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2019ミシックチャンピオンシップⅣ(バルセロナ)

トピック

3つの物語――デジタルゲームから世界の舞台へ

Masami Kaneko

 マジックには物語がある。

 その物語は、時に伝説として語られたり、時に面白おかしい話になったりと、さまざまな形で後世に語られる。

 そして、このミシックチャンピオンシップの会場にもひとつの、いや、みっつの物語があった。

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 「瀬畑」「kbr3」「おこさまランチ」。

 皆さんはこのみっつの名前に聞き覚えはあるだろうか?

 もしかしたら、カバレージの中で見たことがあるという方は居るかもしれない。単にプレイヤーのニックネームとして認識している人も多いだろう。

  • 市川 "瀬畑" ユウキ
  • 小林 "kbr3" 崇人
  • 辻川 "おこさまランチ" 大河

 今でこそ3人ともグランプリのチャンピオンという肩書を持ち、マジックの競技シーンにおいてよく見る名前だが、その昔彼らにはまた別の肩書が、コミュニティがあった。ニコニコ生放送でのMagic Online配信。そこで活躍していたプレイヤーとして、上記の名前に聞き覚えのある人も多いのではないだろうか?

 彼らは、勝った時期こそ違うものの、同じニコ生によるMagic Onlineの配信で活躍し、そしてそのコミュニティで切磋琢磨し実力を付けていったプレイヤーたちだ。3人は同じ世界でデビューし、別の道を歩んで、そして今このミシックチャンピオンシップの会場に立っている。それはみっつの物語であり、そして合わせてひとつの物語でもある。

 ここでは少し、彼ら3人の物語を聴こう。

「先駆者」としての市川 "瀬畑" ユウキ

 3人の中で、マジックのトップシーンに最初に躍り出たのは、"瀬畑"こと市川ユウキだった。プロツアー『ニクスへの旅』『マジック2015』でトップ8に進出からプラチナレベルまで駆け上がった市川の活躍を記憶している人も多いのではないだろうか?

 では、市川は実力的にも3人で一番だったのか?

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プロツアー『ニクスへの旅』トップ8 市川ユウキ
 

市川「いや~、そんなことはないですね。俺が3人の中では一番最初にニコニコ生放送でMO放送を始めましたけど、後から始めたkbr(小林)のほうが上手かったですよ。実際Magic Onlineのプロツアー予選とかでもバリバリ勝ってたし」

 そう謙虚にも語る市川、一方でニコニコ生放送をしていた影響は大きかったとも語る。

市川「ニコ生のおかげで上手くなったとも思いますし、いろいろな人と知り合えました。実は、kbrやさまラン(おこさまランチこと辻川)がニコ生を始めたのは、俺の影響なんですよ。これは後から知ったんだけど、kbrは僕が放送中に当たったことがあったらしくて、そこで俺がいろいろ言ってたらしくて(笑)。それが悔しくてニコ生を始めたとかなり後から教えてもらいました。さまランは現実のThe Limits予選の会場で会っていたんですが、僕が『ニコニコ生放送見てます!』みたいなことをファンに言われるのを目撃したらしくて。そこからすぐに放送始めたみたいです(笑)」

 では、市川にとって小林はライバルだったのか?

市川「正直なところ、当時kbrのほうが圧倒的に上手いと思っていたので、ライバルって感じじゃなかったですね。ライバルってもっと実力が近い人かなーと。kbrは憧れの人。放送を見てたら勉強になる相手」

 そう語る市川だがしかし、大舞台で大きな成果を残したのは市川が先だった。プロツアー『テーロス』に一緒に出場したという市川と小林は、しかし小林がその後生活環境の変化等もあり一線を退いてしまう。そしてその一線を退いた瞬間、プロツアー『ニクスへの旅』『マジック2015』トップ8進出&プラチナレベル獲得と市川が大きな結果を残したのだ。

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プロツアー『マジック2015』トップ8 市川ユウキ
 

市川「とはいえ、あの瞬間でもまだkbrのほうが上手かったと思いますね。今思うと、勝てたのもラッキーだった部分もかなりあったし(笑)。プロツアー『マジック2015』はデッキ勝ちしたところはあるけど、プレイは凄いミスってた」

