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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『輝ける』要素

Mark Rosewater
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2022年2月21日

 

 さて、『神河:輝ける世界』のデザインの話(その1その2)が終わり、展望デザイン提出文書(その1その2)も紹介した。次はこのセットのカード個別のデザインの話をする番だ。

発展の暴君、ジン=ギタクシアス

 マジックのデザインをする上での課題の1つが、変わったことをしたときにユーザーがそれを大層気に入り、やがてその奇妙なデザインのおかげでそれに再訪することになることである。その例が、ファイレクシアの法務官だ。味方を助ける能力と、その逆で相手を傷つける能力とを持つというおかしなアイデアを思いついて、『新たなるファイレクシア』で初登場させたのだ。

 ファイレクシアの法務官はクールにできたが、5体だけでもカラー・パイの限界を多少曲げることになった。そのため、さらなる法務官を出すというアイデアは恐ろしいものだったが、期待が高いことがわかっていたので否応もなかった。私はジン=ギタクシアスのデザインの話をすることになる前の時点で、これらすべての準備をしたいと考えていた。

〈現実ハッカー、ジン=ギタクシアス〉(バージョン1)
{4}{U}{U}
伝説のクリーチャー ― 法務官
5/4
あなたがアーティファクトやインスタントやソーサリーである呪文を唱えるためのコストは{2}少なくなる。
対戦相手がアーティファクトやインスタントやソーサリーである呪文を唱えるためのコストは{2}多くなる。

 最初の工程は、自分のアーティファクトやインスタントやソーサリーである呪文が軽くなり、対戦相手のは重くなるというものだった。各色が注目している色のサブセットのコスト低減はできるので、1つ目の能力は問題なかった。青は課税において白に次ぐ2番目の色なので、2つ目の能力も許容範囲だった。ただ、全体として、プレイして楽しくなかったのだ。戦場に出るのが遅いため、コスト低減はそれほど重要ではなく、課税も大抵は回避されてしまうのだ。

〈現実ハッカー、ジン=ギタクシアス〉(バージョン2)
{2}{U}{U}
伝説のクリーチャー ― ファイレクシアン・法務官
3/4
瞬速
各対戦相手の手札の最大枚数は2減る。
あなたの終了ステップの開始時に、あなたの手札にあるカードが2枚よりも少ない場合、その差に等しい枚数のカードを引く。

 次の試みは、カードを引くことで自分を助け、一方対戦相手には手札全てを保持することをできなくするというものだった。手札の枚数を弄ることは青でしているが、通例、減らすより増やすことが多い。カードを引くことは青には何の問題もない。このデザインにはいくつかの問題があった。1つ目に、これは同じく手札の枚数を減らす最初のジン=ギタクシアスに少しばかり似ていた。2つ目に、この2つの能力には望まれるような対照性は感じられなかった。3つ目に、これもプレイ感が素晴らしいものではなかった。このバージョンでは、ジン=ギタクシアスが軽く小さくなっていることを書いておくべきだろう。

〈現実ハッカー、ジン=ギタクシアス〉(バージョン3)
{5}{U}{U}
伝説のクリーチャー ― ファイレクシアン・法務官
5/4
瞬速
あなたが呪文を唱えるたび、その呪文をコピーする。(パーマネント・呪文のコピーはトークンになる。)
対戦相手が各ターンで自分の1つ目の呪文を唱えるたび、その呪文を打ち消す。

 次のこのバージョンは、間違いなく青のデザイン空間内である呪文のコピーと呪文の打ち消しを扱っていた。デザイン・チームはこのバージョンを気に入ったが、いくつか調整を加えた。1つ目、影響を受けるカードをアーティファクト、インスタント、ソーサリーだけに縮めた。何でもコピーできるのはやりすぎだと考えたのだろう。2つ目に、5/4から5/5にした。ジン=ギタクシアスには、ストーリー同様ゲーム内でも可能な限りの問題を起こしてもらいたいと思っている。。

神の乱》//《顕現した大口縄

回転

 このセットに英雄譚を入れることの楽しさの1つは、この次元への初渡航の際の物語を語ることができるようになることだった。《神の乱》は『神河物語』ブロックの最大の物語である、人間とスピリットとの戦争を語っている。

