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既知の未知点:プロツアー・アヴァシンの帰還 プレビュー

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既知の未知点:プロツアー・アヴァシンの帰還 プレビュー

Richard Hagon / Tr. Yusuke Yoshikawa / TSV. YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年5月7日


 まずはじめに、ちょっと抽象的なお話から入りましょう。

 ベンジャミン・シスコという、『スター・トレック ディープ・スペース・ナイン』の司令官である登場人物がいます。彼は素晴らしいスポーツである野球を、混乱する異星人に「流れ行く時間」を説明するために活用しようとします。

 ここでは誠実に言葉を追っていきましょう――「おはようございます!」という言葉では、とても「流れ行く時間」を説明しきれないのですから。(濃いコーヒーを追加で1杯飲めば違うかもしれませんが)

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シスコ: ...だから予測を立てる。ありとあらゆる可能性を考えて、ベストの作戦を立てるんだ。状況を読みつつ、一球一球を積み重ねていく、ゲームなんだよ。そうして、ひとつの試合と、我々の過去や未来の概念もそれと同じだ。

異星人: それじゃ、実際に試合が終わるまで、何があるかまるでわからないじゃないか。

シスコ: そういうことさ。いいかい、最初から結果がわかっていたら、ゲームなどやる意味がないだろう。

異星人: 未来を予知する力がないのは、いいことだって言うの?

シスコ: それが我々人間を理解する鍵かもしれないな。無知ゆえに、私たちは存在している。答えを求めて生きている。それだけじゃない、常に新たな疑問も探し求めているんだ。開拓者なんだ。

 マジックのプレイヤーは真に探求者です。答えを求めるにとどまらず、常に新たな疑問も探し求めているのです。このマッチアップはどう戦う? 何をサイドボードすべき? 新セットがスタンダードにどのように影響を与えるのか? ブロック構築では? モダンではどうか? 新しいドラフト環境は速いものになるのだろうか? 今回登場した神話レアの実力のほどはどれくらいか?

 本当に必要なところは、マジックにおいてすべてを解き明かすことをまったく恐れなくていいということです。マジック界最高のプレイヤーたちの手でフォーマットが「解明」された後も、ブースターパックが開封されるたびに風景は劇的に変わり、新たな物語が紡がれ、新たなプレイヤーが世界中につながったネットワーク上に、その輝きを知らしめるのです。


プロツアー・アヴァシンの帰還 5月11~13日開催

 今回は、スペイン・バルセロナという素晴らしい都市に、現時点で最高のプレイヤーたちが集結します。そこで、数日にわたって、私たちはマジックの歴史に打たれる最新の感嘆符を目にする機会を得ることになります。私も、それにご一緒します。

 そこには、私たちが「知っている」ことを認識していることがあります。これらは「既知の既知点」といえます。また私たちは「知っている」ことを自らは認識していないこともあります。「未知の既知点」です。また私たちが「わかっていない」ことすら自覚していないことも確かにあります。つまり「未知の未知点」です。

 ならば、私たちが「わかっていない」ことを自覚している事柄もあります――「既知の未知点」です。

 それでは、プロツアー・アヴァシンの帰還における「既知の未知点」を見ていくことにしましょう。

第1~5回戦:ブロック構築

 私はブロック構築という形式が大好きで、いつも持っています。私はブロック構築のプロツアーでも一度プレイしたことがありますが、ブロック構築の魅力のひとつは、自分の目の前、まさにすぐそこに答えがあると本心から分かっているということです。スタンダード、または実にベヒモス級の(注:比喩です)フォーマットであるモダンやレガシーの話をするときは、ほとんどの私たちにとって、単純にカード資産によって入れることが出来るカードが限られてきます。ブロック構築は違います。ブロック構築は魅惑的です。私たちはすでに3つのセットのうち2つをプレイしてきました。ではもう1セットが加わったことで、いかほどの変化が訪れるのでしょう?

