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『Modern Masters』特別カードプレビュー:目覚ましヒバリ

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2013.05.28

『Modern Masters』特別カードプレビュー:《目覚ましヒバリ

akiraasahara.jpg

Text by 浅原 晃


reveil:フランス語で「目覚め」 lark:ヒバリ

evoke:思い起こす、【マジック用語】想起


人に歴史あり

 いきなり個人的な話になるが、つい、先月、高校の友人の結婚式に行ってきた。神父がプロレスラーみたいだったり、料理がなんとかスタイルとかで気に入った料理を何回でも持ってきてもらえる形式だったりと非常に面白く、良い結婚式で、当時の友人達と昔のことを思い出しながら話をした。

 高校時代はマジックは始めていなかったので、彼らとマジックの話になることはあまりないが、検索すると簡単に名前が出てしまうので、そうなった場合、良く分かってない同級生には大体適当に「世界チャンピオンなんでしょ」と言われる可能性が高い。こうなると、いやいやと説明してもあまり意味がないので、あーそれね、大体そんなもんと答えるようにしている。この辺の対処はさすがに慣れてきた。ただ、この前は高校以来に会った同級生が、適当に名前を検索してきた結果、「浅原連合に入れてください!」と言ってきたので、何年か振りに3人も連合員が増えた。これは、さすがに勘弁してほしい。

 ともあれ、こういった機会に昔のことを思い起こせるというのは面白く、有意義なものであると思う。

カードに歴史あり

 人は生きていく上でいろいろなことを体験し記憶している。ただ、それらの記憶がいつでも思い出せるかというとそうではない。思い出や記憶は頭の引き出しに仕舞われていて、それは使う必要性が生まれたり、何か思い出すような切っ掛けが無ければ取り出されることはほとんど無い。

 インプットしたものを、アウトプットするには理由が必要だ。

 マジックをプレイして、カードとの関わり方も同じことが言えるだろう。プレイヤーとして、今使っているカードはまさに体験や記憶として刻まれており、使わなくなったカード達は記憶の片隅に仕舞われていく。では、これらが再び取り出される理由、それはどんなものだろうか。

 今回、紹介する《目覚ましヒバリ》は2008年にローウィン・ブロックの『モーニングタイド』というエキスパンションに収録され、個人的にも大好きだったカードの一つだ。


目覚ましヒバリ》 アート:Jim Murray

 《目覚ましヒバリ》をご存知無い方も居るだろうから、《目覚ましヒバリ》のスペックを簡単に説明しよう。美麗なイラストに5マナ4/3飛行というスペック。戦場を離れたときにパワー2以下のクリーチャーを2体墓地から戦場に戻すことができ、さらに唱えた時のみだが想起という能力で自身を能動的に墓地へ送ることができる。

 《目覚ましヒバリ》の相棒にはカードを2枚引ける《熟考漂い》や汎用性の高いパーマネント対策の《造物の学者、ヴェンセール》、クリーチャーのコントロールを奪う《誘惑蒔き》などが挙げられる。戦場に出たときに4/3飛行で戦場を離れたときにカードを2枚引いて、相手のクリーチャーを1体奪って、2/2飛行が2体出ると考えたら、《スラーグ牙》も裸足で逃げ出すレベルである。しかも、《一瞬の瞬き》といった、今で言う《修復の天使》と同等の効果を持ったインスタントも存在した。

 強さの基準として、《目覚ましヒバリ》を出した場合、もしくは、出された場合の反応を簡単に説明すると、まず、出された方は嫌な顔をする。その後、出した側の墓地を確認して、さらに嫌な顔をする。除去しないで何とかする方法を考える。テキストを確認して、戦場から離れたときというテキストに対して心の中で文句を言う。終了。こんな感じで強いクリーチャーだったのだ。

 また、デッキ構築の面においても、非常に面白い存在だったということが思い出される。パワーが2以下のクリーチャーというのは、例えば、2マナのクリーチャー以下というものよりも取りうる能力の幅が非常に広い。マジックのカードの強さは総合的にコストで示されるので、マナ的に5マナ6マナの働きをするクリーチャーであっても、パワーが2以下というものは少なくない。

