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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『神河:輝ける世界』

Mark Rosewater
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2022年2月28日

 

 私は各エキスパンションごとに、そのセットに関する諸君からの質問に答えるための一問一答記事を1~2本書くことにしている。今回は、諸君の『神河:輝ける世界』に関するさまざまな質問に答えることにしよう。

 私のツイートは次の通り。

 現在、『神河:輝ける世界』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1問1ツイートで送ってくれたまえ。#WotCStaff

 

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 それでは、質問に入るとしよう。

なぜ改善メカニズムは変容クリーチャーを含まないんですか?

 

 通常、我々がいくつかの効果を包括する場合、処理や記憶がしやすいよう、3つまでにすることにしている。我々が優先していることは2つあり、そのキーワードを用いるセットにそれが存在していること、そして参照すべきカード・プールが最大になることである。

 マジックは部品的なトレーディングカードゲームであり、他の多くのカードと相互作用できるメカニズムが良いものなのだ。装備品、オーラ、カウンターの置かれたカードは、どれも変容よりもずっと大きい分類であり、どれも後方互換性が非常に高く、どれも『神河:輝ける世界』に存在している。

 とはいえ、このメカニズムに変容を入れたほうが良くなったのではないか。問題は、どこで止めるか、である。マジックには30年近い歴史があり、大量のメカニズムが存在していて、その多くはフレイバー的に「改善」と言える。変容を含めることは可能だったが、スレッショルドや増幅や憑依や現出や変身や結魂や暴勇や拡張も含めることができてしまう。しかも、今挙げたのは私が思いついたものだけだ。全ての新メカニズムに、適用可能なあらゆる旧メカニズムを含めるようにすると、注釈文がカードに収まらなくなる。(そしてずっと複雑なものになる。)

 ここで、諸君に宿題を出してみよう。装備品とオーラとカウンターを含むが、上述の各メカニズムのどれも含まないと感じられるような単語を考えてみてほしい。この3つのものはお互いに少しずつ異なっているので、これら3つを含められる程度に広い単語は他のものも含むと解釈できてしまうのだ。単純に、メカニズム的にもっとも理解できるようにするものを選んで線引きをする必要があったのである。

祭殿クリーチャーがクリーチャー・タイプを持たないのは意図的ですか?

 

 この質問に答える前に、混乱を招いているあることについて明確化しておこう。祭殿は、エンチャントのサブタイプである。ルール上、サブタイプは(インスタントとソーサリーが共有しているという例外1つを除いて)1つのカード・タイプに所属するので、祭殿はクリーチャー・タイプではない。これは、食物がアーティファクト・クリーチャーになってもアーティファクトのサブタイプである理由と似ている。そのため、『神河:輝ける世界』の祭殿は、どれもクリーチャー・タイプを持たないのだ。

 さて、これは意図的だろうか。そうではない。何があったのかを説明しよう。祭殿は、これまでの祭殿がそうであったことと、プレイデザインのバランスのために必要なので、伝説のパーマネントでなければならなかった。祭殿は、祭殿がエンチャントのサブタイプなので、エンチャントでなければならなかった。祭殿は、クリーチャーにするのが『神河:輝ける世界』での祭殿への新たな調整だったので、クリーチャーでなければならなかった。祭殿は、祭殿であり、そうでなければメカニズム的に成立しないので、祭殿でなければならなかった。これらの単語を並べると、タイプ行が埋まってしまったのだ。祭殿がクリーチャー・タイプを持たないのは、持たせたくなかったからではなく、持たせられなかったからである。入らなかったのだ。

 これは問題だろうか。ルール的にはどうか。問題ない、《Nameless Race》はクリーチャー・タイプを持たない。変異を持つ裏向きのクリーチャーはクリーチャー・タイプを持たない。他にも、クリーチャー・タイプを持たないクリーチャーを作ったり、クリーチャーからクリーチャー・タイプを取り除く方法は存在する。ゲーム上、クリーチャーがクリーチャー・タイプを持つ必要はない。一般則として、我々はフレーバー的な理由と部族メカニズムの可能性からすべてのクリーチャーにクリーチャー・タイプを持たせることにしているが、それは必要性を超えたものなのだ。クリーチャー・タイプを持たないのは奇妙だが、ゲームプレイ上の問題は起こしていない。

 「このクリーチャーはクリーチャー・タイプを持たない」という注釈文を追加しなかったのはなぜか。理由は2つある。1つ目に、文章欄でかなりの場所をとってしまい、フレイバー・テキストを入れられなくなってしまう。2つ目に、意味があるのはコーナーケースだけである、つまりこのセットのリミテッドでは発生せず、構築でもそうそう発生しない。クリーチャー・タイプを持たないことは多相や「クリーチャー・タイプ1つを選ぶ」カードでは意味を持つが、我々は大局的に見て、知る必要がある人はそれに関するルールを学ぶことができると仮定することがある。我々は常に、カードに文章を追加する必要性と実用性を比較しており(その記述を増やす必要があるかどうか)、この場合、必要ないと判断したのだ。これはもちろん個人的見解である。

なぜ新しい明神は、元のサイクルが使っていた神性カウンターでなく破壊不能・カウンターを使っているんですか?

