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チャンピオンズカップファイナル シーズン3ラウンド3

観戦記事

決勝:芝田 輝良(滋賀) vs. 長尾 泰貴(千葉) ~カワウソはかわいそう?~

Hiroshi Okubo


 花が他の花に咲き方を尋ねたりせずとも咲くように。

 鳥が羽ばたいて遠く地平の彼方へと飛んでいくように。

 風が木々を揺らすように。月が夜空に輝くように。

 そんなふうに、長尾はイゼット果敢を屠ってきた。

長尾 泰貴(千葉)

 

 チャンピオンズカップファイナル シーズン3 サイクル3。決勝の舞台へと勝ち進んできた長尾 泰貴(千葉)の両手は「イゼット果敢」の血に濡れている。これまでの12回戦の予選ラウンドと準々決勝、準決勝の全14試合を通して計6回「イゼット果敢」と当たり、そしてその全てに勝利してきた。

 「イゼット果敢」は今大会において33.8%という驚異的なメタゲーム占有率を誇った台風の目だ。そして、そんな「イゼット果敢」を喰らうためにこの会場へとやってきた長尾にしてみれば、頼まずとも獲物がテーブルの向かいへとやって来るこの2日間の戦いはトーナメントというよりコース料理のようなものだったと言えよう。肉食獣が草食獣を喰らうのはそう生まれてきたからであって、そこに残忍な意図はない。"カワウソたちが見た望み無き悪夢"長尾と、長尾のデッキ「オルゾフ・ピクシー」は、肉食獣の側だった。

 そんな長尾がたどり着いた決勝の舞台。最後の大皿に乗ってやってきたのもまた、芝田 輝良(滋賀)操る「イゼット果敢」であった。

芝田 輝良(滋賀)

 

 芝田はその明るい人柄から顔の広い関西の競技プレイヤーであり、チャンピオンズカップファイナルの常連でもある。各地の予選を勝ち上がり、その実力を叩き上げてきた猛者が「余りにも強すぎるから」という理由で選択したデッキは、先にも述べた通り「イゼット果敢」だ。しかも芝田は今大会では2回「オルゾフ・ピクシー」とマッチアップし、そのいずれにも勝利している。

 たしかに「オルゾフ・ピクシー」の《一時的封鎖》は「イゼット果敢」のあらゆる脅威を封じ込め、《望み無き悪夢》や《勢い挫き》を何度も再利用する手札破壊戦略は果敢を誘発させる回数を減らす。しかし、それでもなお「イゼット果敢」には数ターンでゲームを決するだけの爆発力があり、そして火力呪文やバウンス呪文といった除去、打点を跳ね上げる《巨怪の怒り》の撃ちどころなど、ゲームの明暗を分ける細かな技術介入の余地がある。ここまで勝ち進んできた芝田の「イゼット果敢」は間違いなく今大会最強の「イゼット果敢」であり、そのプレイングもまた今大会で最も冴えている。

 

 ライオンがバッファローに致命傷を負わされることもある。ピクシーとカワウソならどうなる? その答えは、この決勝戦の結果から明らかとなろう。

ゲーム1

 長尾と芝田はこのチャンピオンズカップファイナルで決勝戦の席へと座ったことで世界選手権の権利を獲得し、すでに競技者としての目標を一つ達している。

 

 この決勝戦にも、タイトルという栄光と優勝賞金こそ懸かっているが、それはそれとして両者気負うことはなく「まぁ気楽にやりましょう」と歯を見せながらゲームの準備を進めていった。

 が、そんな芝田の表情はすぐに曇ることとなる。オープニングハンドで土地に恵まれず、無念のダブルマリガン。ただでさえ相性の上では不利なマッチアップだが、実質的にタダで《望み無き悪夢》を2回置かれてしまったようなものであり、厳しい幕開けとなってしまったのは間違いない。

 

 そんな芝田は第1ターンに《手練》でまずは手札を整える。が、返す長尾の初動は泣き面に蜂の《望み無き悪夢》であり、芝田はいきなり苦しい展開を強いられてしまった。

 わずか2ターン目にして残された手札は4枚のみ。ゆったりと構えていれば芝田の「イゼット果敢」はニホンカワウソのように狩り尽くされてしまうだろう。芝田は大きなターンを作って一気にライフを詰めるというゲームプランを目論んで、《精鋭射手団の目立ちたがり》を「計画」して先の展開に備える。

