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Making Magic -マジック開発秘話-
基本根本 #14:最初の観念作用
2022年3月7日
毎年最初の数か月の間に、私は「基本根本」という題でマジックのセットのデザインする上での詳細について語る記事を書いている。このシリーズはアマチュアのマジックのデザイナーを助けるために作られたものだが、同時にプレイヤーにとって我々がマジックのセットを作る舞台裏の詳細を見ることができる素晴らしい方法となっている。
今回が「基本根本」記事の14年目となる。これまでの14本の記事(2年前の記事は2部作だった)を簡単に振り返ってみよう。
基本根本 #1:カード・コード(リンク先は英語)
この1本目の記事はもっとも技術寄りのもので、我々が話すときに同じカードのことを確実に示せるようにするシステムの使い方を説明している。
基本根本 #2:デザインの骨格(リンク先は英語)
この2本目の記事で、セットをデザインする上でもっとも重要な道具の「デザインの骨格」を紹介している。(この中でカード・コードを使用しており、そのためにそちらの記事が先になったのだ。)
基本根本 #3:デザインの骨格を埋めよう
この3本目の記事はそれぞれのデザインの骨格を埋める方法について話している。まずはコモンからだ。
基本根本 #4:より高いレアリティ
この4本目の記事では他のレアリティを埋めていくことについて話している。
基本根本 #5:初期プレイテスト
この5本目の記事では、フィードバックを集めてセットを進化させていくためのプレイテストの最良の使い方について論じている。
基本根本 #6:繰り返し
この6本目の記事では、繰り返しの概念とセットを徐々に進化させていく方法について語っている。
基本根本 #7:デザインの3つのステージ
この7本目の記事ではデザインにおける異なった3つの段階について、セットの進化に伴ってどのように優先度が変動していくかを通して説明している。
基本根本 #8:問題解決
この8本目の記事では、デザインの初期から中盤にかけてよくある問題に関する疑問に答えている。
基本根本 #9:評価
この9本目の記事では、自分のセット全体を見て、どのような微調整が必要か判断する方法について語っている。
基本根本 #10:クリエイティブ要素
この10本目の記事では、メカニズム的要素とクリエイティブ的要素をどう組み合わせて一体感のあるセットに編み上げるかについて論じている。その中で、トップダウン(フレイバーから始める)とボトムアップ(メカニズムから始める)という両方のデザインについて論じた。その後、カード名やクリーチャー・タイプ、フレイバー・テキストの扱い方について詳細に述べた。
基本根本 #11:アート
この11本目の記事では、後期プレイテストにおいてアートを用いることの重要性と、それをセットにどのように組み込むかについて語っている。
基本根本 #12 その1:リミテッド(メカニズム)
この記事は2部作となっている。どちらも、そのセットがリミテッドで正しく働くようにする手法について語っている。前半にあたるこの記事では、メカニズムがリミテッドで作用するようにすることに焦点を当てた。
基本根本 #12 その2:リミテッド(テーマ)
後半にあたるこの記事は、リミテッド向けのテーマの作り方に焦点を当てている。
基本根本 #13:デザイン骨格の再確認
このセットを組み上げるための道具であるデザイン骨格について私が初めて語ってから、多くのことが変わっている。この記事には、新人デザイナーと使う標準的なセットの骨格が含まれている。
そして今回の記事に到る。今日は、マジックをデザインすることに関する多くの質問に答えていくことになるだろう。アイデアのかけらを拾い上げ、それを実際のセットにするにはどうしたらいいのか。今日は、観念作用として知られるもの、つまり新しいアイデアを取り上げてそれを具体的なものに変化させる工程について解説していく。「セットのクールなアイデア」から実際のセットへの道のり、少なくともその最初の構造までの道のりを解説しよう。各段階の例として、初代『ラヴニカ』ブロックを使用する。
第1段階 ― アイデアの発見
まずマジックのセットを作るときに我々が最初にすることは、「このマジックのセットを他のセットと違うものにするのは何だろう」と自問することだ。
この質問への答えは、大きく2種類に分けることができる。1種類目が、メカニズムだ。視点として使える、メカニズム的に新しい何かがあるかどうか。我々が基柱にしたいと思うような新メカニズムがある場合もある。セットのメカニズム的中心として魅力的なものを作れる新テーマがある場合もある。プレイヤーがデッキを作るときに意識するような新しい何かを作る、既存のものを組み合わせる方法がある場合もある。
