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チャンピオンズカップファイナル シーズン2ラウンド3 優勝者 原根 健太選手インタビュー
「よそのカードゲームから来た人気プレイヤーが勝ち上がっているらしい」という噂を聞きつけ、カバレージチーム一同でフィーチャー席へ見物に繰り出したのは、2015年のグランプリ・京都。そこで八十岡 翔太選手と《全知》対決(詳細はこちら)を繰り広げて一躍話題となったのが、当時マジックを始めてまだ間もない原根 健太選手だった。
そのとき競技シーンにデビューしてから10年近く。彗星のように現れた新人も、今やマジック界の中核を担う存在となった。たとえば2018年のインタビュー「英雄譚」では今後の目標として「若い世代の育成」を挙げていたが、実際に今では松浦 拓海選手のような若手強豪プレイヤーを世界に送り出している。
コロナ渦直前に開催された2020年のプレイヤーズツアー・名古屋での優勝インタビューでは、「ライバルズ・リーグ入りも見えてきた」という記述がある。この数年の間にマジック・プロリーグ制度が生まれ、消え、テーブルトップでの大会がいったんは完全に消滅し、そして復活して、現在のプロツアー制度となった。プロリーグという、マジック史上もっとも過酷な戦場から帰還した原根選手は今、どんなスタンスでマジックと向き合っているのか? そこから語り始めてもらった。
「勝つため」ではなく、「楽しむため」のマジック
原根「マジックとの付き合いかたは、だいぶ変わりましたね。プロとして最先端で戦うことを目標にマジックをやってきて、プロリーグの2年間はまさにそうだったわけですが、成績が今後の自分の立ち位置に直結するから『勝ちたい、負けたくない』という思いが強くて、かなり大変でした。あまり根を詰めすぎるとマジックを楽しめなくなってしまうので、プロリーグの終了に合わせて方針を切り替えて、今はエンジョイ精神でやってます。『どうせやるなら、楽しくやろう』と。デッキ選択も、自分が楽しいかどうかを最優先するようにしています。それによって最近はまあまあいい成績も出るようになっていて、比較的いいサイクルが築けているのかなと感じていますね」
すでにプロツアー権利を持っている原根選手にとって今大会は、優勝か準優勝して世界選手権の権利を獲得する以外、あまり意味がない。だが、準優勝以上を狙うわけではなく、あくまで好きなデッキで試合を楽しむためにここにやって来た。
原根「次のプロツアーがモダンだし、パイオニアもやらなきゃいけなかったりするんですが、僕は構築のフォーマットの中ではスタンダードが一番好きなので、純粋に今回のチャンピオンズカップファイナルに出たかったんです。グランプリがなくなって、イベントに出られる機会も限られているので、出られるときは出たいなと」
原根「今までもそうでしたが、そんなふうに気持ちが軽いときのほうが結果につながりやすいんですよね。準決勝だけは、世界選手権の権利がかかっていたのでさすがに気合が入りましたけど……僕が初タイトルを獲った2017年の日本選手権では、代表の権利を獲得できるかどうかという準決勝のときに気合が入りすぎてめちゃくちゃ空回って、ひどいパフォーマンスになったのを覚えてます。そういった経験の積み重ねがあるので、今では気合を入れつつも、『負けたら負けたでしゃーない』くらいの感じで取り組んでいます。力が入りすぎてると思ったら深呼吸してのびのびやる、という。マジックの腕が上がってるかどうかは正直わからないですけど、そういうメンタルコントロールの面はだいぶうまくなってきたかも」
このところのマジックとの付き合い方としては、自分の配信で、視聴者が気になっていることをなるべく取り上げるようにしているという。
原根「たとえば新セットが出たらドラフトを、週末にアリーナの大会があるならそれに合わせたフォーマットをやるとか。今回もチャンピオンズカップファイナル前は配信でスタンダードのデッキ調整をしていました。どういう過程を経てデッキを調整していくのかが気になる人もいると思うんですが、プロツアーのような大会だとチーム調整の内容は完全にベールに包まれているので、今回は個人の責任で『こういう感じで調整しています』というのを伝えられればと」
原根「ただ、今回のデッキは完全に僕個人ではなくて、平見(友徳)と意見交換してます。とはいっても『2人でリストを練り上げよう』みたいなガチガチなのではなくて、あくまで思ってることを言い合うような感じです。最終的にリストも少し違いますし。平見とはもう長い付き合いになりますけど、今回16位でプロツアーの権利が取れて本当によかったです」
デッキ選択の理由
エスパー・ミッドレンジを先日のプロツアー『サンダー・ジャンクション』で使った原根選手。「楽しかったので、もうちょっとこのデッキを使いたい」というのが、今大会に持ってきた理由だ。
