加者全体のメタゲームブレイクダウンと同程度の割合を示していますが、ここまで名前が挙がっていないにもかかわらず、高い割合を示しているデッキがありますので、紹介します。
ボロス・ミッドレンジ(トークン)
3 《戦場の鍛冶場》 2 《優雅な談話室》 4 《感動的な眺望所》 4 《沈んだ城塞》 4 《噴水港》 1 《ミレックス》 4 《平地》 1 《山》 2 《解体爆破場》 1 《眠らずの露営》 -土地(26)- -クリーチャー(0)- |
4 《塔の点火》 4 《人参ケーキ》 3 《失せろ》 3 《忠義の徳目》 4 《ウラブラスクの溶鉱炉》 4 《世話人の才能》 2 《一時的封鎖》 2 《大天使エルズペス》 4 《太陽降下》 4 《稲妻のらせん》 -呪文(34)- |
1 《一時的封鎖》 2 《邪悪を打ち砕く》 2 《セラの模範》 2 《跳ねる春、ベーザ》 2 《削剥》 2 《第三の道のロラン》 1 《兄弟仲の終焉》 1 《骨集めのドラコサウルス》 2 《安らかなる眠り》 -サイドボード(15)- |
基本は白のボードコントロール系デッキで、そこに火力と《ウラブラスクの溶鉱炉》のために赤が追加されています。新カードである《世話人の才能》と《ウラブラスクの溶鉱炉》は組み合わさることで毎ターン機能するドローエンジンになり、このアドバンテージによる盤面を対処しながら、徐々に成長する《ウラブラスクの溶鉱炉》で対戦相手を追い詰める構造になっています。
このデッキの影の主役となっているのが《噴水港》です。このカードは主にマナフラッド対策として前述のゴルガリ・ミッドレンジやアゾリウス・コントロールでも採用されていますが、このデッキでは一際の相性の良さを発揮します。《ウラブラスクの溶鉱炉》で生成されたトークンはターン終了時にいなくなりますが、その前に《噴水港》で生け贄にしてしまうことでドローに変換できます。《ウラブラスクの溶鉱炉》でトークンを生成、《世話人の才能》で1ドロー、攻撃後《噴水港》で生け贄に捧げさらにドロー……といった具合で、ターン経過毎に雪だるま式にアドバンテージを獲得していき、ボロスの2色からは考えられないほどのカード量を得ていく訳です。
このデッキはMagic Onlineのイベントを優勝したデッキではあるものの、目立った流行は見せていませんでした。ジャパンオープンの直前ということもあり、試している時間もあまりなかったことから、同デッキを選択されたプレイヤーはアンテナが高く柔軟ですね。
グルール・アグロ
4 《銅線の地溝》 4 《カープルーザンの森》 2 《スランの門》 7 《山》 3 《森》 1 《不穏な尾根》 -土地(21)- 4 《精鋭射手団の目立ちたがり》 4 《僧院の速槍》 4 《探索するドルイド》 4 《心火の英雄》 4 《熾火心の挑戦者》 -クリーチャー(20)- |
4 《巨怪の怒り》 4 《亭主の才能》 4 《ショック》 2 《蛇皮のヴェール》 3 《焦熱の射撃》 2 《狩人の才能》 -呪文(19)- |
3 《毒を選べ》 4 《ウラブラスクの溶鉱炉》 3 《抹消する稲妻》 2 《地盤の危険》 2 《塔の点火》 1 《焦熱の射撃》 -サイドボード(15)- |
こちらも前環境から活躍するデッキ。《僧院の速槍》《精鋭射手団の目立ちたがり》といった果敢クリーチャーを中心に展開し、軽量呪文を用いて対戦相手に一気にダメージを与えます。
こちらのデッキは新セットによる強化が目覚ましいのが特徴。《心火の英雄》と《熾火心の挑戦者》はデッキに非常にマッチしたクリーチャーです。
新戦力である2種類の才能と相性が良く、毎ターン勇士能力を誘発させ、継続的な強化とアドバンテージ獲得を行えます。
従来のグルール・アグロは除去呪文の連打で盤面を対処されると息切れしてしまう構造だったのですが、才能2種の追加により粘り強い戦いも可能になりました。《探索するドルイド》も併せて見た目よりもアドバンテージ能力が高く、新セットによりデッキパワーが底上げされています。
さて、そんなデッキたちで競われた本大会、最終的な結果は以下の通りになっています。
優勝 | ボロス・ミッドレンジ |
準優勝 | アゾリウス・メンター |
トップ4 | アブザン・コントロール |
トップ4 | 赤単アグロ |
トップ8 | アゾリウス・コントロール |
トップ8 | ラクドス・トカゲ |
トップ8 | ジェスカイ召集 |
トップ8 | 版図ランプ |
優勝したのは卯月 祐至さんの駆るボロス・ミッドレンジ。前述の通り、直近の大会で活躍しているのを見掛け、デッキ提出日に初めてテストし、そのまま使用に踏み切ったそうです。フットワークの軽さとデッキを使いこなす器用さが素晴らしい!さらに卯月さんは2年前に開催されたジャパンオープン2022でも優勝しており、なんと過去3回の開催で2回のチャンピオンとなりました!数百名が参加する規模の大会でこれは偉業と言わざるを得ません。おめでとうございます!
