- HOME
- >
- READING
- >
- Play Design -プレイ・デザイン-
- >
- 第一印象:『基本セット2020』の吸血鬼
READING
Play Design -プレイ・デザイン-
第一印象:『基本セット2020』の吸血鬼
2019年7月26日
「第一印象」へようこそ! これは年4回セットが発売されたときに、最新セットのフューチャー・フューチャー・リーグ(FFL)集中期間でのプレイデザインのデッキリストと彼らの思考過程を紹介する、(Mファイルのような)定期的に掲載される記事だ。「FFL集中期間」とは、我々がカード・ファイルに競技的なバランスの微調整のほとんどを行うセットデザイン中の3か月間のことだ。
今回は《漆黒軍の騎士》と《傲慢な血王、ソリン》がどのようにして印刷されたバージョンになったかについて深く突っ込み、そして吸血鬼デッキを楽しく競技的なデッキにするための我々の試みを見ていこうと思う。
8番目のセットのスタンダードの危険
『基本セット2020』がこのスタンダードに導入された8番目のセットであることは、いくつかの興味深い課題を我々にもたらした。環境にカードが増えると、基本的にパワー・レベルは上がりコンボやシナジーの機会が増える。8番目のセットで普通に強力なカードを作るのは、それらがスタンダードで活躍するためには数多くの競争相手に勝つ必要があるので、大変だ。このことはローテーションによって環境が縮小した後にそのセットが強力なカードを加えることを難しくしている。デッキに入る枠を争うのは、5セットの環境と8セットの環境では大きく異なる。
それに対処するために我々が使う戦略の1つは、前の年のカードとシナジーを持つカードを作ることだ。これの最も成功した例の1つは『マジック・オリジン』の「赤青飛行機械」デッキだ。『マジック・オリジン』は《鋳造所の隊長》《ピア・ナラーとキラン・ナラー》《つむじ風のならず者》といった《羽ばたき飛行機械》《アーティファクトの魂込め》《バネ葉の太鼓》と組み合わせるためのカードが収録されていた。「赤青飛行機械」は爆発的なデッキで発売時にはメタゲームを席巻したが、プレイヤーが適応するとその人気は上下した(私のプロツアー『マジック・オリジン』のテストチームは「赤青飛行機械」デッキを作ったが、私は「青黒コントロール」をプレイし続けた……とても後悔している)。
吸血鬼を補強する
それを踏まえて、我々は吸血鬼をスタンダードで楽しくエキサイティングなデッキにするという目標を設定した。『基本セット2020』のセット空間を考えて、我々にはその目標を達成するためにカード2枚分の枠があった。我々が最終的に完成させたカードは、《傲慢な血王、ソリン》と《漆黒軍の騎士》だ。
我々が最初にしたことの1つは、既存の吸血鬼のカード・プールを見て、その基本戦略の穴や問題点を特定することだった。我々が最も対処するべきだと感じた2つの問題点は、強いところが点数で見たマナ・コストの高いクリーチャーに固まりすぎていること、そして強力なマナのはけ口が存在しないことだった。《傲慢な血王、ソリン》はマナ・カーブの頂点を予定より早く出すことを可能にし、《漆黒軍の騎士》はゲームの後半で意味が出てくるマナのはけ口だ。
《漆黒軍の騎士》の始まり
このデザインの最初の目標は、具体的に《アダントの先兵》とシナジーのあるアグレッシブに傾いたカードになることだった。最初のデザインはこうだった。
{2}{B}
クリーチャー ― 吸血鬼・騎士
あなたの終了ステップの開始時に、このターンにプレイヤーが4点以上のライフを失っていた場合、あなたのコントロールしている各クリーチャーの上にそれぞれ+1/+1カウンターを1個置く。
3/2
ある程度プレイテストをした後、これは上記の最初の目標を達成していたにもかかわらず、これは雪だるま式すぎて変更しなければいけないことが分かった。3マナ域として、これは《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》や《傲慢な血王、ソリン》のような、我々がプレイしたカードを押しのけてしまった。これらの発見を踏まえて、我々はこの次のバージョンを試した。
{B}
クリーチャー ― 吸血鬼・騎士
{2}{B}:ターン終了時まで、漆黒軍の騎士は+3/+3の修整を受け威迫を得る。
あなたの終了ステップの開始時に、プレイヤーがこのターンに4点以上のライフを失っていた場合、漆黒軍の騎士の上に+1/+1カウンターを1個置き、あなたは2点のライフを得る。
1/1
このバージョンのプレイテストではより良い結果が出た。我々は《アダントの先兵》とのトーンダウンした相互作用を楽しみ、そしてこのマナのはけ口がデッキに追加されたことを好きになった。環境の中で、我々は《ゴブリンの鎖回し》がこのデッキに対して強すぎ、インスタント速度の威迫が適切ではないことを発見した。それを踏まえて、我々はタフネスを1上げて威迫を接死に変更し、バランスを取るためにライフ回復を削除した。その変更をしてからのプレイテストの後、我々はこれにプレイデザインの完成印を押すことに満足した。
《傲慢な血王、ソリン》の始まり
