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問題は伝―ちょっと待って―説だ

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問題は伝―ちょっと待って―説だ

Mark Rosewater

2011年5月9日


 法務官特集にようこそ。今回は、新たなるファイレクシアを率いる伝説のクリーチャーたちの神話レアサイクルについて話そう。デザイン上は、前回のコラムで語った以上に語れることはないので、今回のコラムでは普段語らないような内容について語らせて貰うことにする。諸君に、今以て解決されていないデザイン上の問題について語ろう。これがなぜ法務官特集なのか? それは、この問題が法務官一般にも共通する問題だからである。つまり、特殊タイプの「伝説の」という奴だ。

 一つ目の閑話(閑話は後でまたやる。うん)。ここで語ろうという問題は、「贅沢品の問題」と私が呼んでいるものだ。ゲームは今のままでもきちんと働くし、この問題を孕んだままでも問題なく動き続けることができる。開発部が取り組んでいることの一つは、常にこのゲームを向上させていく方法を探す、ということだ。今日の問題はこの区分に分類される。一言で言うと、開発部は現状をよしとしているが、改善の余地はあると言うことになる。今日のコラムは、開発部が改善の余地を見いだしている問題を認識して貰うことが本題である。


「本当の話」

 「伝説の」特殊タイプに関する問題を論じる前に、ちょっとした歴史の勉強から始めよう。親愛なる諸君、私とともにWABACマシンに乗り込み、ダイヤルを1994年の夏に合わせようじゃないか。マジックはまだ世に出て一年も経っていないこの時期に、3つめのエキスパンション「レジェンド」を発売した。スティーブ・コンラッド/Steve Conrad とロビン・ハーバート/Robin Herbert の手によるデザインのレジェンドは、マジックに全く異なる方向性を与えたのだ。スティーブとロビンはそのセットの元ネタを、自分たちのダンジョンズ・アンド・ドラゴンズのセッションに求めた。多くのカードは、彼らやその友達がプレイしたキャラクターを参照していた。特定個人であるというイメージをもたらすため、スティーブとロビンは新しいクリーチャー・タイプ、レジェンドを導入したのだ。

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 これらのレジェンドの複雑なフレイバーを再現するため、スティーブとロビンはもう一つ革命的アイデアをマジックに持ち込んだ。多色カードの概念である。これらの人物は非常に特殊だったので、新しいサブタイプと多色のマナ・コストの両方を用いる唯一の存在とした。それらに焦点を当てていたのは、セットの名前を見ても明らかだ。

 1年後、次の大型セットアイスエイジの発売時に、レジェンドというサブタイプが再び登場した。枚数はわずかに4枚、うち2枚は多色だった。このときこそ、そのサブタイプに何らかの可能性が秘められていると言うことが解った最初の時だった。アイスエイジの次のセットはホームランドで、ここには14枚のレジェンドが名を連ねていた。

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 当時のレジェンドはメカニズム的なものを内包したサブタイプで、メカニズムではなかったことを思い出して貰いたい。この違いの重要なところは、クリーチャー・タイプの使用には制限がなかったので、デザイナーが何らかのサブタイプを必要としたなら、それを使うことが出来たのだ。つまり、いつでもレジェンドを入れることができたということになる。

 私は、ホームランドでのレジェンドの意義を、人物を強調することは有意義であり、他のセットでもすべきことだと示したことだと感じている。ホームランドはメカニズム的に大成功を収めたとは言い難いかもしれないが、過去のセットに比べてフレイバーが大きな役割を占めることが出来るということを示したのだ。アイスエイジからこちら、レジェンドというサブタイプは全てのセットに存在しており、中でもいくつかのセットではさらに多くのレジェンドが存在した。


「はぁ?い、テッドに会った?」

 レジェンドというサブタイプへの次の変化は、神河物語というエキスパンションとともに訪れた。開発部は、ルールを内包したサブタイプ2つ、「壁」と「レジェンド」の存在が長い間ずっと嫌いだった。壁問題を解決するため、開発部は「防衛」というキーワードを作り、壁というサブタイプを持つ全てのクリーチャーに遡って防衛を与えたのだ(今日でも、サブタイプが「壁」のクリーチャーは当然に防衛を持っていると思われている)。こうして、壁とその内包されていたルールを切り離したのだ。

 壁の修正は簡単だった。では、レジェンドはどうか? 我々は、壁に対してやったのと本質的に同じことをレジェンドにもしようというアイデアをこねくり回した。全てのレジェンドが「伝説」というキーワードを持つとしたらどうだろうか?

