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Beyond the Basics -上級者への道-
『残酷な材木工場』 -THE MISERABLE MILL-
『残酷な材木工場』 -THE MISERABLE MILL-
Gavin Verhey / Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing
2017年2月16日
拝啓、親愛なる読者の諸君。前のページに戻るようお願いする。
お願いだ、ウェブブラウザの戻るボタンを押して、この記事の前画面へとすぐに戻ってくれ。そこにはあなたの気持ちが盛り上がるような、新カードに注目した記事や興味深い活動についての記事がいくらでもあるはずだ。マジックの公式サイトには、素晴らしい記事がいっぱいある。
今からする悲しい話を読み続けたのなら、その影響によって自分自身のお気に入りデッキを崩す羽目になるかもしれない。このことを私は責任をもって伝えなければならない。マジックの一要素として、大きな足に踏みつぶされるカブトムシのような絶望を一度は感じたこともあるだろう。このような影響は最も危険なものの一つだと主張する人もいるだろう。ここから学ぶんだ。
この本当に厳しい警告を読んだ後、読者全員がすぐさま回れ右して戻ったとしても、それも当然だと思う。私のお願いを見て、何も続きを読まねばと思うことはない。事実をそのまま伝えるのが私の仕事だが、強制的に続きを読む仕事など存在しないはずだ。
しかしそれでも、この厳格なアカデミーに在籍し続けたいという十分な勇気があるならば、先へと進んでいただきたい。
材木工場(ミル)へ
このカードはどの程度の強さだろうか?
《秘本掃き》はカードを5枚削る。英語圏では、ライブラリーの一番上のカードをそのプレイヤーの墓地へと置くことを「ミル/Mill」と言う。その効果を持つ《石臼》――Millstoneを語源に持つ。
例えばだが、「プロツアー予選の決勝で、ハーバートが《秘本掃き》を唱えてこっちのライブラリーの最後の5枚を削ったせいで、プロツアーに参加する機会を失ってしまったよ」なんてこともあるかもしれない。
デッキに《秘本掃き》を入れるプレイヤーは大勢いる。そして、彼らの名誉のために言えば、それは全然おかしなことじゃない。
もう少し正確に言えば、ライブラリーを削る機会全体を見たとき、そのうちのほとんどが適切ではない、というだけだ。
基本的には、《秘本掃き》をデッキに入れる必要はない。なぜなら、ライブラリーを削る行為自体には意味がないからだ。
何人かの読者は、驚いた顔をしているはずだ。とにかく大量にライブラリーを削るのが好きな人も多いだろう。そしてあらかじめ警告した通り、この記事を読んだ後では、あなたのお気に入りデッキが変わってしまうという危険性がある。今すぐ戻れば、決断せずに済むだろう。
それでも先へと進むことを希望する人がわずかにでもいるなら、私の説明を聞いてほしい。
一度に大量のカードを「破壊」できるため、ライブラリーを削る呪文は良さそうに思える。
《秘本掃き》を使って墓地に削れ落ちたカードが《奔流の機械巨人》と《不許可》だったら、対戦相手からそれらをはぎ取ってやった気分になるだろう。そう、あの『まやかしエレベーター』にそれらのカードをしまい込み、出てこないようにしてやった気分だ。「世にも不幸なできごと」シリーズを読んだことのある人ならご存知の通り、ロックされたエレベーターから出られるものは何もない。
しかしながら、それがまやかしであるという3つの証拠がある。先に進もう。
1.戦場に影響を与えていない
マジックでは基本的に、何かしらの行動を行えば何らかの方法で手札や戦場に有意義な影響が起こるはずだ。
クリーチャーを出せばどうなるか? 嬉しいことに、攻撃手段が増えてゲームに勝てる。対戦相手の手札を捨てさせたらどうだろう? これまた嬉しいことに、対戦相手の行動選択肢が減って、ゲームに勝ちやすくなる。これらの行動は、文字のやり取りならチェックOKの「レ点」や昔から使われているスマイルマーク「:)」がもらえるやつだ。
しかし残念なことに、ライブラリーを削ってもゲームには基本的に影響がない。《秘本掃き》を使うと、1対0交換だ。
マジックでは、カードを消費した枚数に対してそれが別のカード何枚分の価値となったかについて、「○対○交換」という表現が使われる。
例えば、《天才の片鱗》を使えば、それは1対2交換だ。《燻蒸》を使って対戦相手のクリーチャーを13体も倒すほどの幸運に恵まれたのなら、それは1対13交換だ。どちらも素晴らしい成果だろう。
