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津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
第78回:グランプリ・広島トップ8デッキ特集:後編「人間を取り巻く環境」
読み物
津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
2011.11.10
第78回:グランプリ・広島トップ8デッキ特集:後編「人間を取り巻く環境」
こんにちはー。
今週は先週紹介できなかった、グランプリ・広島トップ8の残り4つを解説していきたいと思います。未読の方は前編もあわせて、よろしくお願いします。
先週まではトップ8以外のデッキもたくさん特集しようと思って色々とピックアップしていたのですが、大変申し訳ないことに、学業がいそがしくて十分な時間が取れず、1つだけの特集になってしまいました。
今週特集するデッキは全部で5つになるのですが、今回のメイントピックは、
「なぜ現環境のコントロールデッキは、こんなにも劣勢を強いられているのか」
についてです。コントロール好きを標榜する僕を含め、なぜ多くの人が使うのを諦めてしまうのか。その理由をしっかりと把握していくことで、今後のデッキ作りの参考にでもしていただければと思います。
それでは、まずは僕の大好きな「青緑白《出産の殻》」デッキから見ていきましょう。
「青緑白《出産の殻》」
7 《森》 2 《平地》 1 《島》 4 《剃刀境の茂み》 4 《内陸の湾港》 3 《金属海の沿岸》 2 《陽花弁の木立ち》 -土地(23)- 3 《極楽鳥》 4 《アヴァシンの巡礼者》 3 《ヴィリジアンの密使》 3 《幻影の像》 2 《刃の接合者》 1 《斑の猪》 1 《悪鬼の狩人》 1 《スカーブの殲滅者》 2 《真面目な身代わり》 1 《翼の接合者》 1 《ファイレクシアの変形者》 3 《酸のスライム》 1 《正義の執政官》 2 《太陽のタイタン》 1 《霜のタイタン》 1 《ワームとぐろエンジン》 1 《大修道士、エリシュ・ノーン》 -クリーチャー(31)- |
2 《ミミックの大桶》 4 《出産の殻》 -呪文(6)- |
2 《斑の猪》 1 《悪鬼の狩人》 1 《シルヴォクの模造品》 2 《最後のトロール、スラーン》 1 《石角の高官》 1 《太陽破の天使》 2 《瞬間凍結》 1 《忘却の輪》 2 《審判の日》 2 《情け知らずのガラク》 -サイドボード(15)- |
ローテーション直後には、環境の頂点に立つであろうと予想されていた「青緑白《出産の殻》」デッキ。しかしながら、実際はTier1どころか2に入れるかどうかという際どいところに位置しています。
その理由としては、主にこのデッキが苦手としている《原始のタイタン》を使用したデッキが環境に溢れていることが挙げられます。《出産の殻》の特性上、試合を決めるまでに少し時間がかかることと、《原始のタイタン》に対して直接的な除去をほとんど持たないために、「緑単タッチ赤」のように、《原始のタイタン》を駆使して速度で押しきってくるデッキはあまり相性の良い相手とは言えません。
しかし「緑白/青白ビートダウン」の活躍により、「緑単タッチ赤」は下火になってきており、それがこのデッキにとってこれ以上ない追い風になっています。今後の展望は後ほどにするとして、田中さんがどのような工夫を施してグランプリに挑んだかを見ていきましょう。
《翼の接合者》
《刃の接合者》と合わせて強力なビートダウンを可能にするクリーチャー。
《出産の殻》で《刃の接合者》から流れるように展開すれば、あっと言う間に対戦相手を圧倒できます。グランプリでも数の多かった「青白ビートダウン」に対しては、「飛行」のブロッカーを用意できるという意味で重宝します。
