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2019ミシックチャンピオンシップⅣ(バルセロナ)

インタビュー

「英雄譚」:ジェリー・トンプソン~等身大のヒーロー~

小山 和志

 「ヒーロー」とはどんな存在だろうか?

 空想上の話であれば好きな作品の登場人物や冒険活劇の主人公を想像する人もいるだろうし、現実世界、例えばここバルセロナであれば多くの人にとって、FCバルセロナに所属する世界的なサッカー選手、リオネル・メッシがそれにあたるだろう。

 マジック界隈に目を向ければ、前人未到の記録を持つ「ジャーマン・ジャガーノート」カイ・ブッディや「ジョニー・マジック」ジョン・フィンケルといった伝説級のプレイヤーたち。あるいは長きに渡って独創的なデッキを世に出し続け、今なおプレミア・プレイの第一線で活躍を続けている八十岡翔太といったプレイヤーは、間違いなく多くの人々にとっての「ヒーロー」と言える。

 ともあれ、多くの人はそれぞれ自分にとっての「ヒーロー」を持っていることだろう。数多いる「ヒーロー」たちはそれぞれ、人々の憧れの対象としてみんなに夢を与えてくれる。

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 プロツアー『アモンケット』チャンピオン、ジェリー・トンプソンもまた、マジックのプロプレイヤーとして、コミュニティの一員として、関わる人々に夢を与えている。

Ⅰ 夢より恋しい

 初めてトンプソンがマジックに触れたのは『ポータル』のころだった。現在はプレイヤーとして数々の実績を持つ彼だが、最初はゲームとしてマジックを始めたわけではなかった。

「最初はマジックのアートがきっかけでブースターパックを買ったんだ。《漆黒のドラゴン》に惹かれてね。長い間ゲームはプレイせずに、カードをアートとして長い間持っていたんだ」

 数年後、働き始めたジェリーは同僚にゲームとしてのマジックを教えてもらうことになる。

「彼はマジックを『プレイ』するって言っていて、僕はたくさんのカードを持っているって彼に言ったんだ(笑)。そこからマジックのトーナメントが存在することを教えてもらって、実際に行ってたんだけど最初のトーナメントは散々だったね。たくさんミスをして、すぐに『早く別のトーナメントに出てミスを取り戻したい!』って思ったよ。」

 そこから、競技プレイヤーとなったジェリーは各地を転戦し、瞬く間に頭角を現し2度のグランプリ優勝など数々の実績を残すことになる。その過程で得たものは、賞金や名誉だけではなかった。

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「いろんなところを飛び回っていたおかげで、例えばアメリカの大都市に遠征すれば大体どこでも20人くらいの友達がいる。ずっとプレイをしてきたおかげで、地元も含めていろんな場所のコミュニティに参加することができたんだ」

 そうして、前述の通りトーナメントプレイヤーとして華々しいキャリアを積んだトンプソンは、ウィザーズ社に入社する。

「インターンとして、R&D(マジック開発部)に参加して、『タルキール覇王譚』ブロック、『タルキール龍紀伝』に関わったんだ。半年の間、デッキを作って、リミテッドをして、新カードについて議論を交わす……ほとんど夢のような仕事だったよ」

 だが、ジェリーはその「夢のような」仕事を続けることはなかった。

「ただ、マジックのトーナメントが恋しかったんだ」

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 トンプソンは、競技シーン、そしてコミュニティのもとに帰る道を選んだ。

Ⅱ マジックからもらったもの

 そうして、再びプレイヤーとして一線に戻ってきたジェリーは再びトッププロに返り咲き、以前と変わらぬ、いやそれ以上の活躍を見せることになった。そして、前述の通りプロツアー『アモンケット』では念願の優勝を果たすことができた。

 多額の賞金と、プロツアートロフィー。

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 プレイヤーとして、望めるであろうものすべてを手に入れたトンプソン。しかし彼にとってそれらは最も重要なものではなかった。トンプソンは、なんと優勝賞金やトロフィーを慈善団体に寄付したのだ。

