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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『サンダー』を呼び起こせ その2

Mark Rosewater
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2024年4月29日

 

 先週、『サンダー・ジャンクションの無法者』に収録された以前から知られているキャラクターの新カードについて、カード個別のデザインの話を始めた。他にも伝えたい物語があるので、続けていこう。

貪欲な乗りもの、ギトラグ
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 我々は「乗騎」メカニズムを必要としていた。それからこのセットには、有名な伝説の訪問者が多数登場することもわかっていた。この2つの要素を交差させることはできるだろうか? そう、このセットでどんな伝説のクリーチャーを登場させれば良いのかは、誰もがわかっていたのだ。(すでに別のカードで乗られている姿が描かれている。)

jp_The_Gitrog_Monster.pngjp_Thalia_and_The_Gitrog_Monster.png

 ギトラグの怪物は、イニストラードに棲む巨大なカエルである。『イニストラードを覆う影』での初登場時はフロッグ・ホラーのストーリーが脚光を浴び、その後エムラクールの影響で変貌した姿も描かれた。そして『機械兵団の進軍』では、サリアとチームを組んでいた。

〈暴れ馬、ギトラグの怪物〉(Ver.1)
{2}{B}{G}
伝説のクリーチャー ― カエル・ホラー
4/4
土地1枚があなたのコントロール下で戦場に出るたび、ターン終了時まで、[カード名]とその乗り手はそれぞれ+1/+1の修整を受け、接死を得る。
[カード名]の乗り手が対戦相手1人に戦闘ダメージを与えたとき、あなたはそれを生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、あなたはそれのパワーに等しい枚数のカードを引き、それのタフネスに等しい点数のライフを得る。
乗騎{B}{G}({B}{G}: あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象としこれをつけるか、クリーチャー1体からこれを外す。乗騎はソーサリーとしてのみ行う。これが戦場に出たターンに初めてこの能力を起動する場合、起動コストは{0}になる。)

 ギトラグの怪物のカードは、どれもセット・デザインの中で作られた。(プレビュー記事で語ったように)我々は「変容」型の「乗騎」メカニズムをセット・デザインへ提出したが、それはギトラグの怪物のカードが作られる前に却下された。ご覧の通り、セット・デザイン・チームはさまざまな形の「乗騎」メカニズムを試していたのだ。

 「乗騎」である以上、他のクリーチャーがそれに乗る方法が必要であり、乗られたら恩恵がある必要があった。最初期のバージョンでは、『神河:輝ける世界』の「換装」のように乗騎を持つクリーチャーを乗り手につけることができた。それにより何が起きるのかはメカニズムとして定義されておらず、カードに書かれていることがほとんどだった。この最初のバージョンでは、そのクリーチャーが戦場に出たターンにコストなしで乗騎能力が使えるようになっている。

 ギトラグの怪物は黒緑であり、過去に出た2枚もその2色だった(サリアとチームを組んだため白が加わったのだ)。この最初のバージョンでは、土地を参照し、接死を与え、生け贄に捧げてカード引く、というように過去の2枚にできる限り近い機能を与えようとしている。一番上の能力は乗り手と「乗騎」を持つカードの両方に恩恵を与えるものになっているが、これは乗り手から外す方法もあったためだ。2番目の能力は、乗り手をカードを引くためのリソースにできるというものだった。

〈暴れ馬、ギトラグの怪物〉(Ver.2)
{2}{B}{G}
伝説のクリーチャー ― カエル・ホラー
5/5
土地1枚があなたのコントロール下で戦場に出るたび、ターン終了時まで、[カード名]とそれに乗るクリーチャーはそれぞれ+1/+1の修整を受け、接死を得る。
[カード名]の乗り手が対戦相手1人に戦闘ダメージを与えたとき、あなたはそれを生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、それのパワーに等しい枚数のカードを引き、それのタフネスに等しい点数のライフを得る。
乗騎{2}{B}{G}(あなたがこのカードを乗騎コストで唱えたなら、これは対象のクリーチャーについた状態で戦場に出る。あなたはこれの乗騎コストを支払うことで、対象のクリーチャーにつけたり外したりしてもよい。それはソーサリーとして行う。)

