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Making Magic -マジック開発秘話-
この親にしてこの子あり
2024年5月6日
4月17日、私の父であるジーン・ローズウォーター/Gene Rosewaterが安らかな眠りについた。彼はアルツハイマー病と失語症を患っており、半年ほど前から病状は悪化していた。父は大のゲーム好きで、その影響で私もゲームにのめり込んだ。私がウィザーズから初めて仕事のオファーをもらったとき、当時の私は脚本家になることを思い描いていた(いつかテレビ番組を作る夢を持っていた)ため、少しだけ葛藤があった。そこで私は両親に電話をかけ、相談した。
母ははじめ、懐疑的だった。私がものを書くのをどれだけ楽しんでいるか彼女は知っていたし、ゲームデザイナーになることが正しい道なのか確信が持てなかったのだ(最終的には応援してくれた)。対照的に父は、話を聞くなり諸手を挙げて賛成した。「なんて素晴らしいんだ、やるべきだ」と。(このエピソードは、2013年に父と撮ったポッドキャストでも語っている。父について知りたい方は聞いてみてくれたまえ(英語))
知人が亡くなるたびに、私は「『素晴らしき哉、人生』的内省」を行う時間を設けている。その人がもし存在しなかったら、世界はどうなっていただろうと想像するのだ。これは、その人が与えた影響を考える良い方法である。もし父が存在しなかったら。私のゲームへの愛を芽吹かせてくれなかったら。ウィザーズの仕事を受けるよう、背中を押してくれなかったら。マジックは今と異なるものになり、諸君にも影響があっただろうと私は感じている。
デザイナーという存在は、その人の経験や人間関係によって形作られるものだと私は信じている。父は私の人生を通して、ゲームやデザインについての考え方を形成する上で大きな影響を与えた。本日の記事では、そんな彼が私に与えてくれた教訓と、それがどのように私のデザイン哲学として形を成したのか、マジックのセットやメカニズム、カードを例に挙げながら話をしていこう。
「ゲームを楽しめないなら、そのルールを変えてやればいい」
これは父からの教訓の中でも早くに得たものだ。私たちがゲームをするとき、父はそのゲームのプレイ体験が好ましくない場合は面白くなるまでルールを変更していた。1人のゲーム・プレイヤーとして、父は私にゲームを自分の望む通りにできる力があることを教えてくれたのだ。ゲームはプレイヤーのためにあるのであって、その逆ではない。この教訓は私のゲームに対する考え方を確立し、それは私がマジックに惹かれる最も大きな要素の1つであったと考えている。マジックには、プレイヤーがゲームを作り変える力が組み込まれている。ゲームの構造においても、理念においても核となるものなのである。
私がカードやメカニズム、テーマをデザインするときは、ゲームを望む通りにできる力をプレイヤーに与えるツールやリソースを作ることを意識している。そのためには、できる限りの柔軟性を加えることが肝要だ。そうすることで、そのカードと他のカードを組み合わせられる可能性を最大限に広げることができるのだ。それは、そのカードを使ってプレイヤーが持てる選択肢を広げるためのより大きな構造を作り上げるために、どんなゲーム上のリソースとの相互作用が必要かを考えることである。私が自身に問いかけるのは、「それが何をするか」ではなく、「それは何ができるか」なのである。私の仕事がうまくいけば、プレイヤーたちは私が思いもよらなかった使い道や組み合わせを思いつくのだ。
ジーン・ローズウォーターとマジックに関するトリビア・クイズ1
父はマジックのカードを1枚デザインした。プレイテスト時に〈Radio-Controlled Flyer/ラジコン飛行機〉と呼ばれていたそのカードは、『テンペスト』に収録された。そのカードとは何か?
「プレイヤーがゲームを面白くする」
これも父が言っていたことだが、私は最初は信じていなかった。「プレイヤーはゲームを面白くしない」と思っていたし、「ゲームを面白くするのはそのゲームだ」と考えていたのだ。しかし私は、父の言っていたことを完全に理解する経験をした。大学時代(私はボストン大学に通っていた)、私にはゲームをともに楽しむ友人のグループがいた。グループでゲーム店へ足を運び、新しいゲームを購入して家で遊ぶのを大いに楽しんでいた。我々が遊んできたゲームの数々は素晴らしいものだった。手に取ったどのゲームも実に楽しかった。
卒業が近づくと、我々はそれまで購入してきたゲームを分け合った。卒業後私はロサンゼルスへ行きライターになり、新しい友人もできた。大学の友人ほど熱心なゲーマーではなかったものの、彼らもときどきゲームを楽しんだ。ある夜、私は人を集めてボストンでプレイしていたゲームのうちの1つを持っていった。それは大学時代のグループのお気に入りの1つだった。我々はそれをプレイしたのだが、そのときのプレイ体験はひどいものだった。あまりのひどさに、友人たちにからかわれる始末だったのだ。ボストンであんなに楽しかったこのゲームがロサンゼルスではこんなに面白くないとは、一体どういうわけだろうか?
