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基本セットを着てみよう

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基本セットを着てみよう

Mark Rosewater

2011年6月27日


 基本セット2012プレビューへようこそ! 今週は最新基本セットのデザインについて語ろうと思う。まずはデザイン・チームの紹介だ。基本セットがどのようにデザインされたかの話をして、それからもちろん新作カードのお披露目もしよう。時間が足りない、今すぐはじめるとしようじゃないか。

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私がいないデザイン・チーム

 首席デザイナーとして、私はほとんどのデザイン・チームに所属している。現在の基本セットの原型を作った基本セット2010を除いては、私は基本セットのデザインからは身を引いている。理由はまず時間の都合がある。全てのデザイン・チームに所属するには物理的に時間が足りず、基本セットのデザインよりもそれ以外のデザインのほうが腕の揮いどころがあるのだ。加えて、基本セットは拡張セットと違って他のセットとのメカニズム的関連を考えなくても良いので、私が抜けても大丈夫だと思えた。基本セットのデザイン・チームに入らなかったことによって、私は、デザイン・チームにはいつでもすばらしいセットを作れる能力を持つデザイナーを組み合わせるべきだと思うようになった。基本セット2012も例外ではない。


マーク・グローバス/Mark Globus (リーダー)
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 2011年のデザインに関して気に入っていることの一つがこれだ。2011年のデザインすべて(5つとも)は、ケンかマークという名の人物がリーダーを務めている。ケン・ネーグル/Ken Nagleは新たなるファイレクシアとマジック・ザ・ギャザリング 統率者のデザイン・リーダーを務めた(それだけでないのは後で語る)。マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebはミラディン包囲戦のデザイン・リーダーだ。そして私、マーク・ローズウォーターはイニストラードのデザイン・リーダーを務めた(あー、もうちょっと......もう少しだけ......すんごいんだけど......)。基本セット2012のデザインは、3人目にして最後のマーク、マーク・グローバス/Mark Globusがリーダーを務めたのだ。

 マークは日常業務として、開発部でマジックの上席プロデューサーを務めている。彼の役目は、マジックのデザインやデベロップに含まれる全ての混沌と戦うこと(ほとんどの混沌への回答は「君の考えることじゃない」だ)で、仕上げなければならないものをきちんと仕上げられるようにすることだ。開発部が責任を持たなければならない商品の種類が多く、チームの数も多いので、非常に難しい仕事なのだ。では、なぜそういった組織側の人間がマジックのデザインにおいてリーダーを務めることになったのか?

 よく知らない諸君のために言っておくと、マークがウィザーズ・オブ・ザ・コーストに入社したのは、第1回のグレート・デザイナー・サーチ(リンク先は英語)だった。マークは惜しくも最後の3人に残ることは出来なかったが、4位タイになった。4位だったのだが、彼は航空券を手にすることが出来た(3人に絞られてから3人分のチケットを買うより、その前の段階で5人分のチケットを買うほうが安かったのだ)。そして、彼はグリーマックス・プロジェクト(ウィザーズの大デジタル事業)の一員として雇われ、プログラマーを監督する役目を得たのだった。

 マークの職務はマジックとは何も関係のないものだったが、その仕事のせいで2つの重要なことができた。1つは、人々や手順をマネージメントする能力に長けていることを示すことができたこと。もう1つは、開発部の色々なメンバーと知り合いになったことだ。これを足がかりに色々なことがあって、マークはマジックのプロデューサーという職務に就いたのだった。

 そのころから、マークはさまざまなデザイン・チームやデベロップ・チームの常連だった。デザインの切れ味がなければグレート・デザイナー・サーチで4位になることはできないので、彼らをよく使ったのだ。時が流れて、マークはデザインとデベロップの両面で素晴らしい仕事ぶりを見せていた。ある日、アーロンは基本セット2012でマークのデザイン・リーダーとしての腕を見せて貰おうという考えを持ち出した。私は、マークにその仕事をさせることに同意するとともに、祈りを捧げたのだった。

 そして、結局、アーロンの提案はまさに正しかった。マークは並外れて優れた仕事をしてくれた。彼の通常業務は彼が見事にこなしている業務の一つなので、それをやめて欲しいとは思わない。だが、彼がデザイン・マッスルを伸ばしてくれることを嬉しく思う。諸君が基本セット2012の全貌を目にしたら、彼の仕事に私が満足している理由もわかるはずだ。