ところが1対0交換は、自分のカードを1枚消費しているのに対し、対戦相手のカード0枚分の価値しか生まれなかったことになる。これは普通なら、素晴らしい成果とは言えないだろう。
《秘本掃き》を使うことで5枚のカードを処分したように思えるかもしれないが、人生においてしばしばつらい出来事として経験するがごとく、人は外見に騙されるものだ。
それらを対戦相手のデッキから取り上げはしたものの、対戦相手が利用可能なリソース(訳注1)は減っていない。対戦相手が利用できるもの、手札や戦場のパーマネントには何の影響も与えていないんだ。
(訳注1:リソース/資源。ゲームの中で他の要素のために消費・交換できるもの)
対戦相手がライブラリーのカードを使い切ることでゲームが終了する、という見込みがあるなら別だ。しかしライブラリーのカードを削ること、それは対戦相手のライブラリーの一番上のカードをそのライブラリーの一番下に送っているのと、実質的に何も変わらない。
対戦相手のライブラリーの上から5枚を、そのライブラリーの一番下に置く。それだけの効果のカードを使おうとは思わないだろう――そしてライブラリーを削るだけのカードは、しばしばそれと同じ結果しか生み出していないんだ。
2.何が削れるかがわからない
対戦相手のライブラリーからカードを抜き取って、相手の戦略を崩壊させる、という極めて特殊な状況がある。
対戦相手の重要なカードを、あの『肉食カーニバル』に出てくるライオンや道化師のように貪り食う。そのために《失われた遺産》のようなカードを用いる手法は、正しいタイミングで用いることができれば、まさに砲弾の威力となりうる。(とはいえ、慎重に扱うべきだということは「暴かれた遺産」で取り上げた通りだ。)
しかしながら、《失われた遺産》のようなカードの強さは、取り除きたいカードを使う側が選べる、という点にある。しばしばそれは1対0交換となってしまうが、相手のコンボ用パーツをすべて取り除くことができるのならば、それだけの価値はあるだろう。
ライブラリーを削るカードもそうであれば、削りも時には価値があるものだ、と読者に良い報告ができたのだが。《秘本掃き》を使えば対戦相手の勝ち筋をすべて処理できる――もしそうだったら、世界中のプロ・プレイヤーがさまざまな手段を用いて戦略的に取り組むはずだ。
残念ながら、そんなことはない。ライブラリーを削るだけのカードには、削るカードを選ぶ効果がない、という報告をしなけらばならないのは、伝える側として残念なことだ。
《苦しめる声》 アート:Dan Scott |
対戦相手のライブラリーを削っても、何が削れるかについての保証はない。『爬虫類の部屋』にきたとき、部屋中を埋め尽くす蛇のうごめく音は聞こえても、それが無害なアオダイショウなのか、親友ベアトリスに噛みついた極めて危険なガラガラヘビなのかは分からない。5種類の機械巨人すべてが落ちるかもしれないし、5枚とも土地が削れることだってあるだろう。唱える時点では、知るよしもない。
とは言うものの、ガラガラヘビの毒は治療しなければ人間にとって致命的だ、ということが研究と経験から明らかになっているが、ライブラリーを削る呪文はとてもそうだとは言えない。対戦相手の最高のカードをライブラリーから削ることができたとしても、それは結局無駄かもしれないんだ。(戦場に影響を与えていない、という解説を先ほど詳しく語ったばかりだ。)
ライブラリーを削る呪文は、何かいいものが削れるとは限らない、というだけではない。いいものが削れても意味がないかもしれない、ということでもある。
さらに悪いことに......ああ、3つ目の問題点に進もうか。
3.墓地は利用不可能ではない
おそらく最も厄介な事態に陥るであろう状況は、ライブラリーを削ることで実際には対戦相手を手助けしてしまうことだ。ああ、最高のカードを枯渇させてやろうと企てたはずだが、実はあの『敵意ある病院』に運び込まれたに過ぎず、カードは喜んで戦場への復帰を待っている、ということになる。
現在のマジックには、墓地から何かを戻すカードや、墓地にカードがあることから利益を得るカードが数多く存在する。最初の方であげた例では、この2枚が墓地に落ちた話をしたはずだ。
構築戦で相手のデッキから《奔流の機械巨人》が削れたのなら、対戦相手のデッキや手札にはまだ《奔流の機械巨人》が残っているかもしれない。そして墓地に置かれた《不許可》は、その残りの《奔流の機械巨人》を使えば問題なく利用できる! これでは対戦相手の選択肢を増やして助けているだけだ。
それでも考えられる中では、そう、『終わりから二番目の危機』に過ぎない。昂揚を重視したデッキに対してライブラリーを削りに行く状況を想像してみてくれ!