 本人は謙虚な感想を話すが、客観的に見てもとても大きな結果を残した市川。これだけ大きな結果を残せば、その後のマジックに対するスタンスも大きく変わりそうなものだが。

市川「いや、急にはスタンスは変わらなかったですね。今でこそマジックにオールインみたいな感じですけど、当時はまだインタビューとかでも『あくまで趣味です』と答えてました。あのころはまだマジックのプロとしてのロールモデルってあんまりなかったのもあって、急に勝ったのでそこまで深くは考えられてなかったです」

 しかしそこからマジックのトップシーンを駆け抜けた市川。名実ともにトッププロとしてここ数年をマジックに捧げている。

 そして、彼を追いかけるように、後からMagic Online配信を始めた"さまラン"辻川がさらに競技シーンにのめりこみ、ついにグランプリ・メルボルン2018を制すると、さらに"kbr3"小林も競技シーンに復帰。グランプリ・横浜2019のチャンピオンとなった。。

市川「いや~、急に2人とも勝ってびっくりしたよね。まあでもkbrは上手いからなぁ。彼はセンスもデッキ構築技術もあって、ただモチベーションが続かないことが多かったんですよね。マジックって結局モチベーションを維持する、続けることが一番大事。kbrはもともといつ勝ってもおかしくないくらい上手かったので、東京に来てSekappyに入ったことでモチベーションが維持できるなら、これからも勝ち続けてもおかしくないと思いますね。さまランは――後輩みたいな感じだから(笑)」

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 Magic Onlineを通して友人や仲間を作り、切磋琢磨し、そしてトップシーンに躍り出た市川。「MTGアリーナ」も加わったマジックのデジタルゲームからのプレイヤーについてどう考えるのか。

市川「いや、めちゃくちゃいっぱい出てくると思いますよ! それも、すぐ来ると思います! たくさんの新世代のプレイヤーが、競技シーンに出てくるのはすごく良いことだと思いますね。俺たちが今常識だと思っていることを、壊してくれるかもしれない。たとえばリミテッドの土地は17枚、ダブルシンボルのカードを3ターン目のプレイしたいなら~みたいな常識が、実は固定観念で、そういうことを塗り替えてくれることも期待しています。楽しみです」

 

最初にして最後の男、小林 "kbr3" 崇人

 市川のインタビューでも語られた通り、3人の中でもっとも早く実力をつけ勝っていた"kbr3"こと小林崇人が、しかし3人の中で最後にグランプリのトロフィーを獲得した。確実に実力があると言われ続けながら、Magic Online上で勝利を重ねながら、小林は何を考えていたのか。どうしてニコ生での配信をはじめたのか。その時はどんな気持ちだったのか。

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小林「まず、放送を始めた当時から瀬畑(市川)さんはかなり意識していましたね。僕が始めた時に、すでにニコ生放送をしていて、ニコ生勢の中で一番『ワイ上手いんやで』みたいな感じだったので。実際その放送を見て『負けるか!』と思って放送を始めました。なので、瀬畑さんのことは当時からかなりライバル視していました」

 そしてその「負けるか!」は実り、"kbr3"小林はMagic Onlineで行われるプロツアー予選を勝ち始める。何度も予選を抜け、連続でプロツアーにも参加した。Magic Onlineから現れたプレイヤーとして当時有名であり、名実ともに有名プレイヤーと言って良かっただろう。

参考:Deck Tech: 小林“kbr3”崇人のジャンドゾンビ、そしてMagic Onlineという舞台

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グランプリ・北九州2013でインタビューを受ける小林と市川
 

小林「実際当時はかなり勝っている認識はありました。ただ、その後実家に帰って練習できる環境が変わり、モチベーション維持が難しくなって、プロツアー『テーロス』に参加したあと一線を退いてしまいましたね」

 一線を退いた小林。一線に残った市川。このプロツアー『テーロス』の翌年、市川は連続してプロツアートップ8に入賞し、プラチナレベルプロとなり、トッププロへの道を駆け上がる。

小林「いやー……、凄い悔しかったですね、正直。ライバル視していたプレイヤーがあれだけ勝つと……。めちゃくちゃ悔しかったですね」

「悔しい」。そうはっきりと語る小林は、しかしその瞬間はまだ悔しかっただけで、一線を退いたままだった。では、その後競技シーンに戻ってきたのはなぜなのか?