ダグ・ベイヤー/Doug Beyer
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 最近の全てのセットはフレイバーを重視しているが、ほとんどは基本セットほどのレベルで重視してはいない。この理由は単純で、エキスパート・レベルの拡張セットは世界を構築している。従って、各カードのフレイバーは組み合わさってより大きなものを組み上げるためのものでなければならない。一方、基本セットでは単にクールでフレイバー溢れるカードを作るための自由度が大きい。つまり、平均的なエキスパート・レベルの拡張セットに比べて、より多くのトップダウン・デザインが存在するわけだ。クリエイティブ・チームのメンバーをデザイン・チームに招くことの価値が解っていただけるだろう。

 彼のクリエイティブ・チームとしての能力をテーブルに加えることに加えて、彼はもう一つ別のものをテーブルに加えてくれた。彼はカードをデザインすることに長けているのだ。ダグを私のデザイン・チームに招いたときは嬉しかった。そして、彼はサボったりしない。ダグは、クリエイティブ面からカードを見るため、カードを作ることに非常に面白い洞察を行なってくれることが多い。そして、メカニズム的に興味深いと同時にフレイバー的に理解できるようなカードを作ってくれる。彼はその2つを組み合わせることに天性のセンスを持っているのだ。

 ダグは基本セット2012にも参加したが、そう遠くない将来にまたデザインに参加することになるかもしれない。



アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe
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 アーロンはマジックに関して様々な功績を残している(まだ耳慣れない諸君のために言うなら、アーロンは現在のマジック開発部ディレクターで、つまり私のボスだ)。彼の最大の寄与を一つ挙げろと言われたら、基本セット2010を挙げることになるだろう。アーロンは基本セットに革命を起こし、それまでの再録だけのものからマジックを現在の形にするものにと進化させた。これによってマジックをアルファ時代からの王道に引き戻し、ブランドを再活性させたのだ。

 アーロンは基本セット2010、基本セット2011で続けてデザインのリーダーを務めた。基本セット2012のデザインが近づいてきて、アーロンは次のランナーに聖火を渡す時がきた、誰か他の人物にこの基本セットのビジョンを作成させようと判断したのだった。そして、アーロンは間違いなく内側に残り続けることを計画していたので、彼自身をデザイン・チームの一員とした。

 アーロン+基本セット=すげえ。彼がこのチームに関与することによる成功は、誰にとっても驚くべきことではなかった。



ケン・ネーグル/Ken Nagle
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 先日、ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanが他所でゲームデザインをしたいという情熱に駆られてウィザーズを離れたことによって、私自身を除くと、ケンがもっとも古株のデザイナーになっていた。なぜだ? なぜ、グレート・デザイナー・サーチのどこの馬の骨とも解らない挑戦者だった男が、もっともキャリアのあるマジックのデザイナーになったのか?(ここはBGMに映画「屋根の上のバイオリン弾き」より「サンライズ・サンセット」を想像してくれたまえ。映像的にはトムがデザインの仕事をしているところが次々と走馬燈のように流れる感じで)

 ケンが開発部に入ってもう4年以上になる(現在のデベロッパーでこれより長いのはエリック・ラウアー/Erik Lauerだけで、ほんの数週間の差だったはずだ)。彼はワールドウェイク、新たなるファイレクシア、アーチエネミー、マジック・ザ・ギャザリング 統率者でデザイン・リーダーを務め、今は2012年の秋に発売される大型セット「Hook」のリーダーを初めて務めている。それに加えて、数知れない数のデザイン・チームで彼の協力があるのだ。

 ケンはデザインのベテランになり、GDS2のインターン、イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerにマジックのデザインについて一つ二つ教える立場になった。そして、彼は基本セット2012のデザイン・チームでも良い仕事をしているだろうか? もちろんだ。誰かが彼にビデオカメラを向けたらすぐに語ってくれるようなスゴイカードを作っただろうか? もちろんだ。興奮でしゃべれなくなる前に終わった方が良いだろうか?(涙を堪えながら)もちろんだとも。