 なので《目覚ましヒバリ》を使ってデッキを構築する場合は、まず、パワーが2以下のクリーチャーを全て洗い出すことから始めてあれやこれや考える、非常にデッキ構築のやりがいがあったクリーチャーだった。ローウィンブロックは部族がテーマだったため、ブロック構築では、巨人以外のすべての部族に《目覚ましヒバリ》を入れて構築したことがあった。大体のデッキが失敗作なのだが、失敗作を多く作れるカードというのは、それだけで既に魅力的であると言えるだろう。

 また、スタンダード環境には《目覚ましヒバリ》と《影武者》の無限循環コンボのシステムがあったし、レガシー以下の環境でも、《霊体の先達》などで同じことができる。無限循環系のコンボの軸としても活躍する《目覚ましヒバリ》が当時のスタンダードシーンのトップを走っていた時期は長く、いろいろなプレイヤーがこのクリーチャーに対しての思い出を持っているだろう。

 そして、この《目覚ましヒバリ》が『Modern Masters』に収録されることとなった。

Reveillark_MMA.jpg

 ただ、『Modern Masters』に《目覚ましヒバリ》が収録されるというのは、それほど大きなニュースではないと思う。神話レアではないし、《タルモゴイフ》や《闇の腹心》といったスターカードには使用率も、カードそのものが持つ価値にも並ぶかと言えばそうは言えないだろう。

 しかし、『Modern Masters』に収録されるカードとして《目覚ましヒバリ》をうれしいと感じる人は少なくないはずだ。それは『Modern Masters』が、昔のカードを思い起こす切っ掛けとなってくれるセットでもあるからだ。

 モダンではミラディン・ブロックから現在のセット、今なら『ドラゴンの迷路』までのセットが使用できる。2003年に発売されたミラディン・ブロックから現在まで、様々なカードがそれぞれのブロックやエキスパンションの顔として活躍し、そして、スタンダードシーンからは消えていった。

『Modern Masters』はモダンを始めようとする新しい人達にとっていいセットであるし、それと同時に長くマジックを付き合ってきた人達にとっては、ある種の同窓会のような、思い出を語れるセットでもあると思う。『Modern Masters』はシールド戦やドラフト戦ができるように調整されているため、リミテッド形式で使うことができる。新しいプレイヤーには新しいカードに触れる楽しさがあり、古いプレイヤーはいろいろな思い出を語りつつゲームができる。

 実際、《目覚ましヒバリ》にしても、パックから出てきてこれを使っていたという話になれば、多くのトッププレイヤーがこれについて語ってくれるだろう。個人的なイメージではあるが、渡辺雄也や清水直樹、津村健志などは《目覚ましヒバリ》が好きだったように思うので喜んでくれそうだし、逆にフェアリー狂の八十岡翔太や高橋優太などはまったく興味を示さないどころか、《誘惑蒔き》で良くもらったよとか言うかもしれない。中村修平などは多分意味不明にニヤニヤしてるだけだろうが、反応は人それぞれというのも面白い。

 また、こうした形から、新しいデッキ構築のアイデアが生まれることもあるだろう。モダンはカードプールが広いセットであり、すべてのカードを網羅するのは難しい。遊びながら、モダンでこんなカードが使えるんだという発見も得ることができる。

 僕も《目覚ましヒバリ》を見て、ローウィン・ブロック構築戦において、エレメンタルデッキを愛用していたことを思い出した。当時はフェアリーデッキという強敵がいたために余り大きな活躍はできなかったが、何となくリストを見て思ったのは最新のセットの《復活の声》はエレメンタルということだ。当時に《復活の声》が居れば、外国のプロツアーで併催されていた、朝までやったプロツアー予選の最終戦でフェアリーに負けることは無かったのに、と余計なことまで思い出してしまった。こうなったら、モダンをやるとして、まずエレメンタルデッキを考えてしまいそうである。今なら《魂の洞窟》も使えるし。

 記憶しているものを定期的に目覚めさせることで、新しいものと結びついていいものを生み出すことができる。余りに広いプールを持つレガシーや現在進行形で流れの速いスタンダードに比べて、モダンというレギュレーションはそういったものを考えるには最適なレギュレーションと言えるのかもしれない、僕が《目覚ましヒバリ》を想起して考えたのはそんなことだったりするのだ。

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