2種類目は、クリエイティブだ。デザインを始めるためにクリエイティブ的に使えるものがあるかどうか。舞台となる新しい次元がある場合もある。掘り下げることができるような芳潤な素材がある場合もある。我々が基柱にしたいと思うような魅力的な物語がある場合もある。1種類目から何かを選んだ場合、「ボトムアップ・デザイン」と言う。2種類目から何かを選んだ場合、「トップダウン・デザイン」と言う。
では、良いアイデアを生み出すのは何なのか。私が最優先しているのは、そのセットのリード・デザイナーである自分自身の心を躍らせることだと言える。マジックのセットを作ることにかなりの時間とエネルギーを費やすことになるなら、それは自分がぜひ手掛けたいと思うものにしたいのだ。デザインは難しいので、魅力的なものがあることは必須なのである。ウィザーズでは、我々はそのアイデアが一般的に十分魅力的なものであるかどうかも意識しなければならない。そのコンセプトの対象となるユーザーは充分な量いるかどうか。家で楽しむためにデザインするのとは異なる動機が存在するのは、我々が企業だからである。個人的興奮は自分自身が専門だが、商業的実現性についてはそうでない諸君が多いだろうから、商業的実現性よりも個人的興奮に注目することを強く薦めたい。両方を成立させることは可能だが(我々はいつもそうしている)、それはアマチュアのデザイナーが強く意識すべきことではないと思われる。家でデザインする場合はその工程を楽しむことが主になるので、自分が作って興奮するようなセットを作るべきなのだ。
アマチュア・デザイナーによく見かけられる問題に、アイデアについて心配しすぎるということがある。これは充分いいものだろうか。これは正しいアイデアだろうか。もっといいものはないだろうか。ここで重大な秘密を明かそう。アイデアそのものは、そこに集中する意志に比べて重要ではない。デザインを始めるために、何か手掛けるものが必要である。そのアイデアは、デザインが進化する中で変化することがありえるし、大抵は実際に変化するものだ。最初に思いついたものに借りを感じる必要はないが、集中を失えばデザインは蛇行し、一体感を失うことになる。つまり、始めるときに必要なのは、その時のアイデアを選んでそれを堅持することである。セットを最初のアイデアからの最善のものにしていき、そしてその途中でよりよいアイデアを見つけたらそれに切り替えてもいいのだ。しかし、どの時点であっても、集中すべき1つのアイデアが存在しなければならない。
2つのアイデアがある場合はどうするか。その2つのアイデアがお互いに関連しているなら問題ないが、そのどちらを優先するかを明確にすることは重要である。よくあることだが、その2つのアイデアが対立したとき、どちらを優先するかを決めておかなければならない。船頭多くして船山に登るというやつだ。アイデア1つを持つことが重要なのは、それが決定を下す上での指針になるからである。つまり、アイデア1つが他の何よりも上に置かれなければならないのだ。
初代『ラヴニカ』ブロックで、私の最初のアイデアは何だったか。多色は人気があるテーマだった、そして今もそうである、ので、多色ブロックが作りたかったが、それまでに存在していた唯一の多色テーマのブロックだった『インベイジョン』ブロックとは異なるものにする必要があった。どうすればそれができたのか。
『インベイジョン』ブロックは、可能な限り多くの色を使う方向を推していた。その逆をしよう。多色という範囲で言うなら、2色ということになる。ブロック1個を作るのに5組だけでは足りないと考えたので、10組全部を作ることを考えた。この当時、我々は友好色を優先するのが通例であり、それらのテーマを敵対色よりも多く、そして大抵は強く、していたのだ。私は、10組の2色の組み合わせ全てを均等に扱うセットを試したいと考えたのだ。
これらをまとめると、初代『ラヴニカ』ブロックの最初のアイデアになる。均等に扱われる10組の2色の組み合わせを軸とした多色ブロック、である。当然、デザインはここから進化していったが、私が始点としたアイデアはこれだった。
第2段階 ― そのアイデアの拡張の把握
アイデアができたら、次の段階ではそのアイデアからの拡張を理解することになる。アイデアは単体では実行できない。そのアイデアがセットに要求するうものが何かをメカニズム的、クリエイティブ的の両面から理解する必要があるのだ。
我々が初期によくする工程が、ホワイトボード調査、と呼んでいるものである。デザイン・チーム(家でデザインしているなら自分だけのこともありうるが、ブレインストーミングに協力してくれる友人を集めてもいい)とホワイトボードに集まるのだ。「ホワイトボード」と言っているが、参加している全員が見ることができるようにアイデアを書き込める場所という意味である。ウィザーズでは、我々がオフィスにいるときなら、実際のホワイトボードを用いている。(ので、こういう名前になっている。)