誰もが気に入る基本セット

 さて、マーク・グローバスは素晴らしいデザイン・チームを手に入れた。次に彼がすべきことは何か? 基本セットは拡張セットとは少しばかり違う。初心者のために、基本セットのデザイン・リーダーはいくつかの質問に答えることから始まるのだ(一方、大型拡張セットのリーダーは大抵、素敵な白紙の紙から話を始められる)。今日のコラムでは、それらの質問を試験し、マークと彼のチームがどう答えて行ったかを伝えようと思う。

 問題の順番は私が思いついた順番であって、答えた順番ではない。実際、ここで強調しておくべきことは、これらの質問は今回のデザイン中、全て同時に答えられたのだ。喩えて言うなら、デザインは多くのボールを使ってのジャグリングのようなもので、その全てに注意を払わなければならない。それを踏まえて、質問に行こう。


除くカードは? 残すカードは?

 基本セットのデザインにおける最初の大問題はこれだ。前のセットからの継続性を感じさせ、基本セットだと感じさせるためにある程度前のセットと似ていなければならないが、新しいセットだと感じさせるためにある程度違うものでなければならない。これを達成するにはいくつもの方法があるが、デザイン・リーダーとそのチームが最初に取り組まなければならないことの一つに、何を残すか何を除くかということがあるのだ。

 これらのリストは常に変わり続けるということは覚えておいてくれたまえ。例えば、タイタンを基本セット2012に残すかどうかということについては多大な議論があった。それらのカードは基本セット2011で導入されたので、開発部の中にはもしこの強力なクリーチャーをすぐに除いたらプレイヤーが怒るに違いない、という意見があった。一方で、タイタンは充分活躍したので他のカードに注目を集めるべき時だという主張もあった。《稲妻》や《悪斬の天使》についても同じように多くの議論が重ねられた。

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 一般に、強力なカードというものはえてしてこんなジレンマを抱えるものだ。「もし取り除いたら、スタンダードで使えなくなることでプレイヤーが怒る。もし残したら、新しい強力なカードを入れる場所が1枚分減る」 他のカードに注目を集められるようにすることは重要なので、強さの継続性という意味でバランスを取る必要がある。

 次に進む前に、《大蜘蛛》と《巨大化》について話そう。これらの2枚のカードは基本セットの生き残り(リンク先は英語)最後の2枚だった(最初にこれについてやり始めたのは私のコラム(リンク先は英語)だった)。デザインに入って、開発部の誰もがこのなかのどちらか1枚だけを残すということを知っていた。この話の面白いところは、そのどちらを残すべきなのかは誰も知らなかったということだ。デザイン期間のほとんどの間、《巨大化》がセットに入っていた。だが、デベロップに提出する直前になってデザイン・チームは?非公開の?いい理由を思いついて、《巨大化》を《大蜘蛛》に差し替えたのだ。デベロップは一度それを元に戻したが、《大蜘蛛》のほうが《巨大化》よりも必要だということが明らかだった。《巨大化》の心配はいらない、いずれ戻ってくるさ。

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戻すメカニズムは?

 基本セット2010が大枠を作り、基本セット2011がその新型の中にいくつかのものを加えた。加えられた中で最大のものの一つは、メカニズムを戻すということだ。基本セット2011は、占術を再び投入した。基本セット2012にも同じように戻すべきメカニズムを決めなければならない。


憤怒生まれのヘルカイト》 イラストレーション:ブラド・リグニー/Brad Rigney

 そのメカニズムには以下のような基準がある:

#1 - 戻すメカニズムであること。今の基本セットには新カードが入っているとはいえ、誰も新メカニズムのお披露目に相応しい場所だとは思っていない。従って、そのメカニズムは戻ってくるものでなければならない。

#2 - 複雑すぎるメカニズムでないこと。基本セットはエキスパート・レベルの拡張セットに比べて複雑さの上限が低い。この理由は、基本セットは入門のための場所と位置づけられているからである(プレイヤーはどのセットから入門しても良いしどのセットからもマジックを始めるものだが、販売店が新規のプレイヤーに薦めることができる商品は必要だと強く感じているのだ)。