 

 しかし、長尾は芝田のゲームプランを容赦なく打ち砕く。続く第3ターンに動きがなかった芝田に対し、長尾は《陽光真珠の麒麟》をプレイして《望み無き悪夢》を手札に戻し、その後自身のターンを迎えると再びの《望み無き悪夢》と、さらに《勢い挫き》。

 芝田の手札を全てもぎ取った長尾は、ゆったりと《陽光真珠の麒麟》でクロックを刻む。しかし、まだライフには余裕がある芝田もゲームを放棄することはせず、引き込んだ《嵐追いの才能》でカワウソ・トークンを生成する。追い詰められた状況であることに違いはないが、この《嵐追いの才能》はクロック兼リソース補充にもなる1枚であり、まだ反撃の糸口が失われたわけではない。

 

 ただ、長尾ももちろん除去をその手に抱えている。まずは芝田のターン終了時にこのカワウソ・トークンを《逃げ場なし》で除去すると、2枚目の《陽光真珠の麒麟》で《逃げ場なし》を手札に戻す。つまり、この先長尾が2枚の土地を立たせている限り《精鋭射手団の目立ちたがり》も即座に除去されてしまうということが分かったわけである。

 その後2体の《陽光真珠の麒麟》で攻撃し、芝田の残されたライフは8点。ここでもう2ターンかけて《陽光真珠の麒麟》で攻撃することでもゲームを終わらせることもできるが、長尾は芝田へと一切の猶予を与えることはなかった。4枚の土地をタップし、唱えたるは《黙示録、シェオルドレッド》。なんとかゲームに食らいつこうと必至にあがいた芝田だったが、これにはさすがに深く息をつき、一言。

 

芝田「投了です。ま、こういうこともありますね」

長尾「ですね。ダブマリに《望み無き悪夢》が刺さった」

 

 芝田は苦笑いを浮かべながらゲームを振り返り、まずは長尾が第1ゲームの勝利を飾った。

芝田 0-1 長尾

ゲーム2

 ダブルマリガンの憂き目はあったにせよ、後攻3ターン目までに3枚の手札を奪われ完全にゲームの主導権を奪われてしまった芝田。気を取り直して臨んだ第2ゲームではしっかりと7枚の手札をキープし、「イゼット果敢」のデッキの根幹をなす1枚である《嵐追いの才能》から動き出す。

 対する長尾は《強迫》で芝田の手札をつまびらかとする。そこにあったのは《選択》と《手練》、《巨怪の怒り》と《僧院の速槍》、土地。まずは「イゼット果敢」のフィニッシャーである《コーリ鋼の短刀》がないことを確認しつつ、《巨怪の怒り》を捨てさせる。

 

 芝田にしてみれば、《巨怪の怒り》はコンバットトリックという性質上除去を1枚持たれているだけでも裏目が発生してしまうため、この《強迫》の影響は比較的小さく済んだ形と言えよう。返すターンにすでに見られている《僧院の速槍》をプレイし、さらに《手練》で手札の質を上げると、2体の果敢クリーチャーが攻め上がり4点のダメージを稼ぐ。

 第2ターンを土地を置くのみでターンを終える長尾に対し、芝田は《コーリ鋼の短刀》を引くが、長尾の《一時的封鎖》をケアしてあえてこれをプレイせず、《僧院の速槍》とカワウソ・トークンで攻撃するのみでターンを終える。ここまで効率的に攻めている芝田だが、まだまだゲームは序盤であり長尾のライフも十分。効率を追いすぎてかえって勝機を逃す展開は避けるべきと、冷静なプレイが光る。

 

 なれば長尾はブロッカーを用意するだけだ。プレイしたのは《分派の説教者》。3ターン目にあえてアクションせずに力を溜めた芝田だが、この硬いクリーチャーの登場によって溜めた力の放出を受け止められる形になってしまう。