 次のバージョンは、サイズが5/5に上がったものの大部分がそのまま残された。大きく変わったのは、「乗騎」の挙動である。このバージョンでは、乗騎を持つクリーチャーを唱えたときにだけ乗れた。だが降りるのはいつでもできる。プレイテストを1回行っただけで、これがフレイバー面でうまくいかないことがわかった。乗り手は何度でも乗り降りできるべきなのだ。

〈暴れ馬、ギトラグの怪物〉(Ver.3)
{2}{B}{G}
伝説のクリーチャー ― カエル・ホラー・乗騎
4/4
土地1枚があなたのコントロール下で戦場に出るたび、ターン終了時まで、[カード名]とそれに乗るクリーチャーはそれぞれ+1/+1の修整を受け、接死を得る。
[カード名]の乗り手が対戦相手1人に戦闘ダメージを与えたとき、あなたはそれを生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、それのパワーに等しい枚数のカードを引き、それのタフネスに等しい点数のライフを得る。
乗騎{2}(あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象とし、このクリーチャーの乗り手として選ぶ。乗り手は一度に1体の乗り手にしかなれない。このクリーチャーをタップする。これはその乗り手が降りるまでアンタップしない。起動はソーサリーとしてのみ行う。もう一度起動することで、乗り手は乗騎から降りる。降りる場合は起動コストなしで起動できる。)

 ご覧の通り、ギトラグの怪物のサイズは常に上下していた。このバージョンの「乗騎」は装備品を模したものになっており、サブタイプに乗騎が加わっている。乗り手と乗騎が1体のクリーチャーであることを表現するため、このバージョンでは乗騎がタップするようになっている。乗騎から降りるのはコストなしでできるようにした。

〈暴れ馬、ギトラグの怪物〉(Ver.4)
{2}{B}{G}
伝説のクリーチャー ― カエル・ホラー・乗騎
4/4
上陸 — 土地1枚があなたのコントロール下で戦場に出るたび、ターン終了時まで、[カード名]とその乗り手はそれぞれ+1/+1の修整を受け、接死を得る。
[カード名]の乗り手が対戦相手1人に戦闘ダメージを与えたとき、あなたはそれを生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、それのパワーに等しい枚数のカードを引き、それのタフネスに等しい点数のライフを得る。
搭載{2}({2}:ターン終了時まで、このクリーチャーは攻撃できない。あなたがコントロールしていてこれでないクリーチャー1体を対象とする。それはこれの乗り手になる。起動はソーサリーとしてのみ行い、1ターンに1回しか起動できない。)

 我々は「上陸」を落葉樹にすると決めた。このカードも上陸能力を持っていたため、ラベルをつけることにした。「乗騎」能力は「搭載」になった。特に大きな違いは、乗り手である状態がターン終了時までしか続かなくなったことだ。つまりマナを毎ターン支払わなければならないのだ。

〈暴れ馬、ギトラグの怪物〉(Ver.5)
{2}{B}{G}
伝説のクリーチャー ― カエル・ホラー・騎獣
5/4
[カード名]が攻撃するたび、このターンそれに乗馬したクリーチャー1体を対象とし、それを生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、それのパワーに等しい枚数のカードを引き、それのタフネスに等しい点数のライフを得る。
騎獣への搭乗1(あなたがコントロールしていてこれでない望む数のクリーチャーを、それらのパワーの合計が1以上になるように選び、タップする:ターン終了時まで、この騎獣は搭乗された状態になる。)