対戦相手のライブラリーを削ることで、相手はデッキの戦略をすぐに実行可能となる。たとえリミテッド環境であっても、墓地のカードをオーナーの手札に戻すというよくある効果に使い道を与えてしまうのは、とても危険なことだ。
闇の中の灯台
さて、この陰鬱な、ヒルがのさばる絶望の湖の中には、希望がほのかに輝いている。ここまでに何度も警告しては来たが、それらをしっかり意識した上であれば、ライブラリーを削る行為が正しい状況、というものが主に3つ考えられる。ここまでの知識でしっかり武装して、警戒を怠らずについてきてくれ。
1.ライブラリーを削るためのデッキを組む
ライブラリー破壊のためのデッキを組む場合は、当然、ライブラリーを削るカードを採用するものだ。削るカードを採用しないライブラリー破壊デッキなんて、シリアルにミルクを入れない、沼に入るとき長靴にヒル除けクリームを塗らない、と言っているも同然だ。
これの一要素として、補助としてライブラリーを削る要素を加えることで、他のカードを強化する、という状況がありうる。例えば《第6管区のワイト》や《ジェイスの幻》などだ。そういったカードを重視したデッキを使っている場合、それらを強化するためにいくらかライブラリーを削るカードを採用するのは、妥当なところだろう。
このような手法でライブラリーを削るカードを必要とする正当な理由があるならば、それらを採用しよう。しかしながら、気を付けるように。歴史的に、ライブラリー破壊は競技基準において強力な戦略とは言い難いのだから。
トーナメントでは存在できないとか、勝てないだとか、使わないほうがいい、などと言う気はない。しかし大型イベントで結果を出すつもりでデッキを組むのであれば、テストプレイは念入りに行うべきだ。ライブラリーを削っても、戦場に影響はない。それはつまり、主戦略がうまくいかなかったときに、ライブラリーを削るカードが何か別の役に立つことがほとんどありえない、という意味でもあるのだから。
2.自分のライブラリーを削る
ああ、これは本当にとんでもない転換だ。対戦相手のライブラリーを削ることがいかに危険か、という先ほどの解説を思い起こしてほしい。ああ、それと同じ理由で自分のライブラリーを削りたい場合がある。自分の墓地の『ぶきみな岩屋』にカードを貯めこんでおけば、役に立つはずだ!
昂揚や発掘のような要素を重視したデッキを組んでいるのなら、自分のライブラリーを削りたいだろう。(発掘デッキというアーキタイプ(訳注2)は、発掘という墓地関連メカニズムを中心としたもので、理解しがたい動きをすることで知られている。)
(訳注2:アーキタイプ/典型的なデッキの構成)
墓地を頼りたければ、もろ手を挙げて墓を抱きしめてあげることだね。あ、もちろん文字通りの意味じゃないよ。
3.副次的効果としての削り
いくつかのカードは、何か他のことをしつつ、ライブラリーも削る。例えば、《盗まれた計画》を見てみよう。メインの効果はカードを2枚引くほうで、ついでにライブラリーを2枚削ることもできる。
計画を盗まれるのは、全くもって楽しくないことだ。私のおぼろげな記憶では、それが記憶をいくらか削り取っていくことが問題だったような気がする。
ともあれ、こういったカードであれば、メインの効果のほうを目当てに使いたいと考えたときにデッキに入れても、何の問題もない。ただし私は基本的に、ライブラリーを削る効果はおまけとしてすら存在しないものだと考えている。いや、対戦相手を助ける可能性を考慮すれば、わずかにデメリットかもしれない。よってその手のカードは、メインの効果だけを見ても本当に採用したい、と思えるだけの十分な強さがあるべきだ。
『終わり』
残念ながら、今回伝えられることは、これですべてだ。この内容を読んでも発狂せずに済んだのなら、あなたのマジック技術を向上させて適切な場合にのみライブラリーを削れるように、この話を指針として用いてもらえればと思う。
何か質問や疑問、苦情、あるいは怖い話などがあるなら、何でも大歓迎だ。TwitterやTumblr、あるいはBeyondBasicsMagic@gmail.comに(済まないが英語で)メールしてくれれば、『鼻持ちならない村』の住人である私に連絡が付くようになっているからね。
また来週、別の話をしに戻ってくるつもりだ。それまであなたには、このつらい記事全体に広がっている陰鬱な内容などよりも、世界が明るく、もっと素晴らしいと思えるような、日の光に満ちた暖かい記事を読んでほしい。これが私の心からの願いだ。あなたの探求に幸多からんことを。
敬具
Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com
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