密かに《真面目な身代わり》も飛ぶので、膠着している状況から《翼の接合者》で一気にフィニッシュ、ということも珍しくありません。
《スカーブの殲滅者》
今となっては立派なレギュラークラスですが、個人的には、実際に使ってみるまではこれほど強いと思っていませんでした。《出産の殻》からサーチすることでそのデメリットを無視することができますし、対コントロール相手には何度でも蘇る完璧超人として、試合を引っ張ってくれます。
前述の《刃の接合者》《翼の接合者》と合わせれば、序盤からビートダウンしていく新しいタイプの「《出産の殻》」デッキを満喫できるでしょう。
ご使用の際には、《雲散霧消》にご注意を。
《ミミックの大桶》
田中さんのリストで、僕が最も感銘を受けたのがこれです。
この枠は《滞留者ヴェンセール》が使われることが一般的なのですが、グランプリ前に多いと思われていた「青黒コントロール」や「太陽拳」のようなカウンターの大量に入ったデッキの存在を考慮しての変更でしょう。
マナクリーチャーから2ターン目に出せばカウンターされることはありませんし、「青黒コントロール」なんかは《ミミックの大桶》だけで完封できるでしょう。
《滞留者ヴェンセール》→《ミミックの大桶》の変更は、クリーチャー選択にも大きな影響を及ぼしていて、《滞留者ヴェンセール》とのコンボで真価を発揮する《石角の高官》はサイドに落とし、この枠を《斑の猪》に置き換えています。
こうすることで以前よりも「赤単」に耐性が付きますし、グランプリ直前では「緑白/青白ビートダウン」はあまり目立った存在ではなかったので、この変更はとても良かったように思えます。
それと《滞留者ヴェンセール》にはない《ミミックの大桶》だけの長所として、《幻影の像》を使いまわせる点があります。
これはこのリストのように《幻影の像》を多めに採用したリストならば非常に重要な要素で、なおかつ《幻影の像》は「刻印」先としてこれ以上ないほどに優秀なので、今後も《幻影の像》を3枚以上入れているのであれば、《ミミックの大桶》は常に検討に値するカードだと思います。
《太陽破の天使》
能力通り「緑白/青白ビートダウン」に効果的な1枚。今のメタゲームであればメインの《太陽のタイタン》1枚と差し替えてもいいでしょう。
今後の展望としては、「緑白/青白ビートダウン」が増え、「青黒コントロール」と「太陽拳」が減少傾向にある今ならば、《石角の高官》+《滞留者ヴェンセール》コンボをメインに戻してもいいでしょう。MOだと《大修道士、エリシュ・ノーン》を2枚にしたリストも見受けられます。
メタゲームの変化に合わせ、リストを組みかえる必要のあるデッキではありますが、今回の田中さんのように、きちんとメタゲームを読み切った選択ができれば、「《出産の殻》」デッキが輝きを取り戻す日もそう遠くはないでしょう。
「赤単スライ」
22 《山》 -土地(22)- 4 《無謀な浮浪者》 4 《流城の貴族》 3 《渋面の溶岩使い》 4 《嵐血の狂戦士》 3 《チャンドラのフェニックス》 -クリーチャー(18)- |
4 《感電破》 3 《ショック》 4 《火葬》 4 《燃え上がる憤怒の祭殿》 3 《硫黄の流弾》 2 《槌のコス》 -呪文(20)- |
4 《ヴァルショクの難民》 3 《躁の蛮人》 2 《オキシド峠の英雄》 2 《電弧の痕跡》 2 《裏切りの血》 2 《戦争と平和の剣》 -サイドボード(15)- |
由緒正しき漢の「赤単」。最近は《はらわた撃ち》や《霊炎》を用い、《極楽鳥》のようなタフネス1軍団を狙い撃ちにする構築をよく見かけますが、田代さんは単純な打点の高さから《感電破》と《ショック》を採用しています。
