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来いよイニストラード その1

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来いよイニストラード その1

Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru

2011年9月5日


 イニストラード・プレビュー第2週にようこそ。先週、このセットのもっとも過激な部分、両面カードのデザインについて語らせてもらった。様々な議論がわき起こってきているし、そのことについて書こうと思っていたのだが、それは実際に諸君がこのカードに触れてプレイするまで待つことにした。イニストラードのデザインについてはまだまだ語っていないことがあり、それを語るのもまた楽しみなのだ。前回の記事を読んでいない諸君は、まずそれを読んでくることをお薦めしておこう。

 今日は、いつもなら第1回のプレビューの冒頭でしなければならないことから話を始めさせてもらおう。つまり、デザイン・チームの紹介だ(前回のコラムでは両面カードについて語るだけで誌面を全部使い切ってしまったのだ)。


マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater、ジェンナ・ヘランド/Jenna Helland、
トム・ラピル/Tom LaPille、グレアム・ホプキンス/Graeme Hopkins、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfield.
マーク・ローズウォーター(リーダー)

 先週言ったとおり、イニストラードに関するアイデアは10年前からあった。それが印刷に至るまでにこれだけの時間を費やしたのは、あまりに時代を先取りしていて、受け入れられる時代が来るまで10年かかったということだ。このブロックのデザイン中、あるいはクリエイティブの仕事中にはトワイライト・シリーズ(訳注:1980年代半ばに発行された、一連のホラー小説。絶版)が飛び抜けて流行ったというわけではないが、ホラーの復活はこれをマジックのセットにするという点において重要な要素ではあった(諸君の多くはトワイライトがいい影響を及ぼしているなんて思ったこともないだろう)。

 私がこれを持ち出したのは、なぜ私がこのセットのリーダーを務めたかという重要な質問への答えになるからである。一個人が情熱的にそのビジョンを語り、それによって疑念を抱いていた人間が同意するに至ったなら、その個人を全体の監督に据えたいと思うだろう。私は何年にも渡って、ホラー・ジャンルのすばらしいセットを作ることができると主張してきた。従って、その初日から、私がリーダーを務めることは明らかだった。

ジェンナ・ヘランド

 同じく初日から、これはトップダウンのデザインにするということは決まっていた。つまり、最初から、メカニズムをクリエイティブに進化させる必要があった。そのために、クリエイティブ・チームのメンバーをデザイン・チームに迎えたいと思ったのである。私が最初に選んだのはジェンナであった。彼女はこのセットに非常に情熱的で、そして彼女の振る舞いから私は非常に印象づけられていた。ジェンナについて知らない諸君のために説明しておくと、彼女はマジック世界を作ることに強く関与している。他の人が世界のあるべき姿を言うと、ジェンナはどうやってそうするか、そしてセットに必要な条件を満たすように世界をくみ上げてくれるのだ。ジェンナをチームに迎えて成功したことは、彼女がクリエイティブ・チームとのすばらしい連絡役を務めただけでなく、すばらしいトップダウンのデザイナーになったということである。

トム・ラピル

 私はデベロップの中核となるメンバーをデザイン・チームに迎えることが好きだ。彼らは、後にデベロップで問題になるであろう問題をデザインの間に解決できるような重要な視点を提供してくれる。また、デベロッパーはデザイン側の視点からは忘れてしまいがちになる重要な質問を投げかけてくれる。私がトムをデザイン・チームに迎えたのは、これが初めてだ(多分基本セット以外でトムがデザイン・チームに入ったのは今回が初めてだろう)。先週の記事の中で、両面カードのアイデアを最初に提示したのがトムだったと言うことを言ったが、彼はこのセットのいろいろな性質を決定づける上で重要な存在だった。今回知ったことだが、トムはデザインにフレイバーを吹き込むのが好きで、このチームにはふさわしい人材だったのだ。

グレアム・ホプキンス

 第1回グレート・デザイナー・サーチの決勝進出者の中で一番の出世頭はケン・ネーグル/Ken Nagleだろうが、彼はウィザーズに残った4人のデザイナーの中で唯一今日でもウィザーズにいる人間である。マジックをデザインするのはグレアムの日常業務ではないが、彼はその能力を持っているので、可能な限り多くのデザイン・チームに彼を迎えるようにしている。イニストラードのデザインにはほとんどのデザイン・チームに求められているのとは大きく異なる感性が必要とされており、グレアムはその挑戦に名乗りを上げたのだった。私がグレアムを強く押している理由には、彼がセットに参加するたびに自分のやっていることをセットに必要なことになるように調整を重ねていることがある。イニストラードのグレアムは、すばらしく、そしてフレイバーに富んだデザイナーである。