 アヴァシンの帰還のカード、244枚から始めましょう。基本土地を除き、コストがあまりに重いものを取り除きます。イニストラードや闇の隆盛にある他の選択肢と比べて明確に悪いものも取り除きます。統率者戦や大乱闘戦でないと活躍しないカードも除きましょう。そして、残ったものから数ミクロン単位で価値を割り出すべくレーザー分析を使い、シナジーを、カードパワーを、コンボを探すのです。そうして最終的に得られるものが、ブロック構築で使えるカードの一覧です。そこから視界に一瞬だけ浮かぶ勝利のデッキをつかまえるべく、目を走らせるのです。現実主義の心の声が、それをかき消してしまう前に。


希望の天使アヴァシン》 アート:Jason Chan

 ご存知のとおり、ブロック構築においても現に張り詰めた部分は存在します。確かに、あなたは分析者となって、あなたの傑作の各可動部分がとりえる正確な許容範囲を知る必要があります。しかし、あなたは同時に夢見る人である必要があります。8枚の土地をタップして《希望の天使アヴァシン》を出すことを考えなけらばならないかもしれません。《天使の墳墓》が不注意な者を閉じ込める穴蔵以上のなにかであると知る唯一の存在が、あなたかもしれません。長い旅を経てやってきたプレインズウォーカー、《月の賢者タミヨウ》の最高の居場所を見つけ出すひとりかもしれません。そして、人々が《苛立たしい小悪魔》《轟く怒り》《いかづち》といったカードからレッド・デック・ウィンを目指す中で、それらは必要ないと見せつける唯一の存在であるかもしれません。

 芸術家であり科学者たれ。これは、バルセロナに集う400名以上のプレイヤーが直面する課題なのです。大胆に行くか、もしくは安全策か? メタゲームを、バターに通したナイフのように切り裂くことができるか、あるいは予想だにしなかった終わりなき攻勢の前に希望を粉々に打ち砕かれるか? 第1回戦の少し前にデッキリストが提出されるそのときには、その場の誰かが4万ドルを得るに値するデッキリストを、今まさに書き込んでいることになるのです。勝ち残るリストは何か? それは「既知の未知点」です。

メカニズムから考える:「奇跡」

 キッカー・メカニズムの創造以来、実に多くの時間と労力が奇跡の本当の価値を把握するために支払われてきたことになります。奇跡コストが大バーゲンであることを理解するのは、そう難しいことではありません。フルプライスを支払ってもいいものかどうかを判断することも、不可能ではありません。問題はドロー・ステップに、奇跡が文字通り手に――カードじゃなく、指先に――宿ったときです。引いたことが悩みの種になることもあるのです。

 《天使への願い》でいくつの4/4が必要か? 《壊滅的大潮》や《終末》で盤面を一掃するのは、今がそのときか? 《時間の熟達》を{1}{U}でのサイクリングともう1枚の土地を置くチャンスを得るだけの呪文と見なすか、別のタイミングでキャストすることを望むか? 《轟く怒り》で真なる脅威を殺すために残すのではなく、とにかく銃爪を引くべきか? 現在これらはすべて「既知の未知点」であり、プレイヤーたちは起きているすべての時間をプロツアーのためのテストに費やし、これらを「既知の既知点」に変えようとしているのです。そうした者が、日曜日のトロフィーに一歩近づくことになるでしょう。

第6~8回戦:アヴァシンの帰還・ドラフト

 プレリリースや、先週末に行われたリリース・イベントなどで、皆さまの多くがアヴァシンの帰還のリミテッドをプレイする機会を得たであろうと思います。かなりの時間が経ってしまいましたが、私もそうしてプレリリースで多くの楽しみを得ていました。ひとつには、ノッティンガムの「キメラ」に集まってイカれたシールド・プールからどう組み立てるかを週末中考えていた非常に多くのプレイヤーとスタッフがおかげであり、ひとつには、新しいものへのスリルがありました。私たちは開拓者であるということを、覚えていますか?


現実からの剥離》 アート:Jason Felix

 しかしながら、私が最初期のアヴァシンの帰還の体験で気にしていたのはただ一点、どのくらいゲーム・プレイの進行が「スムーズ」であるか、でした。こうしたリミテッドのゲームを好むプレイヤーもいるでしょう:展開されるものは互いに残らず除去できて、7番目のクリーチャーが生き残って勝負を決めるようなゲームが。両軍に8枚の土地、戦場は空で、墓地には10枚のカードがあり、ライフは13~16点。ええ、私もそういった類のゲームが大好きです。

