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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

多様性のあるスタンダードのメタゲームをデザインする

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多様性のあるスタンダードのメタゲームをデザインする

Melissa DeTora / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年12月8日

 

 こんにちは、そして「Play Design -プレイ・デザイン-」へようこそ。2週間のお休みを挟んで、わたしは皆さんにわたしたちのチームの工程についてのさらなる洞察を持ってくるために戻ってきました。今週は、わたしたちがさまざまな範囲のアーキタイプを含むようにスタンダードのメタゲームをデザインする、いくつかの方法についてお話ししようと思います。

 先日、チーム共同デッキ構築・スタンダードをメインにしたワールド・マジック・カップがありました。このフォーマットでは、3人のプレイヤーで構成されるチームは必ず3つのデッキを用意する必要があり、同じカードを違うデッキで使うことはできません。例えば、1つめのデッキの75枚の中に《否認》が含まれている場合、その他のデッキには1枚も《否認》を入れることができません。マジックには5つの色が存在していて、それらは3つのデッキの中で共有されなければならないので、このことは参加者に独特なデッキ構築上の課題をもたらします。

 ワールド・マジック・カップ以前、ハイレベルなイベントで行われた最後のチーム共同デッキ構築フォーマットは2006年のプロツアー・チャールストン予選シーズンでした。チーム戦はそのプロツアーの後さまざまな理由によって廃止されましたが、2012年にウィザーズがワールド・マジック・カップを開催したときに復活しました。ワールド・マジック・カップは1つの旗の下で3人のプレイヤーが協力するので、このチーム共同デッキ構築フォーマットはそのイベントのために3つの異なるデッキを協力して考え出す手段として完璧に思えました。

 プレイ・デザイン・チームはこの共同デッキ構築フォーマットを全くプレイテストしていませんが、わたしたちがさまざまなアーキタイプが存在するスタンダードのメタゲームの作成に成功していたなら、ワールド・マジック・カップの共同デッキ構築フォーマットもうまくいくでしょう。

 最近のメタゲームの流行を追っているプレイヤーは「エネルギー」デッキと「ラムナプ・レッド」と何か他のデッキをこのイベントに持っていくことを想定するかもしれませんが、話はそんなに簡単ではありません。例えば、《栄光をもたらすもの》や《反逆の先導者、チャンドラ》をどのデッキが使いますか? それらを「ラムナプ・レッド」に入れた場合、「エネルギー」デッキは苦しくなり、逆もまた然りです。

 わたしたちが楽しく独特なスタンダード向けカードの作成に成功しているなら、プレイヤーたちがデッキ構築の基準を満たしていると思う3つの最強デッキを作るのに十分な選択肢があるでしょう。

 加えて、各デッキはプレイヤーが当たると想定しているデッキを相手にゲームができなければいけません。例えば、あなたが最初から「ラムナプ・レッド」との対戦に投了するつもりなら成功への準備ができていません。繰り返しになりますが、スタンダードを多様性のあるものにしてプレイヤーに選択肢を与えることが、プレイ・デザインの目標です。プレイテストをするとき、わたしたちは特定の戦略が持つ穴を探して、その穴を埋めるようにデザインをします。理想的なのは、それぞれの色や戦略が、そのメタゲーム内に存在する他の戦略に対して競うことができるようにする選択肢を持っていることです。

バケツを満たす

 プレイ・デザイン・チームが多様なメタゲームを作る方法の1つは、大きなアーキタイプを表したデッキを持たせることです(開発部ではこれらを「バケツ」と呼んでいます)。

 主なバケツは3つ存在します。

  • アグロ
  • コントロールとコンボ
  • ミッドレンジとランプ

 わたしたちはこれらのバケツをスタンダードでの有利不利によって分類します。アグロ・デッキは基本的にコントロールやコンボ・デッキに対して有利ですし、コントロールやコンボ・デッキはミッドレンジやランプに対して有利で、ミッドレンジやランプはアグロ・デッキに対して有利です。注意してほしいのは、これは常に100%真実ではなく、話半分に聞かなければいけないことです。有利不利を決めるときに、プレイヤーの技術や、カードの選択や、メタゲームの変化といった考慮に入れなければならない要素はたくさんあります。

 全てのバケツが満たされるようにするための方法の1つはフューチャー・フューチャー・リーグ(FFL)でトーナメントを開くことです。プレイ・デザイン・チームのFFL期間に2回、わたしたちはトーナメントを開催します(工程については将来の記事で詳しく説明する予定です)。そのトーナメントの準備のために、わたしたちはプレイしたいデッキをリストにまとめて、それらをバケツに分類します。それから、そのデッキを他のバケツのデッキとプレイします。

 このトーナメントの終了時に、わたしたちは何かバランスが悪かったところを探してそれに基づいた変更を行います。例えば、アグロ・デッキが他の戦略を圧倒していた場合、わたしたちはアグロのカードを何枚か弱くするかもしれません。ある戦略がコントロールに対して適切な対抗手段を持っていない場合、わたしたちはその穴を埋めるカードを作ります。そのFFL過程の終わりには、理想的に行けば全てのバケツがさまざまなデッキで満たされ、それぞれの戦略は他のバケツのデッキに対する対抗手段と選択肢を持っています。