リチャード・ガーフィールド

 かつて、私はそこらにいるマジックのプレイヤーだった。ウィザーズで最初に得た仕事は、デュエリスト誌でのマジック・パズルの連載だった(デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズにあるチャレンジと同じようなものだ)。リチャードはパズルとマジックが大好きで、彼はマジック・ザ・パズリングを楽しんでいた。初めて彼に会ったのは小さなゲーム・コンベンションの会場だったが、彼は私のパズルを賞賛してくれて、ウィザーズの人間と一緒にゲームをしようとホテルの部屋に誘ってくれたのだ。私は喜びに我を忘れるほどだった。

 14年の時が流れ、リチャードと私はまたゲーム・イベントで再会した。その舞台はテネシー州メンフィスの、世界選手権だった。ゲームの途中で、リチャードは雑談混じりに「マーク、私はまたマジックのデザイン・チームで働きたいんだよ。もしどこかのセットで席があったら教えてくれよ」と言ったのだ。

 この2つのイベントの間に、リチャードと私の関係はいろいろと変わった。お互いに友人となり、マジックもそれ以外でも多くのデザインで席を並べた。リチャードはマジックの多くのデザイン・チームに名を連ねた(実際、私がリーダーを務めたチームの多くにリチャードも参加している。テンペスト、オデッセイ、ラヴニカ、イニストラードがそうだ)。それら全てを踏まえて、私はリチャードからのその問いかけに目もくらむような気分になった。幸いにして、イニストラードが始まろうとしており、リチャードはトップダウンのデザインが大好きだった。何もかもがかみ合っていた。彼をチームに迎えるのはもちろん喜ばしいことだ。私のデザイン・チームにいつでも入れる切符を持っている人はそう多くはないが、リチャードはその少人数の中でも筆頭に位置するのだ。


トップ・ダウンタウンブギウギ

 今日の話は、前回の話で触れた内容から始めることになる。イニストラードのデザインの最初の会議のことだ。このセットの目標を説明した後、チームのメンバーにホラー・ジャンルの鍵だと思うものを思いつくままに挙げてもらった。今週と来週で、その時に挙げられたものを一つずつ検証していくつもりである。今回は「その1」なので、まずはこのセットの部族的な部分を取り上げて話していくことにする。「その2」では、墓地のデザインについて、その他のメカニズムについて、そしてそれ以外の様々なことについて語ろう。

ゾンビ

 ゾンビにはいくつかの問題があった。まず、デザインにおいて大きな問題として、「ブラックホール」問題と呼んでいるものがある。マジックの5色は全体として巧くバランスが取られているが、あるジャンルについて掘り下げていくと不均衡があることに気がつく。ホラーに関して言えば、注意しなければ黒ばかりのセットになってしまうことが明らかだった。全体として暗闇に包まれた不気味な世界なので、まさに黒の世界である。これを均衡させるために、私は、黒以外の色でできることはその色でやる、という特別なルールを作った。


戦墓のグール》 イラスト Dave Kendall

 一言:デザインは少しばかり抵抗を諦め、黒のカードを増やした。トーメントほどではなかったが、黒に他の色よりも多くのカードが必要なのは明らかだったので、増やしたのだ。しかし、デベロップはリミテッドをより安定させるため、そうしないことを選んだ。

 ゾンビを黒以外にすることは不可能だった。通常のマジックでは、黒に決まっている種族である。黒以外で論理的にゾンビを受け入れられる色があるかどうかということが大きな議題になった。部族要素を持つセットにおいて、部族が少なくとも2色にまたがるようにするほうがいいと考えているのは、そうすることによってその部族を使うプレイヤーに自由道が生じるからである。オンスロートの部族を使ったときに選択肢が少なすぎたことにはずっと不満だった。部族を2色以上にまたがらせようという私の情熱については、ローウィンを見てもらえば分かるだろう。

 ゾンビの問題に戻ろう。この答えは、ゴシックホラーの世界観に存在した。私が最初にゾンビについて、クリエイティブ・チームの名代を務めるジェンナに話したところ、彼女はドーン・オブ・ザ・デッドのゾンビは現代になって作られたものだということを示した。ゴシックホラーにもゾンビはいたが、それはジョージ・ロメロが作ったものではなく、(ファンタジーで言うフレッシュ・ゴーレムのような)フランケンシュタインの怪物系のものだった。

