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プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』

戦略記事

「プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』」メタゲームブレイクダウン

Frank Karsten

2025年6月20日

 

 デッキリストの提出が締め切られ、データの分析も完了した今、2025年2回目プロツアーが開幕する!「プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』」は6月20日から22日にかけて「MagicCon: Las Vegas」で開催される。世界トップクラスのマジックプレイヤー331名が、賞金総額50万ドル、誰もが欲しいと願う世界選手権への招待、そして栄誉あるプロツアー優勝トロフィーを懸けて競い合う。スタンダードでは4,000枚以上のカードが使用可能であり、スタンダード史上最も複雑かつハイパワーなメタゲームが参加者を待ち受けている。

 プロツアー出場者は、地域チャンピオンシップ、オンライン予選、過去のプロツアーで好成績を収めた優れたプレイヤー達が顔を揃えている。その中にはハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguez(世界選手権2024優勝、2024プレイヤー・オブ・ザ・イヤー)とマット・ナス/Matt Nass(プロツアー『霊気走破』優勝)も名を連ね、さらなるトロフィーの入手を狙っている。

 「プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』」ドラフトで金曜日と土曜日の朝にスタートし、各日ともにスタンダード5回戦が続いていく。日曜日はスタンダードでトップ8の対戦が行われ、プロツアー優勝者が誕生する。

 全試合の模様はTwitchのMagic TwitchチャンネルPlay MTGのYouTubeチャンネルにて生放送でお届けする(日本語放送は日本公式YouTubeチャンネルをご覧ください)。金曜日と土日目は米国中部標準時11時(日本時間27時)から、日曜日は米国中部標準時10時(日本時間26時)から生中継を開始する。より詳細な情報は観戦ガイドから見ることができる。

 

スタンダード・メタゲームブレイクダウン

 スタンダードは定期的なローテーションが行われている、60枚のデッキを使用するフォーマットだ。現在は『団結のドミナリア』以降の拡張セットが使用可能である。私が執筆した最新のフォーマット入門(リンク先は英語)でも触れているように、ここ数ヶ月のスタンダードは《コーリ鋼の短刀》、《食糧補充》、《巨怪の怒り》が支配的である。この傾向は、『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』発売後も続いている。

 この新セットは新たな戦略の鍵となる強力な新カードを環境に何枚も投入し、それらは今週末のプロツアーでも活躍するだろう。しかし、フォーマットを打ち破るための磨く時間は限られていた。調整や試行錯誤に費やせる時間は短く、スタンダードに加わった16個目のセットは、メタゲームを大きく塗り替えるまでには至らなかった。

 プロツアーのデッキの内訳は以下の通りだ。

 
アーキタイプ名 使用者数 使用率
1.イゼット果敢 140 42.3%
2.アゾリウス全知 66 19.9%
3.赤単アグロ 36 10.9%
4.版図大主 14 4.2%
5.ディミーア・ミッドレンジ 11 3.3%
6.ジャンド陰湿な根 8 2.4%
7.アゾリウス・コントロール 6 1.8%
8.オルゾフ・ピクシー 6 1.8%
9.ゴルガリ陰湿な根 5 1.5%
10.ボロス・アグロ 4 1.2%
11.ジェスカイ・コントロール 4 1.2%
12.イゼット大釜 3 0.9%
13.グルール昂揚 3 0.9%
14.ゴルガリ墓地利用 2 0.6%
15.ゴルガリ・ミッドレンジ 2 0.6%
16.ボロス・マウス 2 0.6%
17.黒単デーモン 2 0.6%
18.オルゾフ・サクリファイス 2 0.6%
19.セレズニア機械巨人 1 0.3%
20.シミック恐怖 1 0.3%
21.イゼット・プロフト 1 0.3%
22.バント全知 1 0.3%
23.黒単ミッドレンジ 1 0.3%
24.ラクドス・リアニメイト 1 0.3%
25.ジェスカイ・アーティファクト 1 0.3%
26.ラクドス・アグロ 1 0.3%
27.ナヤ・ユウナ 1 0.3%
28.オルゾフ・デーモン 1 0.3%
29.グルール・アグロ 1 0.3%
30.ボロス・モニュメント 1 0.3%
31.ジェスカイ眼魔 1 0.3%
32.ジャンド・ミッドレンジ 1 0.3%
33.エスパー・ピクシー 1 0.3%
 

