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Making Magic -マジック開発秘話-
『カルロフ邸殺人事件』をやり遂げる その1
2024年1月16日
『カルロフ邸殺人事件』プレビュー第1週にようこそ。現在多くの謎が進行中だが、本日はそのいくつかを取り挙げよう。なぜ我々はミステリーをテーマにしたセットを作ることにしたのか? 『カルロフ邸殺人事件』はどのようにデザインされたのか? それを引き起こした犯人は誰なのか? 犯行に使われたメカニズムは? 本日と来週にかけて私が捜査し、答えを導き出そう。その途中でプレビュー・カードも解明されるかもしれない。
共犯者たち
今回の犯行の動機と経緯を説明する前に、まずは犯人から明らかにしよう。『カルロフ邸殺人事件』のデザインには多くの人が関与したが、ここでご紹介する。デザイン・チームの紹介はいつも、そのセットのデザイン・リードにしてもらっている。『カルロフ邸殺人事件』では、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebが展望デザインとセット・デザインの共同リードを務めたので(展望デザインは私と、セット・デザインはアンドリュー・ブラウン/Andrew Brownと)、彼に全員を紹介してもらおう。
注:今回はチーム紹介の中で、『カルロフ邸殺人事件』に組み込まれた大きな謎について少しだけ語っている。また、おまけの謎解きも用意したので、普段は読まないという諸君も目を通しておくのをおすすめしよう。
クリックして先行デザイン・チーム、展望デザイン・チーム、セット・デザイン・チームを表示
謎の解明
それでは早速、最初の謎から話していこう。ミステリーをテーマにした経緯だ。我々はどのようにそこへ至ったのか? 物語は、1997年までさかのぼる。マイケル・ライアン/Michael Ryanと私はマジックには継続した物語が必要だと感じ、今日では「ウェザーライト・サーガ」として知られるものを提案した。その提案の中で、我々は3つのブロックにまたがり舞台を変えて3年にわたり展開される物語の計画を披露した。その後ウェザーライト・サーガは実現したのだが、我々が当初提案した3年にわたる物語からはそれていった。1年目は大部分が提案通りだったが、2年目は一部が残ったのみだった(一部を残し、3年目の方に押し出されたのだ)。ここで注目するのは、その2年目の物語だ。
1年目の舞台はラース、そして2年目の舞台はメルカディアだった(繰り返しになるが、メルカディアを舞台とする2年目の物語は1年後に延期となった。2年目は過去に戻り、ウルザの物語が描かれることになったのだ)。メルカディアでは、ウェザーライト号に忍び込んでいたヴォルラスがスタークを殺害した。そこでマイケルと私は、スターク殺害の出来事をミステリーとして描くというクールなアイデアを思いついたのだ。そのアイデアとは、物語の開幕でスタークが殺害され、セットを通してその謎が紡がれるというものだった。
我々の計画は、殺人事件が豪邸で発生し、さまざまなアートを見るとその邸宅の間取りがわかり、それが事件の鍵を握るという手の込んだものだった。犯人はターンガースなのだが、しかし実はそれはターンガースではなくヴォルラスがなりすましていたという展開だった。
舞台裏のちょっとしたトリビアになるが、ヴォルラスをシェイプシフターにしたのは殺人ミステリーを描くためだった。ウェザーライト・サーガは途中で大きく舵を切り、マイケルと私が関与することも大きく減ったため、殺人ミステリーのセットというアイデアも実現には至らなかった。しかしそのアイデアは、常に私の心の中で大切にしてきた。
時は大きく進み、初代『イニストラード』が発売された。それは大きな成功を収め、私はフィクションのジャンルにもとづくトップダウン・デザインの力を思い知らされた。私はファンタジーとうまく調和するジャンルのリストを作成することになった。リストの一番上は、のちに『エルドレインの王権』につながる「おとぎ話」だったものの、「殺人ミステリー」もリストに入っていた。殺人ミステリーにも良いカードを作れそうな素材がたくさんあり、謎解きの要素が組み込まれたマジックのセット、というアイデアへの私の想いは失われていなかった。(『カルロフ邸殺人事件』に組み込まれた謎解き要素については、次週に詳しく話そう。)
我々はときどき、「シリーズ計画」と呼ぶ方法をとる。現在は毎週のミーティングで行っているが、昔は常にそうではなかった。かつては何日か社外で会議を行い、数年分のセットのラインアップを決めていたのだ。数年前に「ボーラス・シリーズ」という記事を2本(その1、その2)書いたが、それらでこの工程を垣間見ることができると思う。(記事では、特にボーラス・シリーズのストーリー展開について語られている。)
シリーズ計画の会議で、我々はよくそれぞれが持つセットのアイデアを提案している。その中には次に残るものもあれば残らないものもある。基本的には、気に入ったアイデアがあればそれを何度も提案して、大きな構造の中で存在できる場所を見つけようとするものだ。殺人ミステリーのトップダウン次元というアイデアは、何度か提案されたことがあった。なぜ『Polo』(『カルロフ邸殺人事件』のコードネーム)がそのアイデアを実現する場所になったのか、その理由は定かでないが、私は数人の援護を受けて全員を乗り気にさせ、それは計画に加えられることになった。
