READING

開発秘話

Latest Developments -デベロップ最先端-

変化する情勢(ビリー・モレノ編)

読み物

Latest Development

authorpic_billymoreno.jpg

変化する情勢(ビリー・モレノ編)

Billy Moreno / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年9月7日


 やあ、皆! 私は今日のプレビュー・カードの紹介に飛び込むのが好きだ、何故って、より良い第一印象を私がこのコラムで作ることが、たぶんできるからかな? だがその前に今、自己紹介をしないと駄目だな、次に我々が会ったときにますます厄介なことになるだろうからね。君のためにこれをやってると言ってるんじゃない。単に自分達のためにやってるわけだ。

 ツイッター(@billy_moreno)バージョン:

ld211_twitter_rg78gk7y82.jpg

 billy_moreno 05年プロツアー・ロサンゼルス準優勝、06年プロツアー・ホノルル(11位)、デッキ構築のスペシャリスト、一番新入りのフルタイム・デベロッパー、《炬火のチャンドラ》のファン、テキサス州オースティン出身。


 フェイスブック(bmoreno54)バージョン:


昼ご飯に詰め合わせ弁当を食べた。これから《ロクソドンの強打者》に関する3000語の記事を書くよ。

 インスタグラムバージョン:

ld211_instagram_pv4d6dqsiw.jpg

 スポティフィバージョン:


 ビリーはFlorence + The Machineの「Addicted To Love」を聴いています。
ld211_1_2z0le0h2ow.jpg

この前ここにいた時

 この紹介はなかなか悪くなかっただろう? 君が少なくとも上に書いてあることをざっと見たなら、私が今日のカード名をばらしていることに多分気がついただろう。それに期待してたら申し訳ない。まだそのカードの話をする準備ができていないんだ。最初に、マジックの歴史上、そしてラヴニカの住人の中で現在最も有名な象人間について話がしたい。ラヴニカが世に出た日から、《ロクソドンの教主》はスタンダードの環境を決定づけるカードであり、そしてセレズニア・ギルドにとって間違いなく最も重要な兵士だった。

 ちょっと待って、と言いたいところだろう。2005年の世界選手権で優勝したガジー・グレアは、他の二つのセレズニアのカード(《制圧の輝き》と《都市の樹、ヴィトゥ=ガジー》)から名前をつけられている。どうなってるんだ?

 まず最初に説明すると、このガジー・グレアってのはとてもいいデッキの名前だ――デッキが何をするか表してるし、頭韻を踏んでる。とはいえ「Lox of Life」もすごくすげえ名前だ。1つのことを除けばね。この色では皆《ロクソドンの教主》を4積みしてるから、「Lox of Life」という名前だと君がどんなデッキをプレイしてるのが伝わらないんだ。このカードはこんなにお得:4点のライフを得る、4/4の体、君のチームを《燎原の火》から守る能力、これら全部がついてくるのにお買い得な値段がつけられている。

 ガジー・グレアが2005年の世界選手権で成功を収めたのは、1つは誰もそれを警戒していなかったからだ。《ロクソドンの教主》はそれについて皆知っているにもかかわらず成功を収めた。初日から、それは重要人物リスト入りの正真正銘の一流だった。世間の赤いデッキに入ってる詰め合わせは《黒焦げ》、《稲妻のらせん》そして《火山の槌》で、スタンダードのZooが使っているのは《密林の猿人》、《サバンナ・ライオン》、《今田家の猟犬、勇丸》だ;《ロクソドンの教主》は一歩も引かず、そして言った、「もっと頑張れよ」とね。

 私は試してみた。誰にも負けないぐらい試してみた。そして大抵私が成功したのは、単に《ロクソドンの教主》を尊重していたからだ。2006年のプロツアー・ホノルルでは、私のZooにはメインデッキに《血の手の炎》が4積みされていて、この途方もない火力呪文は象のライフゲインを打ち消すことができた。さらに私は2マナ以上のクリーチャーをプレイしなかったので、タップアウトする誘惑に駆られず、そして象にライフゲインされることはなかった。その年のプロツアー・チャールストンはチーム戦ブロック構築のイベントで、私はボロス・デッキに《打撃 // 爆走》と《不眠の晒し台》のために黒をタッチしていた。どちらも《血の手の炎》ほどひどく効果的ではなかったけど、単体でライフゲインと4/4の邪魔者のでかい塊を処理できるカードが必要だと分かっていたんだ。

 《ロクソドンの強打者》は、いくつか違う面から攻撃してくるが、お家柄は引き継いでいると約束するよ。新しいスタンダード環境で成功したいなら、こいつの強いる制限は無視できない。