 サブタイプとの関連を脇に置いて、レジェンドにはもう一つの問題があった。レジェンドの導入時、レジェンドのメカニズム的な働きは以下のようなものだった。あるレジェンドが戦場にない限り、誰でもレジェンドを使うことが出来る。同名のレジェンドが戦場にあれば、そのカードは使えず、オーナーの手札にあるままになる(望むなら唱えることは出来るけれども、新しい方のレジェンドは即座に墓地に置かれるので唱える道理はない)。

 この問題はメルカディアン・マスクス・ブロックの間に顕著な問題になった。トーナメント環境を支配していたデッキが、レベル・デッキと呼ばれるデッキ(レベル・メカニズムを使ったデッキ。そのメカニズムそのものには名前はないが、その能力を持ったカード全ては同じように働くのだ)だった。レベル・デッキのキーとなったカードが、《果敢な勇士リン・シヴィー》というレジェンドだったのだ。

 このカードはこのデッキのキー・カードだったので、レベル・デッキ同士の対戦になると、先に《果敢な勇士リン・シヴィー》を出した側が圧倒的に有利になる。開発部はこのゲームの状況をあまりにひどいと感じ、必死になって解決策を探した。浮かび上がってきた解決策の一つに、2枚目のレジェンドは全てのレジェンドを破壊するというものがあった。この方法で、対戦相手が先に戦場にレジェンドを出している時にそのレジェンドを引いたとしたら、その引いたレジェンドを使って、少なくとも相手のレジェンドを対消滅させることができるのだ。

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 開発部はこの変更について話し合ったが、いつどのように変更するかは判らなかった。やがて訪れた神河物語、このセットには全てのレア・クリーチャーがレジェンドである、というギミックが組み込まれていた。

 閑話。私はしばしば、私のすんばらしいアイデアを印刷まで持って行くために否定者たちとの闘いをくぐり抜けなければならなかった、という話をする。これは、誰かが止めてくれればいいと思った私のアイデアの一つだ。見ての通り、私は神河物語(や、その宇ロックの他のセット)のデザイン・チームのメンバーではなかったが、神河物語のデベロップ・チームの一員だった。私がデベロップ上で何度も繰り返していたテーマの一つは、このセットの中心的テーマが何なのかを理解してなかったことである。

 やがて、このセットはレジェンドがテーマだと言われ、プレイヤーに見えないものをテーマにするのは難しいと答えた。プレイヤーが気づく機会を与えるためには、全てのレア・クリーチャーと一部のアンコモンのクリーチャーをレジェンドにするしかないと。結局そうなったのだが、まずそれでは充分ではなかった(「asfan」実際にブースター・パックを剥いてカードを目にする頻度の重要さに関する理解は当時まだ充分ではなかった)。そして、何か特別なものを取り上げ、そしてあまりにも多くのそれを作る、ということは、その作ったものが特別でなくなるという最悪のプランだったのだ。

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 なんにせよ、神河物語は名高い帽子をレジェンドの輪の中に投げることが決まったので、我々は今こそレジェンドに変化をもたらすときだと感じた。レジェンドは文章で書くには冗長になりそうだったので、我々は「壁の解決」をせず、文章欄の場所を取らない解決策を探すことになった。これが特殊タイプを使おうという発想の元である。「基本」という特殊タイプはこの前年に導入されていたので、そういう技法が存在することは判っていた。

 特殊タイプは名詞であるカード・タイプの前につくものなので、自然に聞こえるように「レジェンド」は「伝説の」に変わった(インスタントはマジックの文脈で充分に使い込まれて、名詞として扱っても違和感がなくなっているよね)。我々はこの変更を神河物語の中で行ない、それ以来ずっと「伝説の」の働きは変わっていない。


「挑戦は認められた」

 さて、ここに至るまでの話はこれで終わり、ここからは現時点で存在する問題の話をしよう。一言で言うと、開発部は「伝説の」が嫌いだ。誤解を招かないように言うと、特定の人物を表現するカードの存在は大好きだ。マジックにおいて注目に値する個人の存在が必要であることは理解しているし、全力でそれを支援している。明確に、伝説のクリーチャーは統率者戦において大部分を占めているし、今夏のマジック・ザ・ギャザリング「統率者」発売でも判るとおり、我々は全力でこの形式に協力している。我々の問題は、「伝説の」という特殊タイプがどう働くかという一点にかかっているのだ。