〈卓越した戦士〉(バージョン0)
{3}{R}{G}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― シャーマン
6/6
化身{3}{R}{G}(あなたがこのカードを化身コストで唱えたなら、これはエンチャント(クリーチャー)を持つオーラ・呪文である。エンチャントしているクリーチャーはこのカードのコピーである。そのクリーチャーが破壊されるなら、代わりに、それからすべてのダメージを取り除き、このオーラを破壊する。)
{5}{R}{R}:クリーチャーやプレインズウォーカーやプレイヤーのうち1つを対象とする。[カード名]はそれに4点のダメージを与える。

 データベース上でカード・スロットの歴史を紐解く楽しみの1つは、現在のカードよりも前に存在していたものを見つけることである。今回の場合、我々が展望デザイン中に試していたものの没になったメカニズムが垣間見える。そのメカニズムは、「化身/Paragon」と呼ばれていた。クリーチャーが持つ能力で、本質的には、自軍の既存のクリーチャーどれでも1体を、軽いコストでそのクリーチャーにできるというものだった。このメカニズムはフレイバーに富んでいて、エンチャント・テーマに合ったものだったが、実際のところ、クリーチャーを生け贄に捧げる必要がある代替コストのようにプレイされることがほとんどだった。見返りに比べて、文字数があまりにも多くなってしまったのだ。

〈大口縄の暴走〉(バージョン1)
{W}{U}{B}{R}{G}
伝説のエンチャント ― 英雄譚
Ⅰ ― 各プレイヤーはそれぞれ、土地でないパーマネント4つを生け贄に捧げる。
Ⅱ ― あなたの墓地にありスピリットやエンチャントであるカード1枚を対象とする。それをあなたの手札に戻す。
Ⅲ ― これは永続的に6/6のドラゴン・スピリット・クリーチャーになる。あなたが1体以上のスピリット・クリーチャーで攻撃するたび、それに等しい枚数のカードを引く。

 この最初のバージョンは{W}{U}{B}{R}{G}のコストを確立し、この英雄譚の基本的なメカニズム構造を作った。第Ⅰ章は破壊的。第Ⅱ章は墓地から何かを戻す。第Ⅲ章はこのカードをスピリット・ドラゴンにする。この時点では、今回の英雄譚は片面であり、このカードは単に6/6でスピリットの部族テキストを持つドラゴンになるだけだった。結局、このバージョンはあまりにも破壊的すぎた。

〈大口縄の暴走〉(バージョン2)
{W}{U}{B}{R}{G}
伝説のエンチャント ― 英雄譚
Ⅰ ― 望む数のパーマネントを、コントローラーがそれぞれ異なるように選んで対象とする。それらを破壊する。
Ⅱ ― あなたの墓地にありスピリットやエンチャントであるカード1枚を対象とする。それをあなたの手札に戻す。
Ⅲ ― これは永続的に5/5のドラゴン・スピリット・クリーチャーになる。あなたが1体以上のスピリット・クリーチャーで攻撃するたび、それに等しい枚数のカードを引く。

 この第2バージョンは第Ⅰ章を調整し、2人戦での破壊的性質を押さえながら多人数戦ではプレイヤー数に応じて拡大するようにした。また、スピリット・ドラゴンのサイズは6/6から5/5に縮んでいる。

〈大口縄の暴走〉(バージョン3)
{W}{U}{B}{R}{G}
伝説のエンチャント ― 英雄譚
Ⅰ ― あなたでない各プレイヤーはそれぞれ、自分がコントロールしているパーマネントの中で最大のマナ総量を持ち土地でないパーマネント1つを生け贄に捧げる。
Ⅱ ― あなたの墓地にあるスピリット・カード1枚を対象とする。それをあなたの手札に戻す。
Ⅲ ― これは永続的に、飛行を持つ5/5のドラゴン・スピリット・クリーチャーになる。あなたがスピリット・呪文を唱えるたび、カード1枚を引く。

 この第3バージョンでも第Ⅰ章が変更され、選択させるのではなく最大のマナ総量を持つパーマネント1つを破壊するようになっている。第Ⅱ章は、エンチャントを手札に戻す能力を失った。第Ⅲ章は飛行が追加され(マジックのドラゴンは飛べるものなので、おそらく単なる見落としだろう)、スピリット部族の能力も調整されている。

 印刷されたバージョンまでにあったもう1つの大変化は、第Ⅰ章の破壊的効果を自分が選ぶ単体除去に変えたことであった。お互いに影響する破壊効果は、扱いにくいことがわかったのだろう。第Ⅱ章で戻せるものに追加したが、全員に影響する手札破壊も追加された。第Ⅲ章の変化が最も大きい。セットデザイン・チームは英雄譚を両面カードにして、スピリット・ドラゴンに使える文字数を大きく増やしたのだ。最終バージョンは物語をクールに切り出している。

