READING

読み物

翻訳記事その他

完璧化の展望

読み物

翻訳記事

authorpic_tomlapille.jpg

完璧化の展望

Tom LaPille

2011年5月6日


 マジックのデベロッパーとして、私は3年間に渡って基本的に商品開発に携わってきました。その間に学んだことの一つに、良い商品を作るためにはその商品全体の展望を理解しなければならないということがあります。全ての商品には全体像が存在し、個々の小さな決定はその全体像を形作ることを助けるようなものでなければならないのです。特に何らかのプロジェクトのリーダーを務めるときには、様々な最終決定をしなければならないという意味でも、またチームの他のメンバーには見えない様々な決定をしなければならないという意味でも、このことは顕著です。一方で、チームのメンバーにとってもこれは重要なことで、私は新たなるファイレクシアのチームに所属していました。このセットに関して、私は私の展望を組み上げ、そしてそれが他のメンバーのものと一致しているかどうかを確認してきました。

 マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater はミラディンの傷跡のプレビュー記事において、彼自身が見つけ出したファイレクシアを表す4つの単語、「変化する」「毒的な」「容赦のない」「ウィルス的な」を挙げています。私は彼に倣ってファイレクシアらしさを探しましたが、彼とは異なる結論を求めました。新たなるファイレクシアは、文字通り「新たな」ものなので、異なる単語が欲しかったのです。

ld141_blind.jpg

 私自身の見つけ出したのは2つの単語でした。「違反する」と「イカサマ臭い」です。私にとって、ファイレクシア人は地球侵略ものの映画に出てくる地球外生命体と同じようなものでした。侵略者の精神構造を持ち、こちらのことを一切考慮しない、それどころか意思疎通も出来ない神秘的な外来者です。今や彼らが勝利し、ミラディンに対してやりたいことを何でもすることができるようになりました。彼らがすることとは、言ってみれば今までに我々に起こったことのないことです。ファイレクシア人は道徳性を持たない、ウィルス的な機械仕掛けの獣の群で、多元宇宙を支配するという集団意識の元に動いているようで、我々のような普通の人類を違反的かつイカサマ臭く害する行動を取るものなのです。我々はそれをカードで表さなければなりませんでした。

 これは、デザイン・リーダーのケン・ネーグル/Ken Nagle やデベロップ・リーダーのアーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe の持っていた展望と完全に同じではありませんでした。彼らの持っていた2つの単語を推測するなら、「邪悪」と「厄介」になるでしょう。厄介であると言うことは彼ら2人の持つ性質でもあり、彼らは何のてらいもなく対戦相手を楽しさ以下の経験に叩き込むことを楽しむのです。私がファイレクシアは邪悪なのではなく単に無法で侵略者なだけなのかもしれないと言ったところで、邪悪は、ファイレクシアを表するのに選ばれるのは当然の単語です。いずれにせよ、彼らはどちらも私の2つの条件を満たすカードを作ることを非常に楽しんでいましたので、私も心配はしていませんでした。これから、その中の数枚を詳細に見ていきましょう。

ld141_card01a.jpg
ld141_card01b.jpg

 このカードはデザインから直接出てきたカードなので、デベロップ側にはあまり語るべきことはありません。語るべきことといえば、このセットに存在しなくなっているこのサイクルの残りのカードのことでしょうか。ケンは「自分に優しく、相手に厳しく」というのを非常に気に入っていましたし、私たちも気に入っていました。不幸にして、そういったサイクルを3つ丸々入れるのは少しばかり挑戦的すぎました。総督と法務官は既に存在していましたし、能力にしてもかなりの部分を使い切っていました。もう一つサイクルを作るだけの良い能力はもう残されていないと判ったのです。このカードは、みんなが気にいったカードの1つでしたので、残すことにしたのです。

 私はこのカードの微妙さを楽しんでいます。10年以上もリミテッドのマジックをプレイしてきた私には、このカードの文章は非常にありふれたものに思えます。しかし、ゲーム中に何度も何度も誘発するこの誘発型能力の効果を総計すると、攻撃的デッキ同士の勝負においては非常に打ち破りにくいものになります。このカードを敵に回した場合、しばしば、ほんの数ターン気にしていないうちにライフの総量が信じられないような変動をしていることがありました。カードの中には、クールであろうとしていることを自認しているものもあるように思います。《縫合の僧侶》は、特別な存在であると思わせる必要なく役に立つ存在であることを喜んでいます。ちょうど、異星人の集合意識の一員らしい感じだと言えるでしょう。

ld141_card02a.jpg
ld141_card02b.jpg

 このカードが《忘却の輪》や《未達への旅》といった、邪魔になるパーマネントを一時的に追放するエンチャントを参考にしているのは明らかです。それらの他のカードでは、誰かがそのエンチャントを除去することができれば、追放されていたパーマネントは再び戦場に戻ります。ファイレクシア人はそれほど寛大ではありませんので、《排他の儀式》からはパーマネントを取り戻すことはできません。追放したままで、そしてそれについて謝罪してくれることもありません。それだけではなく、もうその呪文を唱えることもできなくなるのです。