 そこで、私はフレッシュ・ゴーレムは意識していなかったが、より古典的なゾンビが必要だった。ホラーでゾンビというとそのイメージが強すぎ、それを取り除くのは違和感を生み出すだろうと言った。ホラー・セットに触れるプレイヤーは、それを想像するだろう。そこで、2種類のゾンビを導入すれば、2色目に分けることも簡単になるはずだ。ドーン・オブ・ザ・デッドのゾンビは黒だとして、フランケンシュタインの怪物やフレッシュ・ゴーレム系のゾンビは青、つまり、マッド・サイエンティストの色に置くことができる。青は知識の色なのだから、狂気にとらわれた男が知識を求めて恐ろしい実験をするというのはいかにも青にふさわしい。

 一言:元となった小説に出てきたフランケンシュタインの怪物は、私がここで語っているようなアーキタイプとは大きく違うということは分かっている。ただゾンビに関する現代の認識が変化しているということを示すために、「ハロウィンのフランケンシュタイン」と呼ぶべきものを使ったのである。

 これはトップダウンのデザインなので、2種類のゾンビは違うように動くことが必要だということも分かっていた。黒のゾンビに関しては、今までに見たことのないゾンビ・デッキを組むことに専心した。マジックにはこれまでにもゾンビ・デッキは存在したが、基本的には高速のアグロ・デッキ(ゾーンビーな感じ)だった。典型的なゾンビの物語では、ゾンビはそんな存在ではない。ゾンビの各個体は遅く、倒すのが難しい相手でもないものだ。

 私は、ゆっくりと時間をかけて圧倒的になるゾンビの軍団、というゾンビ・デッキを作ることに専心した。これにはいくつもの必要な方法があった。まず、ゾンビを墓地から蘇らせて手札なり戦場なりに戻す呪文や能力が大量に必要だった。次に、ゾンビに、トークンを作るというテーマを強く与えた。そして、ゾンビを戦場に出しやすくするカードを何枚か作った。これら全てを統合して、必要な雰囲気を作り出したのだ。

 そして生まれたのが、今日の私のプレビュー・カードである。デザイン中のある日の会議で、私はチームにある種のカードをデザインしようとしているということを説明した。必要なのは、我々の取り上げている各クリーチャー・タイプに一枚ずつの、強烈な神話レアだったのだ。

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 《オリヴィア・ヴォルターレン》は、その会議において作られた神話レアの吸血鬼である(神話レアの狼男は、《情け知らずのガラク》が神話レアの両面カードの地位を占めたときに追い出されることになった。そう、狼男の神話レアは存在しない)。今日の私のプレビュー・カードは、我々が作ったイカした神話レアのゾンビ・カードだ。台無しにしてしまいたくはないので、私が語るのではなく、まずはそのゾンビ自身に語ってもらうとしよう。

 結局、ゾンビのもっとも恐るべきところは、ゾンビ単体にあるのではなく、ゾンビの大軍団にあるのだ。《スケイズ・ゾンビ》は恐ろしくないが、13体の《スケイズ・ゾンビ》が出てきたらどうだろう? それが26体だったなら? いくつかのゾンビが持っている「タップ状態で戦場に出る」という部分は、ゾンビの動きが呪いというフレイバーを再現するためにつけられている。

 青のゾンビは、フランケンシュタインの怪物となった。最初は、青のゾンビは全て追加コストとして墓地にあるクリーチャーを1体かそれ以上追放することが必要だったが、プレイテストを経てそれは少しばかりやりすぎだと言うことが分かった。最終的には、両方を混ぜて青のゾンビらしいものを仕上げた。何枚かは墓地を肥やす働きをし、他のは墓地をリソースとして用いるのだ。また、黒のゾンビとの差別化のために、青のゾンビはいくばくタフネスが高いようになっている。黒のゾンビは打ち倒すことが簡単だが、研究室で作られたゾンビはそうではない。


忌むべき者の軍団》 イラスト Ryan Pancoast

 全体として、ゾンビの出来には非常に満足している。私の目標の一つは、カードがフレイバーに満ちているだけでなく、プレイそのものもフレイバーに満ちたものにすることだった。そして今回のゾンビの出来には満足しており、ゾンビファンの諸君に試してもらうのが待ち遠しいと思っているのだ。

狼男

 イニストラードが実現するまでの10年間、1つのことがずっと気にかかっていた。そのセットを作ったら、狼男を入れたいと。いくつかの理由から、マジックには狼男が事実上存在しなかった。1万2千枚を超えるカードの中に3枚だけ存在するが、どれも魅力的なものではなかった。ホラーをするなら、特にゴシックホラーをするなら、狼男はその中で大きな役割を果たさなければならない。

