MAGIC STORY

カルドハイム

EPISODE 05

メインストーリー第3話:ティボルトの英雄譚

Roy Graham 協力:Jenna Helland
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2021年1月20日

 

 ああ、泡立つタールの芳しさよ! 噴火の暖かな口付けよ! この呪われた次元の凍える片隅で辛苦の時間を過ごした後とあっては、まるで故郷のようだ。忌々しい世界樹の枝が全て、イマースタームのようだったなら! オレに言わせれば、カルドハイムはどこも炎と混沌がちょっと足りねえ。ま、オレのやる事が上手くいけば、全てはまさしくそんなふうになるんだけどな。

 そうとも。この計画、何か月もの苦労が全部いい感じに実るのは間違いねえ。けど心配で夜も眠れないことがひとつあるのは認めようか。世界中が燃え出したとして、そのマッチを擦ったのがオレだってのをどう知らしめればいい?

 この次元は語り手とかいう奴らがうようよしてやがる。そいつらの話はどれも似たり寄ったりで、ずっと聞いてるとどの話がどれだか判らなくなっちまう。善と悪、英雄と悪者、正しいか間違ってるか。新しい話をくれてやろう、全員の記憶に残る物語を――カルドハイム最後の英雄譚を。そして約束してやろう、極上の結末をな……

 

 この英雄譚はティボルトというプレインズウォーカーから始まる。この男は力強く聡明というだけでなく、多くの才能ゆえに、出会ったほとんどの者たちから嫌われていた――それを悩んでいたわけではない。しかしながら、嫉妬深い多くの敵がいるという理由でティボルトはしばしば旅に生き、ひとつの次元に決して長く留まることはなかった。これはこの男がいかにしてカルドハイムを訪れ、あの恐ろしい獣に出会ったかという物語である。

 見よ、この恐ろしい獣はティボルトの多くの才能を耳にし、必死にその助けを求めた。だがティボルトのように見目麗しく強大なプレインズウォーカーは、自分のような醜く滑稽な獣に手を貸してくれなどはしない――そう強いられない限りは。ゆえに恐ろしい獣はある日ティボルトへと忍び寄り、汚らわしく狡猾な毒の類を刺した。獣はこの毒を「種」と呼んだ――そしてティボルトが獣のために動乱をもたらしてくれるなら、それを取り除くと言った。

 怪物は知らなかったが、既にティボルトはカルドハイムに災難を引き起こそうと企んでいた。ゆえに、この賢明かつ強大なプレインズウォーカーは恐ろしい獣に合意した。何にせよティボルトは、自分が求めることをやるだけだった。


 まず、ティボルトは変装を必要とした。新参者の声など誰も聞きやしないのだ。ティボルトの広大な狡知の蓄積をもってすれば、ヴァルキーを見つけることはたやすかった。都合の良いことにこの嘘の神は、トリックスターの王子はその愚かさゆえに自ら嘘を信じ、なんとまあ騙された。

 ティボルトは魔法の鎖でヴァルキーを縛り、彼が見つけた中でも最もうすら寒く辺鄙な領界、カーフェルへと連行した。この地でティボルトは凍れるミイラの王と折り合いをつけていた。このナーフィ王の宮廷の地下牢、その奥底にヴァルキーを留めておけば、ナーフィとそのドレッドモーンは――歩く死体の軍勢は――ドゥームスカールが始まったなら真っ先に宝物を選ぶことを許されるだろうと。そして、ああ、ドゥームスカールとはどのようなものなのだろうか!

 これほど強欲で黄金に飢えたゾンビの群れをティボルトは見たことがなかった。一方で、他の領界の住人は、望んで戦へと進軍する前にもう少々の説得が必要になるとわかっていた。