 何が気に入らないのか、ここで説明させて貰おう。

問題#1:完全に不利益しかないメカニズムである

 毎年、我々は市場調査により、プレイヤーが前の年のカードについてどう考えているかを調べている。この調査の一部として、キーワード・メカニズムの何が好評で何が不評だったかの情報がある。このデータは我々にとって2通りの意味がある。まず、プレイヤーが特定のメカニズムについてどう考えているかということを知ることが出来。これによって、そのメカニズムを戻そうと思っても良いかどうかの判断基準になる。そしてもう一つ、これによって潮流が判るのだ。

 以下の5つのメカニズムは、どれもこの調査によって不評とされたものである。エコー、消散、フェイジング、待機、消失。

 これらのメカニズムが全て共通に持つ要素は何か? それは、開発部曰くの「不利益メカニズム」であるということである。これらはどれも、プレイヤーにより強力な呪文を低いコストで使えるようにするために他の何かを代償とするものである。クリーチャーがターンごとに現れたり消えたりするとか、数ターン後に消滅してしまうとか、戦場に出るまでに何ターンもかかる可能性があるとかだ。

 これらの不利益メカニズムは、調査の結果、評価が低いことがわかった。しかし、それで消滅することはない。不利益メカニズムの評価が低いだけでなく、不利益カードのほとんども評価が低い。例えばアップキープ・コストの数がハッキリ減っていることの理由は、プレイヤーがそれを嫌うからである。これにはもちろん例外が存在する。充分強ければ、プレイヤーはほとんど何でも受け入れてくれるだろう。ただ一般論として、ほとんどのプレイヤーは不利益を嫌うのだ。

 これが「伝説の」の持つ一つめの問題だ。完全に不利益だけなのだ。ここでは、メカニズム的な話だけをしている。フレイバー的な利点はいくらでもある。実際、フレイバー的な利点があるからこそメカニズム的な不利益を何年にも渡って甘受してきたのだ。にもかかわらず、「伝説の」は近年我々が減らそうとしていることをし続けているのだ。

 ここでまた閑話。私が、開発部は不利益に対して否定的だと言ったからといって、完全に消そうとしているということはない。不利益カードにも(そして場合によっては不利益メカニズムにも)あるべき時期や場所があるが、我々はそれを使うのに非常に注意深くなっており、特定の目的のためにのみ使うことがあるだろう。私は、不利益が完全になくなるわけではないと強調しておきたい。単に、言うなら、減るだけなのだ。そしてこれは全て何年も前に起こったことであり、現代マジックにおいては、存在する不利益の量はほぼ一定に保たれている。

問題#2:無駄なドローを生成する

 ゲームデザインの重要な一面に、テンポと呼ばれるものがある。テンポの考え方とは、ゲームをその終局に向けて動かし続けたい、というものである。これを行なうことの中に、毎ターンゲームを前に進めるような何かを確実に起こせるようにする、ということが含まれる。マジックにおいてテンポを進めるためのキーとなる道具は、ドローである。毎ターン、新しいリソースを手に入れ、それまでできなかった何かをできるようになる可能性をもたらすわけだ。

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 「伝説の」という特殊タイプの大きな問題の2つめは、無駄なドローを生成することである。つまり、戦場に伝説のパーマネントを出している時に自分でそれと同じカードを引いてしまったら、それは何の訳にも立たないカードであり、空白のカードを引いたのと同じようなものである(最初のパーマネントが破壊されたときに2枚目を持っていれば出すことが出来るから完全に無駄というわけではないが、「伝説の」という特殊タイプを持たないカードの2枚目を引いたときに比べればかなり無駄になる)。土地はゲームの後半では無駄なドローになることがあるが、デザインもデベロップもマナを使ってできることをプレイヤーに提供しているのでしばしば土地は無駄なドローにならないことがある。

 この問題の派生として、プレイヤーは伝説のカードを4枚入れたがらない傾向にある。これは、伝説のパーマネントを中心としたデッキを作りにくくしているとともに、それらを引く可能性を下げている。それら一つ一つの影響は小さいが、積算するとかなりのインパクトを与えることになる。

問題#3:楽しくないゲームのプレイを導く

 仮に諸君がクリーチャーが好きで、それをデッキに入れたとしよう。諸君がそのクリーチャーを唱える前のターン、対戦相手は同じクリーチャーを出してきた。ここで2つの場合について考えてみよう。そのクリーチャーが伝説のクリーチャーである場合と、そうでない場合だ。

シナリオA(普通のクリーチャーの場合)