そのとき、私はようやく父が言っていたことが真実であると気づいた。ゲームは、それをプレイするグループが楽しむための手段を提供してくれるが、楽しみの核心とはその仲間との交流にある。ボストンでの遊び仲間は、みんなで楽しむためのツールとしてゲームを活用する方法を学んでいた。ロサンゼルスの友人たちは、そうではなかったのだ。とはいえ、このゲームをからかって楽しむことで、彼らも良いひとときを過ごしたのであった。(このゲームについては、その後数年にわたりネタにされた。)
この教訓は、私に2つのことを教えてくれた。1つはボストンでの遊び仲間から、もう1つはロサンゼルスでの友人からだ。ボストンでの遊び仲間からは、ゲーム用品がゲームの中でどのように使われるかだけでなく、それがプレイヤー間でどのような交流を生み出すのかも考えなければならない、ということを教わった。例えば、私は2018年に「物語的価値」と呼ばれる概念について記事を書いた。私はそこで、ゲームが物語を導くような思い出に残る瞬間を生み出すことの価値について語った。それを生み出すためには、ゲーム用品がゲーム上でどのような相互作用を生むのかを考えるだけでは不十分である。そのゲームのプレイヤーとゲーム用品がどのような相互作用を生むのかを考えなければならないのだ。
ロサンゼルスでの友人からは、ゲームの楽しい部分をプレイ体験の核とすることの大切さを教わった。そのゲームの楽しい部分を発見することがグループでの体験に含まれるとき、ゲームをプレイすることがその体験において欠かせないものになる。ボストンでの遊び仲間は面白さを見つける方法を知っていたが、それはプレイヤーがやるべき仕事ではない。プレイヤーがどのように遊んでも、楽しい部分に出会えることが必要なのだ。ゲームの構造や動機の配置、プレイヤーへの報酬は、プレイヤーを常にそのゲームの面白い部分に向かわせるという、より大きな目標を中心に据えて取り組まなければならないのである。
ジーン・ローズウォーターとマジックに関するトリビア・クイズ2
デザインの第1週がタホ湖にある父の家で行われたエキスパンションは?
「自分が喜ぶことをせよ」
父には、特に愛するものが5つあった。ゲームとコンピューターと、手仕事(彼は数多くの木工細工や金属細工を行った)、写真、そしてスキーだ。父の両親が彼に医師になるよう勧めたため、父は手を使って仕事をする歯科医を選んだ。彼はクリーブランドの中心部で歯科医院を開業したものの、歯科医に情熱を向けられず、50代のときに医院を売却してカリフォルニア州のタホ湖へ移り、以来25年にわたりスキーのインストラクターを務めた。家のガレージを木工細工や金属細工のスタジオにして、無数の作品を作り上げた。写真も大量に撮り、それらは家じゅうの壁を彩った。彼の作品や写真は、私の家にもあふれている。そしてもちろん、父は多数のゲームをプレイした。その多くはコンピューターでだ。
そんな父だから、私がゲーム・デザイナーになることを考えていたときに大いに賛成した。私がゲーム全般を愛し、特にマジックが大好きであることを彼は知っており、この道が私を幸福にしてくれると感じたのだ。私はキャリアの大部分でマジックの首席デザイナーという自分が望むポジションに就き、そこから離れるような流れにはすべて抵抗してきた。私が自分の喜びのために人生を捧げてきたことに、父は大いに喜んだのだった。
この理念は、私のマジックのデザインにも密着している。私の考えはこうだ。プレイヤーそれぞれに、ゲームが喜びをもたらす部分がある。私と開発部の仕事は、最大多数のプレイヤーに最大の喜びをもたらすゲームの要素を見つけ出すことであり、それらを可能な限り多く各セットに含めることである。マジックの柔軟性と多様性は、どのセットにおいても特定の要素を大量に必要としない。他のセットで見つけた楽しいものを組み合わせることができるからだ。プレイヤーたちが何を楽しんでいるのか理解したいという願望に導かれ、私はサイコグラフィック(ティミー/タミー、ジョニー/ジェニー、スパイクといった分類。属するプレイヤーの数が増える以前のものになるが、記事も書いている)を作り、それは私が顧客のことを考える焦点の1つになっている。
ジーン・ローズウォーターとマジックに関するトリビア・クイズ3
父と私は、私が参加できる最後の大会として、ある大きなトーナメントに参加した。そこでは、エキスパンション・シンボルがないカードのみ使用できると聞いていた。父は『リバイズド』の《拷問台》4枚を、ボー・ベル/Bo Bellという名の男とトレードした。そして男はそれらを使い、この大会で優勝したのだった。このイベントとは?