 最序盤の攻防を終え、勝負は中盤に差し掛かる。芝田は《嵐追いの才能》で《手練》を手札に加え、堅実に、そして着々と大きなターンを作るための準備を進めていく。ここまで徹底的に長尾にマウントを取られることを避けてきた芝田のプレイはさすがと言えよう。しかし慎重なプレイは言い換えれば悠長なプレイとも言え、長尾は芝田を咎める最強の切り札をその手に隠し持っていた。

 

 芝田と同じく4枚目の土地に到達した長尾がプレイしたのは《黙示録、シェオルドレッド》。4/5接死というスペックは単純に壁としても優秀であり、しかもイゼット果敢は軽量ドローによって効率的に果敢を誘発させるというデッキの性質上、カードをドローするたびに2点のライフを失うという制約も重くのしかかる。完全に地上戦力を沈黙させた長尾は、悠然と《分派の説教者》で攻撃を仕掛け、絆魂を持った吸血鬼・トークンを生成。攻守ともに完璧といえる布陣を築いた。

 

 これを乗り越えるべく、芝田はまずは《手練》でライブラリーの上を手繰ると、そこにあった《轟く機知、ラル》を引き込みそのままプレイ。《黙示録、シェオルドレッド》そのものを対処することは適わずとも、傾き始めていた天秤を五分に戻すだけのフィニッシャーを登場させ、今度は長尾が対応を迫られる。

 

 が、先のターンの芝田の《手練》によるドローとそれに付随する《黙示録、シェオルドレッド》の能力によるライフ損失、そして長尾のターンのドローがもたらすライフ回復により、互いのライフは同値である16となる。つまりこのターンの《分派の説教者》の攻撃は最大効率──ドローとトークン生成を同時に行えるターンだ。《黙示録、シェオルドレッド》が《轟く機知、ラル》に、《分派の説教者》が芝田自身に攻撃を行い、勝負の手綱を力強く引き寄せていく。

 

 これらの攻撃をブロックせずに通した芝田。《選択》でドローを行いながら《轟く機知、ラル》の忠誠値を増やし、果敢も誘発させると続いて《洪水の大口へ》で《黙示録、シェオルドレッド》をバウンス。さらにもう一度《選択》し、3度の果敢が誘発した《僧院の速槍》と2体のカワウソ・トークンで攻撃を仕掛ける。

 一気に12点の打点が長尾に迫るが、長尾はこれに対しノータイムで2体の吸血鬼・トークンをチャンプブロックに差し出してライフを守る。盤石の守りに攻撃を阻まれる芝田だが、《轟く機知、ラル》で着実にトークンを増やしつつ、《精鋭射手団の目立ちたがり》を「計画」して雌伏の体勢を見せる。

 

 ここまでに《分派の説教者》のドローもあって長尾の手札は6枚あり、芝田はなかなか思い切ったプレイができない。芝田のターン終了時に、長尾は《陽光真珠の麒麟》を出してセルフバウンスを行わないことを選択し、続いて《黙示録、シェオルドレッド》を出し直して《分派の説教者》で攻撃を行う。《黙示録、シェオルドレッド》の誘発型能力でじわじわとライフを奪い続けてきた長尾は、残りライフ8点の芝田に対して16点のライフを維持しており、《分派の説教者》が長尾にさらなるドローをもたらす。

 とはいえ芝田の盤面には《嵐追いの才能》と《轟く機知、ラル》によって生成されたカワウソ・トークンが3体と《僧院の速槍》。果敢クリーチャー4体がいれば16点のライフなど削り切るのは容易い。芝田には苦しい展開ではあるが、まだ勝ちの目は残されている……

 

 ……かに思われた。長尾はここで潤沢な手札からチャンプブロッカーとして《養育するピクシー》2体を並べる。こうなっては芝田は攻撃を通すのは難しい。返す芝田は悩みつつ、トランプル付与を頼ってまずは《コーリ鋼の短刀》をプレイ。続いて「計画」されていた《精鋭射手団の目立ちたがり》をプレイして《コーリ鋼の短刀》の誘発型能力を誘発させ、モンク・トークンに《コーリ鋼の短刀》を装備させると、《選択》でさらにもう一度果敢を誘発させ、3体のカワウソと《僧院の速槍》、モンク・トークン、そして《精鋭射手団の目立ちたがり》に全軍突撃の司令を与える。