祭殿

 祭殿は我々が『神河物語』で伝説のというテーマを扱っていて、史上初の伝説のエンチャントを作るのはクールだろうと考えたことから思いついたものである。重大な疑問として、なぜこれらは伝説なのか。すぐに解決できる、フレイバー的な話ではない。どんなデザインが、伝説のを有意義なものにできるのか。ブライアン・ティンスマン/Brian Tinsman率いるデザイン・チームの答えは、メカニズム的にお互いに拡大し合う新しいサブタイプを持つエンチャントだった。

 『神河物語』は発売当時大人気だったわけではないが、セット内で数少ない高評価だったものの1つが祭殿だった。一部のプレイヤーに強く訴求し、かなりプレイされたのだ。私は定期的に、祭殿をもっと増やしてほしいという訴えを聞いていた。開発部ではプレイヤーがよく求めているもののリストが作られているが、祭殿を増やすことはそのリストに載るほどだったのだ。『基本セット2021』に祭殿を入れるべきだと決まって、我々は新しく5枚サイクル1つと5色カード1枚、合計6枚を作ったのだ。

 興味深いことに、これは『Hockey』(『神河:輝ける世界』)のデザインが始まるより前のことだった。神河のセットになるかどうかすらわかっていなかったので、祭殿は神河への再訪のわずか2年前の製品に入ることになったのだ。これは、我々が『Hockey』の舞台を神河にすると決めた時にちょっとした問題になった。再録する名前のあるメカニズムはそう多くないので、我々は、新しいデザインで再登場させるべき人気のあるサイクルを求めていたのだ。祭殿はまさに再登場させるべきサイクルだった。そもそも人気があった。メカニズム的に独特のものだった。いかにも神河的だった。問題は祭殿のためのデザイン空間が限られていることだった。

 祭殿は我々が「拡大効果」と呼んでいる、何らかの数に基づいて大きさが変動しうる効果である。拡大効果はつねづね作っているので、我々はどのような拡大効果が存在しているかを非常によく理解しており、それはそんなに多くはない。特に5色全てを含むサイクルとなればなおのことである。祭殿を再登場させることにするのはいいが、『基本セット2021』で使えるデザイン空間をほぼ使い尽くしてしまっている。調整する新しい方法はあるだろうか。

 そのとき、クリーチャー・エンチャントにするというアイデアを思いついたのだ。私は常々、テーロス以外の世界でもクリーチャー・エンチャントを入れたいと強く願っていて、『神河:輝ける世界』のデザインにもこの世界の対立の伝統側を表すために編み込んでいた。クリーチャー・エンチャントはすでにこのセットに入っていて、祭殿をクリーチャーにすることで新しいデザイン空間が開ける。全体エンチャントに比べてクリーチャー・エンチャントに持たせるほうが、拡大効果を少し強くすることもできるのだ。クリーチャーであるということは脆弱性を増やすということであり、それだけ積極的になることができることになる。

 ここで、5枚の祭殿の初期デザインをお見せすることにしよう。

〈団結の魂〉(バージョン1)
{3}{W}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 祭殿
1/4
警戒
あなたの終了ステップの開始時に、あなたは{1}を支払ってもよい。そうしたなら、あなたがコントロールしている祭殿1つにつき1体の無色の1/1のスピリット・クリーチャー・トークンを生成する。

 印刷された白の祭殿は、その最初のバージョンとほぼ同じである。違いは、1/4から1/3になったことだけだ。クリーチャー・タイプもそのままである。(これは初代『神河物語』ブロックを想起させるものになっている。)見ればわかる通り、すべての初期バージョンが誘発型能力にマナの支払いがあるわけではないが、この白のものの動きが気に入ったので、最終的にはサイクル全体の特徴となった。もう1つ、一番最初から、それぞれの祭殿・クリーチャーはクリーチャー・キーワード1つと、拡大型の誘発型能力1つを持つことにしていた。

〈解決の魂〉(バージョン1)
{2}{U}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 祭殿
1/3
飛行
あなたがコントロールしているすべてのパーマネントは呪文鎧{X}を持つ。Xはあなたがコントロールしている祭殿の数に等しい。

 青の祭殿の最初のバージョンは、自軍のすべてのクリーチャーに、祭殿の数に基づいた護法数の護法を与えるものだった。このバージョンにはいくつもの問題があった。1つ目、自軍のすべてのクリーチャーに大きな護法数の護法を与えるのは面白くない。2つ目、クリーチャーであることによる脆弱性を取り除いてしまう。3つ目、実質的に、このクリーチャーに名前のあるメカニズムを2つ持たせており、1つしか持たせたくない。