ソリンは大変な奴で、我々はこの最終的な能力のセットにたどり着くまでにたくさんの反復工程と数字の微調整を行った。それはほとんど牙を引き抜くようなものだった‥…何にしても。これは我々が最初に試したバージョンだ。
{3}{B}
+2:あなたがコントロールしているクリーチャーを最大1体対象とする、ターン終了時まで、それは接死と絆魂を得る。それが吸血鬼なら、+1/+1カウンターを1個その上に置く。
-2:あなたは、あなたの手札から吸血鬼・クリーチャー・カードを1枚戦場に出してよい。
-7:あなたは「あなたがライフを得るたび、各対戦相手はそれと同じ点数のライフを失う」紋章を得る。
4
我々はこのバージョンのソリンのテストを通して多くのことを学んだ。我々は戦闘を面白くするプラス能力、そして重い吸血鬼を戦場に出す[-2]能力のプレイパターンを楽しんだ。このデザインの主な問題点は一度能力を選ぶと、それをずっと使い続ける可能性が高いことだった。[-2]することは《薄暮の勇者》でさらなるソリンと吸血鬼を引き込み、そのことが次のターンにも[-2]して次のソリンをプレイすることを促す。一度[+2]能力を使い出すと、奥義まで持っていくことのほうが[-2]を使うよりも強いことがしょっちゅうある。これらのプレイパターンは、このカードの雰囲気とプレイをプレインズウォーカーらしくないものにしていた。これらの発見を踏まえて、我々は3マナにして奥義ではない能力に目を向けるためにデザインを変更した。そのデザインがこれだ。
{2}{B}
+1:あなたがコントロールしているクリーチャーを最大1体対象とする、ターン終了時まで、それは接死と絆魂を得る。それが吸血鬼なら、+1/+1カウンターを1個その上に置く。
??????
-3:あなたは、あなたの手札から吸血鬼・クリーチャー・カードを1枚戦場に出してよい。
4
新しい能力を探すとき、「『白単アグロ』が持っていないどんな角度を、吸血鬼に与えることができるだろうか?」ということを自問した。「白単アグロ」の弱点は、対戦相手が盤面を安定させると基本的に負けることだ。我々は相手のライフが十分減っていればゲームを決めることができるものを選び、そして出来上がった《傲慢な血王、ソリン》の2つ目のプラス能力は「+1:あなたは吸血鬼1体を生け贄に捧げてもよい。そうしたとき、プレイヤー1人かクリーチャー1体かプレインズウォーカー1体を対象とする。傲慢な血王、ソリンはそれに3点のダメージを与え、あなたは3点のライフを得る。」だ。
吸血鬼デッキに関するまとめとして、ここに我々が《漆黒軍の騎士》と《傲慢な血王、ソリン》をテストするために作った多くのデッキの構成のうち、1つを掲載する。
7 《沼》 6 《平地》 4 《神無き祭殿》 4 《孤立した礼拝堂》 4 《静寂の神殿》 -土地(25)- 4 《漆黒軍の騎士》 4 《アダントの先兵》 4 《軍団の副官》 2 《残酷な祝賀者》 2 《無慈悲な司教》 2 《軍団の先駆け》 1 《薄暮の使徒、マーブレン・フェイン》 4 《薄暮の勇者》 1 《マガーンの鏖殺者、ヴォーナ》 -クリーチャー(24)- |
4 《軍団の上陸》 3 《議事会の裁き》 4 《傲慢な血王、ソリン》 -呪文(11)- |
私は吸血鬼デッキを楽しく競技レベルにするための全ての反復工程について書きたかった。しかしその目的は、我々が『基本セット2020』を作っていたころに組んだデッキリストを掲載するというこの記事の本来の目的に反する。埋め合わせるために、ここに「作り込み」カテゴリーに分類される私の好きなデッキを掲載する。
4 《島》 2 《森》 2 《沼》 4 《繁殖池》 4 《神秘の神殿》 2 《湿った墓》 4 《ザルファーの虚空》 -土地(22)- 4 《名高い武器職人》 4 《練達飛行機械職人、サイ》 -クリーチャー(8)- |
2 《モックス・アンバー》 4 《航海士のコンパス》 3 《更生の泉》 3 《多用途の鍵》 4 《楽園の贈り物》 4 《オラーズカの秘宝》 4 《神秘の炉》 4 《金粉の水蓮》 2 《ボーラスの城塞》 -呪文(30)- |
9 《山》 2 《平地》 4 《聖なる鋳造所》 4 《断崖の避難所》 4 《凱旋の神殿》 2 《謎めいた洞窟》 -土地(25)- 4 《弧光のフェニックス》 3 《炎の騎兵》 -クリーチャー(7)- |
4 《保有の鞄》 4 《突破》 4 《稲妻の一撃》 3 《安堵の再会》 3 《ヤヤの挨拶》 2 《裁きの一撃》 2 《轟音のクラリオン》 2 《約束の終焉》 4 《心温まる贖罪》 -呪文(28)- |
13 《沼》 4 《草むした墓》 4 《森林の墓地》 4 《疾病の神殿》 -土地(25)- 4 《墓地の司令官》 4 《帆凧の掠め盗り》 4 《戦慄の影》 3 《呼び覚ます者イザレス》 4 《戦慄の存在》 2 《貪欲なチュパカブラ》 3 《夜の騎兵》 -クリーチャー(24)- |
3 《見栄え損ない》 2 《アルゲールの断血》 4 《風景の変容》 2 《ヴラスカの侮辱》 -呪文(11)- |