私が「殺人ミステリーの次元」と言ったことに注目してほしい。当初のアイデアでは、このジャンルに求められる素材をすべて楽しめるよう最適化された、新規次元だったのである。通常、我々がトップダウンの次元を取り扱う場合、そのセットを最適化するために必要な調整を行えるよう、まったく新しい次元を作っていた。しかしその後、我々は『神河:輝ける世界』を作り上げた。『神河:輝ける世界』は当初、日本のポップカルチャーをテーマにしたトップダウンのセットだった。だが我々はそこで新たな次元を作るのではなく、よく合いそうな既存の次元を再利用することにしたのだ。これはのちに、我々を『イクサラン:失われし洞窟』でも新規の地底次元からイクサランへ変更することに導いていくことになった。
展望デザインの中盤に、世界構築チームと展望デザイン・チームはそれまで作ってきた次元がラヴニカによく似ていることに気づいた。扱う素材は優れた法執行機関を必要とし(ニューカペナでは少し弱かった)、我々は車輪を再発明する必要性を感じなかった。その次元がラヴニカに似ているなら、ラヴニカにしない理由があるだろうか? ラヴニカを再訪するのに、ギルドをテーマにしないことに混乱するプレイヤーがいるのではないかと議論になったが、そのひと月前には『ラヴニカ・リマスター』が発売されるため、ギルドを求めるプレイヤーにも受け入れ先はあると我々は考えたのである。
いよいよ佳境に
さて我々の物語は、殺人ミステリーのセットに必要なメカニズムを探していた先行デザインのはじめにさかのぼる。今回は楽しいミステリーの素材を存分に活かせる、フレイバーに富んだトップダウンのカード・デザインが山ほどあるに違いない。だが殺人ミステリーを味わえるプレイ体験を実現するには、どのようなメカニズムにすべきだろうか? 本日はそのうち2つを取り挙げ、残りは次週語ることにしよう。
第一に、マジックはすでにミステリーのセットを出している。それは殺人ミステリーではなく、今回我々が求めたほどミステリーの要素が強いわけではないものの、我々にミステリーを味わえるメカニズムをどのように作ったらいいかと自問させたセットだ。そのセットとは、『イニストラードを覆う影』である。このセットで我々はイニストラードを初めて再訪し、ホラーの要素をゴシック・ホラーからコズミック・ホラーに変えることにした。コズミック・ホラーにおいて大きな部分を占めるのは、ミステリーの要素だ。そこで私たちはジェイスにトレンチコートを着せてイニストラードへ送り、謎を解明させたのだ。
謎を調査する感覚を落とし込んだメカニズムで主たるものは、「調査」だ。これは、マナを支払うとカードが引ける手掛かり・トークンを生成する。我々がクリーチャーでないトークンを大量に生成してプレイしたのは、これが初めてだった。続く『異界月』では調査を使わなかったが、それは物語がミステリーのパートからホラーのパートへ移行したからだ。プレイヤーたちは調査を本当に気に入っており、また使いたいと意見を寄せていた。我々は次にイニストラードへ再訪した『イニストラード:真夜中の狩り』でも調査を再録した。
つまり何が言いたいのかというと、我々が殺人ミステリーのセットに合うメカニズムを自問したとき、最初に思い浮かんだのが調査だったということだ。我々はそれを入れて、あとはもう振り返らなかった。「調査を行う」はキーワード処理(何かをすることを示す動詞)であるため、我々がそれを使う上で高い柔軟性がある。実際に、本日のプレビュー・カード3枚はそれぞれ、異なる方法で調査を使っている。それでは話を続ける前に、プレビュー・カードをお披露目しておこう。
1枚目は《殺人調査員》だ。あなたがラヴニカ市民なら、ぜひ会いたい人物ではないだろう。彼女が現れるということは、誰かが死亡したということなのだから。それがあなたでないことを願う。
クリックして「殺人調査員」を表示
ご覧のように、彼女は調査を誘発型能力として使っている。適切にデッキを組めば、彼女の能力を毎ターン活かせるだろう。
2枚目は《目ざとい新人》だ。《目ざとい新人》もまた、殺人事件の解決に熱心な探偵である。
クリックして「目ざとい新人」を表示
ラヴニカが舞台になるということで、我々は好んで過去のラヴニカのセットからメカニズムを拝借した。《目ざとい新人》では、『ギルド門侵犯』におけるシミックのメカニズムである「進化」を使った。進化の入力と組み合わせる出力に調査を採用したのは、楽しかった。
3枚目、本日最後のプレビューは、《証人隠滅》という名前のカードだ。
クリックして「証人隠滅」を表示
《証人隠滅》は、調査がキーワード処理であることの柔軟性を示している。そう、我々は調査をパーマネントだけでなく呪文にも使えるのだ。
いずれにせよ、調査採用までの物語は短くシンプルなものだった。それは明らかに入るものであり、我々はそうしたのである。次に紹介するメカニズムは、このセットに入るまでもう少し長い道のりを行くことになった。
影に潜む