 

 見た目上は18点の、長尾のライフを削り切るには十分な打点。もちろん長尾にとってはマストブロックの攻撃だが、問題は何をどうブロックするかだ。まず《陽光真珠の麒麟》を《精鋭射手団の目立ちたがり》に、2体の《養育するピクシー》をそれぞれカワウソ・トークンの前に置き、ブロック宣言を解決する。

 

 長尾はもう一体アンタップ状態のクリーチャー、《黙示録、シェオルドレッド》をコントロールしていたが、これはコンバットトリックや火力との合わせ技で除去されることを嫌って温存した形だ。芝田が《巨怪の怒り》を持っていれば16点のライフが削り切られるが、逆に《巨怪の怒り》さえ持っていなければ勝利が確定する。そして、その答えは──

芝田「ありがとうございました」

 

 勝者を称える一言が、長尾のブロックの正当性を肯定する。実際に芝田の手札には《噴出の稲妻》があり、もしここで《黙示録、シェオルドレッド》がブロックに回ってくれていれば火力と合わせてこれを除去し、長尾の盤面には《分派の説教者》が1枚のみ、対する芝田はクロックを盤面に残しつつ《轟く機知、ラル》も残存しているという最高の盤面を築けていたはずだった。

 リスクとリターンを天秤にかけ、最適なブロックをした長尾が、チャンピオンズカップファイナル シーズン3 サイクル3の優勝の栄冠に輝いた。

芝田 0-2 長尾


 「赤単アグロ」に劣らぬ速度。「ジェスカイ眼魔」並のシナジー。これらを併せ持った「イゼット果敢」は現行スタンダードにおける絶対的な存在であるかのように思われた。実際に今大会のメタゲームブレイクダウンでも、環境の王者の到来を示すかのように「イゼット果敢」は顕著に人気のあるアーキタイプだった。

 しかし、蓋を開けてみれば「イゼット果敢」は敗れ、260人の参加者のうち6人だけが選んでいた少数派、「オルゾフ・ピクシー」が勝利した。

 だが、これは「イゼット果敢」を選択したプレイヤーたちが安直だったわけでもないし、長尾がたまたま山を当てたわけでもない。実際にこの決勝の第2ゲームでは、《黙示録、シェオルドレッド》と《分派の説教者》に好き放題にされるゲーム展開においても十分な勝機を残していた。芝田のケアにケアを重ねつつ、ゲームプランを柔軟に変更し続ける的確なプレイングあってこその展開ではあったが、厳しい状況でも一気に捲くることができる可能性のある「イゼット果敢」は間違いなく最優の選択肢であったし、そうしたフィールドでこそ長尾の「オルゾフ・ピクシー」が最高の座を掴んだのだ。

 「環境」という言葉はとてもナチュラルで、自然発生したコントロール不能な存在を思わせるが、少なくともマジックにおける「環境」とは、プレイヤーたちのたゆまぬ思考の末に生み出された人工物だ。

 肉食獣が草食獣を喰らうのはそう生まれてきたからであって、その摂理を覆すことはできないが、人が生み出したものは人の手で変えることができる。だからこそ、プレイヤーは「環境」に適応してみたり抵抗してみたり、思考と想像力をデッキリストという形に昇華してこのゲームへと挑み続ける。

 今大会では、長尾の的確なメタ読みやリスクとリターンを天秤にかけた慎重かつ大胆なプレイングが彼を頂点へと立たせた。きっと明日以降は、「オルゾフ・ピクシー」というデッキがより深く研究され、そして「イゼット果敢」が、「ジェスカイ眼魔」が、「赤単アグロ」が、他にもこの環境に存在する(あるいは、現時点ではまだ存在すらしていないかもしれない)全てのデッキがさらに一段階ステップを登ることだろう。

 

 改めて、マジックの奥深さをその勝利を以て体現した長尾 泰貴よ、チャンピオンズカップファイナル シーズン3 サイクル3優勝おめでとう!

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