1マナ域に《無謀な浮浪者》が採用されていることからも分かるように、本当に真っ直ぐなビートダウンに仕上がっていますね。
今まで紹介する機会のなかった《無謀な浮浪者》/《無慈悲な捕食者》は、特に序盤に動きのない青いデッキ全般に効果的なカードですが、例え相手のデッキがなんであれ、自分のターンに何もしなければ概ね「変身」条件を達成できるので、遅くとも3ターン目からはパワー3のアタッカーになります。
このデッキにとって、2ターン目に「狂喜」できるかどうかは勝負の分かれ目のひとつなので、1マナ域を増やすとそれを無理なく達成できるのも高評価です。
他に注目すべくは、全体的に低く抑えられたマナカーブで、《チャンドラのフェニックス》や《槌のコス》といったパワーカードよりも軽いカードを優先しているのが目を引きます。
これは下で紹介する大林さんの「白単《鍛えられた鋼》」のリストからも感じ取れるもので、現在のビートダウンは「相手が少しでももたつくようであればその隙を逃さない」、そんな構築が優れているという良いお手本だと思います。
タップインで勝手に展開が遅れてくれたりだとか、マナクリーチャーを焼くことで大きく減速するデッキが環境に多いので、軽く、より軽くという構築は、僕が思っていたよりも遥かに大切な要素なのかもしれませんね。
そしてメタゲームを読み切ったと思わせるサイドボードの出来にも注目です。
第5回の記事でも書いたのですが、やはりまずメタるべきはミラーマッチから、というのが僕の持論なので、田代さんのようにしっかりとミラーマッチをメタっているリストには好感が持てます。
ただし、今はミラーマッチよりも「緑白/青白ビートダウン」戦が多いと思うので、《ヴァルショクの難民》1枚を3枚目の《電弧の痕跡》か《戦争と平和の剣》にしてもいいでしょう。
「白単《鍛えられた鋼l》」
12 《平地》 4 《墨蛾の生息地》 3 《激戦の戦域》 -土地(19)- 4 《メムナイト》 4 《信号の邪魔者》 4 《きらめく鷹》 4 《大霊堂のスカージ》 3 《呪文滑り》 3 《脊柱の飛行機械》 -クリーチャー(22)- |
4 《オパールのモックス》 4 《変異原性の成長》 4 《急送》 3 《きらめく鷹の偶像》 4 《鍛えられた鋼》 -呪文(19)- |
2 《存在の破棄》 2 《天界の粛清》 2 《四肢切断》 3 《忠実な軍勢の祭殿》 3 《忘却の輪》 3 《機を見た援軍》 -サイドボード(15)- |
久しぶりに表舞台に戻ってきた「白単《鍛えられた鋼》」。環境初期はどこもかしこも《忍び寄る腐食》や《古えの遺恨》だらけだったので隅に追いやられていましたが、ここ数週間でアーティファクトへのマークが緩くなってきたこともあり、グランプリ・広島では見事に結果を残すことに成功しています。
大林さんのリストの特徴は、とにかく軽く作ることで、安定した回りを追求しているところでしょう。
環境こそ違えど、日本選手権優勝のリストよろしくメインから採用された《激戦の戦域》も印象的ですね。
《変異原性の成長》も奇襲性抜群で、これで決まったゲームも数多くあったと予想されます。《はらわた撃ち》や《精神的つまづき》もそうですが、やはりフルタップからでも飛んでくる飛び道具は強いですね。
大林さん自身もトップ8プロフィールで仰っているように、この手のデッキは「いつ使うか」で結果が決まると言っても過言ではありません。
トップ8に残ったデッキの中で唯一、メインから《審判の日》を採用している「太陽拳」に敗れこそしたものの、このタイミングで「白単《鍛えられた鋼》」デッキを使用する着眼点は素晴らしいとしか言いようがありません。実際にグランプリ本戦でこのデッキと当たって、手も足も出ずにやられてしまった人も多かったのではないでしょうか?