〈解決の魂〉(バージョン2)
{2}{U}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 祭殿
1/3
飛行
あなたの終了ステップの開始時に、あなたは{1}を支払ってもよい。そうしたなら、土地でないパーマネント最大X個を対象とする。Xはあなたがコントロールしている祭殿・エンチャントの数に等しい。それらをアンタップする。

 次のこのバージョンは、何かをアンタップすることを扱っていた。最終的にプレイ感はよくなく、ほとんどの場合マナを得ることになったので、青というより緑っぽかった。

〈解決の魂〉(バージョン3)
{2}{U}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 祭殿
1/3
飛行
あなたのアップキープの開始時に、あなたは{1}を支払ってもよい。そうしたなら、プレイヤー1人を対象とする。そのプレイヤーはXの2倍の枚数のカードを切削する。Xはあなたがコントロールしている祭殿・エンチャントの数に等しい。

 この第3バージョンは、我々が青の拡大効果でよく使っている切削(青の切削効果は5色の中で最も難しいのだ)を扱った。Xの2倍の枚数切削するのは、X枚では不十分なことを危惧したからである。最終的に、少しばかり強すぎることがわかった。最後の変更は、Xを倍にするのをやめることと、{2}{U}1/3から{1}{U}0/4にしたことだった。これによってさらに防御的になり(複数回使える切削エンジンに求められる性質)、白の祭殿のスタッツから離すことになった。

〈野望の魂〉(バージョン1)
{3}{B}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 祭殿
2/2
接死
あなたの終了ステップの開始時に、あなたは{1}を支払ってもよい。そうしたなら、対戦相手がコントロールしているクリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それはあなたがコントロールしている祭殿1つにつき-1/-1の修整を受ける。

 黒の祭殿のデザインは、それほど変化しなかった。最大の変更点は、拡大効果の-1/-1修整からXとタフネスを比較する効果になったことである。この変更は、破壊不能クリーチャーを殺したくなかったからではないかと思われる。もう1つの変更点は、対戦相手のクリーチャーしか対象にできないという条件を外したことである。他のどの祭殿も対戦相手に限られてはいないので、サイクルで統一性を持たせるためだと思われる。例えば、我々は戦略的理由がある時に青の祭殿で自分で切削できるようにしていたのだ。

〈情熱の魂〉(バージョン1)
{4}{R}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 祭殿
2/3
速攻
あなたがコントロールしているすべての攻撃クリーチャーは、あなたがコントロールしている祭殿1つにつき+1/+0の修整を受ける。

 この第1バージョンは自軍のすべての攻撃クリーチャーを強化する、先頭に焦点を当てたものだった。このクリーチャーが速攻を持つので、すぐにこれで攻撃できる。少し重くなっているのは、この効果が爆発的になりうるからである。

〈情熱の魂〉(バージョン2)
{2}{R}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 祭殿
2/2
威迫
あなたの終了ステップの開始時に、あなたは{1}を支払ってもよい。そうしたなら、あなたのライブラリーの一番上にあるカードX枚を追放する。Xはあなたがコントロールしている祭殿の数に等しい。次のあなたのターンまで、あなたはそれらのカードをプレイしてもよい。

 次のこのバージョンでは、数か所の変更があった。1つ目に、拡大効果をパワー強化から衝動的ドローに変えた。また、誘発型能力にマナが必要にもなっている。速攻はこのカードとシナジーが弱いので、速攻から威迫に変更している。最後に、軽くなってタフネスが減った。印刷されたバージョンまでに、さらに2つの大きな変更があった。拡大効果は直接火力に変わり、威迫から先制攻撃に変わった。おそらくこれは直接火力とのコンボが可能だからだろう。(この先制攻撃をブロックしたら殺せるように、その大型クリーチャーにダメージを与えておこう。)

〈成長の魂〉(バージョン1)
{1}{G}
伝説のクリーチャー・エンチャント ― 祭殿
1/1
トランプル
あなたの終了ステップの開始時に、あなたは{1}を支払ってもよい。そうしたなら、[カード名]の上に、あなたがコントロールしている祭殿1つにつき1個の+1/+1カウンターを置く。