最大シェアを誇っていたゴルガリ・ミッドレンジはトップ32時点で全滅しています。次点の版図ランプもトップ8に一人。シェアの高いデッキが順当に勝つということはなく、様々なデッキが結果を残すことになりました。トップ8をアーキタイプ単位で括ると……
【アグロ】 赤単アグロ、ラクドス・トカゲ、ジェスカイ召集
【ミッドレンジ】 ボロス・ミッドレンジ
【コントロール】 アゾリウス・コントロール、アブザン・コントロール
【ランプ】 版図ランプ
【クロックパーミッション】 アゾリウス・メンター
といった具合に、本当に様々なデッキが勝っています。ここまでに既に7個のデッキタイプを紹介してきましたが、まだ紹介しきれていないデッキがあります。本当に多種多様なデッキが活躍していますね。
アゾリウス・メンター
6《島》 2《平地》 4《行き届いた書庫》 4《金属海の沿岸》 4《アダーカー荒原》 -土地(20)- 4《錠前破りのいたずら屋》 4《傲慢なジン》 4《僧院の導師》 -クリーチャー(12)- |
4《救いの手》 4《手練》 3《洪水の大口へ》 3《幻影の干渉》 2《三歩先》 1《下支え》 1《救済の波濤》 4《決定的瞬間》 3《魂の仕切り》 2《航路の作成》 1《再稼働》 -呪文(28)- |
3《一時的封鎖》 2《門衛のスラル》 2《選定された平和の番人》 2《跳ねる春、ベーザ》 2《否認》 1《救済の波濤》 1《魂の仕切り》 1《太陽降下》 1《過去と未来の剣》 -サイドボード(15)- |
準優勝に輝いたのはユン スハンさんのアゾリウス・メンター。彼は前環境にて開催されたチャンピオンズカップファイナルにおいてもトップ8の成績を収めた、アゾリウス・メンターのエキスパートです。ちなみにこのデッキを使用したのはこの大会わずかに2名、さらに両名共に2日目に進出しており、割合に対する勝率で言えば最大値を記録しています。使用人口の少ないデッキなので、実はかなり高いポテンシャルを秘めたデッキの可能性があります。今後に注目ですね。
デッキの軸になっているのは《僧院の導師》と《傲慢なジン》で、両クリーチャーを《魂の仕切り》などで守りながら盤面を制圧していきます。
キーカード自体は8枚しか入っていませんが、《救いの手》や《再稼働》で除去されても場に戻すことが可能で、《錠前破りのいたずら屋》でデッキを掘りながら墓地に落とし、リアニメイトする戦略も取れます。
《錠前破りのいたずら屋》以外にもドローソースが大量に投入されており、戦略の再現性はかなり高いデッキと言えます。
さらにこのデッキは《傲慢なジン》のパワー上昇やリアニメイト呪文により墓地を参照する機会が多く、墓地対策の影響を受けるのですが、ローテーションにより汎用的な墓地対策である《未認可霊柩車》が失われ、墓地対策を採用していないデッキも多くなりました。その点も追い風であるといえるでしょう。
アブザン・コントロール
3《平地》 3《沼》 3《森》 1《島》 3《草萌ゆる玄関》 1《薄暗い裏通り》 1《地底の遺体安置所》 2《魂の洞窟》 2《眠らずの小屋》 2《眠らずの城塞》 1《剃刀境の茂み》 1《秘密の中庭》 2《解体爆破場》 -土地(25)- 2《跳ねる春、ベーザ》 2《敵意ある調査員》 1《最深の裏切り、アクロゾズ》 4《棘林のアルマジロ》 3《偉大なる統一者、アトラクサ》 -クリーチャー(12)- |
4《喉首狙い》 4《脚当ての陣形》 2《緊急の検死》 4《死人に口無し》 2《一時的封鎖》 2《執念の徳目》 1《タリアンの日誌》 4《山積みの収穫》 -呪文(23)- |
4《強情なベイロス》 3《束縛の交渉術》 2《羅利骨灰》 2《極悪非道の盗人》 2《一時的封鎖》 2《無形の処刑者、ケイヤ》 -サイドボード(15)- |
ゴルガリの2色をベースに《一時的封鎖》や《跳ねる春、ベーザ》など一部の白い要素をタッチしたボードコントロールデッキです。多数投入された除去カードで対戦相手の脅威を捌き切り、最後には《偉大なる統一者、アトラクサ》の膨大なアドバンテージによりゲームに蓋をします。
《死人に口無し》は全体除去でありながら対戦相手の後続脅威をシャットアウトでき、版図ランプの《偉大なる統一者、アトラクサ》や《群れの渡り》ように勝ち手段を一部のカードに寄せているデッキには非常に効果的です。