小林「一線から退いたものの、タイミングが合えばたまにMagic Onlineのプロツアー予選には出ていたりしたんですよね。で、そこで3没(決勝戦での負け、プロツアー権利は優勝者だけ)したんですよ。そしたらなんか、悔しい感情がまたメラメラと湧いてきて。それで、思ったんですよ。もし仮にマジックにオールインしていたらどうなったんだろう? 全力でマジックしていたら?と。とはいえ生活もあるので、マジックをできる仕事は?と考えた時に選択肢としてあったのがSekappyでした。」

 「悔しさ」。それが再び、小林を焚き付けた。そして小林は、競技マジックの世界に舞い戻るために、転職&転居を決める。内定が出て引っ越しの準備をしていた、まさにその時。"さまラン"辻川がグランプリ・メルボルン2018で優勝した。

小林「さまランは後輩的な感じがあったので、彼が勝ったのは悔しいというよりは自分も同じように勝ちたいなという気持ちがありましたね。競技シーンに戻れたので、自分も勝ちたいなと。2019年のグランプリのどこかでは勝ちたいと思っていました」

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グランプリ・横浜2019チャンピオン 小林崇人
 

 有言実行。小林は2019年に再び競技シーンに立つと、グランプリに京都、横浜と連続して参加。グランプリ・横浜2019ではついにチャンピオンの座を掴み取る。そして、このミシックチャンピオンシップの場に立った。プロツアー『テーロス』以来。6年ぶりの大舞台だ。

小林「いやー、やっぱり楽しいですね。あと、6年前はあんまり会場にWi-Fiとか無かったんですけど、今は対戦の合間にTwitterに結果を書いて、すぐに反応がもらえたりとか。なんだか楽しいですね。でも、時代は変わっても、マジックの真剣な対戦は変わらず面白いです!」

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みんなの後輩、辻川"おこさまランチ"大河

 そして"おこさまランチ"こと辻川。2人よりも後からニコ生放送を始め、2人からは"後輩"とも表現された彼にとって、2人はどういう存在だったのだろうか?

辻川「2人とも視聴者やファンが多い存在で、放送を始めた当時から意識していましたね。何より僕が生放送を始めたきっかけが、市川さんがマジックの会場で視聴者に話しかけられていたのを見てなので。え、なにそれ羨ましい!みたいな。その2週間後には生放送を見始めたのではなく、放送し始めました(笑)」

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 ニコ生放送組としてコミュニティに参加した辻川。その時先輩格であった"瀬畑"市川と"kbr3"小林のことをどう思っていたのだろうか?

辻川「ライバルです。特にkbrは同い年で、当時は圧倒的に彼のほうが上手かったんですが、『負けてられないな』という気持ちはありましたね。どんどんプロツアーに出てて凄いなと。瀬畑さんも当時からいろんな人の意見を聴いたり、理詰めでいろいろなデッキを回していて凄い人だなと。でも憧れの人ではなくて、あくまでライバルとしてとらえていました。イベントの成績で上に立ちたいみたいな気持ちは常にありました(笑)。実際、僕がグランプリに出始めたころってまだ瀬畑さんはグランプリ勝ててなくて。僕のほうが成績が良いと『よしっ!』みたいな嬉しさがこみ上げる、みたいな(笑)」

 そしてその後、市川は大きな成功を残す。ライバル視していたプレイヤーの躍進。その功績は、辻川にも確実に大きな影響を与えていた。

辻川「一気に遠くに行き過ぎて悔しさは無かったんですけど、とにかく『すげーーー!』という気持ちでした。一気にあんな凄いところまで行って、自分は果たしてそこまで行けるのか、追いつけるのか?と。でも確実に励みにはなりましたよ!」