 

 マジックが進化するとともに、我々は常にデザイン技術を向上させている。再訪に関する規則として、わずかな例外を除き、メカニズムは現代の実装を使うことにしている。(つまり、以前の方法でなく現在の方法で実装する。)今回、明神を初めてデザインしたとしたら、我々はカード上で定義する必要がある神性カウンターでなく破壊不能・カウンターを使っていたことだろう。ルール文は短くなり、メカニズムの理解は簡単になり、ルールは統合される。(ルールが多いゲームでは重要である。)ただ懐かしいからと過去のデザイン技術に合わせるのは、大抵の場合まずいデザインに繋がることになるのだ。

GDCのお話の中で、待機クリーチャーに速攻を持たせたことについて、何ターンも待った後には攻撃したいものだからだと言っておられました。変身する英雄譚をデザインするときにその検討はしましたか?

 

 最初のバージョンの英雄譚・クリーチャーは、実際、クリーチャーに変化するものだったのでそのターンに攻撃できた。(速攻を持っていたわけではないが、クリーチャー面が速攻を持っているのと同じようなものだった。)展望デザインが提出した英雄譚・クリーチャーは片面カードであり、セットデザインが両面カードに変更したことを思い出してほしい。デイブ/Dave率いるセットデザイン・チームは、対処するための1ターンを対戦相手に与えるため、「追放して戻す」に変更したのだ。

最後の河童の甲羅が見かけられてから2千年後に河童が生きているのはなぜですか?

 

 世界観内の答えと、舞台裏の答えがある。

 世界観内:1200年前、河童は絶滅したと一般に思われていた。そうではなかった。同じことはこの世界でも何度も起こっている。以下の生物は、どれも絶滅したと思われていたが後に生存が確認されたものである。ヒラタヤマガメ、チャコペッカリー、シーラカンス、キューバソレノドン、ミツクリザメ、グラシリドリス、カシミールジャコウジカ、マジョルカサンバガエル、チロエオポッサム、単板綱、ブーラミス、ニューギニアロングイヤーバット、ラオスイワネズミ、ケナシフルーツコウモリ、ニューギニアン・シンギング・ドッグ、ヒメフクロウインコ、ジャイアント・パルース・アースワーム、ピグミーメガネザル、リオ・ペスカド・スタブフット・トード、タカヘ、テロスキンク、ロードハウナナフシ。

 舞台裏:ブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuth率いるクリエイティブ・チームは最初に神河をデザインした時、いくつもの日本の神話的クリーチャーをボツにしていた。河童はギリギリでボツになったので、それを連想させるようなカードを作ったのだと思われる。他に河童がいないことを説明するために、最後の河童の甲羅だとしたのだろう。再訪したときに、我々は亀・忍者を作ることに決め、「ああ、彼ら(絶滅したと思っていた神河の人々)は間違っていたんだ」と決めたのだ。

 この回答で私が一番気になったのは、Goblin Sharkが実在しているこということである。ふむ……。(訳注:ちなみに、Goblin Sharkはミツクリザメの別名、テングザメの翻訳だそうです。)

宣伝とプレイヤーからの最初の高評価で、他のラバイア値が高い世界への再訪もあり得るんですか?

 

 まずこの質問について解説しておこう。2本の記事(その1その2)で書いた、新しい本流のセットで特定の世界を再訪することの可能性について私のブログで使っている評価値がある。神河はこのラバイア値が常に高かったので(再訪の可能性は低いという意味)、この質問はその話をしているのだ。

 これ以外でもラバイア値が高い世界に再訪の機会はあるのだろうか。あるともないとも言える。『神河:輝ける世界』からの大きな収穫は、「失敗したものは将来のデザインの元になる」ではない。我々は、ユーザー全体に受け入れられ楽しまれるようなアイデアの核があると思ったときにのみセットを作るべきであり、私はそうすると信じている。とはいえ、もし我々がこれまで失敗したものを再登場させるクールな方法を思いついたなら、『神河:輝ける世界』の成功(現時点ではすべての兆候が良い結果を示しているが確定ではない)はその売り込みをこれまでより簡単なものにしてくれるだろう。

