EVENT COVERAGE

グランプリ・シンガポール2018

インタビュー

「英雄譚」諸藤 拓馬 ―プロプレイヤーの日常と非日常―

Kazuki Watanabe

 遠く離れたシンガポールの地。会場で顔を合わせた彼は、いつもと変わらぬ笑顔で声を掛けてくれた。

 国内外のグランプリ、そしてプロツアーで、彼とは何度も顔を合わせ、話をしている。その明るい笑顔と、対戦中の真剣な表情、そして優しい言葉を聞く度に、「ああ、彼がが多くのプレイヤーから慕われる理由が分かるな」と思わされるのだ。

morofuji1.jpg

 諸藤 拓馬

 古くは世界選手権2005で日本代表を優勝に導き、グランプリ・神戸2015の優勝、グランプリ・東京2016のトップ4といった輝かしい成績を持つ。そしてここ最近では、グランプリ・北京2017グランプリ・上海2017でトップ8に入賞し、アジアのグランプリで名を馳せ、プロツアーでも活躍している強豪だ。

 諸藤といえば、厳しい勝負の世界に身を置き、勝利を重ねながらも、「マジックを楽しむこと」、「仲間の大切さ」を決して忘れず、勝っても負けても笑顔を絶やさない人格者だ。福岡の、そして日本が誇る英雄と言っても過言ではないだろう。

 マジックに触れる日常。世界の舞台で戦う非日常。そしてその舞台で勝利する秘密まで。時間の許す限り、話を伺ってみた。

 それではお届けしよう。シンガポールの地で綴られる、諸藤 拓馬の「英雄譚」。


Ⅰ 日常

諸藤「マジックに触れるのは、金曜のFNM(フライデー・ナイト・マジック)と、土曜日、それ以外だと深夜に少しオンラインで、という程度です。仕事があるので、どうしてもこれくらいになってしまうんですよね」

 諸藤の日常は、「社会人としての日常」である。多くのプレイヤーが「マジックに触れる時間をどう捻出するか」に悩むのと同様、彼もまた、その悩みに頭を抱えているのだ。

諸藤「グランプリやプロツアーの度に『休みをどうやって調整するか』がネックになりますね。なので、遠征は控え目になってしまうのですが、可能な限り、日本を含むアジアのグランプリには参加したいと思っています」

 では、ヨーロッパやアメリカは? 世界選手権2005で、日本代表を優勝に導いた諸藤ならば、かなりの数をこなしているかと思ったのだが……。

諸藤「いや、実はアメリカやヨーロッパのグランプリに行ったことないんですよ」

 という驚きの答えが返ってきた。

諸藤「ええ、本当に。アメリカもヨーロッパも、プロツアーだけですね。プロツアーの前に開催されるグランプリから2週続けて遠征する人も居ますけど、まったく行ったことがないんです。行ってみたいとは思うんですけどね。たしか、去年はアジアのグランプリは全部出て……」

 そう言って指を折りながら、海外遠征の回数を数えるとともに、

morofuji2.jpg

諸藤「もともとカジュアルにマジックを楽しんでいただけで、海外グランプリなんて考えもしませんでしたね。土日に友人と一緒に遠征して遊ぶようなものでした。そうすると、『また参加したい!』と思ってしまう。そして、少し勝てると欲が出て、『もう少しプロポイント欲しいな』『頑張れば、レベルプロになれるな』なんて思ったことが、僕のプロになるきっかけだったと思いますね」

 と、プロプレイヤーとしての第一歩を、諸藤は懐かしそうに振り返った。

Ⅱ 非日常で、勝利するために

 さて、非日常であるグランプリ、そしてプロツアーに参加し、諸藤は勝利を重ねている。特に、諸藤と言えば「構築の名手」として知られているが、その強さの秘密はどこにあるのだろうか?

