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野生の血に目覚めよ

Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru

2011年10月3日


 狼男特集へようこそ! 今回のテーマは、イニストラードのデザインにおける最高の部族だと思われるものを掘り下げていくことになる。今回は狼男のデザインの歴史についてざっと見て(歴史と言ってもそう長くない、そもそもそれほど語ることがないのだ)、それからイニストラードの狼男ができあがるまでのデザインやデベロップの戦いぶりを見てもらうことにしよう。楽しみかね? ワオーーーン! 似てたかね? じゃあ、始めよう。

大きくて邪悪な狼男

 イニストラードで狼男がどのようにデザインされたかを話す前に、それ以前の出来事について話すことにしよう。

 過去のマジックの狼男には、このようなものがある

 以上だ。これで狼男の歴史についての話は終わりになる、ご清聴に感謝......

 ん? もう少し説明が欲しい? それなら、このカードのそれぞれについて一言ずつ付け加えさせてもらうことにしよう。まずは《Lesser Werewolf》からだ。

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 最初の狼男は、レジェンズというセットに現われた。文章をよく読んで、その醸し出すフレイバーを楽しんでもらいたい。......フレイバーを感じ取れたかね? そうとも、私もまったく感じられない。これは、自身を弱体化させて他のクリーチャーを永続的に弱体化させるという能力を持っている。おそらくこれはかみついているんだろうが、このメカニズムからはそんなことは全く感じられなかった。フレイバーとメカニズムが乖離しているのに加えて、このカードは強くもなければ楽しくもないし、ただ複雑なだけだ。このカードのデザインを評価するなら、まあ、優良可不可の「不可」をつけることになるだろう。

 次は《大いなる人狼》の登場だ。

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 まず見て分かることは、ホームランドのデザイン・チームに《Lesser Werewolf》が好きな奴がいたということだ(「Lesser なんとか」という名前をつけるのは、将来のデザイナーがそれをフォローしてくれると期待してのことだ)。《大いなる人狼》の問題点は、《Lesser Werewolf》にこだわりすぎだということだ。まず、パワー/タフネスが2/4であるということ(「大いなる」じゃなかったのかと言いたい)。なぜ狼男が2/4なのかはよく分からない。なぜタフネスがパワーの倍あるのか? 殺しにくいというのだろうか? まったくよく分からない。

 また、このカードは「お前を殴る、お前はへばる」というフレイバーを《Lesser Werewolf》引き継いでいる。このカードはでは毎回効くようになっており、またマナを必要としなくなっており、自身が弱くなることもなくなっており、そして得られるカウンターは-0/-2に強化されている(当時、ありとあらゆる変なカウンターが作られていた。信じられない向きは、ザ・ダークの《Frankenstein's Monster》を見て見るといい)。フレイバーを感じられるというわけではないが、メカニズム的にはかなりマシになっている。「可」ぐらいはつけられそうだ。しかし、このカードの一番良い点は、私が気に入っている萎縮メカニズムのご先祖様だと言うことだろう。

 これから挙げる2枚のカードは、狼男ではないが、フレイバー上はライカンスロープなので歴史として取り上げておくことにしよう。

 《薄汚いネズミ人間》と《熊人間》はどちらもオデッセイのクリーチャーである。変身を表すためにスレッショルドを使うことにしたので、ライカンスロープであるクリーチャーを2体デザインすることにした。どちらのカードも変身というフレイバーを再現するもので、変身することでまったく違う役割を果たすようにした。デザイン的な評価は「良」といったところだ。最大の問題は、スレッショルドというメカニズムそのものにあった。実際に使われてみると問題があったのだ。マジック史上最も評価の高い獣人クリーチャーが狼男でなかったことは特記しておいてもいいだろう。

 オデッセイ・ブロックにはもう一つ、スレッショルドを使う狼男が存在した。

 《不実な人狼》はオデッセイ・ブロック最後のセットであるジャッジメントで登場した。スレッショルドを使った変身フレイバーをまとっているが、全体としては雰囲気のあるカードではなかった。なぜ、プレインズウォーカーである諸君が、その支配しているクリーチャーが狼男状態で死んだからといってライフを失うのか? この不連続性はこのカードの評価を「可」に落とすに充分な欠陥である。

 それでは、歴史上の狼男の評価を見ていこう。可が2つに不可が1つ。獣人全てを計算に入れたとしても、これに良が2つ入るだけだ。けっして良い成績とは言えない。それを踏まえて、私はイニストラードのデザインで狼男を正しく描く責任があると感じたのだ。