 緑の祭殿の第1バージョンは、印刷されたバージョンと1つ大きな違いがあるだけでほとんど同じであった。カウンターをこれ自身に置くのではなく、対象にした祭殿1つに置くことができるようになっている。これは我々がカードをそれ自身だけでも働くようにしたままもう少し部族的なプレイができるようにするためによく使う方法である。

 私はこれらの最終形に満足しており、『神河:輝ける世界』が新しいサイクルを祭殿に追加できたことを嬉しく思っている。

完成化した賢者、タミヨウ

 我々が大きな物語を設定する時、することの1つが、物語上の鍵となるポイントを決めることである。最も注目を集めることになる大イベントは何なのか。『神河:輝ける世界』に関しては、ジン=ギタクシアスがこの次元に来て、何か実験を行い、プレインズウォーカーから灯を取り去る(プレインズウォークする能力を取り除く)ことなく永続的にファイレクシア化するためにファイレクシア人が試みてきた何かを見つけ出す、ということがわかっていた。つまり、このセットには、ファイレクシアのプレインズウォーカーが必要ということである。ここから、2つの重大な疑問が生じた。1つ目が、どのプレインズウォーカーなのか。2つ目が、メカニズム的にファイレクシアのプレインズウォーカーはどういう意味を持つのか。

 我々は1つ目の質問に答えるべく、このセットにどのプレインズウォーカーがいるべきなのかを見ていった。放浪者が皇だったということを大発表したいので、このセットに放浪者がいることになる。タミヨウは神河出身で熱烈なファンが居るので、当然いるべきだろう。と忍者のプレインズウォーカーをずっと作りたかったので、それも必須だ。最後に、ストーリー上の理由で、テゼレットがセットに必要だった。この4人の中で、最初にファイレクシア化すべきなのは誰だろうか。テゼレットではない。彼はファイレクシア人に協力しているだけでなく、ファイレクシア化されたとしてもユーザーが同情する人物ではない。魁渡はユーザーが知らない人物なので、まだ愛着がない。放浪者は可能性があるが、このセットですでに彼女についての大発表があるので、2つ大発表をするのは奇妙だ。残るはタミヨウである。

 このようなストーリー上のポイントの重要なところは大衆に受けるようにすることである。これは、ファイレクシア人が大きな脅威として再浮上したことに誰もが気が付く重大な瞬間であり、我々は感情的な強い衝撃を与えられるような選択をしなければならなかった。変化に意味があるようにするため、ユーザーが心配する存在である必要があった。ストーリー上のこの瞬間は、ユーザーに衝撃と恐怖を与えなければならない。これについて考えれば考えるほど、我々はタミヨウがふさわしいと実感することになった。

 そして我々は2つ目の質問に向かった。ファイレクシア化したプレインズウォーカーとは何なのか。それを見つけ出すことが私の課題になった。

〈ファイレクシア化した賢者、タミヨウ〉(バージョン1)
{3}{G}{U}
伝説のプレインズウォーカー ― タミヨウ
忠誠度 3
0:増殖
-1:あなたの墓地にあるカード1枚と対戦相手1人を対象とする。その対戦相手がそのカードのマナ総量に等しい点数のライフを支払わないかぎり、そのカードをあなたの手札に戻す。
-6:「対戦相手がコントロールしている各パーマネントは、そのプレイヤーが2点のライフを支払わないかぎり、そのコントローラーのアンタップ・ステップにアンタップしない。」を持つ紋章を得る。あなたがコントロールしておらず土地でもないすべてのパーマネントをタップする。

 この第1バージョンを作ったのはデイブ/Dave率いるセットデザイン・チームである。それは、私が私の仕事を始めるよりも前のことだった。これは、ファイレクシア人に関わる名前のあるメカニズム、増殖に注目したものである。これまで、増殖を持つプレインズウォーカーはいなかった。このセットで唯一の増殖持ちカードにするというアイデアだったのだ。彼女の[0]能力は、忠誠カウンター1個を置くので、実質的に[+1]である。[-1]能力は追加のカードを手に入れる、科学者のフレイバーに則ったものである。[-6]の奥義は、いかにもファイレクシア人だと感じさせる影響を与えて盤面を作ることができる。(ライフの支払いはメカニズム的にいかにもファイレクシア人らしいテーマである。)このデザインには私の好きな要素があったが、私はこれがファイレクシア人らしいとは思わなかった。増殖は素晴らしいファイレクシアのメカニズムだが、正しい雰囲気を出すためには大量のサポートが必要になるのだ。単体で見て、これは充分ファイレクシア人らしいとは言えなかったので、私はファイレクシア人らしいものを探し始めた。