ティーザーリストに「『神河物語』ブロックの人気の伝説のクリーチャーが新しい姿で登場する」とありました。これは、キキジキの英雄譚のことだったんですか? ローズウォーターさん、大ファンです。

 

 実のところ、『神河物語』の私のお気に入りのデザイン、キキジキを指していた。

秘儀がないのはなぜ? 秘儀メカニズムが帰ってくるのを楽しみにしていました。特に、このセットのサイバー感を考えると、呪文をその場で「ハック」できるというのはフレイバー的に最高だと思います。

 

 このセットで秘儀を使うかどうかについて、実際に掘り下げていた。我々が決めていたのは、セット内でメカニズム的に意味がなければ採用しない、ということだった。秘儀はかなりの関心を集めていたので、充分な見返りがあるなら採用することにしたのだ。その後、セットの焦点を2つのカード・タイプに置く場合、3つ目のカード・タイプを参照するメカニズムを作るのは非常に難しいとわかった。サイバーパンクの神河を別のメカニズム的視点から見ていれば秘儀が成立した可能性はあるが、我々が採用したメカニズム的構造では成立しなかったのだ。

『神河:輝ける世界』の成功を受けて、ウィザーズは他の次元を未来風のフレイバーで再訪することを検討しますか?

 

 過去に触れている今年後半の『兄弟戦争』などのわずかな例外を除き、我々はマジックの中心を現在に置くことにしている。最新の神河を制作できたのは、最初に舞台にしたのが(世界観的に)遠い昔だったからである。ほとんどの次元は現代を舞台にしているので、このような可能性は他にはない。未来のセットを作る可能性はあるだろうか。まだ作っていないが、可能性はないとは言わない。ここで質問されていることをする唯一の方法は、おそらくそれだろう。

神河への再訪について、あなたのブログでさえ質問が絶えなかったことは上層部の承認を取り付ける上でどれぐらい影響がありましたか?

 

 上司たちが私のブログをどの程度読んでいるかは知らない。「少し」から「いくらか」の間だろうが、全部を読んではいないだろう。私は 大 量 の 質問に答えているのだ。すべて読んでいるプレイヤーも多くはない。

 私のブログがこのセットに与えた最大の影響は、私に神河への再訪の必要性を納得させたことであり、私はそうするための方法を見つけ出すという意図をもってデザインに取り組んだのだ。とはいえ、ユーザーの熱意は私のブログに留まらなかったので、再訪を求める熱烈なユーザーがいるということはよく知られることとなり、それがこのセットを神河にする助けになったのは間違いないだろう。

やあ、マーク! 現在のセットは過去数年に比べ、メカニズムも増え、カードごとの文字数も増えていると感じます。これは事実ですか? そうなら、この潮流のもととなった判断について教えてもらえますか? この変更が嫌だというわけではありません。ずっと、あなたの仕事に感謝しています!

 

 我々は、意図して、数年前の水準から少し増やしている。統率者戦と「マジック・ザ・ギャザリング アリーナ」がマジックへの導入をスムーズにしてくれているので、我々は平均的な複雑さを少し高められると確信した。

このセットに全くスピリットの部族テーマがないことに理由はありますか?直前のセットにスピリットがいたので、ある方が自然に思います。

 

 理由は2つある。

  1. スピリットは初代『神河物語』ブロックに比べて役割がずっと小さいものになっている。(例えば、『神河物語』にスピリットは70枚あったが、『神河:輝ける世界』には24枚しかない。)
  2. テーマはいくつも存在していて、スペースは有限である。全てが入れられるわけではないのだ。

もっと神河の種族の部族的なものがほしいと思いました。蛇や狐やネズミやムーンフォークを助けるものは存在していません。それなのに、忍者や侍はいくつも助けを得ています。これはなぜですか? 他の神河の種族は重要ではないんですか?

 

 先ほどの質問への答えの繰り返しになるが、スペースは有限である。そのため我々は部族についてはユーザーが最も心を躍らせると判断した2つのクリーチャー・タイプ、忍者と侍に集中することにしたのだ。他のクリーチャー・タイプのほとんどは、ムーンフォーク以外は、他のセットで扱うことができるが、忍者や侍の部族カードを扱える場所はそうそうない。

このセットでは、クリーチャー・タイプの包括(戦士と侍、忍者とならず者)が多く見られました。これは今後もよく見られるようになる道具ですか、それとも侍や忍者にサポートを増やすための今回限りの特例ですか?