 ライバルたちの躍進。結果を残す2人。辻川は、競技マジックにさらにのめり込む。

辻川「やっぱりモチベーションあると頑張れますね。競技シーンで頑張って、最初は実力不足だったと思いますけど、少しずつ積み重ねました。匍匐前進のように(笑)」

 「積み重ねた」。そう表現した辻川は、積み重ねた末についにタイトルを掴み取った。グランプリ・メルボルン2018。このイベントでついにトロフィーを、グランプリチャンピオンという栄誉を勝ち取ったのだ。

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グランプリ・メルボルン2018チャンピオン 辻川大河
 

辻川「ついに、という感じではありますが、メルボルンでは戦っていて途中から『これはいけるのでは!?』という気持ちが湧いてきて、最終的に優勝できて。とても嬉しかったですね。その後のグランプリ・横浜でもトップ4に入って、ジョニーのお店にスポンサードされて。まだまだこれからもマジック頑張りたいですね」

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グランプリ・横浜2019トップ8 辻川大河
 

 デジタルゲームを通してコミュニティに参加し、そこで成長し、そしてついにグランプリのタイトルを掴み取った辻川。「Magic Online」や「MTGアリーナ」を通じてのマジックの今後に対してどう思っているのだろうか。

辻川「デジタルゲームの凄いところって、中級者には一瞬でなれることだと思うんですよね。何度もプレイすればどんどん積み重なっていくし、必ず実力になる。手軽にできるゲームはプレイし得です。MTGアリーナからも新しいプレイヤーはどんどん出てくると思いますし、これからは僕も追われる身になるのでそういう恐怖感もありますね。こんなこと言うと調子に乗るな!って言われそうですが(笑)。でも、楽しみです!」

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再び交わるとき

 「Magic Online」「ニコニコ生放送」を介して交わった3人の物語は、一度は分かれ、それぞれの道に進んでいった。それぞれがいろいろな形でマジックに関わる物語を紡ぎ、繋がっていった。

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 そして。3人の物語は今再び、この「ミシックチャンピオンシップ」という大舞台で交差した。「ニコニコ生放送によるゲームの配信」という舞台で切磋琢磨していた彼らが、正真正銘マジックにおける最高峰の舞台「ミシックチャンピオンシップ」に、一緒に立ったのだ。

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 3人が揃って同じ舞台に立つ。それは彼らにとっても特別だ。感慨深いものがある。彼らは口々にそう語ってくれた。そして、特別なものを感じているのは、実際に立っている彼らだけではないだろう。彼らのファンであった視聴者たち、同じ時を過ごした、同じコンテンツに触れた者にもまた影響を与えるに違いない。それが物語の力だ。

 もちろん、彼らの物語はまだ途中だ。これからも彼らの活躍を見られるだろう。これからもまた、物語は語られ、紡がれていくのだ。世界のどこかで。もしくは、電脳世界のどこかで。

新しい物語 ~これまで、これから~

 現在、マジックのデジタルゲームといえば「Magic Online」だけでなく「MTGアリーナ」がある。この世界では、現在も多くのプレイヤーがしのぎを削り、戦っている。市川や辻川が言うように、ここから世界のシーンに登場するプレイヤーも現れるのだろう。

 いや、すでに現れ始めている。3月に行われたミシックインビテーショナルには北海道の学生である杉山が参加しているし、6月に開催されたミシックチャンピオンシップⅢでもまた新たなプレイヤーがトップシーンに顔を出した。新たな物語がこれからもどんどん現れるだろう。

 これから紡がれる物語。語られ続ける物語。新しい物語。

 主人公、脇役、語り手、紡ぎ手。物語への関わり方は、さまざまだ。そのどれもが大切で、どんな形であれそれは尊い。物語に対して人は何かを感じ、共有することができる。そして物語はもっと大きな何かとなり、多くの人の心を動かし、たくさんの人の人生を変えていく。

 マジックには物語がある。これまでも、これからも。

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RESULTS

対戦結果 順位
最終
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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