 こいつもやはり4/4なんだ。

 《ロクソドンの強打者》はデベロッパーの特製だ。これは我々のニーズに合わせて1からカードを作ったって意味じゃない(カードはケン・ネーグル/Ken Nagleのデザイン・チームから我々のところに来るんだ)。しかし、我々にはニーズがあった――《ロクソドンの強打者》が満たしたニーズ――だから、我々はこのカードを保護したんだ。実のところ、自分達自身からそれを保護したんだ。そしてそれが下りてきた時、エリック・ラウアー/Erik Lauerは、全てのデベロッパーからスタンダードでどんな時でも求められているものが何かを最も広く把握しているので、これを私から保護したんだ。

 ここで行間を読めなかったなら解説しておくと、つまり私は《ロクソドンの強打者》がもっと弱体化したいと感じるような類の強烈なカードだと思ったということさ。

 我々が最終的にカードにたどり着いた時には、私が言いたいことをお見せするが、しかし最初にデベロップ・チームがそれに期待している働きについて話をしよう。構築のマジックは広大で、扱い難い獣でそれを操作するためには絶え間なく狡猾さや広い認識、それに選択しようって意識を求められる。どんなスタンダードの環境でも、デザイナーとデベロッパーの加えた意図的な、もしくは意図せずに運を天に任せた要因からその性質が生じている。

 誰が見たって、マジックの多くは開発部のコントロールから外れている。それは以前議論されているが、繰り返し議論する価値がある――徹底的にそれらを考える我々にとっては、あまりにも多くの変化するものがある。平均的なプレインズウォーカーを見ると、それには少なくとも5個の数字がある(マナ・コスト、3つの能力、そして最初の忠誠値)。3つの能力は恐らくさらに多くの数字と見えない取っ手をその中に持っている。そしてそれは君がカードをそのまま判断したときだけだ。これから、他の無数のカードで満たされたプールにそいつを投げ入れよう。互いに交流したり、覆したり、そしてカードの全体的影響を歪めたりする、それぞれの好みを持つ、数百万のプレイヤーの仲間に加わろう。そこではすべてについて実に素晴らしい意識的で徹底的で情報に基づいた選択が行われ続けている。

 しかし、すでに指摘した通り、我々は時々わざといくつかのことを運にまかせている。なぜかって? 構築のためのデベロップはバランスを取ることだからだ。一つの方向に我々は多様性を突き詰める――ゲームに勝てるもっと多くのタイプのカード、プレイヤーに戦うチャンスを与えるもっとたくさんのデッキタイプ、より魅力的な、どんな人でもプレイしたいと思って、そしてそれをすることをいい感じに思う、彼らがプレイできるカードを。そして、そのために我々はよく個々のカードのパワー・レベルを平均化したり、支配的な組み合わせに干渉したり、そして全て戦略の存続を脅かすようなカードやデッキを調節したりする。それがどうして《炎の斬りつけ》が最終的にマジック2013に入らなかったのか、どうして《ウルフィーの銀心》がトランプルを持って共有しないのか、どうして去年スタンダードで《石鍛冶の神秘家》と《精神を刻む者、ジェイス》を禁止したかの理由というわけだ。

 他の傾向として、人々は自分達のカードに、即座に直感的な反応を欲しがる。カードが君に興味を抱かせない場合、我々は失敗してるんだ。君が新しくプレイした《悪斬の天使》を無敵だと感じない場合、対戦相手のデッキの上に潜む《忌むべき者のかがり火》を必死になって恐れない場合、デッキ構築が全て計算できた場合、ゲームが完全にチェスである場合、マジックの全てが頭で考えるだけで心に感じるものが無いなら、我々は失敗しているんだ。 だから、我々はリスクを冒す。計算以上の夢とプレイよりも重要な情熱を踏まえて計算されたリスクをね。

 《ヴェールのリリアナ》はまさにそのようなリスクだ。3マナのプレインズウォーカーは盤面に打撃を与えて、そしてゲームを素早く決めてしまう可能性を秘めている。彼女は手札と盤面を攻撃する。彼女は君の墓地を《グリセルブランド》と《屈葬の儀式》でいっぱいにする。スタンダードに登場してからおよそ1年後、彼女は確固とした、しかし致命的ではないフォーマットの部品になった。

 《瞬唱の魔道士》、これもまたリスクだ。それは《マナ漏出》から《機を見た援軍》、《強迫》にまで及ぶ。イニストラードからラヴニカを越えて、瞬速の2/1は多くを約束してくれる。いつでも多くの、いつでも君が求めるものを。開発部はフラッシュバックをほとんどどんなカードのパワーも大体2倍にする強力なメカニズムとして注意している。我々は《残酷な根本原理》や《謎めいた命令》にフラッシュバックをつけなかった。しかし《瞬唱の魔道士》はつけてしまう。こいつは境界を押してしまうカードだ。そしてスタンダード登場しておよそ1年後、《瞬唱の魔道士》はフォーマットの最先端を定義するカードとなった。