《緊急の検死》は複数パーマネントを一気に対処できるカードで、全体除去では打ち漏らしてしまうエンチャント・アーティファクト・プレインズウォーカーといった、コントロールデッキにとってネックになりやすいカードをいっぺんに対処できます。
そしてこのデッキの面白い点として、《死人に口無し》や《緊急の検死》の証拠収集コストのために《棘林のアルマジロ》を採用しています。3色のマナベースを整えつつ3点ライフのおまけ付きで、ゲーム終盤に引いた際はそのままプレイすることも選択肢に入るなど、器用な1枚です。
赤単アグロ
18《山》 1《岩面村》 4《ミシュラの鋳造所》 1《噴水港》 -土地(24)- 4《雇われ爪》 4《僧院の速槍》 4《精鋭射手団の目立ちたがり》 2《魅力的な悪漢》 2《熾火心の挑戦者》 3《陽背骨のオオヤマネコ》 -クリーチャー(19)- |
4《ショック》 3《巨怪の怒り》 4《稲妻の一撃》 3《抹消する稲妻》 3《ウラブラスクの溶鉱炉》 -呪文(17)- |
3《兄弟仲の終焉》 3《レジスタンスの火、コス》 2《削剥》 2《焦熱の交渉人、ヤヤ》 1《噴水港》 1《陽背骨のオオヤマネコ》 1《抹消する稲妻》 1《魔女跡追いの激情》 1《ウラブラスクの溶鉱炉》 -サイドボード(15)- |
先にグルール・アグロを紹介しましたが、赤単アグロも活躍しています。《雇われ爪》や《熾火心の挑戦者》といった新規の低マナクリーチャーを獲得し、着実に強化されています。
単色における強みとして《陽背骨のオオヤマネコ》が挙げられます。特殊土地が豊富な現在のスタンダードでは2色デッキであっても基本土地の枚数はそう多くなく、《眠らずの小屋》をはじめとするミシュラランドや《噴水港》のようなマナフラッド受け用の土地を採用することは珍しくありません。ゲームが長引くほど大ダメージを期待でき、対戦相手は序盤の猛攻を耐え凌いでも、特大の飛び道具で突然死を突き付けられるわけです。
ライフを得られなくなる効果も赤単アグロにとっては価値が高く、現在の環境には《跳ねる春、ベーザ》を始め強力なライフゲイン効果が存在するため、有用です。
ラクドス・トカゲ
4《沼》 4《山》 4《魂の洞窟》 4《黒割れの崖》 4《硫黄泉》 1《不穏な火道》 1《泥干潟村》 -土地(22)- 4《雇われ爪》 4《玉虫色の蔦打ち》 4《大洞窟のコウモリ》 4《火硝子の導師》 4《炎貯えのヤモリ》 4《鱗の焦熱、ゲヴ》 4《笑う者、ジャスパー・フリント》 4《思考忍びの邪術師》 -クリーチャー(32)- |
2《切り崩し》 4《喉首狙い》 -呪文(6)- |
4《強迫》 4《ぎらつく氾濫》 4《ウラブラスクの溶鉱炉》 2《シェオルドレッドの勅令》 1《切り崩し》 -サイドボード(15)- |
『ブルームバロウ』において、ラクドスのカラーリングに割り当てられているトカゲ種族をフィーチャーしたアグロデッキです。対戦相手のライフを失わせることにより発動する効果を軸にしており、非常にアグレッシブなデッキになっています。
《雇われ爪》《玉虫色の蔦打ち》という2種類の1マナ域を持ち、これらのクリーチャーが起点となって後続のトカゲたちをより強力にプレイしていける作りになっています。
『サンダー・ジャンクションの無法者』にて登場した《笑う者、ジャスパー・フリント》がトカゲであり、なおかつ今回の『ブルームバロウ』にて登場したトカゲたちのほとんどは無法者(暗殺者、海賊、邪術師、ならず者、傭兵)の条件を満たすという噛み合いを見せており、デッキに非常に適した1枚です。
序盤から積極的にクリーチャーを展開していくデッキであるため《一時的封鎖》をはじめとしたアグロデッキ対策を受けやすい部分もありますが、《思考忍びの邪術師》はメインデッキから採用できる非常に強力な手札破壊であり、高速の攻めと対戦相手への干渉で力強い攻め手を有しています。
いかがでしたでしょうか。ローテーションによるカードプールの入れ替わりがあったばかりという事で環境の変化も目覚ましく、様々なデッキタイプが活躍しています。新セットである『ブルームバロウ』のカードも多く使われており、新スタンダードの幕開けを強く感じています。これからのスタンダードも楽しみですね。
それではまた次回。
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