《鍛えられた鋼》がある限り、メタゲーム次第ではいつでもトップに躍り出る可能性を秘めたデッキであるということを、大林さんの結果が物語っていると言えるでしょう。
「太陽拳」
3 《沼》 3 《島》 3 《平地》 4 《金属海の沿岸》 4 《闇滑りの岸》 3 《氷河の城砦》 1 《水没した地下墓地》 4 《孤立した礼拝堂》 2 《幽霊街》 -土地(27)- 3 《瞬唱の魔道士》 3 《聖別されたスフィンクス》 1 《太陽のタイタン》 -クリーチャー(7)- |
1 《堀葬の儀式》 3 《審判の日》 3 《忘却の輪》 3 《破滅の刃》 4 《雲散霧消》 4 《マナ漏出》 3 《熟慮》 4 《禁忌の錬金術》 2 《ヴェールのリリアナ》 -呪文(27)- |
3 《ミラディンの十字軍》 1 《ワームとぐろエンジン》 1 《虚無の呪文爆弾》 2 《漸増爆弾》 1 《機を見た援軍》 1 《審判の日》 1 《否認》 2 《記憶の熟達者、ジェイス》 1 《ギデオン・ジュラ》 2 《ネファリアの溺墓》 -サイドボード(15)- |
グランプリの前の週に行われたLMC Championshipで優勝という結果を残した、アクア(秋山 貴志)さん制作の「太陽拳」が、その勢いそのままにグランプリ広島でもトップ8に入りました。
「太陽拳」は今まで何度も紹介しているので、何について書こうか悩んでいたのですが、今週は先週の続きということもあり、現環境のコントロールデッキがいかにつらいか、なぜ僕も含めた多くの人が使用を躊躇うのかについて、僕なりの見解を綴ってみたいと思います。
~世知辛い世の中・コントロールの悲しい現状~
1. 「ぶんまわり」と呼ばれるものがない
2. プレインズウォーカーの存在
3. 強力なドロースペルの不在
4. マナベースの脆弱さ
他にもいくつかありますが、個人的に最も大きな問題は上記の4つ。いつものように上から順に見ていきましょう。
1. 「ぶんまわり」と呼ばれるものがない
「ぶんまわり」に関して改めて説明する必要はないでしょうが、一応補足しておくと、「緑白ビートダウン」なら《極楽鳥》→《ミラディンの十字軍》→《刃砦の英雄》、「青白ビートダウン」なら《教区の勇者》→《堂々たる撤廃者》→《聖トラフトの霊》、「赤単」なら《流城の貴族》→《嵐血の狂戦士》→《チャンドラのフェニックス》など、「この動きをされるとどのデッキを使っていても厳しい」展開のことを総じてそう呼びます。
これらの展開は本当に手が付けられないほどに強いのですが、それと同じくらいに重要なのが、上記に挙げたパターン以外にも「ぶんまわり」と呼べるバリエーションの豊富さです。
例えば「緑白ビートダウン」の《極楽鳥》や《ミラディンの十字軍》が、仮に《アヴァシンの巡礼者》や《刃の接合者》になろうとも、対処のしやすさこそ違えど、序盤から強烈なプレッシャーをかけていることには違いありません。
これは「青白ビートダウン」や「赤単」にも同じことが言え、《堂々たる撤廃者》が《清浄の名誉》になろうとも、《流城の貴族》が《無謀な浮浪者》になろうと、《嵐血の狂戦士》が《燃え上がる憤怒の祭殿》になろうと、対戦相手からしてみれば、毎ターン脅威を展開されていることに他なりません。
ではコントロールデッキにおける「ぶんまわり」、とは何でしょう?