 上陸能力が削除され、サイズが少し大きくなった。この時点で、セット・デザインは「機体」型の「乗騎」メカニズムを使い出した。これは、将来のセットの展望デザイン・チームがデザインしたものだった。そのことを私が知っているのは、「騎獣への搭乗」は我々(私を含む将来のセットの展望デザイン・チーム)が使っていた呼称だからだ。初期案ではこの能力を搭乗と区別せず、搭乗の延長線上にある似たメカニズムにできないか検討しているところだった。

〈貪欲なもの、ギトラグの怪物〉(Ver.6)
{2}{B}{G}
伝説のクリーチャー ― カエル・ホラー・騎獣
5/4
[カード名]が攻撃するたび、このターンそれが騎乗されていたなら、あなたは追加の土地1つをプレイしてもよく、このターンにこれに騎乗したクリーチャー1体を生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、それのパワーに等しい枚数のカードを引き、それのタフネスに等しい点数のライフを得る。
騎乗1(あなたがコントロールしていてこれでない望む数のクリーチャーを、それらのパワーの合計が1以上になるように選び、タップする:ターン終了時まで、この騎獣は騎乗された状態になる。)

 バージョン6でついに「騎乗」にたどり着いた。「搭乗」ではフレイバーを的確に捉えられず、我々が望まない選択を求められた。こうして、騎乗されると恩恵を得られる形になった。過去のギトラグの怪物とのつながりを持たせるため、土地をプレイできる効果が添えられた。

〈飼いならされぬもの、ギトラグの怪物〉(Ver.7)
{2}{B}{G}
伝説のクリーチャー ― カエル・ホラー・騎獣
4/5
到達、接死
[カード名]が騎乗された状態で攻撃するたび、このターン、あなたは追加の土地1つをプレイしてもよい。あなたは、このターンにこれに騎乗したクリーチャー1体を生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、それのパワーに等しい枚数のカードを引き、それのタフネスに等しい点数のライフを得る。
騎乗1(あなたがコントロールしていてこれでない望む数のクリーチャーを、それらのパワーの合計が1以上になるように選び、タップする:ターン終了時まで、この騎獣は騎乗された状態になる。騎乗はソーサリーとしてのみ行う。)

 「騎乗」にはソーサリーとしてのみ行う制限がついた。騎乗をブロックに使うのは望ましくなかったのだ。それからパワーとタフネスの値を入れ替え、到達と接死を持たせた(接死は過去のギトラグの怪物を思わせる)。最終版は5マナになり、パワーが1上がり、到達と接死が速攻とトランプルに入れ替えられた。接死は過去の2枚を想起させるものの、うまく機能しなかった。速攻とトランプルの方がより良いプレイ・パターンを生み出したのである。そのことは、あるキャラクターの新バージョンを改めてデザインする際の重要な教訓となった。過去のカードが持っていたメカニズムであっても、新しいカードに合わないならそれに縛られることはない。機能面を可能な限り過去のカードと関連させることよりも、その新カードをうまく機能させることの方が重要だ。同じキャラクターであることが感じられれば、それで良いのだ。

 最後に、このカードのアート指示をお見せしよう。

*** 拡張アート用のアスペクト比でお願いします***
セットコード:OTJ
舞台:サンダー・ジャンクション
:黒と緑のマナに関わる伝説のクリーチャー
場所:ウキクサ(添付を参照)やその他沼地の植物が生えた沼
意図:ギトラグの怪物(添付を参照)は、巨大で変質したカエルである。サンダー・ジャンクションの住民たちはギトラグに乗れるよう飼いならそうとしているが、今のところ彼らの努力は徒労に終わっている。
行動:ギトラグの怪物が沼から飛び出すところを描いていただきたい。捕獲や封じ込めに失敗した怪物には、さまざまな網や投げ縄、ロープがぶら下がっている。口にはおもちゃを噛む犬のように鞍(ページ87Aを参照)をくわえている。
焦点:ギトラグの怪物
雰囲気:ギトラグを手懐けるなんて無理だ!
注意:このアートは(1)標準のアスペクト比 (2)拡張マージン込み(添付のテンプレート参照)の2種類のアスペクト比で印刷されます。標準のアスペクト比で切り取れるように絵を組み立て、拡張マージンの部分は、拡張アスペクト比で印刷されたカードで見えるイースターエッグとして、追加の面白い詳細で埋めてください。

用心棒、ラクドス
jp_Rakdos_the_Muscle.jpg

 『サンダー・ジャンクションの無法者』には、多元宇宙じゅうから有名なトラブルメーカーを集める必要があった。そういうことなら、ラヴニカのギルドのパルン(創始者)の1人である古代のデーモンを置いて他に適任がいるだろうか?

