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マジック:ザ・ギャザリング世界選手権2019

観戦記事

世界選手権2019グランドファイナル:Paulo Vitor Damo da Rosa(ブラジル) vs. Márcio Carvalho(ポルトガル)

Corbin Hosler

2020年2月16日

 

 1年間という長きにわたる戦いが。何十というグランプリが、マジック・プロリーグの試合が、ミシックチャンピオンシップが。世界選手権2019に出場した16名の戦いすべてが。今まさに、ここに集約されている――優勝賞金300,000ドルと「世界王者」のタイトルを懸けた、ただ2人の決勝に。

 マジックの歴史に残る最高の瞬間。この舞台に立つ2人のファイナリストも、それに相応しい顔ぶれだった。パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaとマルシオ・カルヴァリョ/Márcio Carvalhoの両名だ。

#MTGWorldsの決勝はとんでもないことになったな。世界最高の2人が世界王者の座を懸けて戦う。これ以上のことはないよ。

試合展開

 グランドファイナルは、大会前から最有力候補の一角として注目されていた2人による戦いとなった。カルヴァリョは世界最高のリミテッド・プレイヤーとして広く知られており、対するダモ・ダ・ロサは「歴代最強」の議論で常に名前が挙がるプレイヤーだ。使用デッキはダモ・ダ・ロサが「アゾリウス・コントロール」、カルヴァリョが「ジェスカイ・ファイアーズ」。ダモ・ダ・ロサは今大会の圧倒的活躍により(彼はここまでほとんどの試合に勝ち、一直線にグランドファイナルまで進出した)、2マッチ勝利で優勝となる。一方のカルヴァリョは、3マッチの勝利が必要だ。

 この特異な大会形式によって生まれた「頂点までの距離の差」が、勝者を決めるためのゲーム1つ1つの、そしてマッチ1つ1つの重みを増し、世界選手権の歴史上最も記憶に残る決勝戦を演出した。まさに、マジック史上最大規模の世界選手権にふさわしい決勝であった。

 開幕の第1ゲームでは、ダモ・ダ・ロサが今大会に「アゾリウス・コントロール」を持ち込んだ理由が存分に示された。カルヴァリョは次々と脅威を繰り出していったが、「Tempo Storm」所属プロはそのすべてに回答を用意した。《帰還した王、ケンリス》? 《吸収》。《風の騎兵》? それも打ち消し。撃ち漏らしたクリーチャーが戦場に? 《空の粉砕》。

 まさにコントロールの講習会だった。相手が「ファイアーズ」であろうがなかろうが、ダモ・ダ・ロサはゲームを完璧にコントロールし、勝利に向かっていただろう。

 第2ゲームではカルヴァリョが《創案の火》からの《帰還した王、ケンリス》を決め、反撃を見せた。速攻クリーチャーによる攻撃でダモ・ダ・ロサのライフは残り5点まで追い詰められたが、引き込んだ《空の粉砕》が彼に猶予をもたらした。カルヴァリョが後続を見つけるのに苦戦する中、ダモ・ダ・ロサの《紺碧のドレイク》が防衛線を支え、《エルズペス、死に打ち勝つ》が《創案の火》を取り去った。そして《太陽の恵みの執政官》が盤面に続くと早くも第1マッチが決着し、ダモ・ダ・ロサはあと1マッチ勝利でタイトルに手が届くところまで歩みを進めることになった。

 
 

 いよいよカルヴァリョが壁際に追い詰められた――彼がタイトルを獲得するためには、「3マッチ連続で」勝たなければならない。だが「優勝かそれ以外か」の覚悟で今大会に臨む彼が、簡単に倒れるはずがなかった。カルヴァリョは第2マッチに入るなり勢いを取り戻し、《炎の騎兵》によって強化された強烈な一撃で第1ゲームを奪った。

 そしてここから、彼の本当の反撃が始まる。

 

 第2ゲームも第1ゲームと同様の展開になり、《創案の火》の力が遺憾なく発揮された。ダモ・ダ・ロサも《エルズペス、死に打ち勝つ》で脅威に対処し、《霊気の疾風》で《創案の火》の除去に成功したが、2枚目の《創案の火》がカルヴァリョにこのゲームも制する、すなわち1マッチ勝ち取るのに必要な力を与えたのだった。

 
 

 こうして、両者は1マッチずつ取り合った。(デッキ相性も頂点までの距離も)依然としてダモ・ダ・ロサの有利は揺るがないものの、カルヴァリョは持てる力を出し切るつもりだった。しかし彼は再び壁際に追い込まれることになる。(《時を解す者、テフェリー》の能力による)インスタント・タイミングでの《空の粉砕》で、ダモ・ダ・ロサは盤面を一掃した状態でアンタップを迎え、一息入れることができた。さらに《帰還した王、ケンリス》を止める鍵となる《吸収》も持っており、カルヴァリョの「騎兵」も《エルズペス、死に打ち勝つ》で追放すると、ついにダモ・ダ・ロサの頂点までの距離はあと1ゲームになった。