「それまで20年近くマジックをプレイしてきた結果、多くのプロツアーに出場することができて、ようやくプロツアーで優勝できた時、たくさんの人が僕のために喜んでくれた。僕はその時、コミュニティの一員であれたことに本当に感謝したし、喜んでくれる人々のため、何かできないかと考えた。マジックコミュニティはもちろん、そこに限らず人のために役に立ちたかった」

 トンプソンにとって大切なのは、コミュニティであり、マジックのトーナメントを通じて紡がれる人と人の繋がりであり、そして彼らに貢献することだ。

「マジックは僕にたくさんのものを与えてくれたから、マジックを通じてみんなに恩返しがしたいんだ」

Ⅲ 等身大のヒーロー

 彼の人となりを紹介するため、少し個人的な話をさせてほしい。昨年に行われたグランプリ・千葉2018。当時もカバレージライターとしてイベントに参加していた私はトンプソンと会場でたまたま話をすることができた。

 その時どんな会話をしていたかはあまり覚えていないのだが、話の流れからなんとなく「いつか海外のプロツアーに行ってみたいんだ」ということを彼に話した。

 それを聞いたトンプソンは私にエールを送ってくれた。

「Your dream comes true!」(君の夢は叶うよ!)

 最初はお世辞のようなものだろうと思っていたのだが、トンプソンは繰り返し繰り返し、真剣な表情で言葉をかけてくれた。

 やがて私がその場を離れ、姿が見えなくなるまで。



 それから半年以上の時が経って、私は幸運にもスタッフとしてミシックチャンピオンシップ・ロンドン2019へ参加する機会を得て、会場でトンプソンを見つけた時、「まあ僕のことなんて覚えていないだろうな」と彼に声をかけずにいた。

 だが、トンプソンは私を見つけると、笑顔でまたしても声をかけてくれた。

「やあ、夢が叶ったね」

 その瞬間、ジェリーは僕の「ヒーロー」になった。

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 私の話はただの一例だが、トンプソンはプロツアーを制しプレイヤーとしての頂点を極めたあとも、今なおできる限り、地元のフライデー・ナイトマジックなどに足を運んではプレイヤーたちの相談に乗ることもあるという。

 また同時に、記事を執筆したり、PodcastやDiscordといったオンラインツールを介して世界中の人々と新たなコミュニティを形成し、自らのマジックプレイヤーとしてのスキルと経験を還元している。

「僕や僕のコンテンツを通じて、できるだけ多くの人々が夢を叶えることを手助けしたいんだ」

 トンプソンの周りの人々にとって、彼は夢を与えてくれる憧れの存在であると同時に、「夢を叶える」ことを助けてくれる身近な「等身大のヒーロー」なのだ。



Ⅳ-Extra ジェリー・トンプソンからのメッセージ

 インタビューの最後に、トンプソンに日本の皆さんへのメッセージをお願いしたところ、彼は飛び切りの笑顔で応じてくれた。

――マジックを始めたいと思っている、始めたばかりの方にアドバイスをもらえますか?

「まずは近くの地域で、一緒に店舗やイベントに行ける友達をひとり作ることにトライしてみてください。きっとふたりで楽しむことができると思います! もしMTGアリーナでマジックに触れている方なら、きっとテーブルトップのマジックも同じように楽しめるはずです!」

――最後に、この記事を読んでいる日本の皆さんにメッセージをお願いします。

「僕は日本が大好きで、日本に行けることを本当に心待ちにしています。おそらく、グランプリ・名古屋2019に行くことになると思います。日本の人々はいつも暖かく迎えてくれて本当に感謝しています。皆さんとお会いできる日を楽しみにしています!」

 いつかトンプソンとイベント会場を見かけたら、彼に話しかけてほしい。きっと、トンプソンは真剣に、笑顔で話を聞いてくれるはずだ。


 インタビューを終え、お礼を言って立ち去ろうとすると、トンプソンは「最後に、」と言葉は紡いだ。まるであの時のような真剣な表情で――

「さあ、君の次の夢は何だい?」

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