 だがちょっと待った、それらのカードをどうプレイされるかを我々がきちんと知っていれば、それらはリスクにはならないんだ。

 ラッキーなことに、我々はこれらのリスキーなカードをただ世界に向けて送り出したり、それらが落ち着くところに落ち着くのに任せるようなことはない。我々が意識的にリスクを冒す場合、それらがカードをあまりに歪めたり、スタンダードを敵対的で容赦ない場所に変えるかもしれない場合、我々はやはり、皆に君達自身で路上の安全を保つための道具を提供しようとする。例えば、《未練ある魂》が大成功するように見えた場合、我々は《雷口のヘルカイト》がメインデッキに入れられる切り札になるように微調整を施したんだ。

 どうすればクリーチャー主体の緑のデッキで《瞬唱の魔道士》と《ヴェールのリリアナ》に一発お見舞いしてやれるか、我々は皆にそれらのカードを受け入れられるパワフルなツールを与えたかった。

 そしてこれについて、紹介するのが楽しみだ...

 さあ、まずはこれのリリアナに対する美しい動きを見てみよう。こいつは彼女の[-2]の能力に対しての対策を内蔵してないが、対策するのはとても簡単なことだ――他のクリーチャーを1体、生け贄に捧げればいい。しかし《ロクソドンの強打者》の反ディスカード能力はリリアナの[+1]能力にとてもよく対応している。君は戦場に《ロクソドンの強打者》を叩きつけるだけでなく、都合の良いことに、次のターンに攻撃できるなら4点のダメージを与えることができる。これはまさしく黒のプレインズウォーカーが能力を起動した後の忠誠値の数字だ。

 このでっかいロクソドンの《瞬唱の魔道士》デッキに対するアドバンテージはもっと傾いている。もう気付いていると思うが、この4/4は打ち消されない。こいつは一大事だ。ちょっと考えてみて欲しい。《送還》のようなテンポ・ツールを構えていない場合、伝統的に青いデッキは中型のクリーチャーに干渉できない。

 つまりは、それらはテンポ・カードではなく打ち消し呪文に頼っている。スタンダード落ちする《マナ漏出》とか、もしくはそれの代わりの《本質の散乱》で戦場をきれいに保っている。瞬唱デッキは、手当たり次第にブロッカーを打ち消して、無人の戦場に《聖トラフトの霊》を唱えるのが大好きだ。彼らは《秘密を掘り下げる者》を変身させるために打ち消し呪文を公開するとよりハッピーになって、競争のチャンスがあったかもしれない何かに対処する能力に自信を持っている。

 今、2ターン目に《東屋のエルフ》かもしくは完璧にマッチした《アヴァシンの巡礼者》から2ターン目に出すチャンスとともに、緑白の魔法使い達は、気取った笑いを浮かべた瞬唱デッキの提案する、戦いに不利な条件の提案を突っぱねることができる。


ロクソドンの強打者》 アート:Ryan Barger

恐るるに足らず

 記事の前のほうで、私はこのカードがもっと弱く作られるべきだと思っていた、と暴露した。今君はこの完成品を見たので、その欲求はあまり意味が無いかもしれない。一旦コントロールに対する強烈な付加機能を過ぎてしまうと、《ロクソドンの強打者》はただの4/4バニラだ。また、私はスタンダード環境で最も危険なカードのいくつかにに対してこの象ができる、とても高貴な働きをもう実証済みだ。何か心配はあるかい?

 こいつは結局、3マナ4/4バニラだ。

 私は今までの人生で多くのビートダウン・デッキをプレイしてきた。つまり、私がまだプロ・プレイヤーだった頃に公開された、私のこのサイトでの最初の記事はアグロ・マジックの体験についてだった。また、私が率直に言えるのは、最も難しいゲームとは対戦相手が効果的なブロッカーとともに描き出すことができるものであるということだ。私が《先兵の精鋭》をプレイしている時、《密林の猿人》は見たくないね。《番狼》をプレイしている時には、《ロウクスの戦修道士》が突っ込んでくるのは勘弁してもらいたい。そして、イニストラードからラヴニカへの回帰を通して、《ロクソドンの強打者》に攻撃したい、って奴は誰もいないね。

  私が言った《ロクソドンの教主》がスタンダードを定義していることについて全部覚えているかな? ここでも同じことが当てはまる。《ロクソドンの強打者》の安いキャスティング・コストは、《ロクソドンの教主》の追加のライフを得ることに対する的確な取引じゃあない。しかしこれは似たようなものだ。確かに、君にマナがあって、そして《ロクソドンの教主》をトップデッキしたことが生死の分かれ目になったゲームがいくつかあるだろう。しかし君が4番目の土地を置けなかったが、それでも固い守りを展開することができたゲームもやはりあるだろう。そしてほとんどの他のゲームで、防御している君が《ロクソドンの強打者》から得た追加のターンは、《ロクソドンの教主》がもたらすはずの4ライフと大体同じようなものだ。