 時折、その戦略を貫き通すことができるだけの妥当な期待値があって、戦略を立てやすいということはありますが、アヴァシンの帰還は上級の除去があふれるようなセットではありません。今回は、この問題に取り組む必要があって、つまりは狡猾で創造的であれ、ということを意味します。狡猾で創造的といえば青で、私は《錬金術師の弟子》《悪寒》《一瞬の散漫》《幽霊のゆらめき》《現実からの剥離》《消え去り》といったカードを見ることを待ちきれませんし、ここしばらく見られなかった、《霧鴉》が対戦相手を徐々に縛りつけるようなゲームには、無上の喜びがあることでしょう。イカれた青に欺かれて涙目になっているプレイヤーがいるだろうと、私は予言します。《轟く怒り》に焼かれてしまった? 肩をすくめて次に進みましょう。《ネファリアの密輸人》と《ケッシグの不満分子》のコンボ? そのことはそっと心にしまっておきましょう。

1日目終了時:レース

 8回戦が終了すると、トーナメントの全体像が明確になりはじめます。土曜日に進出するためにはちょうど4勝4敗のスコアが必要なので、200人ほどの参加者たちは金曜の夜にバルセロナの旅行ガイドブックが必要になるでしょう。残された者たちには、さまざまな目標が大きく浮かび上がってきます。誰もが勝ちたいと思い、プロツアー・トロフィーへの次のステップとしてトップ8を目指すことになるでしょう。プロツアー・チャンピオンはたった一人だけがなれますが、バルセロナでは他にも多くのレースが展開されます。世界から選ばれた最高のプレイヤー16人による3日間の競技として、マジック:ザ・ギャザリング・プレイヤー選手権がシアトルで行われることになっています。そのレースがどのように絞りこまれつつあるのか知りたいですか? では、私の同僚にしてコメンテーターであるブライアン・デイヴィッド=マーシャル/Brian David-Marshall の記事をしばしご覧になってはいかがでしょう? こちらにあります。(リンク先は英語記事)

 ワオ、プレイヤー選手権は大変なことになっているようですね。しかしバルセロナでは他に何かプレイする目標があるでしょうか? シアトルでのショウダウンに参加できるのはたった16人ですが、2日目の200人はインディアナポリスで初開催となるワールド・マジック・カップへ近づくことになります。各国、3人の予選の優勝者に、最上位のプロプレイヤーが加わるのです。パウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサ/Paulo Vitor Damo da Rosa は2月に早々とブラジルのトッププロ枠を確定させ、リチャード・ブランド/Richard Bland は英国の旗を掲げることがほぼ決まっています。しかしシーズン終了時に輝かしいトップを決める各国のプロ・レースはまだあります。ここでは、興味をそそる6国の例を見てみましょう。

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オーストラリア:ジェレミー・ニーマン/Jeremy Neemanが安全圏ともいえる14点のリードを保っていますが、ダニエル・アンウィン/Daniel Unwinとアーロン・ニコル/Aaron Nicollが望みを残しています。バルセロナでのトップ8は20点の価値があるのです。勝算はニーマンがさらなる好成績を残すかどうかにありますが――マジックのやり方を知らずに、ルイス・スコット=バルガス/Luis Scott-Vargas 相手にマッチで5勝2敗の成績など残せるでしょうか――このまま押し切ってしまう期待は高いです。


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チェコ: マーティン・ジュザ/Martin Juza がレースを先導しているということは論をまたないでしょう。スタニスラフ・チフカ/Stanislav Cifka とルーカス・ブロホン/Lukas Blohon はともに15点差を付けられていますが、見るべきはもう一人のルーカス、ルーカス・ジャコロフスキ/Lukas Jaklovsky でしょう。彼は2010年に千葉で行われた世界選手権でトップ8に入っているプレイヤーですが、ジュザにわずか7点差で続いているのです。 ここで、もうひとたびのトップ8を手中に収めたなら、この若きプレイヤーの王座奪取もありえることでしょう。


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日本: わずかに4人が、プロ代表の権利を残しています。その差は極めて大きく、中島主税が23点差、八十岡翔太が19点差、中村修平も12点差をつけられています。しかしトップに立つ渡辺雄也も、年間最優秀選手(Player of the Year)経験者同士の戦いで差をつけるには、自身も好成績を残す必要があるでしょう。(八十岡:2006、中村:2008、渡辺:2009)