 今年のワールド・マジック・カップは、同時期に行われた個別の高レベルトーナメントよりもスタンダードが提供しなければならないものをよく見なければいけないという興味深いイベントでした。その理由の1つとして、スタンダードがここ1年ぐらい荒れていることがあり、そしてその余波はまだ存在します。これについては将来の記事で詳しくやりたいと思いますが、それまではここで3つのバケツを代表したデッキリストを、ワールド・マジック・カップからいくつか紹介します。

バケツ#1:アグロ
オリバー・ポラック=ロットマン(オーストリア)の「ラムナプ・レッド」
ワールド・マジック・カップ2017 / チーム共同デッキ構築・スタンダード (2017年12月1~3日)[MO] [ARENA]
15 《
4 《ラムナプの遺跡
4 《陽焼けした砂漠
1 《屍肉あさりの地
-土地(24)-

4 《ボーマットの急使
4 《損魂魔道士
4 《地揺すりのケンラ
3 《航空船を強襲する者、カーリ・ゼヴ
4 《暴れ回るフェロキドン
1 《アン一門の壊し屋
4 《熱烈の神ハゾレト
-クリーチャー(24)-
4 《ショック
4 《稲妻の一撃
3 《削剥
1 《反逆の先導者、チャンドラ
-呪文(12)-
4 《ピア・ナラー
3 《砂かけ獣
3 《栄光をもたらすもの
1 《マグマのしぶき
1 《削剥
2 《反逆の先導者、チャンドラ
1 《屍肉あさりの地
-サイドボード(15)-
 
バケツ#2:コントロールとコンボ
マティア・リッツィ(イタリア)の「青黒コントロール」
ワールド・マジック・カップ2017 / チーム共同デッキ構築・スタンダード (2017年12月1~3日)[MO] [ARENA]
7 《
6 《
4 《異臭の池
4 《水没した地下墓地
3 《進化する未開地
2 《廃墟の地
-土地(26)-

2 《スカラベの神
3 《奔流の機械巨人
-クリーチャー(5)-
4 《致命的な一押し
4 《検閲
4 《本質の散乱
2 《アズカンタの探索
4 《不許可
2 《本質の摘出
4 《ヴラスカの侮辱
2 《天才の片鱗
2 《ヒエログリフの輝き
1 《徙家 // 忘妻
-呪文(29)-
3 《巧射艦隊の追跡者
2 《才気ある霊基体
3 《強迫
2 《ジェイスの敗北
1 《アルゲールの断血
2 《バントゥ最後の算段
2 《本質の摘出
-サイドボード(15)-
原根 健太(日本)の「青白ギフト」
ワールド・マジック・カップ2017 / チーム共同デッキ構築・スタンダード (2017年12月1~3日)[MO] [ARENA]
7 《
6 《平地
3 《灌漑農地
4 《氷河の城砦
2 《イプヌの細流
1 《敵意ある砂漠
-土地(23)-

4 《査問長官
3 《聖なる猫
4 《機知の勇者
1 《博覧会場の警備員
4 《発明の天使
-クリーチャー(16)-
4 《航路の作成
4 《巧みな軍略
2 《アズカンタの探索
4 《復元
2 《排斥
1 《燻蒸
4 《王神の贈り物
-呪文(21)-
3 《博覧会場の警備員
4 《賞罰の天使
2 《領事の権限
2 《ジェイスの敗北
2 《不許可
1 《排斥
1 《残骸の漂着
-サイドボード(15)-
 
バケツ#3:ミッドレンジとランプ
イヴァン・フロック(スロバキア)の「ティムール・エネルギー」
ワールド・マジック・カップ2017 / チーム共同デッキ構築・スタンダード (2017年12月1~3日)[MO] [ARENA]
3 《
1 《
2 《
4 《植物の聖域
2 《隠れた茂み
3 《根縛りの岩山
3 《尖塔断の運河
4 《霊気拠点
-土地(22)-

4 《牙長獣の仔
4 《導路の召使い
4 《ならず者の精製屋
4 《つむじ風の巨匠
3 《逆毛ハイドラ
4 《栄光をもたらすもの
-クリーチャー(23)-
4 《霊気との調和
1 《マグマのしぶき
4 《蓄霊稲妻
1 《削剥
2 《慮外な押収
3 《反逆の先導者、チャンドラ
-呪文(15)-
2 《多面相の侍臣
2 《チャンドラの敗北
1 《マグマのしぶき
4 《否認
2 《削剥
1 《至高の意志
2 《川の叱責
1 《自然に仕える者、ニッサ
-サイドボード(15)-
 