 今週末のトーナメントでは、アグロ、ミッドレンジ、コントロール、コンボなど幅広いアーキタイプが登場し、中には革新的な構築も散見される。一番注目を集めるのはイゼット果敢で間違いない。42.3%と高い使用率を誇っており、この値は2023年のプロツアー再開以降、最も高い数である。「プロツアー『サンダー・ジャンクション』」でのエスパー・ミッドレンジの31.4%をも超えている。

 

 イゼット果敢、イゼット・プロフト、ジャンド・ミットレンジを合計すると《コーリ鋼の短刀》は43%ものデッキで使用されている。《巨怪の怒り》は全デッキリストの56%に存在し、《食糧補充》は61%だ。これらの数字は《王冠泥棒、オーコ》(2019ミシックチャンピオンシップVIで69%)、《創造の座、オムナス》(2020年シーズン・グランドファイナルで72%)の値にまでは達していないものの、環境の中心的役割であることは疑いないだろう。

 しかし、支配的であるイコール無敵ではない。イゼット果敢は変わらず脆弱性を抱えている。《一時的封鎖》は《コーリ鋼の短刀》とそこから生まれるトークン軍団に対して最高の回答である。《真昼の決闘》は、1ターン中に呪文を連打する動きを阻止する有力な手段だ。《魔道士封じのトカゲ》は、《選択》や《手練》を連打するゲームプランに手痛い罰を与えられる。イゼット果敢が今大会の最大仮想敵であることは明白であり、プレイヤー誰もがこのデッキに打ち勝つために練り上げたリストと研ぎ澄まされた戦略を携えてきたと見て間違いないだろう。

 「プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』」のスタンダードのすべてのデッキリストは6月20日(金)の第4回戦開始時、米国中部標準時午後2時頃に公開予定だ(日本時間30時頃)。それまでの間、最も多くプレイされるであろうデッキを詳しく見ていこう。

イゼット果敢(使用者140名):名前に違わず、序盤から積極的に仕掛けていくデッキだ。《嵐追いの才能》と《コーリ鋼の短刀》によるプレッシャー、そしてサブに《僧院の速槍》と《ドレイクの孵卵者》。これらは軽量呪文と効率的なドロー呪文によって支えられており、《コーリ鋼の短刀》はモンク・トークンを生み出し続け、戦場を埋め尽くしていく。《迷える黒魔道士、ビビ》は『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』から加わった新進気鋭であり、イゼット果敢使用者のうち91%が、主にメイン2~3枚の採用でビビを75枚の中に組み込んでいる。

アゾリウス全知(使用者66名):この精密なコンボ・デッキは《全知》をライブラリーから切削するか手札から捨ててから、《アブエロの覚醒》で戦場へ吊り上げることを狙っている。《全知》が戦場に出た後は《マラング川の執政》を唱えて2枚目の執政をバウンスし、《乱動するドラゴンの嵐》によってデッキを引き切るループが完成する。安定性を高めるためのカード選択型呪文(食料補充など)や、アグロ対策の《一時的封鎖》が脇を固めている。アゾリウス全知はゲームスタイルを変更できるサイドボード・プランを持っており、コンボ要素を抜き、クリーチャー中心のデッキとなることも可能である。

赤単アグロ(使用者36名):『マジック』歴史上いつでも愛されているアーキタイプ、赤単アグロは攻撃的なクリーチャーと火力呪文によって一気呵成に勝利をもぎ取るデッキである。主力クリーチャーの《心火の英雄》、《熾火心の挑戦者》、《多様な鼠》はロケット・スタートを可能にしてくれる。特に《多様な鼠》は雄姿を誘発させ、二段攻撃を付与することで致命的な一撃となる《巨怪の怒り》の準備を行ってくれる。《岩面村》と《魂石の聖域》といったマナ・ベースによって止まることなく攻撃を続けることができる。多くのリストはイゼット果敢に対抗できるよう、メインデッキに《魔道士封じのトカゲ》を3~4枚採用している。