10 《沼》 3 《島》 4 《湿った墓》 4 《水没した地下墓地》 4 《陰鬱な僻地》 -土地(25)- 4 《ヤロクの沼潜み》 4 《秘本綴じのリッチ》 3 《貪る禿鷹》 2 《夜の騎兵》 2 《星霜の学者》 3 《血の取引者、ヴィリス》 -クリーチャー(18)- |
2 《見栄え損ない》 4 《航路の作成》 2 《暴君の嘲笑》 1 《一瞬》 2 《骨への血》 2 《永遠神の投入》 4 《詭謀 // 奇策》 -呪文(17)- |
『エルドレインの王権』が出たら、私はその集中期間のFFLからお気に入りのデッキを紹介するために戻ってくる。それまでの間、私は西海岸のほとんどのマジックのイベントに顔を出す。声をかけてくれ!
―Abro (@Murk_Lurker)
(Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)
RANKING ランキング
-
広報室
年末年始もマジックづくし!「お年玉キャンペーン」&「プレマ&スリーブゲット!年末/年始スタンダード」開催決定|こちらマジック広報室!!
-
コラム
スクウェア・エニックスで「マジック体験会」を開催!?『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』に向けたインタビューも|企画記事
-
戦略記事
ラクドス・サクリファイス:クリーチャーともう一つの生け贄要員(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
戦略記事
ジャンド独創力:プランは複数、独創力のみにあらず(パイオニア)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
戦略記事
とことん!スタンダー道!まさかまさかの複製術、コピーされ続ける先駆者(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
NEWEST 最新の読み物
-
2024.12.20戦略記事
今週のCool Deck:ロータス・コンボ、遂にアリーナにて始動!(パイオニア)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.12.20読み物
第51回:0から始める統率者戦|クロタカの統率者図書館
-
2024.12.19戦略記事
とことん!スタンダー道!まさかまさかの複製術、コピーされ続ける先駆者(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.12.19コラム
スクウェア・エニックスで「マジック体験会」を開催!?『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』に向けたインタビューも|企画記事
-
2024.12.18戦略記事
ラクドス・サクリファイス:クリーチャーともう一つの生け贄要員(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.12.18広報室
2024年12月18日号|週刊マジックニュース
CATEGORY 読み物カテゴリー
戦略記事
コラム
読み物
BACK NUMBER 連載終了
- Beyond the Basics -上級者への道-
- Latest Developments -デベロップ最先端-
- ReConstructed -デッキ再構築-
- Daily Deck -今日のデッキ-
- Savor the Flavor
- 射場本正巳の「ブロールのススメ」
- 津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
- 浅原晃の「プレミアイベント三大チェックポイント!」
- ガフ提督の「ためになる」今日の1枚
- 射場本正巳の「統率者(2017年版)のススメ」
- かねこの!プロツアー食べ歩き!
- ロン・フォスターの統率者日記
- 射場本正巳の「統率者(2016年版)のススメ」
- マアヤのマジックほのぼの日記
- 金子と塚本の「勝てる!マジック」
- 射場本正巳の「統率者(2015年版)のススメ」
- 週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」
- なかしゅー世界一周
- 中村修平の「デイリー・デッキ」
- 射場本正巳の「統率者(2014年版)のススメ」
- 中村修平の「ドラフトの定石!」
- 浅原晃の「プロツアー観戦ガイド」
- 鍛冶友浩の「プロツアー観戦ガイド」
- ウィザーズプレイネットワーク通信
- Formal Magic Quiz
- 週刊デッキ構築劇場
- 木曜マジック・バラエティ
- 鍛冶友浩の「デジタル・マジック通信」
- 鍛冶友浩の「今週のリプレイ!」
- 渡辺雄也の「リミテッドのススメ」
- 「明日から使える!」渡辺リミテッド・コンボ術
- 高橋優太の「このフォーマットを極めろ!」
- 高橋優太の「このデッキを使え!」
- 黒田正城の「エターナルへの招待」
- 三田村リミテッド研究室
- 新セットめった切り!
- シングルカードストラテジー
- プレインズウォーカーレビュー
- メカニズムレビュー
- その他記事