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オランダ: オランダ勢は2000年代中盤の全盛期以来、これといって目立った戦績を残していません。 ルーベン・スナイデウィンド/Ruben Snijdewind が近年の代表格ですが、彼はイェルガー・ウィーガーズマ/Jelger Wiegersma に1点差でバルセロナに降り立つことになりました。プロツアー殿堂顕彰者であるウィーガーズマは、さきのプロツアー・闇の隆盛でトップ8に入賞してこの位置にいます。またブラム・スネップヴァンガース/Bram Snepvangers やフランク・カーステン/Frank Karsten といった他の殿堂プレイヤーもスタートリストに名を連ね、シーズン最後のタイトル争いで激突することになるでしょう。


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スロバキア: 5年前であれば、この国についてマジックの文脈で語るなど想像もできなかったかもしれません。しかし、今や2010年の世界選手権国別対抗戦優勝チームであるこの国では、そのときの代表であるイワン・フロック/Ivan Floch とロバート・ユーコヴィッチ/Robert Jurkovicが激しい戦いを演じており、フロックがわずか2点差でリードしている状態です。


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スペイン: 母国の大地にて、記念すべきグランプリ優勝を「アサルト・スワン」で飾った(2009)ジョエル・カラフェル/Joel Calafell が、同じくグランプリ・バルセロナ優勝者である(2011)マーティン・シェイニン/Martin Scheinin 相手につけた6点差の維持を試みます。デイヴィッド・ガルシア・コペーテ/David Garcia Copete も追っていますが、大きな差があり、かなりの成績が必要でしょう。


 これらの6つのレースはいずれも激しい争いになっており、ビッグ・ネームがインディアナポリスへの出場権の確保を目指しています。ですが後ほど、さらに、さらに激しい6つのレースをご紹介しましょう。それらは、本当に「未知の未知点」なのです・・・。

第9~11回戦:ドラフト、パート2

 第1ドラフトを経て、プレイヤーたちはどれだけのことを学ぶのでしょうか? マジックでは、純粋に構築のみのスペシャリストが選ばれたプロツアーで成果を競っていた記事が長く続きました。しかし今はどのプロツアーでも、参加者にとって第6回戦が新フォーマットでの最初のドラフトになるようになっています。最近ウィザーズ社は、今年秋発売のラヴニカへの帰還から、マジック・オンラインでのリリースを紙でのリリース日程に近づけることを発表しました。これはプロたちにとってビッグニュースで、彼らはプロツアーに向けての日々を、オンラインでのプレイテストとドラフトに費やす機会ができるのです。しかしながら、今回はまだ8人が集まってパックを開封する昔ながらのやり方です。もしあなたがチャネル・ファイアーボールの一員なら、8人を集めるのはそれほど問題ではないかもしれませんが、他の多くのプレイヤーによって、ドラフト・ラウンドはいまだに「既知の未知点」としてあり続けるのです。

メカニズムから考える:「結魂」

 結魂メカニズムがブロック構築に飛躍的進歩を与えるものなのかどうか、あるいはスタンダードにまで影響するかどうかは不透明で、これは別の「既知の未知点」といえます。しかしながら、リミテッドにおいては大きな課題です。ローウィンを特別なセットにしていた要素のひとつは、驚くほど強力なカードでもパックの最後のほうで手に入れることができたことです。なぜなら、それらはあなたのデッキのみにおいて強力だからです。あなたがそのテーブルでエルフデッキをドラフトしている唯一のプレイヤーだったら、あるいは唯一の巨人デッキなら、などなど、そうした場合には他の誰もが到底それらを欲しがらないでしょう。ゲームプレイに関しても、あなたがデッキを超パワフルだと感じても、それは対戦相手も同じことで、なぜならそれぞれが自身のシナジーが組み合わされた超シナジーのもとでドラフトしているだろうからです。ドラフトをこのように巧妙にできているのは、カードそれぞれは個々ではとりわけパワフルだというわけではないからです。それらを上手く使うには奇妙な錬金術が必要となり、このことによって開発部は、より広い構築の文脈にあってもひどく非難されずにすむ、リミテッドでは化け物のようなカードも自信を持って印刷することができていたのです。