版図大主(使用者14名):マット・ナスがこの4色デッキを操り、「プロツアー『霊気走破』」で優勝を果たしたのは記憶に新しい。この環境でも強力なデッキである。《永遠の策謀家、ズアー》が戦略の中心であり、ズアーが大主を絆魂を持つクリーチャーに変え、大主は攻撃時の誘発型能力で対戦相手に壊滅的な状況をもたらす。中でも《ホーントウッドの大主》は《豆の木をのぼれ》を誘発させつつ《力線の束縛》の版図を最大化するキーパーツだ。イゼット果敢やアゾリウス全知への対策として、ほぼすべての版図大主が《真昼の決闘》をメインデッキに3~4枚採用している。

 上記4つのアーキタイプを合計すると全体の77.3%になる。どのアーキタイプも『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』セット発売前から定番のデッキだったが、イゼット果敢とアゾリウス全知の急増は、プロツアーの常連やカバレージ関係者の予想を上回っていた。

 残り22.7%が、今回最も面白いところだろう。多数のアーキタイプが存在し、その多くが1~3%程度の使用率である。現在のスタンダード環境の奥深さを物語っている。ディミーア・ミッドレンジ、ジェスカイ・コントロール、ジェスカイ眼魔、オルゾフ・デーモンといったおなじみのデッキは、以前に比べて使用率が低下しているものの、独創的なリストも散見される。中でも注目すべきはジャンド陰湿な根やゴルガリ陰湿な根だ。こられは戦場を植物トークンで埋め尽くす。プロツアーが進行するにつれ、メタ外戦略のどのデッキが注目を集め、勝ち抜いていくのか、目が離せない。

『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』で最も採用されたカードたち

 スタンダードの既存のカード・プールは依然として新しいカードが入り込むには高いハードルを設けているが、『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』は環境を切り開き、確かな存在感を現している。既存のアーキタイプの強化だけでなく、新たなアーキタイプをも生み出している。以下の表は、新たにスタンダードに加わったカードの採用状況を331枚のデッキリストから集計したものだ。

 
 

 数字だけを見れば、《迷える黒魔道士、ビビ》が最も大きな影響を与えている。メインデッキとサイドボードを合わせると、合計374枚が登録されており、内訳はイゼット果敢が127デッキ、イゼット大釜が3デッキ、イゼット・プロフトが1デッキだ。イゼット果敢のメインデッキについて述べると、4枚採用が6名、3枚採用が75名、2枚採用が32名、1枚採用が8名、不採用が19名だ。

 《迷える黒魔道士、ビビ》が最も輝くのは4ターン目だ。ビビを唱えた後に《巨怪の怒り》を追加してパワーを4に上昇させれば、マナ能力を起動することでさらに4マナの呪文を唱えることができる。除去には脆いが、戦場に残ればそれだけでゲームを支配しかねない存在である。また、ビビの起動型能力は《アガサの魂の大釜》で追放された場合に一層強力となる。この爆発的なシナジーこそが、イゼット大釜デッキの強みだ。

 《迷える黒魔道士、ビビ》が間違いなく今回のブレイクスルーとなったカードである一方、もう1枚、新たなカードが控え目ながらもイゼット果敢に採用されていた。《「占星術師」の天球儀》だ。このカードはキャントリップを唱えるたびに強化されていく、果敢系に属する新たな脅威である。今回のプロツアーにおいて、ウィザードが活躍する舞台は整ったと言えよう。

 

 2番目に多く登録されている新カード《オペラ劇場のラブソング》は赤単アグロが16デッキ、ボロス・アグロは3デッキ、イゼット果敢は3デッキ、その他のデッキにも僅かに採用されている。この器用な呪文は戦闘で特に役立ち、雄姿や二段攻撃を持つネズミを強化するのに優れているが、必要に応じて土地や除去を探すこともできる。カード・アドバンテージを生み出すカードにもなり得るのだ。

 《自爆》は赤単アグロ13デッキが採用している。このカードの効果は《無感情の売剣》の出来事に近い働きをするが、《叫ぶ宿敵》を対象にすることでその威力は更に増す。この組み合わせは、対戦相手本体に追加ダメージを叩き込むことができる。

回転

 

 《闇の腹心》は主にマナ・コストの平均が小さいデッキに採用されている。ゴルガリ陰湿な根のサイドボードや、オルゾフ・ピクシーのメインデッキにおいて、信頼できるドロー・エンジンの役割を担っている。一方、《暗黒騎士、セシル》は1マナ域の強力なクリーチャーとしてディミーア・ミッドレンジに採用されており、4/4絆魂持ちの強力なクリーチャーへと変身できる。