 

 しかし、勝負はまだわからない。先攻となったカルヴァリョは、彼ができ得る最速のスタートを切った――《軍勢の戦親分》2体展開だ。ダモ・ダ・ロサも《ガラスの棺》とトップデッキした《払拭の光》で両方除去するという最高の返しを見せたが、戦場に残ったゴブリン・トークンが予想外のダメージを積み重ねていった。ゴブリンたちはダモ・ダ・ロサのライフを攻め続けるだけでなく、《時を解す者、テフェリー》の[-3]能力で1体バウンスしても、残った方で退場させられるという悩ましい状況を生み出していたのだ。

 ダモ・ダ・ロサは生き残るための《空の粉砕》を探し求めた。しかし《覆いを割く者、ナーセット》をもってしても彼が求めるものは見つけられず、生き残ったのはカルヴァリョの方だった。

 
 

 戦いは第3ゲームへ。ここでダモ・ダ・ロサが勝てば、彼が世界王者に。カルヴァリョが勝てば、最終第3マッチにもつれ込む。

 両者は再び序盤の攻防を見せたが、ダモ・ダ・ロサの土地が詰まり、リソースを十分に使えない状況に陥ると、カルヴァリョはこれを好機と見て一気に勝負を決めにいく。勝利に必要なアンタップ・インの土地1枚を探すために、《炎の騎兵》の能力で手札の4枚をすべて捨ててみせた。

 筆舌に尽くしがたい瞬間がカルヴァリョを襲った――引けなかったのだ。しかしダモ・ダ・ロサもまた必要なものを引けず、最終的にカルヴァリョがこのゲームを取り、両者は最終決戦を迎えることになった。

 

 ダモ・ダ・ロサの残機はついに尽きた――この最終マッチの勝者が、次の世界王者となる。

 第1ゲームは、両者ともに第1ゲームらしい動き出しだった。互いに脅威を繰り出し合い、盤面は少しずつ膠着していった。ダモ・ダ・ロサは《太陽の恵みの執政官》とトークンの群れで戦線を築き上げ、カルヴァリョは《夢さらい》の力で打開を狙う。

 だが盤面の膠着は、コントロール・デッキ側に有利に働くのが常だ。ダモ・ダ・ロサが《意味の渇望》でこの上ない3枚――《吸収》2枚と《ドビンの拒否権》を引き込むと、カルヴァリョがゲームの流れを引き寄せるチャンスは露と消えた。数ターン後、《太陽の恵みの執政官》から生み出されたペガサスの軍勢が、ダモ・ダ・ロサに勝利をもたらしたのだった。

 マジックはリスクがつきもののゲームであり、それによって勝敗が決まることがあるのも基本的な事実である。ときにマッチやトーナメント全体に影響を及ぼすこともあり、それは世界選手権の舞台も例外ではない。

 最終ゲームは、まさにそういう展開だった。カルヴァリョは必要なものがほぼすべて揃った手札をキープした――《創案の火》2枚に、後続の脅威も備えた手札を。ただし彼は、必要なマナ――赤マナを生み出す土地を引き込む必要があった。プロ・プレイヤーにとっては、長年にわたる経験の中で見慣れたリスクだ。カルヴァリョが序盤に赤マナ源を引き込めば極めて強力な動きが実現し、ダモ・ダ・ロサはそれを止めるのに相当な苦労を強いられるだろう。

マルシオが3ターン目までに赤マナ源を引き込む確率は45%。このキープはそこまで最悪なものじゃないと思うけれど(とはいえ、たぶん常に「正しい」選択ではない)、世界最高のプレイヤーたちと2本先取の試合を9マッチもやって疲れていたんだろうなと感じる。

 残念ながら、物事は常にうまくいくわけではない。カルヴァリョは必要な土地を引き込めず、唱えられない5マナ域を立て続けに引くことになった。ダモ・ダ・ロサは着実にリードを広げ、数ターン後には彼のキャリアの集大成となる「世界王者」の座に就いた。彼はすべてのタイトルと史上最高額の賞金を勝ち取ったのだ。

 

 「歴代最強のマジック・プレイヤーは誰か」という議論は、これまでもインターネット上で熱く交わされてきた(リンク先は英語)。今回、ダモ・ダ・ロサの経歴に最高の勝利が加わったことで、「『世界王者』のタイトルさえ得ていれば……」という意見は主張できなくなるだろう。

 「8歳でマジックを始めてから、この瞬間を何度夢見たことか……」試合後の興奮冷めやらぬダモ・ダ・ロサが言葉を紡ぐ。「あらゆるタイトルを手にしてきましたが、これだけが足りなかった。ついに世界王者になれました。マジックをプレイしない人でさえも、『世界王者』の意味はわかる。すごいことですよ」

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 素晴らしき決勝、素晴らしき選手、素晴らしき大会。世界選手権2019優勝は、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ!

(Tr. Tetsuya Yabuki)

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