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コラム

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あなたの街のティーチングマイスター 第13回:CARD SHOP蒼猫亭(兵庫県) 岩脇健さん

瀬尾 亜沙子

 「ティーチングマイスター」とは、初心者にマジックを教える認定資格を持つ人のこと。ティーチングマイスターが教えるマジック体験会「多元宇宙への招待状」の開催を記念し、全国各地にいる彼らの紹介インタビューをシリーズで掲載していきます。

 最終回となる第13回は、歴史あるこちらのお店の創業者で、今は後継者のサポートをしているこちらの方です。

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まったく新しいゲームとの出会い

――マジックとの出会いはいつですか?

岩脇:1995年、まだ日本語版が出てなかったころで、エキスパンションでいうと『リバイズド』からです。当時、「RPGマガジン」という雑誌で新しいゲームとしてマジックが紹介されていて、やってみたいと。

――超初期ですね! そのころは仕事されてたんですか?

岩脇:ゲームと関係のない仕事で、西日本をあちこち回って営業をやっていました。
ただ、1つのきっかけとして阪神淡路大震災がありまして、神戸の街が震災で壊滅し、遊べるところがなくなってしまったんです。当時マジックを売ってる店というと、洋書を扱う書店が荷物のすき間にブースターパックを詰めて輸入してた感じなんです。なのでそういうお店のある地域に出張してはパックを買って来て、神戸で被災した仲間と遊んでましたね。

――売ってるところも情報もあまりないと。ただ「RPGマガジン」を読んでいたということは、TRPG(※注)はやっていたんですか?

※注 TRPG:『ダンジョンズ&ドラゴンズ』を元祖とするテーブルトーク・ロールプレイングゲームの略。「RPGマガジン」はTRPG雑誌だった。

岩脇:TRPGもそうですし、高校生のころはその前身であるゲームブックのブームでしたね。その流れからファンタジーが好きで、マジックを見たときに「すごくかっこいいファンタジーのゲームだ」と思って始めたんです。

――そのころはどういった環境で遊ばれてたんですか?

岩脇:日本語版がないので、魔術師みたいに英語の辞書を片手に持って、ああだこうだとルールを解釈して、がんばってプレイしてました。辞書に載ってない固有名詞がわからないんですよ。ウルザって単語がどうしても見つからなくて、この辞書は受験用のだから載ってないのかな? とか(笑)。
だからルールもめちゃくちゃで、当時大阪でやっていた草の根大会に出て初めて正しいルールを知りました。このころはスイスドローって概念もなかったんですよ。今で言うシングルエリミネーションだから、参加費千円払って、1回負けたら終わりです(笑)。でも、大会は貴重だし、開いてくれるだけでありがたかったんで、足しげく通いましたね。

――そうすると、日本語版が出て「あっ、ウルザって人名なんだ!」って初めて知ったりするわけですか?

岩脇:そんな感じです。でも英語版から始めた当時は、その雰囲気が好きだったし英語なのがカッコいいと思ってたので、日本語版は使ってなかったですね。

――マジックにひかれた理由はその雰囲気ですか。

岩脇:TCGというものが浸透している今の人には伝わらないと思うんですが、マジックを最初に見たとき、「こんな新しい発想で、クールな遊びがあるんだ!」と思ったんですよ。アメリカから来た最先端のかっこいいゲームだと。だから、この最先端のものを遊ぶには英語を理解するしかない、みたいな感じで、言葉の壁も全然気になりませんでした。

――TCGってものが存在してなかったわけですから、斬新だったでしょうね。

岩脇:今マジックのティーチングしてて思うんですけど、最初に5色について説明するじゃないですか。今ではほかのゲームがマジックから影響を受けてるから、白が光や正義の勢力で、黒は闇とか悪で……みたいな系統分けって普通ですよね。でもマジックで初めてそれを見たときに、「魔法が色で分かれてて、それぞれマナを引き出して唱えるなんて、そんな発想があるのか!」と。今なら子供でもゴブリンって言われてわかると思いますけど、当時は何もかも新しくて刺激的でしたね。

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マジックと関わる仕事で得た幸せ

――では、マジックを扱うお店を始めた経緯は?

岩脇:会社勤めのかたわら趣味でマジックをやってたわけなんですが、営業の仕事でどれだけ売り上げを上げてもあんまり自分に反映されへんというか、働くことに対して「このままでええんかな?」と疑問を感じてる時期だったんです。じゃあ1回試しに自分でビジネスを始めてみようと。当時TCGなんて世の中にまったく認知されてなかったけど、需要は絶対にあるやろうなと思って、会社をやめてお店を作りました。1998年くらいだったかな。スタートした場所はここよりもう少し南側でしたけど。

――思い切って遊ぶ場所を作ったと。最初のころはどうだったんですか?