霧鴉》 アート:John Avon

 アヴァシンの帰還では、結魂は平凡なものを非凡なものに変えてしまうことができます。第3ターンのバニラ2/2、《信頼厚き腕力魔道士》? それが第4ターンに、《ドルイドの使い魔》と組になって5/5が2体になったらどうでしょう? タフネス3しかない《反逆の悪魔》はあまりに脆弱ですが、《ハンウィアーの槍兵》と組になったときに得られるパワー5の先制攻撃持ちはとても良いものです。セット全体を見回すと、さらに目をみはるシナジーが明らかになります。《道壊しワーム》は地味なコモンです。6マナで6/4は完璧に妥当なものです。しかしながら、そこに《ウルフィーの銀心》がキャストされると、結魂によって《道壊しワーム》は10/8トランプルに、《ウルフィーの銀心》は8/8トランプルになるのです。ええ、この環境ではパワー18点分のトランプルは実にいいものです。

 最後に付け加えですが、リミテッドラウンドの間にカメラの先に目にすることができたらと私が願っている、結魂の組み合わせがひとつあります。15年マジックをプレイしてきて、私がプレリリースで身を置いた素晴らしいゲームの各瞬間の中でも、これほどまでにパワフルだと感じたものはありません。8マナがあって、対戦相手のターン終了時です。4体のクリーチャーが戦場にいましたが、次の瞬間にはいなくなっていました。その組み合わせとは? 《狙い澄ましの航海士》と《霧鴉》です。誰かがこの組を作り上げて、そして目にすることができるでしょうか? 魂からそれを望んでいます。

第12~13回戦:再びブロック構築へ

 ブースターパックを片付けて、再び60枚のカードの組み合わせを持ち出す時です。ここで私たちは、最高のデッキと最高のプレイヤーが頂点に向かって上がっていくのを見て、ブロック構築がいかなるものであるか、真の理解を始めていくことになります。ホノルルで行われたプロツアー・闇の隆盛で、我々は最高の予想の試みとして、ファンタジー・プロツアーを導入しました。我々は親切にも、問題を簡単にしていました。形式はスタンダードであり、《秘密を掘り下げる者》や《瞬唱の魔道士》が最有力候補であろうことは論をまたないものでした。最終的に、数百ものイベントのデータを得て、予測を組み立てました。最終的にすべきだったのは、従前のメタゲームに闇の隆盛のカードを送り込んでいくことでした。。

回転

 今回は、手加減なしです。フェイスブックにいる友人の有能なグループにファンタジー・プロツアーの優勝者であることを自慢できる権利というのは、取り組み甲斐のあるものです。私が自分のピックを教えてから、プロプレイヤーの友人全員と話をする機会を得て変える、と皆さんがお思いでしたら、それは間違いです。まさに今も、私の頭を行き交うピックは固定され続けています。しかしながら、少しのヒントもお届けしないのはいささか無作法でしょうから、ふたたび良き友人たるブライアン・デイヴィッド=マーシャル氏にお願いすることにしましょう。

 うーむ、考えるべきことはまだありました。私は選択を変えるべきかもしれません――《知恵比べ》は私が想像していたほどいいカードではないのかも・・・。

第14~16回戦:土壇場

 ここでほとんどのレースの勝敗が決まります。ひとつは年間最優秀新人(Rookie of the Year)で、この座を争う者たちは、ランディ・ビューラー/Randy Buehler、大礒正嗣、渡辺雄也、そして現在のタイトルホルダーであるマティアス・ハント/Matthias Hunt らの偉大な足跡に続くことになります。多くのプレイヤーに、このシーズン最後のイベントで輝かしい結果を残せばタイトルをつかむチャンスがありますが、近年のことを考えると、アメリカのジェセ・ハンプトン/Jesse Hampton を超えるのは難しいでしょう。


ジェセ・ハンプトン/Jesse Hampton

 ハンプトンは初めて認定大会で戦ってから最初のプロツアーにたどりつくまで、実に10年を要しましたが、ひとたびビッグ・ステージに上がったならば好機を逃しませんでした。それが、昨年のフィラデルフィアでのトップ8です。プロツアー:闇の隆盛・ホノルルでは、サミュエル・エストラティ/Samuele Estratti(第15回戦で大熱戦の末1-1で引き分け)とイェルガー・ウィーガーズマ(第16回戦で1-2の敗北)という強大な壁2枚の前に、出場3回目にして2回目のトップ8を惜しくも阻まれています。ビューラー、大礒、渡辺はみな、このゲームの偉大な存在になりました。彼には芯として自身を支える素晴らしい気質があり、彼らと同じようになれるチャンスは十分にあります。