諸藤「そうですね……いろいろなデッキを使ってみることが大事かな、と思います。速いアグロでも、遅いコントロールでも、とにかくたくさん触ってみてほしいですね。お互いの強さが分かりますし、経験を積むことができますから」

 そして、長年マジックに触れてきた熟練らしいアドバイスが続く。

諸藤「マジックには波があるんです。流行、って言うべきかもしれません。例えば、少し前にラムナプ・レッドが流行って、今また赤単が流行ってますよね。もし、『コントロールしか使わない!』と言い張ってたら、この波に乗れないわけです。いろいろなものを使って、圧倒的に強いアーキタイプが出てきたときに、それを使うだけの素養を作っておくのが大事かもしれません」

 「もちろん、ひとつを使い込むっていうのも大事だと思いますけど」と言いながら、やはり諸藤らしく、「マジックを楽しむ大切さ」を語ってくれた。

諸藤「いろいろ使えた方が、楽しいですからね。これも、マジックの魅力ですから」

 「いろいろなデッキを使った方が良い」という言葉。この背景には、諸藤の「経験」がある。

諸藤「昔話になってしまいますけど、《適者生存》が大好きで、当時は5CG(緑中心の5色デッキ)のようなデッキばかり使っていたんですよ。使うのが楽しくて仕方がなかったんです。今思えば、あのころは他にもたくさん面白いデッキがあったので、『触れておけば良かったな。そうすれば、あの時期に色々な経験を積めただろうな』と今でも思うんですよね」

 「使っていて楽しいなら仕方ないですよね」と私が述べると、彼は笑いながら「そうなんですよ。仕方ない。マジックが楽しいんだから」と答えてくれた。きっと当時の諸藤も、「楽しいんだから」と言いながら、5CGを使っていたに違いない。

 さて、今回諸藤は「波が来ている」と称する赤単を使用している。その理由も、「楽しそうだったから」というものだ。

諸藤プロツアー『ドミナリア』で優勝して、その後も結果を残している、ということは、『このデッキは、上手く使いこなせば優勝できる!』っていう何よりの証拠だと思うんですよ。そうなったら、使ってみたくなりますよね」

 もちろん、強さの理由を諸藤は理解している。その上で、「使ってみたい、楽しそうと思うのは、デッキを選ぶ大きな理由だと思うんです」と続けた。そして、「プロツアーのあとに、スタンダードのグランプリを開催してほしい。もったいない」とも述べた。

諸藤「このシンガポールに参加しないプレイヤーだと、もう大きなイベントは残ってないですよね。『プロツアーで勝ったデッキを使ってみたい!』って思うのは当然だと思いますし、大会やグランプリに参加するきっかけにもなるはずです。今回のシンガポールで赤いデッキが多いのも、そういうプレイヤーが多いからだと思うんですよね」

 さて、そろそろ時間だ。最後に、「国内外を含むグランプリに参加したことがないプレイヤーに向けて、アドバイスをお願いします」と聞いてみた。

 その答えもまた、「楽しさ」、そして「友人」を大切にする、諸藤らしいものであった。

諸藤「とにかく一度で良いから参加してみて欲しいですね。一度参加すれば、絶対に『また来たい!』って思って貰えるはずです。そして、一人ではなくて、友達を誘って一緒に出場するのが良いと思いますね。負けてもサイドイベントに出たり、友達の応援したりできますし、自分が勝ったときに祝福して貰えますから」

 その言葉を聞き、グランプリ・神戸2015で彼が優勝したときの風景が甦った。

morofuji_gpkob15win.jpg

諸藤「大人になると、修学旅行のように大勢でどこかに行く機会ってなくなりますからね。でもグランプリなら、それをもう一度味わえる。これも大きな魅力だと思います。大人同士の集団行動って思わぬトラブルに見舞われるよりも、楽しいと思うことの方が多いはずですよ」

Ⅲ そして再び日常へ

 さて、グランプリ・シンガポール2018に伴う、諸藤の「英雄譚」はこれで閉幕だ。そしてこれは、新たな物語が始まる合図でもある。

――ありがとうございました! ちなみに、帰りの飛行機はいつですか?

諸藤「月曜日の1:30ですね」

――す、数時間後! ほとんど今日のようなものですね。

諸藤「そうですね。直行便なので、そのまま仕事に……」

 私が「大変ですね」と声を掛けるより先に、諸藤は「呪文」を唱えた。そう、新たな「英雄譚」である。

諸藤「週末のFNMで何を使うか考えないと……今回結果を残したデッキを使ってみるのも良いかもしれません。いや、でももう少し赤単を使ってみたいかなあ……」

 さあ、Ⅰ章:日常が再び始まった。シンガポールから日本へ戻るフライトが、これからも続く長い旅の冒頭である。そしてまたしばらく読み進めれば、諸藤が世界の舞台で大立ち回りを繰り広げるⅡ章も待ち構えていることだろう。その旅を、彼は仲間とともに歩んでいくはずだ。

 彼と、彼の友人の旅路が、末永く、華やかに続くことを祈る。

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

サイト内検索