狼男のように貪欲に

 ファンタジー・ホラーに基づいた世界という発想を投げかけた最初の時から、(ほぼ10年だ)長い時が流れたが、その間ずっと私はその話をしてきた。つまり、イニストラードについて考える時間はいくらでもあったのだ。そして、そのセットに必要なものは何なのか、いくつもの答えを見いだしてきた。その一つが、デザインが成功するためには狼男のデザインを見いださなければならない。全体を仕上げるには、その花形を仕上げるのが大事なのだ。私が考える花形とは、つまり狼男のことである。他の部族については、マジックの歴史上のどこかに成功例が存在する。イニストラードを仕上げるには、狼男のデザインを仕上げなければならないのだ。


無慈悲な捕食者》イラスト Michael C. Hayes

 私は、トップダウンのデザインをする場合(つまり、フレイバーに合うメカニズムをデザインする場合、だ)、まずそのデザインするものについて知っていることを書き下すことから始めることが多い。それでは狼男はどうでなければならないのか? 私の書いたものはこうだった。

#1 - 狼男は、人間形態と狼男形態を取れなければならない

 私が考えるに、狼男を定義づける最大の要素は、その二面性にある。他のほとんどの怪物と違い、狼男は常時怪物というわけではない。多くの時刻において、狼男は人間である。私は、メカニズムで、狼男を定義づけるこの本質的部分を再現することが大事だと思った。

 これは私の考え方だということを強調しておこう。狼男は常時本質的に狼男であるというファンタジー観もある。狼男を、変身することよりもその凶暴性に焦点を当てたクリーチャーとしてデザインすることもできたが、私は、それでは狼男のおもしろい部分をなくしてしまうと感じていた。

#2 - 狼男形態は人間形態よりも強い

 全ての怪物には弱点が存在しなければならない。怪物にアキレス腱があるからこそ、人間は怪物に太刀打ちする機会を得られるのだ。狼男の弱点は、他の怪物と違って非常におもしろいもので、人間形態の時には非力だということである。狼男が狼男形態を取っているときに殺すのは難しい(銀の弾丸? ああ、それはもう一つの弱点だ)が、お隣のジョーさんの時ならそう難しくはない。

#3 - 変身は(ほとんど)本人の意思と関係なく行なわれる

 もう一つ、狼男の重要な性質として、変身するかどうかを選ぶのは本人の意思ではなく、外部の環境によるということが挙げられる。黄昏時など自分の意思で変身できるという例外はあるとされるが、私はそれを狼男の不気味さを損なうものだと考えている。私は、制御不能で恐ろしい怪物を必要としている。狼男はまさにそういった怪物であるべきであり、その中心に位置づけられるのは制御不能だということなのである。

#4 - 変身のきっかけは、満月

 伝統的な狼男伝承を踏まえるのであれば、これは反映しなければならないフレイバーである。

#5 - すべての狼男は同時に変身する

 満月が変身のきっかけになるのなら、感染した人間の一人が狼男になる時には感染した人間全てが狼男になることになる。

#6 - 狼男は野性を持たなければならない

 狼男と他の怪物との大きな差として、もう一つ、狼男は本能に支配されているということが挙げられる。多くの狼男の物語では、人間部分が狼男部分を押さえることはできない。狼男である間に何をしていたかすら覚えていないことすらある。狼男を描くなら、この動物的な要素について描くのは大切である。


黄昏の捕食者》 イラスト Steve Prescott

 こうして書き下してから、次にやることはこのリストに切り込み、メカニズム的にどういう意味を持つかを考えることだった。

#1 - 狼男は、人間形態と狼男形態を取れなければならない

 狼男カードは2つの状態を持つクリーチャーでなければならない。マジックはこれまでに何度もこのデザインに取り組んできている(スレッショルド、反転カード、Lvアップなど)。

#2 - 狼男形態は人間形態よりも強い

 コストの問題からも、狼男は人間形態で登場するようにするべきだということになる。これによって、軽いコストのクリーチャーが後に強化されることができるようになる。幸いにして、狼男というフレイバーからも人間側から始めるのが望ましいと言える。狼男の物語では、まず人間形態の狼男と出会うのがお約束だ。