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 最初に取り組んだのは、色の問題だった。狼男を割り振ることができる、黒以外の2色とは何なのか?(既存の狼男は全て黒だったと付け加えておこう) 最初の選択は、もちろん緑だった。狼男は本質的に野生動物である。群れをなして狩りを行ない、野生化している。緑のクリーチャーにすることには問題はなかった。2色目として、私は赤を主張した。

 赤を選んだ理由は、ホラーの怪物は人間の欠点を描いたものだということである。狼男は、抑圧された怒りを表している。狼男によって人が衝動のままに振る舞うようになるということは、非常に赤っぽいと言える。デザイン・チームやその他の人との議論はあったが、私は赤が狼男の2色目としてふさわしいと確信した。緑と赤、それが狼男の色になった。


吠え群れの頭目》 イラスト Svetlin Velinov

 狼男の話はここからが厳しく長いのだ。公正に書こうと思えば、コラム1つを丸々費やすに値する。プレビュー後の最初の週のテーマは狼男なので、私はその話をそれまで取っておくことにする。ほんの数週間の辛抱だ、待っていてくれたまえ。その記事では、狼男をデザインするにあたって諸君の知りたいこと、そして狼男の変身メカニズムの完成に至るまでの話をしよう。

吸血鬼

 ゾンビと狼男にはそれぞれ未踏のデザイン領域が残っていた。このセットにはもう一つ吸血鬼が必要なのは分かっていたが、イニストラードで吸血鬼に与えられるべきものについては貴分かっていなかった。分かっていたのは、部族を使うのであれば、多くが存在するクリーチャー・タイプのものは2色以上に渡らせるべきだということだった。

 吸血鬼には当然黒が必要だ。黒の常連であるだけでなく、黒の寄生的性質に完璧にそぐうものだからである。問題は、2色目は何なのかということである。候補としては青があった。吸血鬼にはいくつもの性質がある。変身するし、霧に変わるし、精神支配をする。これらは青の性質だ。ただ問題なのは、青はゾンビにすでに使っていたということだ。2つの種族を同じ色空間に置くのはいいことではない。


吸血鬼の侵入者》 イラスト James Ryman

 白や緑は吸血鬼として問題外だったので、残された一色、赤に注目した。赤の吸血鬼というものを考えれば考えるほどに、そこには興味がわいてきた。ゴシックホラーには多くの情熱がある。その中で、吸血鬼が血の渇きに突き動かされて自分で自分を抑えられなくなる、という考えが気に入った。狼男が怒りに突き動かされるなら、吸血鬼は渇きに突き動かされている。そして、渇きは赤である。吸血鬼が衝動に突き動かされるという考えは、非常によさげに思えた。そして、このセットには攻撃的な種族が足りなかったので、黒赤吸血鬼というのはちょうどいいと思った(もしかしたらトム・ラピルはどこかのタイミングで黒赤が予想よりもアグロの色として良くなかったという話をするかもしれない。吸血鬼のアグロ・デッキを成立させるというのは、デベロップ上の大問題の一つだった)。

 吸血鬼の「スリス」能力(他のプレイヤーに戦闘ダメージを与えるたびに+1/+1カウンターを得るという能力)は、吸血鬼で攻撃したくなるようにとデベロップ中に与えられたものだ。デザインは他の方法で攻撃を推奨するようにしていたが、我々の投入したカード群よりもスリス能力の方がよく働くということを認めることになった。

人間

 意見出しの際に、ホワイトボードに最初に書かれたのは各種の怪物だった。その次に出されたのが「犠牲者」そして「モンスター・ハンター」だった。ホラーについて知っていくと、人間がその鍵を握っているということがわかってくる。怪物の餌食であり、怪物の源であり、怪物と戦って打ち勝つ存在でもある。ホラーらしく作ろうと思うなら、人間がその中で重要な役割を果たさなければならない。

 もう一つ、イニストラードで実現したかったことに、傷跡ブロックとの明確な差異を打ち出すということがあった。傷跡で描かれていたのは、2つの陣営の対立だった。イニストラードでは、それとは全く異なる雰囲気を描きたかった。イニストラード・ブロックの主人公は、人間である。このブロックは人間の物語である。最初は、人間はあらゆる方面から狩られる存在だ。傷跡と違って、敵側は協力しては来ない。それぞれの怪物にはそれぞれの計画があり、その中で人間を狩ったり怪物にしたりするのだ。


