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開発秘話

Play Design -プレイ・デザイン-

グランプリ・ミネアポリスで歴史を作る

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グランプリ・ミネアポリスで歴史を作る

Melissa DeTora / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年8月18日


 2週間前、わたしは生中継に携わるためにグランプリ・ミネアポリスに行く機会がありました。これまでに何度もプレイヤーやカバレージ・ライターとしてグランプリに行ったことがありましたが、解説者としての参加は今回が初めてでした。

 わたしたちの生中継チームは2つに分かれています。片方は実況担当で、何か動きがあったときにそれを実況します。もう片方は解説担当(わたし!)で、動きが少ないときの穴埋めと写っているプレイヤーの意図を解説します。解説担当はそのゲームの中で何が起こるかを説明できるように、そのフォーマットを詳しく知っていることが求められます。

 新しい課題ができたとき、わたしはできることはなんでも準備しておきたいと思っています。不幸なことに、いくつかの問題が起こりました。わたしが一緒に仕事をしている2人の実況担当、マーシャル・サトクリフ/Marshall Sutcliffeとマリア・バーソルディ/Maria Bartholdiは2人ともその前の週にプロツアー『破滅の刻』のために日本へ出発したので、彼らと準備をするという選択肢を取ることはできませんでした。幸い、このグランプリの3週間ぐらいに前にマーシャルとマリアの2人となんとか練習試合をすることができたのですが、準備万端という感じではありませんでした!

 その一方で、わたしは自分がコントロールできる方法で準備しました――Magic Onlineで練習試合をたくさん行いました。わたしはプロツアー・ガントレット戦をいくつかのリーグを通して行い、さらに少し調整をしました。わたしはすでにそれらのデッキやカードをよく知っていたので、このフォーマットを学び、この週末にミネアポリスで活躍すると予想を固めるのに長い時間はかかりませんでした。

 わたしは確かにこのフォーマットをフューチャー・フューチャー・リーグでたくさんプレイしましたが、それは約1年前でしたし、大きく異なる環境でした。FFLの側面の1つは、現実世界が最終的にプレイするものから少し外れようとすることです。これはカードが常に変化し続けているせいであり、わたしたちは現実世界と同じ方法でデッキを反復することができないということです。これはほぼ異なる世界線に生きているようなものです。

 例えば、FFLのガントレット戦がティムール・エネルギーとグリクシス・コントロールを最強のデッキであると示した場合、「2週目」にはそのメタゲームはそれに適応していきます。多分アグロが現れて、遅いデッキとその欲張ったマナ基盤を咎めるでしょう。その後「3週目」にはさらに適応して釣り合いが取れていくでしょう。

 では、このプロツアーのときに最も活躍したデッキが赤単アグロだとしましょう(ネタバレ:実際そうでした!)。次の週にはプレイヤーたちは適応しそれらのアグロ・デッキを倒そうとします。もしかしたら彼らは赤いデッキのメインに《焼けつく双陽》を入れたり、青白《副陽の接近》のようなアンチ・アグロの戦略をプレイするかもしれません。週が進むに連れて、そのメタゲームは異なる世界線であるFFLのものとは全く異なるものになっていくでしょう。ここでのポイントは、わたしたちのデッキの違いが少しだけであっても、週が進むと巨大な波及効果を及ぼす可能性があるということです。

 スタンダードのローテーションがまだ変更されていなかったので、わたしは内部で行われた『破滅の刻』スタンダードでおかしな経験をしました。わたしたちは『イニストラードを覆う影』から『破滅の刻』までを通したスタンダードをテストしましたが、全くの別物でした。新しいフォーマットをテストして必要な変更を行うのに数週間かかりましたが、望むだけの情報量が得られず、デッキの反復工程はいつもより少ない回数だったのです。

 話を元に戻すと、わたしたちはプロツアー『破滅の刻』で活躍したものに近い、すごいデッキをいくつか作っていましたが、それらはまだプロがプレイしたものとは少し違っていました。例えば、わたしたちのゾンビ・デッキは《むら気な召使い》と《排斥》のためにを白をタッチしていました。このタッチ白のせいで、わたしたちは《無情な死者》や《闇の掌握》のようなカードを使うことができませんでした。またわたしたちのデッキは土地の枚数が少なく、2マナ域が多く、《リリアナの支配》の枚数も少なくしていました。

 わたしたちの赤いデッキも同じようにプロツアーで使われたものとは違っていました。それほど軽くなく、《栄光をもたらすもの》や《反逆の先導者、チャンドラ》のような強打者に焦点を当てていました。またわたしたちのリストのほとんどにはスパイシーな《ハゾレトの碑》が入っていました。この碑は戦場にすぐに影響を及ぼさないかもしれませんが、これによって引いてくるカードの質は良くなります。4ターン目に《栄光をもたらすもの》を唱えて《地揺すりのケンラ》を捨て、6ターン目にそのケンラを「永遠」するよりも気分の良いことはありません。マナ・フラッドしているときに余分な土地を避けられることで、誰も傷つかずに済みます!