第4のバケツ:撹乱アグロ

 大きなアーキタイプはもう1つ存在しますが、それは常に競技スタンダードに姿を現すわけではありません。開発部内ではそのアーキタイプを撹乱アグロと呼んでいますが、プレイヤーはよくそれをアグロ・コントロールやテンポと呼んでいます。これらのタイプのデッキはコントロールに有利で、通常はアグロに対して不利です。これらのデッキが推されることが少ない理由は、これらが強すぎるとスタンダードにとって不健全になり得るからです。

 異なる時期に存在した、スタンダードにとって不健全な2つの撹乱アグロが、「フェアリー」と「デルバー」です。どちらのデッキも似たようなプレイ・パターンでした。軽い脅威(それぞれ《苦花》と《秘密を掘り下げる者》)を着地させ、その脅威を効率的な妨害手段で守りつつ打ち消し呪文と除去で相手が何かしようとするのを止めます。

 「フェアリー」は脅威の形の打ち消し呪文を持っていました。《呪文づまりのスプライト》は2対1交換を取り、《ウーナの末裔》は対戦相手の除去に対する打ち消し呪文になるだけでなくこちらのクリーチャーを強化しました。これらの2対1は対戦相手を追いつく望みもないままにターンが進むごとに不利に追い込みます。

 「デルバー」は《ギタクシア派の調査》を使うことができ、このカードは実質的にコストなしで完全情報をもたらし、何に打ち消し呪文が必要かが分かります。どちらのデッキも多くのミッドレンジとコントロールの戦略を排除し、そのフォーマットを全体的に多様性と楽しさに欠けるものにしてしまいました。わたしたちは撹乱アグロを可能にするカードをデザインする際には、これらの抑圧的なスタンダード・シーズンを繰り返さないように注意しています。

 プレイヤーが特定のメタゲームと戦いたいときにこれのように近づく選択肢があることは素晴らしいのですが、わたしたちはそれを「フェアリー」や「デルバー」のように支配的な力にしたくはありません。以下のリストはワールド・マジック・カップにあった撹乱アグロの一例です。

エリアス・クロヒャー(オーストリア)の「4色コントロール」
ワールド・マジック・カップ2017 / チーム共同デッキ構築・スタンダード (2017年12月1~3日)[MO] [ARENA]
2 《
1 《
1 《
1 《
1 《異臭の池
1 《水没した地下墓地
4 《植物の聖域
4 《花盛りの湿地
1 《泥濘の峡谷
2 《竜髑髏の山頂
4 《霊気拠点
-土地(22)-

4 《光袖会の収集者
4 《ならず者の精製屋
4 《つむじ風の巨匠
1 《豪華の王、ゴンティ
2 《スカラベの神
3 《奔流の機械巨人
-クリーチャー(18)-
4 《霊気との調和
4 《致命的な一押し
3 《本質の散乱
3 《蓄霊稲妻
1 《至高の意志
3 《ヴラスカの侮辱
2 《天才の片鱗
-呪文(20)-
3 《貪る死肉あさり
1 《豪華の王、ゴンティ
2 《チャンドラの敗北
2 《強迫
3 《否認
1 《蓄霊稲妻
2 《人工物への興味
1 《秘宝探究者、ヴラスカ
-サイドボード(15)-

 上記のリストはコントロールと呼ばれていましたが、私はこれを別の方法で見ることもできると考えています。このデッキはある時は撹乱アグロのようにプレイされ、またある時はミッドレンジのようにプレイされます。このデッキの序盤のゲーム・プランは脅威を着地させ、即座に(《ならず者の精製屋》)もしくは時間をかけて(《光袖会の収集者》や《つむじ風の巨匠》)アドバンテージを得て、除去呪文や打ち消しによる撹乱が続きます。

 このデッキの行動の多くは、《奔流の機械巨人》やターン終了時の飛行機械・トークンなど、それが本当にインスタントかどうかを問わず、インスタント速度で行われます。このデッキの典型的なプレイ・パターンは、序盤にクリーチャーをプレイしてその後相手のすることをインスタント速度の対策で全て止めに行くというものです。

 しかしながら、このデッキができる動きはこれだけではありません。ミッドレンジ・デッキのように対戦相手の動きに応じてさまざまな役割を演じることができます。

 今週はここまでです。わたしたちはスタンダードがまだ理想的なところにないことは分かっていますが、わたしはプレイ・デザイン・チームが大きく影響を与えたセットが発売されるようになれば、このフォーマットが良くなると確信しています。わたしたちはまだ6か月しか過ごしておらず、1年以上先の仕事をしているので、世界がわたしたちの取り組んでいるものを見るまでにはしばらくかかります。

 わたしたちは競技スタンダードの健全さに関して情熱を注いでいて、そしてプレイ・デザインが初めから関与した最初のセットが発売されることを楽しみにしています。プレイ・デザインが関わった最初のセットは『ドミナリア』で、プレイ・デザインが完全に機能した最初のセットは開発名『Milk』で、プレイ・デザインが展望デザインに意見を出した最初のセットは開発名『Archery』です。

 お読みいただきありがとうございました。ではまた次回。

メリッサ・デトラ (@MelissaDeTora)

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