 増殖の他に、いかにもファイレクシア人らしいと言えるメカニズムは2つあった。毒とファイレクシア・マナである。対戦相手に毒を与える忠誠度能力を試してみたが、少しばかりオールオアナッシングすぎた。自分に毒をもたらす忠誠度能力を試してみた。フレイバーにも反していると感じられた上に、プレイデザイン上の問題もあった。次に、ファイレクシア・マナを試すことにした。マナ・コストにファイレクシア・マナを置いてみたが、単純に、タミヨウを唱えるたびに毎回2ライフを支払って唱えるだけだった。これを踏まえて、ファイレクシア・忠誠度というアイデアが生まれた。2点のライフで支払える、マナでなく忠誠カウンターというのはどうだろうか。忠誠度能力は毎ターン使うものなので、毎回ライフで支払うのは難しいのではないか。

〈ファイレクシア化した賢者、タミヨウ〉(バージョン2)
{3}{G}{U}
伝説のプレインズウォーカー ― タミヨウ
忠誠度 5
[カード名]の能力を起動するために、忠誠カウンター1個ではなく2点のライフを支払ってもよい。
-2:カード2枚を引く。その後、あなたの手札からカード1枚をあなたのライブラリーの一番上に置く。
-2:クリーチャーやアーティファクトのうち1つを対象とする。それをタップする。それは次のコントローラーのアンタップ・ステップにアンタップしない。
-3:あなたがコントロールしているかあなたの墓地にあってこれでないパーマネント・カード1枚を対象とする。それをあなたの手札に戻す。

 即座にライフを支払うことができるので、ファイレクシアン・忠誠度と奥義はうまく組み合わせられなかった。通常のプレインズウォーカーのようにプレイヤーに組み上げさせることはできなかったので、代わりに忠誠コスト2~3の小型能力を3つ持たせることにした。このバージョンはパーマネント・カードを自分の墓地から回収し、戦場に出すのではなく手札に戻す効果を維持している。カードを引く選択肢もあり、これはやはりタミヨウの科学者らしさを表している。最後の能力で、彼女はアーティファクトやクリーチャーをロックダウンできる。

〈完成化した工作員、タミヨウ〉(バージョン3)
{3}{G}{U}
伝説のプレインズウォーカー ― タミヨウ
忠誠度 5
[カード名]の能力を起動するために、忠誠カウンター1個ではなく2点のライフを支払ってもよい。
-1:クリーチャーやアーティファクトのうち1つを対象とする。それをタップする。それは次のコントローラーのアンタップ・ステップにアンタップしない。
-3:「タミヨウの台帳」という名前で「{2}{U/P}, {T}:カード1枚を引く。」を持つ伝説のアーティファクト・トークン1個を生成する。
-3:あなたがコントロールしているかあなたの墓地にあってこれでないパーマネント・カード1枚を対象とする。それをあなたの手札に戻す。

 次のこのバージョンでは、彼女の日誌(イニストラードのセットで見かけられた)を取り寄せる能力が導入されている。これによって、初めて、起動コストとしてではあるが、ファイレクシア・マナをカード上に登場させることができたのだ。

 プレイデザインはこのカードにかなりの時間を費やし、そして最終的にファイレクシア・忠誠度は強力すぎ、バランスを取るのが難しすぎるとわかった。この新バージョンはマナ・コストにファイレクシア・マナを含んでいるが、新しい制限が加えられている。タミヨウを軽くすると、戦場に出る際の忠誠カウンターが減るのだ。これによって選択肢を均等にすることができた。[-1]能力は[+1]能力になった。パーマネント・カードを墓地から戻す先は戦場に戻ったが忠誠カウンターの数に意味を持たせるため、[-X]能力になった。奥義は、彼女の日誌の新しい捉え方である。相変わらずカードは引けるが、コストはファイレクシアも何もいらなくなった。(奥義にしたことで、効果を強力なものにできたのだ。)

 他の効果は新しいもので、呪文を軽く唱えられるようにするものだ。タミヨウはおそらくこのセットで一番テストされたカードであり、数の調整を繰り返した結果、この最終形に行き着いたのだ。

物語の時間は終わり

 本日はここまで。カード個別のデザインの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、この記事全体、取り上げた各メカニズム、そして『神河:輝ける世界』そのものについて、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『神河:輝ける世界』の一問一答記事でお会いしよう。

 その日まで、私のデザインの話を補完するあなた自身のプレイ物語をこれらのカードで紡げますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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