先行デザインの初期に、我々はいつものように殺人ミステリーのセットにあるべきものをリストアップした。その中に「秘匿された情報」と書かれたものがあった。殺人ミステリーの要点は、誰かがそれを解明しなければならないことにある。ゲーム体験にミステリーの要素を取り入れるなら、プレイヤーが必ず解明することになる未知の情報が必要だった。
そこで我々は、秘匿された情報が関わる過去のゲームプレイ上の要素をすべて洗い出した。そして重要な要件に気づいた。それは、対戦相手が「何か知らないものがある」と理解することだった。例えば手札で機能するメカニズムの場合、その要件は満たせない。なぜならプレイヤーは(ほとんど)いつも手札を手に持っているため、我々が求める「解くべき謎がそこにある」状況にならないからだ。我々は、解き明かさなければならない何かがある、と対戦相手に気づかせるようなカードをプレイしてもらいたかった。
我々はさまざまなメカニズム的鉱脈を探り、ついに裏向きのカードに行き着いた。裏向きのカードは、「私はあなたが知らない何かを知っているし、あなたが知らないそれは問題を起こすかもしれない」という感覚を見事に表現してくれる。我々は裏向きのパーマネントと、裏向きに追放されたカード(基本的にはいずれ唱えられる呪文)の両方を検討した。そして最終的に、最初に目にしたものに引き寄せられた。「変異」だ。
変異メカニズムは、ルール・チームによって作られたものだった。彼らは『アルファ版』のカード《Illusionary Mask》と《Camouflage》を機能させる方法を考えていたところ、あるメカニズムを思いつき、それを私に共有してくれた。私は微調整を提案し(2マナ1/1から3マナ2/2へ変更)、『オンスロート』に入れるべきだと他の開発部メンバーの説得を試みた。説得は成功し、変異はプレイヤーの間でも人気を博した。このメカニズムは『時のらせん』ブロックで再録された。
そして我々は、『タルキール覇王譚』でも変異を再録した。この時点で、3マナ2/2では少し弱いことは明白だった。何年にもわたりクリーチャーは改善を続けており、変異はその流れについていけていなかった。我々は「熊異/Borph」(2マナ2/2の「熊版変異」)や「超異/Smorph」(4マナ2/2で+1/+1カウンターが1個置かれた状態で戦場に出るバージョン)、「オーラ変異/Auramorph」(表側がクリーチャーではなくオーラの変異であり、表向きになる際にクリーチャーにつけられるバージョン)などいくつかのバリエーションを試してみたが、どれも採用には至らなかった。
我々は変異に戻れることを知っていたため、もう少し実験を重ねることに意味があると決心した。新たな変異のバリエーションで最初に試したのは、3マナ3/2の形だった(我々はそれを「偽装/cloak」と呼んでいたが、印刷では「変装/disguise」になった。「偽装」はこのセットに登場する予示のような能力に使われている)。変異の重要な点は裏向きの変異カードが相討ちになることだったので、パワーを3にしてタフネスは2に留めることでその点を守る助けになった。
しかし3/2では少々ダメージを与える効率が良すぎてクリーチャー同士の交換において強すぎたため、基本的に表向きになる前に死亡することになった。変異メカニズムの楽しさの多くの部分は、表向きにして何かに変わる能力にある。さらに我々はミステリーの要素を表現したかったため、対戦相手に裏向きのものを正しく把握できていたかどうか確かめる機会を与えたかった。こうして我々は、また別のものを試す必要があると気づいた。
そこで我々は自身に問いかけた。変異クリーチャーが表向きになるように生存の可能性を高める形で、少しだけ強くするにはどうすればよいだろうか? 他の裏向きのクリーチャーとは変わらず戦闘で交換できるようにしたかったので、タフネスをいじるわけにはいかなかった。そのため我々は、それを守るためのメカニズムに注目していった。そして最終的に、我々は護法に落ち着いた。護法をつけることで、裏向きのクリーチャーは呪文で除去しにくくなり、生存力が上がる。その上、戦闘において我々が望む相互作用も台無しにならなかった。2/2につけると美しく見えたため護法{2}から始めたが(覚えやすいという理由もあった)、護法{2}はうまく機能し、そのまま印刷されることになったのだった。
セット・デザインの段階で、チームはこの能力の予示版を加えた(カードを裏向きの状態にし、それがクリーチャーであるなら、そのマナ・コストで表向きにできる能力)。これにより、このメカニズムを持たないカードを裏向きにできるようになった。我々が「偽装」と呼んでいたものは「変装」に変わり、それの予示版となるキーワード処理が「偽装」となった。
深まる謎
本日はこれで以上だ。来週もこのセットのデザインについての話を続け、他のメカニズムやテーマについて語ろう。いつもの通り、この記事や『カルロフ邸殺人事件』の要素に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、その2でお会いしよう。
その日まで、あなたが遭遇するすべての謎を解けますように。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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