そして、質問はこれだ。「我々がこのアイデアをもとにセットを作っているとマジックのプレイヤーたちに伝えたら、彼らは何が入っていると期待するだろうか?」 アイデアがボトムアップ寄りであれば、その答えとしてホワイトボード上にはメカニズム的なものが並ぶことになるだろう。アイデアがトップダウンであれば、ホワイトボードにはクリエイティブ的なものが並ぶことになるだろう。例えば、初代『ラヴニカ』ブロックの場合、ボトムアップのセットだったので、ホワイトボードは最初、メカニズム的なもので埋まった。2色セットなら、大量の金色カード。2色土地。重くて派手なカード。対照的に、初代『イニストラード』では、さまざまな怪物や被害者、さまざまなホラーの素材といった、もっとクリエイティブ寄りな答えが並んだ。
その後、その逆の方向へと進めていく。初代『ラヴニカ』の場合、人々がクリエイティブ的に期待するものは何か、と考えた。ここで我々は、2色の組み合わせ10個それぞれを表すさまざまなグループなどを書き出していくことになった。『イニストラード』の場合、そのアイデアからのメカニズム的展開を考えた。ここで我々は、死ぬことや変身することに言及したものを書き出していった。
上で数個だけ例を出しているが、この工程ではホワイトボードを可能な限り埋めていく必要がある。プレイヤーが期待する可能性があるあらゆるものを書き出すのだ。この工程の目標は、分類が可能になるほど多くのコンセプトの集合を作ることである。すべてのコンセプトが最終製品まで残るというわけではないが、より多く検討するほどそのアイデアからの第一歩が良いものになるのだ。
次に、それらのコンセプトすべてを見て、気に入ったものを選ぶ。我々がよく使う手法として、各メンバーに一定数だけ選ばせ(5個であることが多い)、そしてホワイトボード上でそれらのものの近くに丸を書かせる。全員が終わったら、どれが選ばれたかと何人が選んだかを記録する。(投票されなかったものも書いたままにする。)
この、得票数が多い順のリストは、この工程の成果であり、次の段階に進むための道具になる。このリストを記録することがこの掘り下げの最大の目的ではないということを言っておくべきだろう。これは、すべきことの最初の一手にすぎない。何かが足りないことが気になったなら、追加するのだ。このリストの重要な点は、選択についていいか悪いかの感覚を掴み始めることである。デザイン上の判断をすることを促してくれるので、感覚は素晴らしいのだ。
第3段階 ― その拡張の影響の掘り下げ
さて、事前リストができたところで、次の段階ではそれの実質的通覧を行なう。リスト上のそれぞれを見て、「これをするなら、このセットではどういうことだろう」と考えるのだ。
この工程の目標は、そのセットで求められているものを理解し始めることである。コンセプトには重要性があり、セットをそれらに順応するように変化させる必要が出てくる。これは方向性を与えてくれる、素晴らしいことなのだ。
初心者マジック・デザイナーによく見かけられる懸念が、方向性を間違っているのではないかというものである。判断を間違うことを恐れて、判断することをやめてしまうのだ。しかし、判断しないことのほうが間違った判断よりずっと悪い、と言える。間違った判断をしたなら、セットを作り始めてからその考えがなぜうまく行かないのかの理由を見つけることになるだろう。しかし、それは別の方向を決めるために有益な情報をもたらしてくれる。判断をしなければデザインを進めることはできず、正しい答えを得る助けにもならない。
一例として、すべてが上手く行かなかったプレイテストはいいプレイテストである。そこから多くのことを学べて、それによって正しい答えへと向かうことができる。問題はないけれどもいいところも悪いところもなかったプレイテストは、次にすべきことを示していないので最悪のプレイテストだ。
初代『ラヴニカ』でこの工程をしたときに起こったことを紹介しよう。
金色カードが必要
つまり、各レアリティで何枚必要なのかを決めるため、セットの骨格をやり直す必要がある。大量のサイクルを作ることになることがわかるので、それらのサイクルが何を表すかを考えることが必要になった。2色の組み合わせ10組が存在するので、10枚サイクルになる可能性がある。
この計算をしていて、大問題が持ち上がった。2色の組み合わせ10組を1つのセットに入れることは不可能かもしれない。また、大量の金色カードを入れると、1マナの2色カードを作る方法はまだなかったので、マナ・カーブが上昇することになる。
2色土地が必要
つまり、どれだけの2色土地がどのレアリティで必要かを決める必要があるということであり、これもまたデザイン骨格のやり直しが必要となる。これもまた、私に、注目するマナ総量を含む金色カードのデザインで必要なものが何かに影響する、さまざまな色を使えるようにすると思われるものについて検証させた。また、ドラフトで4色以上のデッキを使えるようにしないで2~3色をサポートする方法を掘り下げることになった。