〈荒くれ者のリーダー、豪腕のブライオン〉(Ver.1)
{1}{R}{W}
伝説のクリーチャー ― 巨人・戦士
3/3
あなたがコントロールしている発生源1つが対戦相手に戦闘ダメージでないダメージを与えるたび、あなたがコントロールしている各クリーチャーの上にそれぞれ+1/+1カウンター1個を置く。
{2}{R}, クリーチャー1体を生け贄に捧げる:ブライオンは各対戦相手に、その生け贄に捧げられたクリーチャーのパワーに等しい点数のダメージを与える。

 興味深いことに、用心棒役として当初検討されていたのはラクドスではなく、ローウィン出身の巨人である剛腕のブライオンだった。ブライオンはクリーチャーを投げ飛ばすことでよく知られているため、彼の新しいカードはまさにそうする(ただしプレイヤーに向けてのみ投げる)ようにし、投げつけることで自軍の他のクリーチャーに恩恵を与える常在型能力も持たせた。

 クリエイティブ・チームがオーコ一味の用心棒であるラクドスというアイデアを思いついてからは、振り返らなかった。『サンダー・ジャンクションの無法者』までに、ラクドスは4回カードで描かれており、1枚は直近のセットに収録されていた、

jp_Rakdos_the_Defiler.jpgjp_Rakdos_Lord_of_Riots.jpg
jp_Rakdos_the_Showstopper.jpgjp_Rakdos_Patron_of_Chaos.jpg

 4枚もカードがあるキャラクターはそう多くない。多くのカードが刷られてきた歴史を持つキャラクターをデザインする場合、まずは既存のカードが機能面でそのキャラクターをどのように定義してきたのか、その感覚を掴むところから始めたい。2枚目のカードなら、ある程度柔軟に作ることができるだろう。だが5枚目ともなれば、その柔軟性は少なくなる。十分に点を打っておけば、線が引かれていくのだ。既存の4枚に共通する点は以下の通り。

  1. 黒であり赤である
  2. 4~6マナである
  3. デーモンである
  4. 飛行とトランプルを持っている
  5. パワーやタフネスが6である(6は獣の数字と考えられている)
  6. 破壊的なことをする

 

〈血に塗れた処罰者、ラクドス〉(Ver.2)
{2}{B}{B}{R}{R}
伝説のクリーチャー ― デーモン
6/6
飛行、トランプル
各ターンに1回、あなたは呪文のマナ・コストを支払う代わりにクリーチャー3体を生け贄に捧げることでそれを唱えてもよい。

 初期案では6つの共通点をすべて収めた。マナ・コストの支払いを回避する効果は歴史上たびたび問題を起こしてきたため、危険な領域ではあったものの、3体生け贄は多く、フレイバーも強固だった。

〈用心棒、ラクドス〉(Ver.3)
{1}{B}{B}{R}{R}
伝説のクリーチャー ― デーモン・傭兵
5/5
飛行、トランプル
あなたの各ターン中に1回、あなたは赤や黒の呪文のマナ・コストを支払う代わりにこれでないクリーチャー3体を生け贄に捧げることでそれを唱えてもよい。

 ラクドスを無法者にするため、彼は傭兵になった。前のバージョンはカラー・パイの曲げが強すぎたため、黒と赤の呪文に限る制限をかけた。それからマナ・コストを{1}{B}{B}{R}{R}に減らし、5/5にした。(つまり先ほど挙げた共通点の1つを踏襲しなくなった。)