イラスト Jaime Jones

 この孤立のイメージを出すため、人間を白に配置し、白を他の4色から分けることにした。それを銘記するために、我々は白以外の4枚のカードからなるサイクルを数種類作った。これによって、人類が孤立しているという雰囲気を出せていると思う。

 もう一つ大きなことは、初めて「人間」という部族を作ったことだ。ミラディン・ブロックで種族・職業というモデルが導入されたとき、人間以外の種族だけを取り上げるのには違和感があったので、人間は種族として加えられた。当時は、人間をクリーチャー・タイプとしては用いるが、部族として扱うのはやめておこうということになった。

 それから時が流れたが、今までは人間と部族メカニズムを交えることはなかった。しかし、イニストラードのデザインにおいて、人間がブロックの中心的役割を担うことが明らかになった。プレイヤーに人間をプレイさせたかったので、メカニズム的にも人間という部族を扱う必要が出てきたのだ。そこには抵抗があったが、デザインが人間のイメージをくみ上げていくと、誰もが同意してくれた。

 人間には2つの長所を与えることにした。1つめは、数がいれば強く働くということだ。これは元々白が持っている長所である。そして2つめは、道具は人間の手にあるときにこそ凶悪に働くというものだ。怪物は道具を必要としないが、哀れな餌食や狩人は道具を必要とする。そこで我々は、人間の手にあるときに強化される装備品を作った。

幽霊(スピリット)

 物事がデザイン中に立案されることもあれば、調整中に変更されることもある。鍵となる4つの種族を並べてみると、黒と赤には2つ、白、青、緑に各1つずつの種族が属していることがわかった。全てを見渡してから、論理的に1つの結論が導かれた。青緑の怪物種族を1つ追加して、デザインの怪物部分は終わりにしよう、と。白は人間の色であり、他の全ての怪物に直面する色なのだ。

 セットには、1枚か2枚しか存在しないようなクリーチャー・タイプが大量に存在するものだ。その中で何を大種族に取り上げるかということを決めなければならなかった。そして、朝食にシリアルを食べているときにふと頭をよぎったのは、1975年にゼネラルミルズが発売した、5種類の怪物をテーマとしたシリアルのことだった。Count Chocula、Franken Berry、Boo Berry、Fruit Brute、Yummy Mummy。ゼネラルミルズは最も有名な怪物たちをネタにしようとしたのは明らかで、吸血鬼、ゾンビ、狼男は全て存在していた。

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 残りの2つは、幽霊とミイラだった。ミイラはゴシックホラーと言うよりもいかにもエジプト的なので、後の候補は幽霊、あるいはマジックのクリーチャー・タイプで言うならスピリットになる。幽霊の問題は、どうにも緑っぽくないということだった。まず、幽霊は飛ぶものだが、緑は飛ばないものだ。また、ホラーには無害な霊と悪霊の2種類の幽霊が存在する。

 これについて話し合っていくうちに、我々は、幽霊にふさわしい色は2つ存在するという確信を深めていった。その色は、白と青である。青は幽霊っぽい色であり、白もまた幽霊として理解できる色である。これによって、白と他の色の対立という図式を守ることができる。幽霊をそれっぽく描くために、他の種族と違ってスピリットは全ての色に存在できるように、ただし青と白を中心に、するということを決めた。

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 この解決法によって1つの穴が残された。緑以外の全ての色に、2つずつ種族がある。また、どの種族も友好色の組み合わせで色を持っているようになった。となると、解決策はやはり人間にある。狼男のせいで、すでに緑に存在しているので、人間はスピリットと同じく全ての色に存在できる。そこで、緑にも人間を割り振り、緑を人間の2つめの色に定めた。エルフがこのブロックに存在しないのは、一つには雰囲気に合わないこと、そしてもう一つには人間を緑に置く場所を作りたかったからである。これで、全ての友好色の組み合わせが成立することになった。

 幽霊は飛ぶものなのだが、デベロップはそれにもう一つの特徴を加えた。人間が死んだらスピリットになるというものだ。デザイン・チームはこのテーマに軽くだけ触れていたが、デベロップ・チームはそれを気に入って、より大々的に取り上げることにしたのだ。

イニストラードへ

 今日のコラムはここまでだ。また次回、ホラーっぽいものの書き連ねられたホワイトボードの前でお会いしよう。いろいろなものを入れたことをわかってもらえるはずだ。

 その日まで、あなたが夜に出会うものを楽しめますように。

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