受動的なデッキなので定義するのは難しいですが、敢えてそれを定義するとすれば、「上で挙げたような展開をすべて捌き切る」ことが、コントロールデッキの「ぶんまわり」ということになるでしょう。
しかしこれは非常に難しいことです。それを実現させるためには、2ターン目に《マナ漏出》か《破滅の刃》を唱える必要があるのですが、こちらが後手の場合はすでに相手の脅威が着地してしまっていることも多く、それが《ミラディンの十字軍》や《燃え上がる憤怒の祭殿》だった場合は《破滅の刃》すら効きません。
一応《忘却の輪》や《審判の日》という回答はあるものの、そのような大振りなアクションをする際にネックとなるのが、2つめの項目であるプレインズウォーカーの存在です。
2. プレインズウォーカーの存在
現代のマジックを象徴するプレインズウォーカーたち。マジックの歴史を変えたと言っても過言ではない華やかなカードですが、序盤に戦闘を行えないことの多いコントロールデッキからして見れば、これ以上ないほどの天敵と言えます。
カウンターや《忘却の輪》こそありますが、カウンターは構える余裕があって初めて成立するものですし、現代のビートダウンデッキがそんな余裕をなかなか与えてくれないというのは、すでにみなさんご存じでしょう。
昔は引っ張れるだけ引っ張って撃つのが定説だった《審判の日》ですら、最近のクリーチャーはパワーが高いので、1対1、または1対2程度の状況でも撃たざるをえないことが多いです。その隙をプレインズウォーカーで狙い撃ちされると《忘却の輪》で対処するほかに道はなく、もしも《忘却の輪》がなかったとすれば、こちらの状況は悪くなっていく一方です。
カウンター呪文も単体除去も全体除去も、温存するのが難しいほどに周りのカードパワーが高いこと、それに加え、コントロールデッキにとって致命的なプレインズウォーカーの存在が、コントロールデッキの肩身を狭くしています。
とはいえ、つい最近までは《精神を刻む者、ジェイス》擁する青いデッキが環境を席巻していたので、今度は青いデッキが耐える番になっただけと言えばそれまでかもしれませんが。
3. ドロースペルが弱い
イニストラード登場後、青いデッキのドローサポートは《熟慮》と《禁忌の錬金術》が一般的ですが、「フラッシュバック」の付いているこれらのカードは、対コントロール戦ではなかなかの強さを誇るものの、逆に対ビートダウン戦ではそこまで強くありません。
単純に5マナで2ドローしかできない《熟慮》は言うまでもないでしょうし、《禁忌の錬金術》は《審判の日》のような特定のカードを探すことには長けていますが、枚数面でのカードアドバンテージは得られないので、ビートダウンとの消耗戦になった場合に不安を抱えます。
過去に青いデッキが活躍した時、そこには《嘘か真か》や《精神を刻む者、ジェイス》のような「強力なドローサポート」の存在がありました。まあ《精神を刻む者、ジェイス》に関してはそれ以上のものがありましたが、やはりこのカードを禁止にまで追いやった最大の理由は、何度でもデメリット無しで使える《渦まく知識》能力の影響が大きいでしょう。
現代のコントロールデッキには、そんな「強力なドローサポート」が欠如しています。1つめと2つめの項目でお伝えしたように、コントロールデッキは「綺麗に捌くこと」が理想になるのですが、それを必要最低限の枚数のドローサポートのみで行わなければならないわけです。これはかなり大きな問題であり、次のセットでもこれが改善されないようであれば、コントロールデッキの復権はまだ先になりそうだと感じています。
一応《聖別されたスフィンクス》はフィニッシャー兼最強のドローサポートの役割も果たしてくれますが、これはあくまで中盤以降の有利を絶対的なものにしてくれるカードであり、序盤~中盤戦までの間は手札で出番を待つだけにすぎないので、コントロールデッキが抱える問題を完全に取り去ってくれるわけではありません。
《ジェイス・ベレレン》でもあればだいぶ違ったとは思うのですが、無いものねだりをしても仕方がないので、これは今後のセットに期待しましょう。
4. マナベースの脆弱さ
これは「太陽拳」のような3色以上のデッキにしか当てはまりませんが、マナベースの脆弱さ、要するに土地の弱さも目に余るものがあります。