〈用心棒、ラクドス〉(Ver.4)
{1}{B}{B}{R}
伝説のクリーチャー ― デーモン・傭兵
5/5
飛行、トランプル
あなたのターンの戦闘の開始時に、クリーチャー3体を生け贄に捧げてもよい。そうしたなら、あなたの手札にあり赤や黒であるクリーチャー・カード1枚を戦場に出す。

 我々はさらなる制限をかけ、ラクドスがマナ・コストの支払いなしでプレイできるカードを赤や黒のクリーチャーに絞った。

 最終版はまた別の方向へ向かった。クリーチャーを生け贄に捧げるのは変わらないが、今度は2つの能力を持つようになった。1つ目は、プレイヤーのライブラリーの一番上のカードを使えるようにする能力。この能力でパワーやタフネスではなくマナ総量を参照するようにしたのは、クリーチャー・トークンを生け贄に捧げて使えるようにしたくないからである。2つ目は、1ターンに1回ラクドスを破壊不能にして守ることができる能力だ。それからマナ・コストも微調整してパワー6に戻した。

 このカードのアート指示は以下の通り。

*** 拡張アート用のアスペクト比でお願いします***
セットコード:QXX
舞台:『Quilting』
:黒と赤のマナに関わる伝説のクリーチャー
場所:ターネイション(167~78ページ参照)にある、治安の悪い酒場。
行動:ラクドス(16ページ参照)は、自身を巨大化できる破壊を愛するデーモンである。翼を広げて9メートルほどの高さまで巨大化した彼の姿を描いていただきたい。彼は炎の大鎌で建物の屋根を剥ぎ取り、混沌を大いに楽しんでいる。もしかしたら悲鳴を上げる人間たちを巨大な手で握りしめているかもしれない。屋根を吹き飛ばされた建物から彼を見つめている者がいるかもしれない。
焦点:ラクドス
雰囲気:強力で破壊的
注意:このアートは(1)標準のアスペクト比 (2)拡張マージン込み(添付のテンプレート参照)の2種類のアスペクト比で印刷されます。標準のアスペクト比で切り取れるように絵を組み立て、拡張マージンの部分は、拡張アスペクト比で印刷されたカードで見えるイースターエッグとして、追加の面白い詳細で埋めてください。

多様な道のリクー
jp_Riku_of_Many_Paths.jpg

 リクーが初めて登場したのは、マジック:ザ・ギャザリング『統率者』でのことだった。

jp_Riku_of_Two_Reflections.jpg

 彼は魔法を研究することと生命を研究することの2つの情熱を持った魔道士である。それらを両立するために、彼は古代の呪文を用いて自身を2つの映し身に分けた。こうして片方の映し身が魔法を研究し、もう片方が生命を研究したのだ。彼のカードは両方の映し身を表現したものになっており、呪文をコピーする能力とクリーチャーをコピーする能力を持ちあわせている。その後も「デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ」で対戦相手として登場し、プレイヤーが使用するデッキを使用してきた。

〈嵐の息吹のドラゴン〉(Ver.1)
{3}{R}{R}
クリーチャー ― ドラゴン
4/4
飛行、速攻、プロテクション(白)
{5}{R}{R}:怪物化3を行う。(このクリーチャーが怪物的でない場合、これの上に+1/+1カウンター3個を置く。これは怪物的になる。)
嵐の息吹のドラゴンが怪物的になったとき、これは各対戦相手に、それぞれそのプレイヤーの手札にあるカードの枚数に等しい点数のダメージを与える。

 この枠はもともと神話レアが入る枠で、当初は『テーロス』からの再録カードが入っていた。理由はわからないが、おそらくプレイテストによって穴を埋めたのだろう。

〈優柔不断な汁婆〉(Ver.2)
{B}{R}{G}
伝説のクリーチャー ― ゴブリン・邪術師
3/3
あなたが呪文や能力のモードを選ぶたび、あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象とし、それに選んだモードの数に等しい個数の+1/+1カウンターを置く。
{T}:{B}{R}{G}を加える。このマナは1つ以上のモードを持つ呪文を唱えるためにのみ使用できる。