 さて、普通は、速攻デッキでは他に戦場への影響をもたない3マナのデカブツは、実際に頭痛を引き起こすのに十分なほどの頻度でメインデッキには現れなかった。おまけの能力が大事だってことがわかる場面だ。青と黒のデッキに柔軟に対応できることの代わりに、中速デッキのクリーチャーが通常そうであるように、《ロクソドンの強打者》もやはり役に立つ奴だ。誰に対しても悪くない。それは巨大で5ターン後には相手を倒すダメージクロックであり、早ければ2ターン目に出てくる、ほとんど越えられないブロッカーだ。それは壊れたカードを公正にして、平均的なカードの印象を薄くしてしまう。

 ぶっちゃけて言えば、《ロクソドンの強打者》のフォーマットの中での存在は、スタンダードのアグロ・デッキが単純に無視できず、そして避けたいと考える要素だね。

ld211_3_cf54z23t88.jpg

バーを高く設定する

 今日の締めくくりに、今までで最高の《ロクソドンの強打者》の話をしようか。ほんの一握りの人しかこのカードをまだプレイしていない。従って私はこの競争にかなり有利な滑り出しをしたってことだ。しかし私の仲間のフューチャー・フューチャー・リーグ参加者のうち誰も一致する話がないんだ。だから私は、この栄冠を誰かが必然的に私のことを信じてくれるまで維持するつもりだ...

 我々のフューチャー・フューチャー・リーグのプレイテストのほとんどはバラバラで、幅広く、探検のようだ。しかし今日は大体月1で行われるトーナメントの日だ。私が実際にプレイした3本勝負のマッチの勝敗を記録した何回かのうちの1つだ。言ってみれば、価値の高いゲームが行われる日ということになる。

 私の対戦相手はザック・ヒル/Zac Hillで、彼はもうウィザーズで働いてはいない。彼が操るのは赤黒のアグロ・デッキで、止めに《雷口のヘルカイト》を使っていた。そのマナカーブの途中で、3ターン目に彼は《ヴェールのリリアナ》を出して、彼女の忠誠値を上げた。私は大喜びで《ロクソドンの強打者》を捨てて、自分のターンで彼のプレインズウォーカーを平らげた。ザックは2枚目のリリアナで追撃し、そして私の象を生け贄に捧げさせた。これでいい。

 私の4ターン目、ランドをプレイして2、3枚の手札を持ってパスし、先に進めた。ここには何も見るものはない。ザックは5ターン目のドローをして、1枚しかない手札を見てため息をつき、リリアナを起動しなかった。「それ」がどれだけありえないことであっても、彼は私がそれをいつでも持っていると考えた。 この場合では、それが2枚目の《ロクソドンの強打者》で、彼は明らかに私がそれを持っていると思っている。私の考えでは、ザックの最後のカードはゲームを変えることができる《雷口のヘルカイト》で、彼は5枚目の土地を引いてから手札を空にしたいのでリリアナを起動できないでいた。

 こういうマッチでは、私はわざわざ目もくらむような期待を隠そうともしない。特にザックはどんな悪いことが彼に向かって行ってるかの手がかりも持っていなかった。私にとってラッキーだったのは、全部が終わったときにどんなひどい状況になるか、そしてその流れに従うしかないということを彼が理解していたことだった。

ld211_4_mnzsnqppqa.jpg

 私の5ターン目には何も注釈が無い。多分どうでもいい《遥か見》とか唱えてた。

 ザックは5枚目の土地を引き、急いでヘルカイトを戦場に出してレッドゾーンに送り込み、私のライフを13ぐらいにした。さて、手札が無いので、彼はさっさとリリアナの忠誠値をプラスした。

「手札無いの?」私は尋ねる。

 彼は手を広げて見せ、私に最悪の選択肢を選ばせた。

 私は彼がまだプレイされたのを見たことがないカードを見せた。そのアゾリウスのインスタントは誰が見たってプレイするに値しないものだったが、しかしこの状況では、徹底的で壊滅的だった。彼は驚愕に目を白黒させた。

「君のドラゴンをバウンス。じゃあディスカードしていいか?」

 彼のヘルカイトは捨てられて、私の2枚目の《ロクソドンの強打者》は戦場に現れた。私は彼のリリアナを始末して、そしてゲームをさっさと終わらせた。

 ザックへ、ニューヨークでの幸運を祈る。君の驚きが最悪でなく、むしろ良い結果をもたらす面白いものでありますように。

ラヴニカへの回帰

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索