#3 - 変身は(ほとんど)本人の意思と関係なく行なわれる

 これはつまり、内部的な理由ではなく外部的な理由によって変身が起こるということである。言い換えると、単にプレイヤーがそのクリーチャーを狼男に変身させたいと思ったからと言って変身できるというものではない、ということになる。もちろん、狼男を使うプレイヤーが何らかの形で変身に影響を及ぼせる必要はある。

#4 - 変身のきっかけは、満月

 これを表すためには2つの方法がある。明示的に示す方法と、暗示的に示す方法だ。プレビュー期間にも取り上げたとおり、昼夜を示すメカニズムを作ることに我々は取り組んだ。ゲームの間のある瞬間に、太陽が出ているのか月が出ているのかを定義しようとしていたのだ。これが月夜を示す明示的な方法である。一方、暗示的な方法は、変化を作り出し、それによってプレイヤーが何となく月夜の雰囲気を感じるように仕向けるということになる。見ての通り我々が選んだのはこの後者なのだが、それについてはまた時を改めて語るとしよう。

#5 - すべての狼男は同時に変身する

 全ての狼男カードが同じ誘発条件によって変身する必要があるということである。一人のコントロールしているものが、ではなく、全てのプレイヤーの狼男がだ。

#6 - 狼男は野性を持たなければならない

 このフレイバーのために、我々は狼男をもっとも野性を示すのにふさわしい2色、赤と緑にした。過去の狼男は3種とも――獣人を加えると5種中4種が――黒だったことは取り上げておくべきだろう。

 私はしばしば「制限は創造の母」だと語ってきたが、狼男はまさにそれに当てはまる話である。守らなければならない制限を全て書き並べたのだから、あとはそれを顕現させるだけのことだ。

羊の皮を被った狼男

 狼男の物語は、両面カードから始まったわけではない。諸君は、両面カードは狼男から出来たのだと言うかも知れない。我々の最初のデザイン・ミーティングにおいて、私は今述べたような制限について語った。チームは私の主張に同意し、我々はそのメカニズム的な現実化に向けて議論を始めた。この議論の結果、変身がデザインの核になると言うことが決まったのだ。


ガツタフの咆哮者》イラスト Mark Evans

 チームで、変身を描き出すいくつもの方法について議論が重ねられたが、その中で傑出していたのが2つあった。1つは両面カードであり、もう一つは昼夜メカニズムである(これについての詳細は以前のコラムで、両面カードのデザインについての話の中で取り上げている)。狼男のメカニズムへの第一歩は両面カードへの道ではなく、昼夜メカニズムへの道だったのだ。

 先を続ける前に一言添えておこう。狼男のメカニズムはキーワード能力ではないし、それどころか固有の名前をつけられてもいない。だが、これはフラッシュバックや陰鬱、変身と同じようにデザインの一部である。実際、完成したイニストラードを使って何度もプレイしているが、このセットのメカニズムの中で一番出来が良いと私が思っているのは、この狼男のメカニズムである。

 昼夜メカニズムのデザイン中に出てきた大きな発想の転換は、今が昼か夜かを示す両面の昼夜カードだった。昼か夜かという状態を表すために何かを書き表すのではなく、単にこの昼夜カードを出せば良いのだ。その後は、このカードだけで処理することが出来る。

 昼夜カードを働くようにするための鍵は、1種類の記録だけをすればいいということだった。記録表の半分は昼で、記録表の半分は夜である。何らかの条件を満たすことによって、記録表のカウンターが1個進む。そのカウンターが片面の端まで到達したら、カードをひっくり返すことで昼と夜が変わるのだ。狼男を含む、昼か夜かを参照するカードには、昼の時はどんな状態で、夜の時はどんな状態かが記されている(そのための方法はいくつもあるが、実際にそこに至ることはなかったのでその方面の議論はなされなかった)。

 まず、その誘発条件は単一で、記録しやすいものである必要がある。次に、まれに起こるようなことでは忘れてしまうので、ある程度頻繁に起こることでなければならない。そして、両プレイヤーができる何かでなければならない。一人のプレイヤーが完全にコントロールできるようなものではないようにして、全てのプレイヤーが影響を及ぼすようにするのだ。こうかみ砕いていくと、答えはかなりはっきりする。呪文を唱えたことを記録すれば良いのだ。