#3 - 単純なデザイン空間を残しているメカニズムであること。全てのメカニズムが同等な者として作られたわけではない。多くのカードに使えるようなものもあれば、一握りのカードにしか使えないような底の浅いものもある。ここで戻すメカニズムは、単純でエレガントなデザイン空間を残しているものでなければならない。一般に、我々はここでメカニズムを進化させることには興味はなく、まだ作られたことのない単純なものを見つけたいだけである。

#4 - 最初に登場した時と同じ形で使えるメカニズムでなければならない。エキスパート・レベルの拡張セットはメカニズムを再利用する際に進化させがちである。基本セットではそのような贅沢はしない。つまり、そのメカニズムが最初に使われたときにどうであったにせよ、基本セットはそのままの形で再利用するのだ。

#5 - そのメカニズムにはフレイバー性が必要である。基本セットはカードにするために雰囲気のある情景や軍勢を強く求めている。セットに人を引きつけるような魅力を与え、その魅力はメカニズムにも染み出るのだ。

#6 - 人気があるメカニズムでなければならない。我々が新しいメカニズムを作る時、我々はそれについてプレイヤーがどう思うかのデータを集める。人気がなかった場合、人気がない原因を取り除くような形でそのメカニズムを少し弄って再利用することがある。これはつまり、メカニズムを変更するということであり、上の#4の規則違反である。

 マークと彼のチームはいくつものメカニズムを検討した。そして最後に戻すメカニズムとして残ったのは、狂喜だった。

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カッコイイ再録カードは?

 基本セット2010以前の場合、基本セットはカッコイイ再録カードの見せ場だった。デザイン・チームが答えなければならない質問の一つに、マジックの歴史から戻してくるべきカッコイイものは何か、というものがある。私もこの問いに完全に答えることはできていないが、デザイン・チームはこの要望に応えなければならないとは言える。

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このセットと前の基本セットとどう違う?

 多くの意味で、これはもっとも答えにくい質問である。エキスパート・レベルの拡張セットには独自性を出すための多くの道具がある。全ての基本セットは満たさなければならない基本線があって、複雑さの上限も厳しい。だが、幸いにもいくつかの手法がある。

 まず、戻すメカニズムを使うことでセット毎に変えることができる。基本セット2011は占術があって、これは呪文のメカニズムだった。基本セット2012には狂喜があって、これはクリーチャーのキーワードだ。これによってセットの遊ばれ方は、特にリミテッドにおいては少しばかり変わることになる。

 もう一つの道具は、サブテーマの使用である。サブテーマは、低い希少度の一握りのカードに現れるもので、ドラフトやカジュアルな構築においてある方向性を加えてくれるものである。基本セット2012においては、サブテーマはエンチャント、特にオーラである。サブテーマによってセット全体の雰囲気をねじ曲げないよう、それほどは強調されない。

 マークと彼のチームは、複数のカードを使って雰囲気ある比喩にも手を出している。基本セット2010や基本セット2011ではカード個々には多くの雰囲気ある比喩が存在したが、マークは1枚だけでなく複数枚にわたるものを発見しようとしたのだ。

 それら一つ一つは全体において大きなものではないが、それらの組み合わせによってこのセットに独自性を与え始めている。


新カードはどんなの?

 最大の問題を一番最後に残しておいた。諸君がデザイン上で何をしたにせよ、プレビューが始まればプレイヤーはみな同じことを望むのだ。つまり、「我らに新カードを!」と。興味深いことに、そのニーズは非常に直接的なので、デザイン・チームにとって最も簡単なことの一つだ。いや、そうじゃない。カッコイイ新カードを作るのは難しいことだ。ただそれを知らせることには脳みそなんていらないということさ。


新カードといえば、どんなの?

 このコラムをずっと読んでくれてきた諸君は、私がゾンビの大ファンだと知っているかもしれない(昔、それについてのコラム(リンク先は英語)を書いたことがあるほどだ)。基本セット2012からとてもカッコイイゾンビを紹介できることは無上の喜びである。


基本能力

 見ての通り、基本セットには多くのデザイン上の問題が存在する。今回のコラムが、いくらかでもデザイン・チームが答えなければならない問題の内容について理解する助けになっていれば幸いである。

 それではまた次回、諸君の心を虜にする人物を紹介するときにお会いしよう。

 その日まで、「どこで基本セット2012をプレイできる?」という問いへの答えがあなたのもとにありますように。

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