 伝説のクリーチャーとして作られたこのカードの最初のバージョンは、ボトムアップで作られていった。その目的を説明するためには、『アルファ版』までさかのぼり、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldがデザインした次のカードを例示する必要がある。

en_healing_salve.jpg

 リチャードは「the boons」と呼ぶコモンのサイクルを作成した。サイクルを構成するカードはいずれもインスタントで、色マナ1つで3つ分の何かを得られるものだった。

en_ancestral_recall.jpgen_dark_ritual.jpg
en_lightning_bolt.jpgen_giant_growth.jpg

 これらの呪文のパワーレベルにはかなりの差があり(《Ancestral Recall》は最終的にレアになった)、中でも白の効果が最も弱かった。そこでリチャードはそれを少し改善しようと、《治癒の軟膏》に2つの選択肢を与えた。3点のライフを得るか、3点のダメージを軽減するようにしたのだ。これがモードを持つ呪文(異なる効果から選んで得られる呪文)の始まりである。『ウルザズ・サーガ』で《治癒の軟膏》のテンプレートは「以下から1つを選ぶ」に変更されたが、箇条書きになるのは『タルキール覇王譚』以降のことだった。

en_healing_salve_2.jpg

 モードを持つ呪文は長年にわたりルールの一部にはあった(『アルファ版』当時は定義されていなかった)が、モードを持つ呪文とそうでない呪文を明確にするテンプレートは『タルキール覇王譚』まで存在しなかった(どこを見ればわかるのか把握しているプレイヤーはそう多くなかった)。開発部はモードを持つ呪文に関連するカードを作ろうと議論を続けてきたが、それにふさわしい場が『サンダー・ジャンクションの無法者』まで見つからなかった。

 この枠は「悪役」に割り当てられていたため、名前からつけられた。はじめはリクーではなく汁婆だったのだ。汁婆はローウィン次元出身のゴブリンである。プレイテストを経て、2つのことが示された。1つ目はモードを持つ呪文に関連する効果はクールであること。そして2つ目は、このカードはおそらく色以外に汁婆を連想させる要素がないことだった。汁婆は機能的にゴブリンや墓地から何か持ってくることに関連していた。このカードでは汁婆を思わせる要素がなかったため、セット・デザイン・チームはこれに合うキャラクターを探すことに決めた。

 モードに関連する、というのは一風変わったフレイバーであり、完全にふさわしいものはなかった。リクーは自身も2つの映し身に分けている点から、チームは他よりも近いと思い、彼を当てはめてみることにした。このこともまた、キャラクターを再びカードにする上で欠かせないテーマである。機能面は同じでなくても、その雰囲気を捉えるクールなものが思いつくこともあるのだ。こうして汁婆はリクーになった。

〈多様のリクー〉(Ver.3)
{1}{B}{R}{G}
伝説のクリーチャー ― 人間・ウィザード
3/3
あなたが呪文や能力のモードを選ぶたび、あなたがコントロールしているクリーチャー1体を対象とし、それに選んだモードの数に等しい個数の+1/+1カウンターを置く。
{T}:{B}{R}{G}を加える。このマナは1つ以上のモードを持つ呪文を唱えるためにのみ使用できる。

 リクーにしたことによる問題もいくつかあった。1つ目は色だ。長い時を経てキャラクターを再登場させる場合、我々は基本的に、それの色が変わるほどの重大な出来事がストーリー上で起きたのでない限り、前回と同じ色やそれに関連する色で登場させている。《二つ反射のリクー》は緑青赤だったため、我々はこのカードの色も変更した。