具体的には《金属海の沿岸》シリーズと《氷河の城砦》シリーズのせいで、タップインが多すぎるんですね。ただでさえ、ある程度相手に合わせた都合の良いドローが必要なことに加え、マナベースの安定性という面ですら他のデッキに劣っているとなれば、それでもこのデッキを使う理由があるとは僕には到底思えません。
3色の強みであるはずのカードパワーの高さに関しても、僕は他のデッキと比べ、このデッキが秀でているとは感じないので、少なくとも現状においては、「太陽拳」よりも「青黒コントロール」の方が勝っていると思います。
「青黒コントロール」は2色の強みを活かし、《ネファリアの溺墓》を無理なく積めるおかげで、対コントロール戦で圧倒的な有利を得ていますが、「太陽拳」にはそのような得意なマッチアップが少なく感じるのも減点対象です。
ここまで長々と書いてきた通り、非常に難しくはあるのですが、もしもビートダウンデッキ相手に圧勝できるような構築ができれば、このデッキを使う良い動機になるでしょう。
グランプリベスト8のデッキに対して酷評ばかりになってしまいましたが、現状では僕の「太陽拳」に対する印象はこのようなものになっています。
今後このデッキをTier1に押し上げるためには、理想と言えるマナベースの構築、相性の良いデッキにはとことん勝てるカード選択が大事になってくるのではないかと思います。
いよいよ来週に迫った世界選手権で、世界中のトッププレイヤーたちは、はたしてコントロールデッキを使うのか。また、もしコントロールデッキが勝つような結果になった場合、今の環境で生き残るためにどのような工夫をしてくるのか。そういった意味でも世界選手権には要注目です。
「青黒コントロール」
9 《島》 6 《沼》 4 《闇滑りの岸》 4 《水没した地下墓地》 2 《ネファリアの溺墓》 2 《幽霊街》 -土地(27)- 4 《瞬唱の魔道士》 2 《血の贈与の悪魔》 2 《ワームとぐろエンジン》 -クリーチャー(8)- |
2 《蔑み》 4 《マナ漏出》 1 《否認》 2 《破滅の刃》 1 《喉首狙い》 4 《熟慮》 1 《漸増爆弾》 4 《雲散霧消》 2 《禁忌の錬金術》 1 《飢えへの貢ぎ物》 1 《黒の太陽の頂点》 1 《ヴェールのリリアナ》 1 《解放された者、カーン》 -呪文(25)- |
1 《鋼のヘルカイト》 2 《外科的摘出》 2 《困窮》 1 《漸増爆弾》 1 《否認》 1 《法務官の掌握》 2 《魔女封じの宝珠》 2 《死の支配の呪い》 1 《黒の太陽の頂点》 1 《ヴェールのリリアナ》 1 《ネファリアの溺墓》 -サイドボード(15)- |
最終戦でID(合意の上での引き分け)できればトップ8というところまで迫ったのが、ルーキー(大礒 正嗣)の駆る「青黒コントロール」。グランプリ・ブリスベン優勝のものと比べると、かなり個性の強い、独自のカード選択が目を引きます。
デッキの動き自体は一般的な「青黒コントロール」と大差はないので、今回はそれら珍しいカードの採用理由を解説していきましょう。
おそらく、真っ先に読者のみなさんの目にとまったのは「乾杯デーモン」こと《血の贈与の悪魔》でしょう。ルーキー以外に採用している人はまだ見たことがありませんし、本来であれば《聖別されたスフィンクス》が入っているスペースですが、ルーキーはなぜこんなマニアックなクリーチャーをあえて採用したのでしょうか。
これにはいくつかの理由が考えられますが、まず第一に、現環境の黒除去はほぼ《破滅の刃》に統一されていることが挙げられます。本人に直接聞いてみたところ、ルーキーは《破滅の刃》の存在をかなり意識しており、クリーチャー選択もそれに合わせ、単体の性能で勝る《聖別されたスフィンクス》よりも《破滅の刃》の効かない《血の贈与の悪魔》をチョイスしたとのこと。
《ワームとぐろエンジン》も、このデッキが苦手とする「赤単」への相性改善に貢献するだけでなく、《破滅の刃》が効かないために《聖別されたスフィンクス》よりも優先したそうです。
他に《血の贈与の悪魔》の優秀な点として、このクリーチャーが5マナであることが挙げられます。
《血の贈与の悪魔》と《聖別されたスフィンクス》の1マナの差は、「青黒」というカラーコンビネーションが比較的苦手としている、プレインズウォーカーへの牽制という意味で非常に重要になってきます。