嘘の神、ヴァルキー》 アート:Yongjae Choi

 ティボルトは次なる横柄な計画として、ヴァルキーとしての新たな姿をまとい、鍛冶場主のコルを訪問した。コルはドワーフ――脳にまで金属が詰まった、鍛冶に夢中の種族である。そして偶然にもコルはドワーフでも最高の鍛冶師だった、そこに意味があるわけではないが。彼はタイライトを扱える唯一の人物なのだ――世界樹の樹液が硬化したもので、あらゆる類の興味深い性質を持つ素材。コルはこの物質から一本の剣を作り上げていた、カルドハイムのあらゆる領界に通じる路を開く刃を。それは戦いの神ハルヴァールへの贈り物だった――あらゆる次元に、似たような乱暴者がいるのはわかるだろう――だがそれこそ、ティボルトが必要とするものだった。領界を渡るには真に困難を伴い、彼は甚だ苦労して世界樹を昇り降りしていた。コルはその剣をヴァルキーに渡すことを心から渋った――これはハルヴァールがとある巨大狼から彼を救ってくれた礼の品であり、ヴァルキーは嘘の神である――そのためティボルトは領界に恩恵を施そうと、この不快なドワーフをその炉に突き落とした。

悪戯の神の強奪》 アート:Randy Vargas

 ティボルトはエルフの故郷スケムファーへ向かい、フラディールの息子ヘラルド王に謁見を求めた。相争う森と闇の氏族を統合し、賢明かつ断固な指導者として領界に名を轟かす王。ティボルトの耳にもその名は届いていた。エルフはカルドハイムのあらゆる小枝を預かるべき存在と信じる、傲慢で誇大妄想に取りつかれた愚か者。そしてヘラルドはスコーティを――カルドハイムの神々を――信用しなかった。神々への憎しみと不信は、遠い昔からスケムファーのあらゆるエルフの心に座していたのだ。

 ああ、その日の宮廷の様子たるや! 賢きティボルトが織り上げる嘘よ――ヴァルキーすら距離をおくほど恐ろしい物事を、神々は民へと企んでいる。その一部始終を耳にして、ヘラルドの頭上に黒雲が広がったではないか! エルフが生き残る唯一の選択肢は明白だった。先制攻撃だ。

スケムファーの王、ヘラルド》 アート:Grzegorz Rutkowski

 セルトランドでは霜の巨人たちへと、長いまどろみから目覚めたトルガのトロールの侵入を警告した。ブレタガルドでは物騒なスケレ氏族へと、悪魔の主ヴェラゴスの帰還を約束した。カルドハイムのあらゆる領界にて、ティボルトは戦と混沌の種を撒いていった。

 だがシュタルンハイムはどうする? 戦乙女――狡猾なるティボルトであっても、彼女たちは厄介だった。戦乙女は義務に縛られた生物であり、他の領界のように政治に左右されはしない。黄金も権力も欲さず、カルドハイムの他の定命の力など怖れない。ただの献身的なトリックスターが、それほどまでに厳格で強情な魂へと何ができよう?

 ここで少し英雄譚を切り、多元宇宙でもありふれたことわざを思い出そう。曲がらない枝は折れるものだ。

 ティボルトは聡明で強大かもしれないが、シュタルンハイムの聖堂の番人と死神を全員引き受けられるほどではない。だが、それができる存在がひとつある! コーマ、星界の大蛇――世界樹から生まれ出た最初にして最古の怪物。遠い昔、スコーティはコーマへと領界への立ち入りを禁じ、虚無の星界に封じた。以来長い時が流れたが、コーマは落ち着くことはなく、飢えは満たされぬまま、破壊への渇望は鎮められずにいた。ティボルトはこの大蛇を心から哀れんだ。そのため、領界の剣をもって、彼は戦乙女の家への入り口を切り裂いた。星界の大蛇が、失った時間を取り戻せるように。

領界路の開放》 アート:Eric Deschamps

 さて、ティボルトは剣というものをさして信じていなかった。彼の信念はナイフ、鉤、地獄の炎と硫黄にあった――だがそのティボルトですら、領界の剣は非常に有用だと認めざるを得なかった。彼はこの剣を用いて幾度となく星界を渡った。コーマをシュタルンハイムの戦乙女たちへと放った。そして今、彼はこの剣をずっと謙虚な、とはいえ重要な仕事に用いていた。イマースタームの黒色玄武岩に線を引き、ひとつの軌跡を残すのだ。真に重要な仕事――あのプレインズウォーカーをおびき寄せるために。

 この英雄譚の結末は未だ記されていない。だがその結末を先んじて語らせてもらおう。ティボルトはそのプレインズウォーカーを殺す。命が消えゆく瞳で彼女が最後に見るのは、カルドハイムが燃える様である。全ての領界が遂に、大いなる栄光の大火の中でひとつとなるのだ。

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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