 

 今後増やしていくことを計画している。これは部族カードの範囲を広げるための便利な道具であり、新しいデッキに繋がる可能性がある。どのクリーチャー・タイプを繋げるかが鍵となる。その選択は、世界ごとに異なる可能性がある。

このセットの機体テーマが大好きです! なぜアーティファクトとの親和性が高い青赤でなく、青白に中心を置くことにしたんですか?

 

 その話は、セットにドラフト・アーキタイプを組み入れるときによくあることの好例である。まず、今手掛けているセットに特有のものから始める。アーキタイプの中にはいつも我々が通常使うものになっているものもあるが、自分のセットを輝かせる新奇性が必要なので、新しいものから初めてそれを軸に組み上げていくことになる。『神河:輝ける世界』の場合、現代性と伝統性の対立に強く重点を置いた。そうするため、我々はこの対立の幅の上に色を配置した。

 青と赤は現代性の色となったので、青赤のアーキタイプは可能な限りこの対立の一方の端を象徴するものにする必要があったのだ。最終的に、そちらの側である換装メカニズムをこの2色の焦点にしたので、青赤のアーキタイプは換装を扱うことになった。機体のアーキタイプが必要なのはわかっていたが青赤はすでに使っていたので、青と別の色の組み合わせに割り振ることにした。白は(量の上で)一番クリーチャーの色なので、機体アーキタイプで青と組み合わせるには最適だった。こうして、青赤でなく白青になることになったのだ。

「神河への再訪」は、『イニストラード:真夜中の狩り』と『イニストラード:真紅の契り』のように2セットにすることはできなかったんですか?

 

 神河を舞台にしたセットを1つ作るというだけでも大問題で、2つを推すつもりはなかったのだ。

 一般論として、2セットでの再訪は、プレイヤー数的に確証が取れている次元に限ることにしている。

アリ・ニー/Ari Niehとデザイン・チームが、なぜ『神河:輝ける世界』をこれほど白の強いセットにしたか少し聞かせてもらえませんか? セット1つに強力な白のカードがこんなに入っているのは正直驚きなんです。

 

 2年前からの開発部の目標の1つが、「白の向上」だったので、色の協議会は、当時白担当だったアリを筆頭に、推せる場所を探すためにかなりの時間と労力を費やしたのだ。

 大きく推したところ2箇所が、多人数戦で白が白らしいままに、ただしその点では(これまでほど大きく劣るものではなくとも)最弱の色であるままにしながら、カードを引けるようにしたことと、白らしい方法でマナ加速をできるようにしたことだった。

 どのようにしたいかを決めたら、我々はその情報を他のデザイナーに伝え、カードを作らせたのだ。その後、我々の理念の方針に則ったものになるようにコメントをつけるため、それらのカードは色の協議会に戻された。この工程は現在も進行中なので、新しい白のカードはもっと登場することになる。

アーティファクト対エンチャントというテーマを検討したのはこのセットが初めてですか?

 

 信じようが信じまいが、初めてだ。これまでは実現するために必要なデザイン技術がなかった。アーティファクトやエンチャントをテーマにしたセットを多く作ってきた中で、正しくその対立を扱うために必要な道具(クリーチャー・エンチャントや英雄譚など)が多く作られてきたのである。

侍の能力や調が能力語にならなかった理由はありますか?

 

 語彙は諸刃の剣なのだ。ラベルづけをして話す助けにはなるが、同時にセットを濃いものと感じさせ多くのプレイヤーを怯えさせることになるので、我々はそれを両立させようと試みている。枚数が少ないメカニズムでキーワードでなくても成立するものは、名前をつけないままにすることが多い。

『神河:輝ける世界』も両面カードをかなり活用したセットでしたが、今後、両面カードをあまり重視しないセットはいつ出ますか?

 

 両面カードを使った本流のセットが続いたが、これは現時点ではポリシーや我々が使う量の目安の変化ではない。必要があるときに時々使う便利なデザインの道具だが、すべてのセットで使うようになる予定はなく、使うセットでもそれを大量に使うとは限らない。(『カルドハイム』を参照。)次のセット、『ニューカペナの街角』には、両面カードは存在しない。

「質問は終了します」

 本日はここまで。いつもの通り、この記事や今回の回答、あるいは『神河:輝ける世界』そのものについて、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、本年の「基本根本」記事でお会いしよう。

 その日まで、あなたが『神河:輝ける世界』をプレイして新しい質問に出会えますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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