「リスクを取るのを恐れるな」
私が12歳のとき、両親がデイキャンプ場を購入した(他の2家族との共同購入だった)。両親はなぜそうしたのか? それが楽しいと考えたからだ。キャンプ場はそれから数年間運営されたがうまくいかず、売却せざるを得なくなった。のちにそのことについて父と話したことを、私は覚えている。私は父に、キャンプ場を購入したことを後悔しているか尋ねた。彼は、経済面では最高の決断ではなかったが、人生ではときに、進んで挑戦しなければならないこともある、と答えた。多くのチャンスはそれを選ぶからチャンスになるのであって、失敗を恐れて挑戦しないわけにはいかないんだ、と。
このアドバイスは私の心に刻まれており、私のデザインにも反映されている。私は、うまくいかないかもしれないと心配してアイデアを却下しないように努めている。これにはいくつかの理由がある。第一に、私自身、うまくいくか懐疑的だったものがうまくいくとわかった経験を何度もしているからだ。マジックは多くの優れた人間によって作られており、クールなアイデアが思いついた場合はそれを実現するために喜んで手を貸してくれる人ばかりだ。例えば両面カードも、正直に言って実現できる確信は持てないアイデアだった(デュエル・マスターズにはすでにあった)。しかし掘り下げていくと、実現できることが明らかになったのだ。
第二に、悪いアイデアもしばしば良いアイデアへの足がかりになるからだ。我々は物事をメリットの有無で考えがちだが、多くのアイデアは全体で見て欠陥があっても、さらに掘り下げる価値がある。例えば「彩色」メカニズムは(『イーブンタイド』での)初登場では失敗だったが、(『テーロス』で)作り直された「信心」は卓越したものだった。
第三に、失敗は最高の教師となるからだ。うまくいかなかったときに学べることは多くある。失敗することで、現在置かれている状況を把握しやすくなる。失敗によって、避けるべき問題のある領域を特定できる。失敗は、思い込んでいることの欠陥を指摘してくれる。実際のところ、デザイン初期のプレイテストが十全に機能すれば、初期のアイデアはすべてうまくいかないものだ。反復のプロセスを成功させるには変更点を見つけることが肝要であり、プレイテストの結果がひどいものなら、その変更点が多く見つかるのだ。
マジックのデザインにおいて、私は「最大のリスクは、リスクを取らないこと」を根本原理の1つとしている。マジックは進化を続けるゲームであり、我々は積極的に新しい方向へ進まなければならないのだ。
ジーン・ローズウォーターとマジックに関するトリビア・クイズ4
1996年に、父はウィザーズ・オブ・ザ・コースト本社で行われたマジック:ザ・ギャザリング世界選手権に友人のドン/Don氏とともに参加した。そのイベントで優勝したのは誰か?