派手な効果が欲しい
金色カードからの教訓と関連して、重い金色のセットでは環境は遅くなる。ここでも、私はカード枠ごとの妥当なマナ総量を理解するためにデザイン骨格を見直す必要があった。
グループ間の差別化が必要
クリエイティブは、2色の組み合わせ同士のクリエイティブ的な違いは何に寄るのかについて考える必要があった。おそらくこれは、その部隊となる世界を決める環境から来ることになるだろう。
3つの問題から、セットの基礎に繋がった。当時のクリエイティブ・ディレクターのブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthは、差別化の答えとして都市次元のギルドを作り出した。これによって、すべてを詰め込むという問題が、2色の組み合わせをブロック全体に広げるという解決に繋がった。1マナの必要性は、私が混成マナを作り出す助けになった。必要なサイクルからギルドの指導者が作られ、各ギルドがお互いにどのようなものなのか、そしてラヴニカ世界の宇宙論が形作られていった。
実践上の観点では、この工程はアイデアを拡張するために必要なすべてのもののリストができることで終わりになることになる。このリストのクールなところは、セットを形作る助けになることだ。初代『ラヴニカ』ブロックで言えば、こうした掘り下げによって私はデザイン骨格をしっかりと確認することになり、セット内の金色カードの枚数や色の安定化の必要性について考えることになったのだ。また、ギルドの設定をして、色の組み合わせを3つのセットに分けることにも繋がっていったのである。
第4段階 ― リストから構造へ
セットを作るために意識する必要がある主なものすべてを書いたリストができた。次の段階では、そのリストにあるものに優先度をつける。
その理由は2つある。1つ目に、どの仕事を他の仕事よりも優先すべきかを知らなければならないということ。2つ目に、全ては収まらないことが多いので、優先度をつけることが何をボツにするかという厳しい選択を迫られていくときの助けになること。実践的感覚で言えば、これはデザイン骨格(昨年の記事)を用いてセットにリストのものを入れていくときに発生することになる。優先度が高いものを先にセットに入れることになる。そうすることで、最も重要なものに最大の柔軟性を持たせることができるのだ。
ここで注意すべきことが1つある。リスト上のもので、デザイン空間上、他のものよりもずっと制限が強いものを見つけることがある。それをデザイン骨格上で優先度を高くすることは問題ないが、リストでそれ以上の優先度を持つものを追い出さないことがその前提となる。初代『ラヴニカ』ブロックで言えば、混成はデザインするのが少し難しいということがわかったので、リスト上は下位であってもその効果を先に選ぶことができるようにした。
このリストのもう1つ重要なところは、具体的にそのものを作らなくてもセットが必要なものを伝えることができることが多いということである。再び『ラヴニカ』ブロックから例を取れば、ギルド構造は2色の組み合わせそれぞれに独自のメカニズムが必要であることを示しているが、それらのメカニズムがどのようなものである必要があるかを決めるのはデザイン・チームの仕事である。
最初のアイデア同様、このリストも定義的なものではないことを強調しておきたい。デザインの反復工程は、最初は考えていなかったものが抜けていることや、重要だと思っていたことがそうでもなかったことを見つけ出す助けになる。これらのリストの重要な点は選択肢を縛ることではなく、デザインにおける次の段階を理解することに焦点を当てることなのだ。何かに気づいたなら、その発見をセットの構造に織り込んでいくべきである。
今日の目標は、アイデアからセットの構造までの道筋は、注意していれば見つけることができるものだということを示すことだった。重要なのは、いつの時点においても、常にセットを進化させ前進させられるような次の行動へ導くものはあるものだ、ということである。マジックのデザインにおける最大の危険は、道を間違えることではなく、進むべき道を失うことなのだ。
これがアイデアだ
今日の記事は昨年のものに比べて技術的ではないが、セットを作る上では同じぐらい重要なことである。(実際、デザイン骨格と観念作用は連動して進むものである。)
いつもの通り、この記事や話題にした内容についての諸君の反響を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、マジックのデザイン技術の歴史に関する知識を試す日にお会いしよう。
その日まで、あなたがあなたのセットを作ることを我々と同じように楽しめますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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