 対戦相手がクリーチャーを唱える。諸君のターンに、諸君がそのクリーチャーを唱える。両方のクリーチャーが戦場に顔を並べる。どちらもそれを使うことができる。お互いに戦うかもしれないし、プレイヤーにダメージを与えることになるかもしれない。あるいは、そのクリーチャーに何か手札からカードを出して組み合わせてクールなことをするかもしれない。この場合、諸君とその対戦相手はどちらもそのカードを活用できるわけだ。

シナリオB(伝説のクリーチャーの場合)

 対戦相手がクリーチャーを唱える。諸君のターンに、諸君がそのクリーチャーを唱える。両方が墓地に置かれる。もはやどちらのプレイヤーもそのカードを出していない。相互作用もなく、ゲーム上の活用もできないことになる。

 ここで強調しておきたいのは、シナリオBで見たような相互作用が完全に悪いわけではないと言うことだ。ゲームは、脅威とそれへの対処、すなわち、先にプレイされたカードを後に中和する、ということを必要としている。問題は、通常のマジックでは中和するものが毎回変わるということにある。あるゲームで《稲妻》を使って除去したクリーチャーは、たいていの場合、次のゲームで《稲妻》を喰らうクリーチャーとは別である。この変化が、カードそれぞれに日の当たる瞬間をもたらしているわけだ。伝説のパーマネントは、お互いに対消滅することしかできない。これはつまり、彼らは他のパーマネントに比べ、平均として戦場に残りにくいということを意味する。これは、我々が脚光を当てたいと思っているカードにとって特に悪いことである。

 加えて、伝説のパーマネントはお互いに対消滅しかしないので、違うゲームでも同じような使い方をすることになりがちである。プレイの種類が少ないのだ。このコラムを長い間読んでいる諸君は、私が、多様性はゲームデザインを楽しいものにするための最も重要な面の一つであると感じていることを知っていることだろう。

問題#4:プレイヤーが対策としてプレイしがちになる

 もう一つ、「伝説の」という特殊タイプがゲームプレイを悪化させる兆しがある。伝説のクリーチャーがイベントで使われるレベルに強かったとしよう(そして我々は最高レベルのマジックでもストーリー上の人物を光らせたいと思っている)。プレイヤーの中には、対戦相手の持つ伝説のパーマネントに対抗するため、それと同じカードをデッキに入れ始める者がいる。こういうプレイヤーは、そのカードをパーマネントとして使いたいからデッキに入れるのではなく、他のカードへの対策としてだけ必要としてデッキに入れるのだ。つまり、最初に引いたとしても既に無駄なドローになる場合があるということになる。

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 見てきたとおり、伝説のという特殊タイプには多くの問題点がある。我々の望むような働きをしないだけでなく、楽しくないゲームの原因となる様々な状況を作ってしまうのだ。


「悲しくなったら悲しむのを止めて代わりにすごくなれ」

 ということで、開発部の目の前には難問が積み上がった。「伝説の」という特殊タイプは、以下の条件を満たさなければならない。

  1. 何か無二のカードを意味する特殊タイプが必要である。クリーチャーの場合、それは特定の人や特定の動物、つまり登場人物を意味する。
  2. この特殊タイプの働きは、ストーリー的に筋が通っていなければならない。「伝説の」はメカニズムであると同時にフレイバー的なものであり、従ってメカニズム的に我々がすることはフレイバー的に意味をなさねばならない。しばしば、我々はゲーム的な理由でフレイバーに目をつぶるが、これはそうするべき場合ではない。
  3. 「伝説の」に関する新しいルールは、直感的でなければならない。この新しいルールを説明したとき、プレイヤーがその説明を聞いていかにもそう働くべきだと理解できなければならない。感覚にそぐうメカニズムの重要性については何度も説いてきたとおりであり、特殊タイプ「伝説の」についても同じことである。
  4. 新しいルールは説明しやすくなければならない。上の3つの条件を満たした解決策でも、説明するのに何段落も要するようなものは使い物にならない。発想は直接的で、比較的単純でなければならない。

 私はこのコラムで、いかにして開発部が特定の問題を解決したか、という話をよくしている。今回は少しばかり趣向を変えてみた。これは開発部が今現在取り組んでいる課題なのである。問題を1つ解決すると、2つの未解決の問題が出てくるものだ。このコラムは複雑な仕事で、決して終わることのない仕事である。この特定の問題を解決するためにどれぐらいの時間がかかるのかは想像できない。あるいは明日解決するかも知れないし、永遠に解決しないかも知れないのだ。そして、このコラムが存在し続けることの教訓は、「いつでも解決すべき問題は残っている」ということなのだ。

 それではまた次回、私がカードになったときに。

 その日まで、他の人が直面しただけの問題にあなたが解を見いだせますように。

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