 新たなるファイレクシアが完成してから今までの間に、ほんっとうに多くの人々がこのカードを誤解してプレイしているのを見かけました。《忘却の輪》や《未達への旅》につられて、彼らは《排他の儀式》を除去したらカードを取り戻せると思っているのです。そうではありません。このコラムで以前に、人々がカードを誤読するなら、人々が思い込んでいるままにカードが働くようにするのが最善であることが多い、という話をしたことがあります。今出もその見解は変わりませんが、「多い」と断っているのには理由があります。ファイレクシアは追放したカードを戻したいなどとは思わないでしょう。一番最初に誰かがこのカードを見て、追放されたカードを取り戻せないと知ったら、おそらくはルール違反だと感じるでしょう。その発見した瞬間の不快さとルール違反感こそが、新たなるファイレクシアでメタ表現したかったことなのです。ですから、私は残念だとは思いません。私たちには人々が想像するとおりにあらゆるマジックのカードが働くようにすることができますが、その想像を裏切るのが適切であれば、そうすることにためらいはありません。

ld141_card03a.jpg
ld141_card03b.jpg

 ケンの手による《法務官の掌握》の最初のデザインは、盗んだカードをあなたのライブラリーに入れて切り直すというものでした。これは、銀枠世界ならともかく、それまで普通のマジックの世界ではありえないことでしたし、だからこそケンはそれを作りたかったのでしょう。それにはいくつかの問題がありました。非常に大きな問題は、マジックのルールにそれを取り扱う方法がほとんどなかった、というよりもまったくなかったことです。もう一つの問題は実用上のもので、対戦相手と自分が違う色のスリーブを使っていたら、そのカードがどこにあるのかいつでも判ってしまうというものでした。

 私にとって最大の問題は、それはファイレクシアらしくないということでした。ファイレクシアは相手のことを気にもしません。実際、相手を悲しませようとか考えてすらいません。ただ勝利だけを求めるのです、が、相手のカードを私のデッキに隠したところで私の勝利には近づかず、ただ相手を悲しませるだけに過ぎません。

 結局の所、ルールの問題で前の版は採用されませんでした。その後、盗んだカードを自由に使えるという今の版にたどり着きました。私にとってはこっちのほうがずっとファイレクシアらしく思え、また単純により強力になりました。

ld141_card04a.jpg
ld141_card04b.jpg

 ファイレクシア・マナがファイルに加えられた時点で、デベロップ・チームは既に活動中でした。ケンに作ることを提案したものの一つが、マナを支払わずにイカサマ臭く唱えることができるようなファイレクシア・マナ・カードの一群でした。ケンの脳みそはすぐにこの「タダの」《根絶》を生み出したのです。

 ケンの直感は正鵠を射ていました。《ロボトミー》や《頭蓋の摘出》、《根絶》、《記憶殺し》と言ったカードは、厄介なカードを好む人たちの間ではマジックの黎明期からずっと人気がありました。この人気は、そのカードが歴史的に見てどれだけ強かったかとはずっと無関係でした。単に、相手のデッキからカードを引き抜くのが楽しいと、そういうことを意味していました。《根絶》をフリー・スペルにするのは特にいいことです、というのは、相手の第1ターンが来るよりも前に、《強迫》を唱えて相手の重要なカードを引き抜き、《外科的摘出》でそれを片付けてしまうことを夢見ることが出来るからです。最初にこのカードをお見せしたとき(リンク先は英語)にも大騒ぎになるだろうと思っていましたし、その予想は外れていませんでした。

ld139_footer.jpg

 他者を害することに興味がなくて自軍を強めることに関心がある人たちのためのカードも、このセットには含まれています。白、青、緑には「接合者」と呼ばれる1/1のクリーチャーがおり、それぞれ3/3のゴーレム・アーティファクト・クリーチャー・トークンを出します。《純鋼の聖騎士》や《覇者、ジョー・カディーン》といったカードは、アーティファクトをたくさん並べることを求めてきます。《ダークスティールの秘宝》もありますよ、一体何の役に立つのかは判りませんが。ですが、もし相手を害することに特に興味があるのなら、時間を作って今週末(翻訳時点では先週末ですが)のプレリリースに行ってみてはいかがでしょう。これほどあなたの趣味に合致するマジックのセットが、次に世に出るのは一体いつになることか判りませんよ!


先週の投票

 あなたがある程度のカードを持っている、最新のブロックは何ですか?(ある程度というのがどれだけかはお任せします)

ミラディンの傷跡・ブロック 1104 35.6%
ゼンディカー・ブロック 576 18.6%
アラーラの断片・ブロック 298 9.6%
ラヴニカ・ブロック 219 7.1%
時のらせん・ブロック 157 5.1%
ミラディン・ブロック 113 3.6%
ローウィン・ブロック 110 3.5%
オンスロート・ブロック 83 2.7%
シャドウムーア・ブロック 82 2.6%
神河・ブロック 72 2.3%
それほどのカードは持っていません. 71 2.3%
ウルザ・ブロック 59 1.9%
インベイジョン・ブロック 43 1.4%
オデッセイ・ブロック 37 1.2%
ミラージュ以前 36 1.2%
ミラージュ・ブロック 26 0.8%
マスクス・ブロック 18 0.6%
合計 3104 100.0%
  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索