 これが実際にどう働くのかを示すため、プレイテストで作ったサンプルカードを見てもらおう。

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 このカードは、1つめの場所にカウンターが乗った状態で戦場に出る。そして、どちらかのプレイヤーが呪文を1つ唱えるたび、カウンターが1つ進む。3つめの場所から4つめの場所に進むとき、カードは裏返って夜になる。すでに述べたとおり、変身カードは昼と夜それぞれの状態を持っているのだ。

 最終的に、この昼夜メカニズムは多くの問題が発見されて没になった。複雑すぎる上に長ったらしく、その時点で意味をなさないものを記録するという手間がかかるなどだ。呪文を唱えることを変身のために使うという発想自体はおもしろかった。ゲームに有機的な相互作用をもたらしてくれたのだ。これによって、どちらか1人が完全にコントロールするのではなく、両プレイヤーが影響を及ぼすことになる。

 失敗が成功の母だということもよく言ってきた。アイデアは生まれたときから完全な形だと信じられているが、実際はそうではなく、良いアイデアはいろいろなところから集められた情報を元にくみ上げられていくのだ。昼夜メカニズムはセットには入らなかったが、その中核をなした部分は狼男メカニズムの背骨となって生き続けている。

前門の人間後門の狼男

 昼夜メカニズムが没になって、我々は両面カードで行くことを決定した(このあたりについては先のコラムを読んでもらえばよく分かるだろう)。ということは、両面狼男をどのように仕上げるかを決めなければならないということである。

 上記の様々な問題を抱えて、私はデザインを始めた。狼男を両面カードにするのであれば、1つの面は人間で、1つの面は狼男である。何らかの誘発型能力によって、全ての人間は狼男になり、また別の何らかの誘発型能力によって全ての狼男は人間になる。2つの誘発型能力が別のものでなければならない理由は、狼男のうちの半分が狼男から人間になり、のこりの半分が人間から狼男になるというような状況を見たくなかったからである。

 呪文を調整装置に使うというアイデアは気に入ったが、呪文を唱えることは昼だ夜だには関係していない。これへの答えは、トップダウン・デザインといってもフレイバーに囚われるわけにはいかないというしかない。昼夜カードはこれと非常に近いフレイバーだった。太陽や月を示すものを置くのでなければ、直接それを表現する方法は存在しないのだ。

 遠い昔、フレイバーの鍵はそのものずばりだとは限らないということを学んだ。フレイバーを描くための最高の方法は、それを描かないことにある場合もある、というのだ。たとえば、満月と狼男は切っても切れない関係にある。そこで、何も描かずに狼男が変身するような状況を作ると、プレイヤーは自然と月のイメージを思い浮かべるものだという。私は他のあらゆるフレイバーを調べ、この誘発型能力から関連するようなフレイバーがないようにした。呪文を唱えることはマジックの根幹であり、自然に存在するものなので、月を連想させることが出来ると思ったのだった。


ハンウィアーの災い》イラスト Wayne Reynolds

 次は、呪文を唱えることをどう誘発型能力に仕上げるかが争点となった。人間から狼男にする誘発型能力が1つと、狼男から人間にする誘発型能力が1つ必要であった。人間から狼男にする誘発型能力は、狼男のコントローラーが狙えて、かつその対戦相手が止めようとすることができるものにしたかった。呪文を唱えないことは、その条件にまさにうってつけだったのだ。

 狼男のコントローラーは1ターン呪文を唱えないことで狼男に変身させようとすることができる。しかし、対戦相手は相手のターンにインスタントを唱えることで妨害することができるのだ。また、狼男の存在が対戦相手に圧力をかけることになる。戦場にある限り、対戦相手は毎ターン何らかの呪文を唱えるようにしなければならない。テストプレイの結果、これは適正な緊張感をもたらしてくれることが分かった。

 元に戻る誘発型能力は、もう少し難しかった。対戦相手ができることで、そう簡単にはできないことが望ましかった。1ターンに2つの呪文を唱える、というのはピタリとハマった。まず、対戦相手が毎ターンこれをすることはできないので、狼男はいずれ狼男になってしまうのだ。次に、変身を止める方が上策だということがある。狼男と戦うためには、狼男が狼男となる前に毎ターン呪文を1つずつ唱えるか、あるいは変身後の1ターンに呪文を2つ唱えるかしなければならない。両方は出来ないのだ。そして、狼男を使っている側のプレイヤーにとってもこれは足かせとなる。ターンに2つ以上の呪文を唱えたなら、せっかくの狼男が人間に戻ってしまうのだ。