 この2枚の黒いクリーチャーは相性が抜群だ。《闇の腹心》は自身のライフを減らし、セシルの変身を早めてくれる。このシナジーにより、オルゾフ・ピクシー、ラクドス・アグロ、黒単ミッドレンジ、ゴルガリ・ミッドレンジ、ジャンド・ミッドレンジ、ジャンド・サクリファイスといったデッキには、この2枚のカードの採用がメジャーである。《暗黒騎士、セシル》も《闇の腹心》も、序盤の攻め手と後半の粘り強さの両方に新たな方向性をもたらしている。

回転

 

 このセットには墓地を利用する新たな手段ももたらしている。《魔導戦士、ティナ》はジャンド陰湿な根において自己切削エンジンとして採用され、《陰湿な根》を探しにいく役割を果たしている。変身後の《幻獣の血を引く少女、ティナ》は《ベイルマークの大主》をコピーすることで、さらなるアドバンテージの獲得やコンボの可能性を実現している。《町の歓迎者》も同様に、ゴルガリ陰湿な根やゴルガリ墓地利用において墓地肥やしを担いつつ、カード・アドバンテージももたらしてくれる。

 

 何枚もの新カードが、様々なデッキに段階的なアップグレードをもたらしている。例えば《始まりの町》は、ジャンド陰湿な根、ボロス・マウス、オルゾフ・サクリファイス、ジェスカイ・アーティファクト、ラクドス・アグロ、ジャンド・ミッドレンジ、エスパー・ピクシーなどのアーキタイプにおいて、色マナ供給の安定性を向上させている。

 

 5マナの全体除去である《古代魔法「アルテマ」》は、主に版図大主とアゾリウス・コントロールで採用されている。5マナのソーサリーは今のスタンダードではやや遅い印象もあるが(《太陽降下》の採用は低下中だ)、《古代魔法「アルテマ」》は《コーリ鋼の短刀》と短刀が生み出すトークンにまとめて対処できる点で優れている。これは現スタンダード環境における重大な脅威への明確な回答となっている。《一時的封鎖》とは異なり、アルテマは《洪水の大口へ》の影響を受けない。興味深いことに、ある版図大主のリストでは《始まりの町》と《古代魔法「アルテマ」》が両方採用されており、今回のセットの異なるサポート・ツールが1つのデッキに共存できることを示してくれている。

回転

 

 最後に述べるのは、『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』が生み出した新たなアーキタイプについてだ。デッキ構築の鍵となるカードが参入したのだ。《スピラの希望、ユウナ》はいくつかの版図大主デッキに採用されているだけではなく、新しいアーキタイプのバント全知や、ナヤ・エンチャントのキーカードとしても活躍している。一方、《威名のソルジャー、セフィロス》はオルゾフ・サクリファイスに新たな息吹を吹き込んだ。この3マナのクリーチャーは、《バルトロメ・デル・プレシディオ》でクリーチャーを生け贄に捧げると、ボーナスを受け取ることができる。この2枚を始めとして、多くのカードが、様々なマイナー・デッキの強さを引き上げている。

セットは整った

 確立された既存の強豪デッキが支配するフォーマットであっても、『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』の多くのカードが存在感を放っているのは実に喜ばしいことだ。しかし、本当の試練はこれからだ。誰が頂点に立ち、競技マジックの歴史に名を刻むのか? イゼット果敢はその勢いを維持できるのか? それとも、対策に満ちたメタゲームの前にただ去るのみなのか?

 プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』」は6月20日(金)に開幕する。熱狂の瞬間に立ち会うため、ぜひ配信をご覧あれ!

訳注:日本語での情報は、以下のメディアからお届けします。

  • Twitter @mtgjp (マジック日本公式アカウント)

 「プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』」の模様は、全日程で日本語実況で公式生放送! 放送スケジュール・放送ページは以下のとおりです。

「プロツアー『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』」日本語放送情報
日程 放送日・放送時間 放送ページ
1日目 6月20日(金) 27:00(翌午前3時)~ YouTube
2日目 6月21日(土) 27:00(翌午前3時)~
3日目 6月22日(日) 26:00(翌午前2時)~

日本語版放送出演者

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