岩脇:昔は小中学生がお客さんのメインだったんですが、あるとき中学生のお客さんに「店長、この店儲かってんの?」って聞かれて。「ぼちぼちかな」って答えたら、「じゃあ僕パック買って帰るわ。僕、この店なくなったら困るから」って言われたんです。
もともと、売り上げや利益の数字ばかりがメインの世界で生きてたから、「パッとせんかったら半年くらいでやめよう」と思ってたんですよ。自分が始めたビジネスは、自分だけのものやと思ってたんです。でもそう言われて、来てくれる子たちのためにも店は残さんとあかん、やるしかないと。その出来事がすごく印象に残っていて、そこから店に対してちゃんと取り組むようになった感じです。

――いい話ですね。

岩脇:昔の苦労話ならいっぱいありますよ。TCGってものがまったく知られてないから銀行から融資も受けられないとか、「最近、TCGをめぐって子供たちの間でトラブルがあるが、TCGとはどんなものなのか」って言ってお店に警察が来たりとか。
独立したときは仲間からも「こんなん、いつまで続くかわからへんで」って言われたし、やってる子供たちもお母さんに「こんな紙集めても、ブーム過ぎたらどうせやらへんようになる」って言われてたんです。それがまさか、30年もマジックが続いてTCGが認知される時代が来るとは。今日も、中学生の男の子とお父さんが来店したり、いい世の中になったなと。

――すばらしい。それも、長く続けてきてくれた方たちがいてこそです。

岩脇:こないだも古いお客さんが10年ぶりに思い出して電話かけてきてくれたり、ずっと会ってなかった昔のプレイヤーが久しぶりに店に来たりして、これアニメや漫画で言うたら最終回やでと(笑)。
自分もお客さんも青春をマジックで過ごして、その後ライフスタイルが変わっても、戻ってくる場としてお店が存在してる。私が作った店を引き継いでくれてる今の経営者と、ずっとつないできたのは意味のあることだったんやなとすごく感じますね。

――初期からずっとマジックをやってきて、中断したりはしなかったんですか?

岩脇:私自身結婚したり子供ができたりしてライフスタイルが変わったり、店でほかのカードゲームを担当したりして、疎遠になる期間はあったんですけど、なぜか縁があってマジックに戻されるというか……やらない期間があっても、いつのまにか戻ってくる人生でしたね。

――なるほど。

岩脇:なんか、マジックには引力というか、パワーをすごく感じてて……。
今活躍してるプレイヤーで、森山真秀君っているじゃないですか。彼が「デュエルマスターズ」をやってたころ、うちに通って来てたんですよ。就職して地元の島根に帰ったあとで、ここにまた顔を出したことがあって、そのときに「島根に『デュエルマスターズ』をやってる人がいなくて困ってる」と。それで私が、「じゃあマジックをやったら? オンラインの環境もあるし、プレイヤー探したらいいよ」と。手近にあった初心者用のキットとかを渡して、軽く勧めたんです。それから1年後くらいにふとネットを見たら、彼が日本選手権で優勝しててびっくり(笑)。

――それがきっかけだったんですね!

岩脇:別にちゃんとティーチングしたわけでもないけど、自分がマジックを紹介したことが回り回って、チャンピオンになって今も活躍してるっていうことに、すごく縁を感じるんです。特に思うのは、森山君って配信したり動画に出たりしてるじゃないですか。そしたら、彼ってほんまに好青年やしマナーもいいし、やっぱりそれが伝わるのか、ファンがたくさんついてるんですよね。なんというか、マジックという縁によって喜ぶ人がどんどん増えていってて、その様子を見ていると、自分にとってすごく幸せだと思うんですよ。
会社の駒として働いてたときは、自分が幸せだと思う瞬間ってなかったんですけど、マジックと関わった今は回り回ってすごい幸せを感じますね。あの頃からはまったく想像できない今の自分の姿です。

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ティーチングマイスターは道案内

――それでは、ティーチングマイスターになろうと思ったきっかけは?