 わたしたちがとても多くの異なる種類の、常に変化するカードをプレイしているとき、いくつか狂った相互作用が発生しがちです。《嘲笑 // 負傷》はわたしたちが赤いデッキでたびたび「楽しい」ものとしてプレイしていた大犯人でした。時には、戦場にクリーチャーを大量に並べていれば《嘲笑》を唱えてそのゲームに勝つことがあり、またある時は《ハゾレトの碑》や《熱烈の神ハゾレト》自身でそれを捨て、後で余波を唱えることができます。

 《癇しゃく》も同じように前述のカードを捨てる装置と大きな相互作用があり、赤のアグロ・デッキを喜んでプレイするもう1つの本体火力です。プロツアー『破滅の刻』のラムナプ・レッドはわたしたちのデッキよりもはるかに調整されたものですが、わたしたちはデッキを複数の方向に向けるプレイヤーに、多くの選択肢があるようにしたいと考えました。

 トーナメント・ホールに入り、わたしは少し緊張していました。このようなことをするのが初めてだっただけではなく、5千~1万人の人々が見ているのです。プレッシャーなどありません、よね? ありがたいことに、実際に始まると物事はスムーズに進みました。わたしはただ家で配信の前に座って友達とそのマッチについて喋るように状況を過ごすだけでした。マーシャルとマリアは一緒に仕事をする上でとても素晴らしい人たちで、彼らのプロフェッショナリズムはわたしのこの日をとても簡単なものにしてくれました!

 この経験の中で傑出した瞬間は、わたしのFFLでの経験が解説をする助けになったラウンドのことです。FFLには《末永く》や《死の権威、リリアナ》、のようなカードや《穢れた血、ラザケシュ》のようなスパイシーなリアニメイトしてくるクリーチャーを特色とした素敵なリアニメイト・デッキがありました。2日目にマリアとわたしがリアニメイトの試合を解説していたとき、わたしはすでにそのデッキを熟知していて、開発部以外の人にはまだ不可能な洞察を伝えることができました!

歴史は作られた!

 このグランプリの日曜日、マリアとわたしは一緒にブースに乗り込み、史上初めてプロのマジックで実況・解説ともに女性が担当しました。わたしはマジックを1990年代からプレイしていきましたが、お店で唯一の女性、プロツアー予選で唯一の女性、そしてプロツアーで唯一の女性であることが頻繁でした。月日が経つにつれて女性の数は増え続けてきましたが、十分ではありませんでした。女性の存在を示すことはとても重要なことで、2人の女性が試合にコメントしているのを見ることはマジックにとって革新的な瞬間であり、わたしはもっと多くの女性が競技プレイに刺激されるように願っています。

 読んでくれてありがとう、そしてまた来週。

 メリッサ・デトラ (@MelissaDeTora)


今週のプレイ・デザイン・チーム

(今週はブライアン・ハーレイ/Bryan Hawleyがお送りします。)

 グッドニュース:我々は新しいステッカー・プリンターを入手したので、またプレイテスト用カードを印刷できるようになった!

 それがなぜグッドニュースなのかは以下の通り。

 1か月ほど前、トーデック/Tordeckと名付けられた我々の信頼するステッカー・プリンターがちょっとした存在の危機を抱え始めた。それがプリンターになりたいのか不機嫌な歌姫になりたいのかは定かではないが、とにかく紙を供給する方法にとてもうるさくなり始めた。

 最初は真下にある2番目のトレイの紙を拒絶し始め、すぐに3番目も拒絶された。我々はトーデックが機嫌良く動く方法に関する一連の覚書を作成した――具体的には第1トレイ(手差しトレイ)に、用紙を表向きだけで入れるということを書いた。すぐにこれだけではトーデックをなだめるのには不十分になり、1ページ印刷するごとに「OK」を押さなくてはならなくなった。

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アンドリュー・ブラウン/Andrew Brown(左)とダン・バーディック/Dan Burdick(右)はトーデック(中央)が彼らを意図的に無視するのに対して怒りを抑えようと苦労している。

 さらに繊細になったトーデックによって作成を余儀なくされたこの制限のリストにより、我々はもっと素直なプリンターを探すこととなり、我々は強力なタム/Tamのもとを訪れた。タムは我々を助けようとしてくれたが、他の部署の怒りを避けるために、我々はステッカー用紙を積み込むために、そして使い終わった後に普通の用紙に入れ替えるために、2回建物を横切らなければならなかった。

 しかしこの方法もプレイ・デザイン・マネージャーのダン・バーディックが誇張ではなく3000枚のプレイテスト用カードを印刷し、タムが印刷できるステッカー用紙を使い果たしてしまった後は使えなくなった。ダンはすぐに日本へ逃亡し、タムはその後間もなく壊れてしまった。疑惑は今でも続いている。

 新しいプリンターが手に入ると、大々的に新しい名前を探すことになった。結局ロートス/Lorthosに決まったが、以下の名前も候補に上がっていた(ほとんどを提案したのはアンドリュー・ブラウン/Andrew Brownだ)。

  • ジョルベイ/Jorubai
  • 真珠湖/Pearl Lake
  • 難題の印刷者/Thought-Knot Printer
  • ファイレクシアの楽生/Phyrexian Funlife
  • 血清の印刷機/Serum Printer
  • ブーンシャカラカ/Boomshakalaka
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アンドリュー・ブラウンはロートスの到着とストレスフリーなプレイテストの印刷を祝う。
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