 この、呪文を使わない/2つの呪文を使うという誘発型能力は、最初に試したものであるが、この上なくよく働いた。開発の間に2回の変更を経たが、それらはどちらもエリック・ラウアー/Erik Lauerとそのチームによるデベロップの間だった。まず、誘発型能力の処理は最初はターンの終了時だった。これは、たとえば「呪文を使わない」ターンの間にインスタントを使えてしまうという問題と、それ以上に、戦闘を終えた狼男が人間に戻った瞬間に即死してしまうという問題を抱えていた。デベロップはこの2つの問題を、誘発型能力のタイミングを次のターンの開始時(訳注:厳密にはアップキープの開始時)に動かすことで容易に解決できると見抜いたのだ。

 デベロップ中に施された二つ目の変更は、2つの呪文が唱えられたとき、というのを、1人のプレイヤーが2つの呪文を唱えたとき、にしたというものだった。デザインの段階では、変身するための条件は1ターンに2つの呪文が唱えられるというもので、それらのコントローラーが違っていても誘発していた。このデザインでは、狼男を使っている側のプレイヤーは相手に1つでも呪文を唱えられたら戻ってしまうということを恐れて、1つも呪文を唱えることができないという状況になっていた。


月霧》イラスト Ryan Yee

 狼男についてプレビューの間に触れた時に言ったとおり、最初は人間の側は単なる人間で、狼男の側は単なる狼男だった。これによって怪物を強化するカードや怪物対策のカードとおもしろい相互作用が生じていた。《忌まわしきものの処刑者》や《夜の犠牲》を手札に持って、相手の狼男が変身するまで待つ、というプレイングが必要だった。しかし、最終的には両方の面に「狼男」のサブタイプを持たせることで、もう一方の面を見れない領域にあるときにも狼男とそれらのカードとの相互作用が生じるように変更した。フレイバー的に言うなら、人間の姿をしていても狼男は狼男だ、ということになるだろう。

両面

 狼男のメカニズムが出来たら、いよいよデザインである。狼男メカニズムは非常に複雑なので、コモンの狼男はバニラやフレンチバニラ(開発部の言い回しで、能力を持たない、あるいはクリーチャー用キーワード能力だけを持つクリーチャーのこと)になった。デザイン上、コモンの狼男は変身するとパワーやタフネスが2倍になるようにした。こうすることで、変身後のサイズを忘れないようにしたのだ。デベロップ中にその数字は変更されてしまったので完全にそのままとは行かなかったが、コモンの狼男の中にはこの通りになっているものもある。

 ここでもう一つ。プレイヤーの多くから、「なぜコモンの狼男はバニラばかりなのか」という質問を頂いている。答えとしては、「狼男メカニズムは非常に複雑であり、パワーやタフネスだけを変更するようにすることでコモンに入れられるほどに単純にしたのだ」ということになる。

 より高い稀少度の狼男においては、2つの面をつなぐような仕掛けが用いられている。狼男の面は人間の面と関係があるが、強力な物になっている。たとえば《クルーインの無法者》は先制攻撃を持つ人間で、狼男になると二段攻撃を持つ。《扇動する集団》は攻撃クリーチャー全てに+1/+0を与えるが、変身した《野生の血の群れ》は攻撃クリーチャー全てに+3/+0を与えるのだ。

 狼男のデザインをパズルに喩えるなら、最後のピースは狼男を強化するものということになる。強化の仕方には二通りある。一つ目は、文字通り狼男を強化するもので、この例は《月霧》や《昇る満月》が挙げられる。

 二つ目は、余ったマナを使うことで無駄なく人間形態から狼男形態に変身できるようにするカードである。イニストラードのデザインにおいて装備品はいろいろな意味で秀でているが、狼男デッキに入れるとぬきんでた働きを見せる。デザインは各分類のカードを作ったが、デベロップはこれを少ないと判断し、さらにカードを追加したのだ。

 狼男対策のカードは、インスタントや軽い呪文ということになる。インスタントなら人間形態から狼男形態に変身する(ためにそのコントローラーが自分のターンに呪文を唱えないことを選ぶ)のを妨害することができるし、軽い呪文を使えば2つ以上の呪文を1ターンに唱えることも困難ではない。

狼男? 狼もいるよ

 これで今日のコラムは終わりになる。狼男がカードになるまでの長い道のりを理解してもらえたなら幸いだ。

 それではまた次回、イニストラードに関するまだ答えていない質問にお答えしよう。


イニストラード
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