原根「正直、環境に合っているとはあまり思っていないんです。ただ、僕は負け方をすごく気にするタイプで……たとえばティムールであれば『色マナがそろわない』『フェッチランドが《ティシャーナの潮縛り》でつぶされる』とかの悲惨な負け方がありえますが、エスパーはそういうとんでもない負けはしづらく、丸く戦えるデッキなので、負け方も勝ち方も自分の好みなんです」
すごく有利な相手もそこまでいない代わりに、絶望的な相手もいないこのデッキは、あらゆる相手とゲームを楽しめるという長所がある。
原根「全部に45~55%くらいの勝率だと思っていて、五分五分の試合をずっとやっているような感覚ですね。だからゲームの濃度が高くて、やりとりを楽しめるんです。まさに今回の決勝がそうでしたね。途中までどっちが勝つか全然わからないような試合だったと思うんですが、ああいう戦いにカードゲームの醍醐味を感じます」
長く濃密な平山怜選手との決勝、それと同様の試合を、毎試合30~40分は必ずかかって2日間やり続けてきたという。聞くだに疲労困憊しそうだが、それこそが原根選手にとっての「マジックを楽しむ」ということなのだろう。
原根「今回のMVPカードですか? 間違いなく《婚礼の発表》です。活躍しないマッチはほとんどなかった印象ですね。最近、版図やティムールに対して《婚礼の発表》が微妙なんじゃないか、ということで減らされる傾向にあって、僕自身もプロツアー後にXで『3枚くらいでいい』というようなことを言ったんですが、経験をもとにゲームプランを見直した結果、やはり4枚だとわかりました。変身させてミシュラランドのサイズを上げるのがすごく重要ですね。全体除去を撃たれた後にトークンですぐリカバリーできるのも大事で、デッキの軸としてこれを中心に戦っていると言えます」
今大会を振り返って
2日間の対戦内容や思い出深い試合について、振り返ってもらった。
原根「昨日は……ボロス召集、版図、3回戦目は瀬畑(市川ユウキ)さんと当たってトス(勝ちを譲った)。その次が4色レジェンドで、この段階で2勝2敗だったんですが、そこから全勝しました。1日目の残りが版図、エスパー・ミッドレンジ、版図、召集と来て、2日目は召集、エスパー、バント毒、ID(合意の受けの引き分け)。トップ8がティムール、ゴルガリ、アゾリウス。版図が3回と多めでしたが、だいたい環境にいるデッキたちに当たった感じですね」
サイドボードについての考え方も、「全部に対してまんべんなく」というものだった。
原根「こういう大会に臨むにあたって、『何々デッキが多そうだから、こうしよう』と意識するパターンもあるでしょうが、僕としては『全部の相手に勝ちうるようにしておくべき』だと思っています。エスパーの同系が多そうとか、ボロス召集は好きな人が多いからよく当たるだろうという予想自体はありますけど、それはそれとして全部に勝たなきゃな、という考え方ですね。1つでも勝てない相手がいれば優勝も何もないから、極端に有利な相手も不利な相手もいないようにするという」
原根「あと、この2日での思い出深い試合は、準々決勝の江原(洸太)君との試合ですね。2本目かな、相手が1ターンに何十マナも出して、僕には対抗策が全然なかったのでもうほぼ死んでいるなと思いつつすべてを受け入れるしかなかったんですけど、ギリギリでターンが返って来たという。個人的には前々から江原君をけっこう応援しているのもあって、『おめでとう』って言うタイミングをうかがってるような状況だったんですが、ターンが返って来て、こんなことってあるんだなと」
そこで拾った命が優勝につながったことになる。この試合はテキストカバレージになっているので、ぜひご覧いただきたい。
世界選手権に向けて
原根「去年はAMP(精算マッチ・ポイント)が1点足りなくて世界選手権に出られずすごくがっかりしましたが、今回は望外の結果で出られることになりました。とはいっても、別に順位的な目標はないですね。まずは楽しみたいという思いが強いです。勝つためのデッキではなくて、世界選手権で自分が一番楽しめるデッキを持って行って、強い相手たちとどこまで戦えるか見てみたい。これまでのキャリアの中で、実は世界選手権には出たことがないんです。次に出られるのがいつになるかもわからないですし、自分のやりたいことを貫き通したいと思っています」
プロリーグで活動していたころには、負けられない試合の連続に疲弊した姿を見ることもあった原根選手だが、今ではそういったプレッシャーもなく、マジックを楽しめていると穏やかに語ってくれた。次なるプロツアーや世界選手権でも、フィーチャーマッチの照明を浴びて、好きなデッキでのびのびと戦う姿をぜひ応援したい。
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