例えば「緑単タッチ赤」の《原初の狩人、ガラク》や、「緑白ビートダウン」の《情け知らずのガラク》《エルズペス・ティレル》など、放っておくとすぐに戦場をクリーチャーの群れで埋め尽くしてしまうタイプのプレインズウォーカーは、「青黒コントロール」にとって致命的なパーマネントです。
従来の「青黒コントロール」であれば、カウンター呪文で打ち消すか、《聖別されたスフィンクス》などでアタックするしかありませんでしたが、6マナのクリーチャーのアタックで壊すのは、遅すぎると評してもいいくらいに苦しい対処の仕方でした。
しかし《血の贈与の悪魔》であれば、《原初の狩人、ガラク》や《エルズペス・ティレル》が登場してしまう前に出しておくことが可能ですし、これもまた、《血の贈与の悪魔》を選ぶ大きなメリットとなりえます。
また、周りのメタゲームや相手のデッキに関わらず、《血の贈与の悪魔》のライフ損失を《ワームとぐろエンジン》で補えるという相互作用もいいですね。
そしてサイドボードにもルーキーのシークレットテクニックが凝縮されています。
今まであまり見かけることのなかった《魔女封じの宝珠》は、「赤単」の火力に対してではなく、ミラーマッチの《ネファリアの溺墓》を封じる目的で入れたとのこと。
「赤単」に対しては、《魔女封じの宝珠》を張ったものの、結局クリーチャーに殴りきられてしまったようで、最終的には入れない方がよかったと感じたそうです。
ここ数週間でミラーマッチの可能性は激減したので、2枚の枠を割く価値があるかどうかは未知数ですが、もしも「青黒コントロール」が復権するようであれば、このカードを思い出してみてください。
最後に紹介するカードは、ルーキーが影のMVPと評する《鋼のヘルカイト》。ビートダウンデッキ全般に強く、特に「緑白/青白」のように、除去カードを僅かしか持たないデッキに効果覿面です。
そのあまりの強さゆえに、《宝物の魔道士》をサイドボードに用意すべきだったとルーキーが後悔したほど。《ワームとぐろエンジン》も持ってこれますし、ブロッカーとしてもそこそこの活躍を見せてくれる《宝物の魔道士》。「青黒コントロール」をお使いのみなさんに、ぜひとも検討していただきたいプランですね。
他に試してみたいカードは、4マナという軽さに加え、盤面の制圧力も凄まじい《血統の守り手》があります。
ルーキー曰く、《瞬唱の魔道士》は「緑単タッチ赤」や「赤緑《ケッシグの狼の地》」以外の相手にはほとんどサイドアウトしていたそうなので、この辺りを少し減らして入れてみてもいいかもしれません。
「青黒コントロール」の利点は、《ネファリアの溺墓》を使うだけで、対コントロールに強くなること。それだけでなく、現環境内に絶望的なまでに相性が悪いデッキがいないことも大きなメリットです。
とはいえ、カウンターに依存したデッキなので、先手後手に結果が大きく左右されてしまうのも揺るぎない事実。それでも「太陽拳」と比べると土地構成が綺麗ですし、対コントロール戦でのこのデッキの強さを加味すると、個人的にはコントロールデッキの中ではベストな選択だと思います。
今週はここまでです。今週は敢えてコントロールデッキがなぜ弱いのか、というネガティブな部分にスポットを当ててみたのですが、いかがでしたでしょうか?
繰り返しになりますが、僕はコントロールデッキが大好きです。ここ6~7年ほどで、《島》の入ってないデッキを現実世界で使ったのは多くても10回程度ですし、できることなら、環境を問わずいつでもコントロールデッキを使いたいと思っているくらいです。
しかしそんな僕ですら、今は使用を躊躇ってしまうのがコントロールデッキの実情だと感じています。
強いデッキがなぜ強いのか。それを探求するのも大切ですが、いつもなら勝つはずのデッキがなぜ勝てないのか。その理由を考えるのも、それと同じくらいに大切だと思います。
文中でも何度か述べたように、来週末に行われる世界選手権は、コントロールデッキの未来を占うと言う観点でも要注目ですね。
The Finals地区トーナメントも間もなく開催されますし、それらの大会で、現在のコントロールデッキの立ち位置が見えてくるでしょう。
なかなか時間の都合がつきそうにないですが、僕もMOでコントロールデッキの調整をしてみたいと思っています。
それでは、また来週ー!
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