 一方で、ラウンドが進むにつれ、ワールド・マジック・カップの出場枠が徐々に埋まっていきます。ここでは、最後の最後のラウンドまでもつれそうな、各国のレースを見ていくことにしましょう。

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カナダ: リッチ・ホーエン/Rich Hoaen がトーナメント・シーンを去ったことで、カナダからは競技プレイヤーの多くがいなくなったと言われています、今やそれは真実ではありません。マーク・アンダーソン/Marc Anderson が24点でリードしていますが、アレクサンダー・ヘイン/Alexander Hayne、デイヴィッド・キャプラン/David Caplan、ノア・ロング/Noah Long、そしてダン・ランシアー/Dan Lanthier がみな10点以内の差でタイトルを狙える位置にいます。特にキャプランとランシアーは決勝のテーブルでプレイした経験があります。非常に激しい争いになるでしょう。


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ドイツ: ここでは興味深い番狂わせが起こっています。ベルン・ブレンデムール/Bernd Brendemuhl が先頭に立ち、マジック・オンライン・チャンピオンシップの準優勝者フローリアン・ピルス/Florian Pils が続き、ベテランのヨルグ・ウンフリード/Jorg Unfried、若きヨナス・コストラー/Jonas Kostlerがいます。その11点下、2012年は息を潜めていますが、2010年のプロツアー・サンディエゴ王者、シモン・ゴッツェン/Simon Gortzen がいるのです。彼は実に細部への注意を払うひとかどの人物ですし、彼の中には皆が望むような経験があります。彼を大詰めのラウンドの戦いで見ることになっても、驚くことではありません。


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ノルウェー: こちらは至ってシンプルです。彼らがチームメイトであるならば、ですが、今回は異なります。アンドレアス・ノルダール/Andreas Nordahl と スヴェイニュング・ビョーネルド/Sveinung Bjornerud が25点で固まり、3位のクリストファー・ヨナセン/Kristoffer Jonassen が6点差で続きます。昨年のサンフランシスコでは、彼らはタイトルまであとわずかに迫り、最終ゲームで三原槙仁と伝説的な決着の末、日本に敗れました。しかし今はハイランダーの時間、たった一人を決めるのです。


トッププレイヤー同士の息もつかせぬレース、ノルウェーのスヴェイニュング・ビョーネルドとアンドレアス・ノルダール
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ポーランド: 単純に関係する人数から言って、ポーランドほどタイトなレースをバルセロナで繰り広げる国は他にありません。ルーカス・ムジアル/Lukasz Musial が歴戦のプロ、マテウス・コペック/Mateusz Kopec につける点差はわずかに1点、トマス・フィガルスキ/Tomasz Figarski とトメク・ペドラコウスキ/Tomek Pedrakowski が2点差で続きます。一国4人によるドッグファイトはここ数年の着実な進歩を示すものですし、最終的に構成されるチームも、インディアナポリスでのメインイベントでダークホースとなりえるでしょう。


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スウェーデン: もし私がジョエル・ラーション/Joel Larsson だとしたら、私はワールド・マジック・カップへのライバルを振り切るのには少なくともトップ8に入らなければならない、と思うことでしょう。なぜなら、対戦相手にはケニー・オーベルグ/Kenny Oberg(2点差)、エリアス・ワッツフェルト/Elias Watsfeldt (7点差)、マーティン・ベーリン/Martin Berlin (8点差)、デニス・ラシッド/Denniz Rachid (8点差)がいて、全員がプロツアー・サンデーの経験者なのですから。ブロック構築が重要な部分になると思われますが、特にオーベルグには注目です。彼はいつもフォーマットを破壊してみせるプレイヤーなのです。


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スイス: アンドレアス・ガンツ/Andreas Ganz が世界へ向けてわずかなリードを保っていますが、マティアス・クンツラー/Matthias Kunzler とニコ・ボーニー/Nico Bohny も射程圏内にいます。誰が勝っても、世界の舞台で戦うための素晴らしい先導者になるでしょう。