 それから、+1/+1カウンターの付与もマナを生み出すのもリクーにぴったり合うと感じなかったため、デザイン・チームはさらにモードのフレイバーに寄せて、このカード自体にもモードの要素を持たせることにした。(最終版のリクーはあくまで「モードを持つ呪文」に対して機能するのであり、モードを持つ効果があるパーマネントには反応しないことは特記しておくべきだろう。)こうして、あなたがモードを持つ呪文を唱える際に選んだモードの数に応じて、リクーのモードを選ぶ形になったのだった。

 最終版の直前に、リクーは神話レアからレアになった。我々はまれに、こういう急転回もやるのだ。

〈反射の達人、リクー〉(Ver.4)
{1}{G}{U}{R}
伝説のクリーチャー ― 人間・ウィザード
3/3
警戒、トランプル あなたが呪文のモードを選ぶたび、その選んだ数に等しい数のモードを以下から選ぶ。同じモードを2回以上選んでもよい。 ―
・あなたのライブラリーの一番上にあるカード1枚を追放する。このターン、それをプレイしてもよい。
・飛行を持つ青の1/1の鳥・クリーチャー・トークン1体を生成する。
・[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。ターン終了時まで、これはトランプルを得る。

 最終版は印刷されたバージョンに近いものになった。3つのモードはほぼそのまま残り、テンプレート化の中でわずかに変更されたのみだった。唯一「衝動的ドロー」のモードは機能面に変更があり、「このターン」から「次のあなたのターンの終了時」になった。モードを持つ呪文を唱えて、その上で同じターンに呪文を唱えるのは難しかったのだ。リクーは警戒とトランプルを失い(トランプルは+1/+1カウンターを得るモードで付与されるため、必要なかった)、コストも3マナに下げられたのだった。

 リクーのアート指示はこうだ。

*** 拡張アート用のアスペクト比でお願いします***
セットコード:OTJ
舞台:サンダー・ジャンクション
:緑と青と赤のマナに関わる伝説のクリーチャー
場所:赤色岩が広がる砂漠。石が浮かび、抽象的な風景になっている(124~131ページ参照)。
意図:リクー(添付を参照)は、魔法の技術を磨くためにサンダー・ジャンクションへやってきた、魔法の達人である。94ページにあるようなダスター・コートを着用しているが、彼がもともと身にまとっている青や緑、オレンジ色のエネルギーの要素を含めていただきたい。
行動:リクーが周りの環境を魔法で分解している、抽象的なシーンを描いていただきたい。例えば宙に浮くリクーの近くには、彼が破壊した自然の石のアーチ(124ページ参照)があるかもしれない。アーチは割れたガラスのようにヒビが入っており、分解されて浮かび上がり始めているが、まだ元の形がわかる状態だ。割れたアーチからはカラスが数羽飛び立つ。まるでこの奇妙な出来事に羽休めを邪魔されたかのように。あるいはもっと抽象的な描き方でもよい。もしかしたらリクーは、赤石の破片やカラス、青や緑、オレンジ色のエネルギーの奔流が描く、美しい模様に囲まれているかもしれない。
焦点:リクー
雰囲気:美しく魔法的な砂漠の解体。
注意:このアートは(1)標準のアスペクト比 (2)拡張マージン込み(添付のテンプレート参照)の2種類のアスペクト比で印刷されます。標準のアスペクト比で切り取れるように絵を組み立て、拡張マージンの部分は、拡張アスペクト比で印刷されたカードで見えるイースターエッグとして、追加の面白い詳細で埋めてください。

『サンダー』は過ぎ去る

 『サンダー・ジャンクションの無法者』のカード個別のデザインの物語は、以上だ。いつもの通り、本日取り挙げられたカードや『サンダー・ジャンクションの無法者』全般に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)TumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、つい先日亡くなった私の父に捧げる「Making Magic」でお会いしよう。

 その日まで、あなたが満面の笑顔で悪事を働きますように(マジックの中で)。
 

 (Tr. Tetsuya Yabuki)

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