「ときおり、人を驚かせたいものだ」
ある年の父の誕生日に、両親は私の妹であるアリッセ/Alysseと私(当時8歳と9歳だった)に、ペンシルベニア州のレストランへ行くと伝えた(我々が住んでいたのは、オハイオ州クリーブランドの近郊だった)。その道中で我々は道に迷い、やがて「Seven Springs」と呼ばれるリゾートを通り過ぎたことに気づいた。妹と私はそのリゾートのうわさを耳にしたことがあり、行ってみたいと両親に伝えた。両親は、みんなで行ってみようかと賛成した。リゾートに泊まれるか尋ねたが、母は荷物を準備していないからと言った。館内を見て回っても良いか尋ねると、両親は同意した。そして中に入ると父は私たちを連れてフロントへ向かい、こう言ったのだった。「4人で予約をしていたローズウォーターです」。
両親はこの旅行をサプライズとして計画しており、車に3時間も乗っていたにも関わらず、どういうわけか私と妹はまったく気づかなかった。これは思い出として深く刻まれ、私は妻とともに、「Great Wolf Lodge」と呼ばれる屋内ウォーターパークで3人の子供たちに対して同じことをしたのだった。父は楽しいサプライズをこよなく愛する人だった。私には、素晴らしいサプライズに彩られた子供時代の楽しい思い出がたくさんある。
私はそれを、マジックのデザインにも持ち込んでいる。顧客が予想していなかった楽しいことをするチャンスを探すのが、私は大好きなのだ。『インベイジョン』で登場した分割カードが好例だろう。
カードフレームの限界を押し広げたのは初めてのことであり、私はそれをプレリリースで体験してほしかったため、この5枚は一切プレビューに挙げなかった。その後カードシート全体がリークされたものの、顧客は分割カードの存在を信じなかった。幸いにもうわさを広げるサイトを全員が訪れたわけではないため、プレリリースで初めてパックを開封し、分割カードを体験する人々の姿を見ることができた。初めて分割カードを目にした人が自分は一体何を見ているのか理解しようと努めている表情は、いつまでも大切にしていきたい思い出の1つだ。
それから、『Unhinged』におけるシークレット・カードや『Unstable』における機能が異なるバージョン違いなど、「Un」セットでもさまざまなサプライズを仕込んできた。
近年では、私たちから最後に全収録カードを公開するというプレビュー方法もあり、カードやセットの要素を完全に隠すのは少々難しくなっている。それでも私は、機能を真に理解するためにいくつかの発見が必要となるメカニズムやその他の要素を作るのを楽しんでいる。最近では、『サンダー・ジャンクションの無法者』における「計画」がその好例と言えるだろう。
ジーン・ローズウォーターとマジックに関するトリビア・クイズ5
父はもう1つ、マジック:ザ・ギャザリング世界選手権に参加している。1997年にシアトルの「University District」で開催された大会だ。このイベントで優勝したプレイヤーは誰か?
「子はありのままに育てよ」
長女のレイチェル/Rachelが生まれたとき、私は無事に生まれたことを父に電話で伝えた。その電話で、私は彼に子育てのアドバイスを求めた。すると彼は、「ありのままに育てよ」と言ったのだ。
父はスポーツマンだった。高校ではレスリングをしており、それで奨学金を得て大学へ進学した。大学では州選手権に何度も出場し、一度3位に入ったこともあった。一方私はスポーツマンではなかった。幼い頃にソフトボールをしていたが、スポーツに打ち込むことはなかった。私は映画好きの子供だった。演技をしたり、演劇の脚本を書いたりするのが好きだった。そんな私のために父は、舞台のセットを作る手伝いをしてくれたり、作品のメインカメラマンを務めてくれたりした。彼は私がやりたいことを手助けするために、持てる技術を惜しみなく使った。良き親とは、子供がなりたい自分になるための手助けをするものであることを、父は私に教えてくれたのである。
この教訓はデザインに活用しやすい。私がセットをデザインする際の目標は、そのセットを私の望む通りにすることではない。良いセット・デザインとは、そのセットが望む形を見つけ出すことであり、その可能性を最大限に引き出せるようデザインすることなのだ。私はよく、何度も同じようにカードセットを作り続けていてマンネリに陥らない秘訣を聞かれる。その答えは単純に、そのセットが望む形になるのを待っているだけだ。セットを育て、その独自性を把握し、そこへ舵を向けることが私のデザイナーとしての仕事である。『ゼンディカー』や『ラヴニカ:ギルドの都』、『イニストラード』のデザインを私は心から誇りに思っているが、どのセットにも私の3人の子供と同じようにそれぞれの個性があり、それらを望む形にできたからこそ、私は幸せなのだ。
本日の記事では私の父の人柄を垣間見せただけだが、彼がいかに素晴らしい人物で、彼の人生やゲームに対する理念が私の中で、ひいてはマジックの中でどのように生き続けているのかが少しでも伝わったなら幸いである。いつもの通り、本日のコラムに関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、ラバイア値を再び見ていく日にお会いしよう。
その日まで、あなたが両親と良好な関係を築いており、まだ近くにいるなら、電話をかけて想いを伝えられますように。私が悲しみを乗り越えられたのは、父が私の想いを知っていてくれたからであり、私もまた父の想いを知っていたからなのだ。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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