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アメリカ: 最高のものを最後にとっておきました。もしこのレースが土曜日終了時点で決着しているとしたら、私は率直に驚くでしょう。想像してみてください、ルイス・スコット=バルガス/Luis Scott-Vargas(LSV)、ジョシュ・アター=レイトン/Josh Utter-Leyton、マシュー・コスタ/Matthew Costa、デイヴィッド・オチョア/David Ochoa、トム・マーテル/Tom Martell、コンリー・ウッズ/Conley Woods、サム・ブラック/Sam Black、そしてオーウェン・ターテンヴァルド/Owen Turtenwald というトップ8を。誰もが場違いという言葉から無縁ですし、誰が日曜日の舞台にたどり着いても、20~30点が保証されているのです。

 このことは、ブライアン・キブラー/Brian Kibler がトップを守るために相応の負担を強いることになります。彼のリードはLSVに対する3点から、ブラックとターテンヴァルドに対する19点の範囲です。公平に言えば、キブラーにとってリードを守ることはそれほど問題ではないのです。ジョン・フィンケル/Jon Finkel 相手に劇的な準決勝を演じ、ブラジルのパウロ・ヴィター・ダモ・ダ・ロサを倒してプロツアー・闇の隆盛のチャンピオンに輝いた彼のように、アメリカの最上位プロ、ひいてはプロツアー・アヴァシンの帰還のチャンピオンというのは、同じような輝きを見せるでしょう。

日曜日:トップ8

 日曜日のトップ8を予言しようとするのは無駄骨というものですが、私とBDMは木曜日にそれをせずにはいられないでしょう。シスコが言うように、これから起こっていることが予めわかっているなら、このゲームはプレイするに値しないものでしょう。バルセロナにある数々の「既知の未知点」の中でも、日曜日のプレイがどのように行われるかを見出すことは、私の「必見」リストの中でも最上に位置していることです。私たちは、最近のプロツアーで素晴らしいプレイヤーと素晴らしいマッチに恵まれてきました。日曜日のショーケースでも、同じことがさらに続くことを願って待ちましょう。

既知の既知点

 素晴らしい。私たちは開拓者で、私たちは未知によって規定されています。私はそれを理解しました。ですが時折、人生でわずかにある確実なことで実に気分が落ち着くようなこともあります。それまで、より難しい問題について答えを見つけるまでの数日の間、待たなければなりません。それでは、プロツアー・アヴァシンの帰還についての「既知の既知点」をお届けして、締めくくりたいと思います。

  • 第1回戦から決勝戦まで、ライブカバレージをご覧いただけます。全日です。毎日です。
  • 各ラウンドで最大3つのフィーチャーマッチが用意され、その中のベスト・オブ・ベストに注目していきます。
  • すべてのビッグ・インタビュー。
  • 重大な物語、鍵となるマッチを総括したテキスト・カバレージ。
  • 「Cover It Live」を使って、双方向的にカバレージにご参加ください。
  • ブロック構築のデッキ・テク。
  • アヴァシンの帰還のドラフト・テク。
  • スペシャルゲスト。
  • シアトルの開発部の内部からお届けする特別ドキュメンタリー。
  • 起こっている物語を紐解くために必要なすべての事実、最新の結果と順位。
  • 素晴らしいプレイ、素晴らしいトップデッキ、素晴らしい読み、素晴らしいマジック。
  • マーシャル・サトクリフ/Marshall Sutcliffe、ザック・ヒル、シェルドン・メネリー、ラッシュド・ミラー、ブライアン・デイヴィッド=マーシャル、そして不肖私による、分析とコメンタリー。

 お住まいの地域でのビデオ・カバレージの放送時間は、こちらでご覧いただけます。(英語)

 時間が流れ行ってしまうというのは、ある種やりにくいものですが、スポーツで起きる出来事であれば話は違います。今週末、私たちの数百数千の眼が携帯デバイスや、タブレット端末や、モニター、あるいは巨大プラズマスクリーンに釘付けになり、次のプロツアー・チャンピオンが決まるまでの19回戦を見届けることでしょう。これは私たちが規定した「未知」であり、私はアヴァシンの帰還がその数日でもたらしてくれるものが何か「開拓」することが楽しみでなりません。

 その前に、もうひとつの「既知の既知点」を書いておきましょう。これは、私たちのほとんどがうなずけることでしょう。

 マジックは、最高のゲームです。

 では、バルセロナでお会いしましょう。

プロツアー・アヴァシンの帰還

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