岩脇:これも縁というか……ティーチングマイスターの資格を取ったのって、コロナ真っ最中の2020年10月なんです。すでに経営からは離れていたんですけど、どれだけこの状況が長引くかわからない時期で、利益が上がらない状態のカードショップを続けても今の経営者にとってはしんどいだろうと。でも常連の支持があって積み重ねてきたものも大きいとなると……誰かがやめろと言ってあげるしかなくて、私が始めたことやから、私が引導を渡すべきかなと思ってたんです。
そんなときに、たまたま見てたマジック動画のかなり再生数の多いやつに、うちの店名がひょっこり出てきたんです。古いとはいえ別にネームバリューがある店でもないのに。それで、神の啓示じゃないけど、まだこの店をやれっていうことなのかな? と思って。

――ここまで育ててきたお店ですからね。

岩脇:ビビッと来て、さっき言った森山君の話とかもあって、マジックに対して奇妙な縁があるなと思ってたところに、ティーチングマイスターの話がちょうど来たんです。「今まで20年マジック売ったり初心者に教えたりしてきてるのに、今さら何か資格取るの?」みたいな気持ちもあったんですよ。でもこういう看板を出すことによって1人でも来てくれる人がいればええんちゃうかなと思って、スタッフと2人で申し込みました。

――あ、じゃあこちらのお店には2人のティーチングマイスターがいるんですね。ティーチングマイスターをやってよかったことは?

岩脇:今までは「お店の人やからカード売ってる」みたいなとこがあったんですけど、ティーチングに特化したことで、どうやって教えれば伝わりやすいかとか、マジックの魅力って何だろうとか、そういうことをより深く考えるようになりましたね。
すべてを網羅するのがティーチングではなくて、その人にとってマジックをやるとどれだけいいことがあるか、それを伝えるのがティーチングマイスターの仕事じゃないかなと思ってます。だからティーチングのとき、この人にはマジックの何がフックになるんだろう? というのを考えて盛り込みますね。「今度ファイナルファンタジーとのコラボやりますよ」とかね。マジックって、そういうフックがめちゃめちゃいっぱいあるんで。

――長年の経験で、その人にあてはまるフックを見つけることができるんですね。

岩脇:マジックっていろんな次元があって……世界観もそうだけど実際の展開もそうで、背景世界が知りたいとか、競技で上を目指したいとか、フォーマットもブロールでもレガシーでも、ほんとにいろいろある中から自分に合う次元を探してもらえばいい。ティーチングマイスターは、その道案内なんです。これだけ拡大したマジックの世界をたった30分とかではとても語り尽くせないから、お客さんの話に耳を傾けて、あなたはどこに行きたいんですかと。

――マジックは奥が深いので、道案内は助かりますね。

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マジックのある人生

――「多元宇宙への招待状」イベントはすでに始まっているということなんですが、意気込みやお客さんへのメッセージをお願いします。

岩脇:変な話、ゲームをしに来なくてもいいです。マジックってどんなものか知りたければ、ふらっと来てください。気軽に話を聞きに来てくれれば、やりたいことに合わせてなんでも教えますんで、身構えずに、誰でも来てほしいですね。
小さいお店ですけど、小さいなりに店員とお客さんが近いのはアピールポイントですかね。どのゲームでも「対戦相手は付属していません」ってのはあるんですけど、ここで相手を探したり、それこそ店員と友達になるくらいの感覚で来ていただいてかまいませんよ。

――そうですね。

岩脇:初心者講習はいろんな時間帯にやってるんですけど、土日の午前中に入れてるのはなんでかというと、結婚するとなかなか出かけられなくなるんですよね。だから夕方とかだと出にくいお父さんが、午前中に子供連れて来てくれたらいいんちゃう? と。

――その間にお母さんは家事ができるみたいな?

岩脇:そんなノリで来てくれたらいいなと。子供と一緒にマジック始めてみたい人とかは、土日の午前中に来ていただいて、そこから人生の1つの糧になったらと思いますんで、ぜひ。
私が思うに、マジックよりも人生のほうがおもしろいんですけど、マジックがない人生と比べたら、マジックがある人生のほうが100倍おもしろいんですよ。古い仲間と何年ぶりに会ってあの頃とおんなじように楽しくて、そういう長く続けられる趣味って普通に生活してたらそんなないと思うんですよ。

――「マジックがある人生は100倍おもしろい」、いいキャッチコピーです。本日はありがとうございました。


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CARD SHOP蒼猫亭
住所:兵庫県神戸市中央区北長狭通3-7-11 サニーハイツ鯉川902
電話番号:078-381-6533
公式サイト:https://twitter.com/aonekotei_kobe

「CARD SHOP蒼猫亭」は神戸の元町にあり、向かいの「Game,Cafe&Barアオネコ」でもお酒を飲みながらマジックができます。昔のファンタジー風に名付けた「蒼猫亭」ですが、お客さんがチーム名などを決めるときに、「チーム蒼猫」を名乗ることも多く、冒険者仲間が集まるギルドのようなイメージのお店です。


ティーチングマイスターによる初心者講習会
「多元宇宙への招待状」 2023年9月3日~10月29日開催!

詳細はこちらから。

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