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精鋭呪文縛り――パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ

Adam Styborski

2021年3月29日

 

 それは、パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosaがそのキャリアを通して求め続けた勝利だった。10年以上にわたりプロ・プレイヤーとしてこの上ない成功を収め、殿堂入りをも果たした彼が、ただ1つ勝ち取りたいと願った称号――それが「世界王者」だった。

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 そして1年前、アメリカ・ハワイ州ホノルルの地で、彼はついに成し遂げた。第26回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権での優勝は、歴代最強プレイヤーの議論にも挙がる(参考記事:英語)彼のキャリアの集大成だった

「ダモ・ダ・ロサはマジックで達成したいことをすべて達成したね」 同じ殿堂顕彰者であるルイス・スコット=ヴァーガス/Luis Scott-Vargasのこの言葉はまさに真実だ。プロツアー優勝から殿堂入り、そして世界王者のタイトルまで、ダモ・ダ・ロサは競技者としての目標をすべて達成したのだ。

 世界選手権優勝の偉業には、これまでにない最高に特別な特典が与えられる。王者の姿がマジック:ザ・ギャザリングのカードになり、将来のセットに収録されるのだ。そして今、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』にてそのときを迎えることになった。

 世界選手権優勝を決めた後、ダモ・ダ・ロサが最初に話をしたのは妻だった。そしてその次が、大会を見守るマジックのデザイナーやデベロッパーの一員としてその場にいたデイヴ・ハンフリー/Dave Humphreysだった。別室に案内されたダモ・ダ・ロサは必要な書類を作成したのちに、自分の姿が描かれる予定のカードと対面した。

 無論それは最終版のものではなかったが、『ストリクスヘイヴン:魔法学院』において青でないコントロール・デッキをサポートする枠のカードだった。カード名は「精鋭徴収魔道士/Elite Tollmage」(あるいは「精鋭徴税魔道士/Elite Tithemage」)から変更され、対戦相手を対象に取るようにしたり、『ゼンディカーの夜明け』のモードを持つ両面カードの土地の面をプレイできるようにしたりといった微調整が加えられた。短いながらも、すべてのプレイヤーが手札を公開する時期もあったし、カード名を指定してそれを唱えることに何らかのコストをかける時期もあった。

 やがてさまざまな調整が実を結んだが、もう1つ足りないピースが残っていた――ダモ・ダ・ロサを描くアートだ。彼がアートの中でどのように描かれたのかは、当時のアート概要に詳述されている。

シルバークイルの魔道士となったパウロの姿。空中でかっこよく呪文を唱えるポーズを決める彼の周りには、光の魔法が渦巻いている。かたわらには呪文を捕らえる檻が浮いており、その小さな銀の格子球は敵の青い炎の呪文を捕らえている。彼の衣装や外套は、まるで重力がないかのように少し浮いているかもしれない。

全体の雰囲気:厳格で容赦がない。「こいつを唱えようとしたのは君か。私は君を止めに来た。」

「自分の顔がカードになるなんて……本当に名誉なことでしょう」 イラストを担当したライアン・パンコースト/Ryan Pancoastは、ダモ・ダ・ロサを正確に描き出すことの大切さを理解していた。「だから彼の顔をできるだけ正確に描きたかったんです」

 そう語るパンコーストは、よりスリムになった「世界王座獲得後の」ダモ・ダ・ロサの姿に合わせて最後の調整を加えたことも明かしてくれた。

 ゲームの中でも外でも、最高の姿を永遠に記憶に残したいと願うのは当然のことだろう。こうして、アートに描かれているのがダモ・ダ・ロサであることがひと目でわかるカードが完成した。『ストリクスヘイヴン:魔法学院』収録の《精鋭呪文縛り》だ。

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 ダモ・ダ・ロサのカードだというのに、青でないとは驚きだ。打ち消し呪文でもドロー呪文でもないとは。だがマジックのゲームに影響を与えるその強さは、まさにダモ・ダ・ロサの強さを表現したものと言えるだろう。彼は(勝利を確信できれば)どんなデッキでも使用するが、キャリア前半は『ローウィン』時代のスタンダードにおける「フェアリー」デッキなどのコントロール戦略で成功を積み上げてきた。《精鋭呪文縛り》は、対戦相手の切り札を遅らせつつ空中から攻勢をかける手段を今後のコントロール・デッキにもたらすだろう。ちょうど、彼が世界を制した「アゾリウス・コントロール」のような戦い方を。

 だがそこで手を緩めるダモ・ダ・ロサではなく、このカードをもっと使いたくなるような要素の追加を試みたという。「このカードをさらに良くするための努力は続けたよ。『瞬速を持たせるのはどうかな?』とかね」

 コントロール的な能力を持つ3/1の飛行クリーチャーに、瞬速……見覚えがあるだろうか。ダモ・ダ・ロサのような「フェアリー」使いは、プレイヤーが求めるものを熟知しているのだ。

 少なくともこのカードのデベロップに携わった者たちから見ると、この能力をほぼいつでも使えるようにするのはハードルが高かったようだ。結局、このカードのデザインはデザイン・ファイルに入っている間変更されなかった。候補となるデザインや試してみたデザインのリストも短く、マジック・デザイナーのアンドリュー・ブラウン/Andrew Brownいわく「当初から(ほぼ)まったく変わっていない」ほどだった。

 こうして、カードパワーをさらに上げる試みは成就せず、唱えるのに青マナを必要としない《精鋭呪文縛り》がダモ・ダ・ロサのカードになったのだが、彼はいたって上機嫌だ。「多くの人に使ってもらえる性能になっていたら嬉しいな。自分でも使うのが楽しみだよ」

 『ストリクスヘイヴン:魔法学院』は4月16日にMTGアリーナ実装、そして4月23日にテーブルトップの公式発売日を迎える。伝説の世界王者が描かれた《精鋭呪文縛り》をぜひお試しあれ。

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