READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『ゼンディカーの夜明け』

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2020年10月5日

 

 各セットの発売ごとに、私は、そのセットに関する諸君からの質問に答える一問一答記事を書いている。今回は『ゼンディカーの夜明け』の番だ。私のツイートは次の通り。

現在、『ゼンディカーの夜明け』の一問一答記事を書いている。この新セットに関する質問があれば、1問1ツイートで送ってくれたまえ。#WotCStaff

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 それではさっそく質問に入ろう。

Q: 同盟者は永遠に死に絶えたのですか? あれが完璧なメカニズムだったとは思いませんが、二度と見られないのはファンとして寂しいです。

 同盟者は永遠に死に絶えたわけではない。私は間違いなく、『ゼンディカーの夜明け』に入れようと考えていたのだ。何度か説明したとおり、パーティーの構成員は展望デザインから提出した時点では他の職業に加えて同盟者でもあった。しかし時々、セットを組み上げてみると、さまざまな因子、お互いの相互作用によって成立しなくなることがある。(最大のものはパーティー・メカニズムの部族的中心だった。)私は、将来ゼンディカーに戻るときには同盟者を復活させたいと強く思っている。同盟者が存在しないことは、このセットに関する最悪のことだと感じているのだ。

 

Q: 再録するメカニズムをどのように選んだんですか?

 上陸は初代『ゼンディカー』で最も人気のあったメカニズムで、キッカーは展望デザインから提出された時点でのセットを釣り合わせるのにふさわしかったからだ。

 

Q: ゼンディカーにはこのセット以降にもデザイン空間がありますか、それともこれで引退ですか?

 ゼンディカーは、土地中心メカニズムとトップダウンの冒険という素材の2つのテーマを組み合わせたものである。どちらも非常に深いものだ。『ゼンディカーの夜明け』に入り切らなかった過去のゼンディカーのメカニズムだけでも、2~3セットは作れるだろう。

 

Q: 両面カードの2色土地を10枚中6枚しか入れなかった思考回路を知りたいです。よく見かける2色土地の、友好色のみ、あるいは敵対色のみ、というのではなく、友好色と敵対色が混じった6種というのはとても奇妙に思えます。

 何があったのかを説明しよう。セット内に一定数の小道を入れる必要があることはわかっていたが、10枚全てを入れる枠はなかったのでどの2色の組み合わせが一番重要かを検証したのだ。最終的には、パーティー・メカニズムの4つの職業(ウィザード、クレリック、戦士、ならず者)を表す組み合わせだとなった。順番に、青赤、白黒、赤白、青黒(それぞれの1種色、2種色の順番)である。これらの4色を単体で見ると、緑が存在しないので奇妙に思える。また、6と4に分けるのであれば、土地に焦点を当てたセットが6枚になるべきだと思われた。

 問題は、どの緑の小道を選んでも、5つにすると1色だけが土地3枚を持ち、3色は2枚、緑は1枚になってしまうことだった。これまでに何度も何度も5枚の2色土地を採用してきたが、そのサイクル内では色のバランスを取っていた。(つまり、各色ごとに該当する枚数を均等にしていた。)そこで、6枚は均等にすることができず、反例となるような前例がないことから、6枚と4枚にするほうがいいと判断したのだ。緑の友好色の土地2枚(赤緑と緑白)を選んだのは、6枚の半分が友好色、半分が敵対色になるように、である。

 

Q: 『カルドハイム』の発売後に、MDFC2色土地サイクルは対称になりますか? メルの友人のために聞きます。

 『カルドハイム』の4枚の小道(そう、カード名は小道だ)は、『ゼンディカーの夜明け』の6枚の小道を補完するようにデザインされている。我々は怪物ではない。

 

Q: MDFCは『イニストラード』のために計画されたものだったと言っていましたが、それ以降のどのセットで入れることを検討しましたか?

 MDFCは、初代『イニストラード』向けに企画されたわけではない。単に、我々が変身する両面カードをデザインしたとき、モードを持つ両面カードも作れるということが非常に明白だったというだけである。MDFCが初めて検討されたのは『ストリクスヘイヴン』であり、展望デザイン・ファイルに初めて入ったセットは(MDFCがデザインされることになる3つのセットのうち最初のものである)『ゼンディカーの夜明け』である。

 

Q: 私はMDFC土地の、地下にある呪文を「掘り起こす」というフレイバーが好きですが、それがこのセットに登場している枚数はあまりにも少ないです。デザイン上でこれがもっと重視されていたことはありますか?

 《タジームの猛禽》《火砕のヘリオン》《カザンドゥの踏みつけ》《ニッサのゼンディコン》がコモンにあり、(そして《乱動への突入》はクリーチャーをバウンスしてもう1面の土地をプレイして上陸を誘発させられ、)高いレアリティには《ムラーサの根食獣》《当惑させる難題》《むら気な猛導獣》がある。もっと開封比を高めることはできたが、それでもこのセットのテーマであることは間違いない。

 

Q: MDFCには、常にプレイヤーが(ルール的な意味で)どちらの面を使っているかを示せるようにするためにどのような工夫がこらされていますか?

 (カードの左上の隅にある三角形の)シンボルを作った。また、両方の面が土地であるもの以外のMDFCについては、土地は必ず第2面になっている。

 

Q: MDFC、あるいは両面土地を手掛けていたとき、どのような議論や懸念がありましたか? どのように作られたかについて、面白い話はありますか?

 MDFCがどのように作用するのか、そしてその見栄えをどうするかについて、様々なことに決着をつけなければならなかった。我々が取り組まなければならなかった問題のいくつかを紹介しよう。

ルール上、これは分割カードなのか両面カードなのか

 MDFCは基本的に、既存の2つのメカニズムを合成したものである。問題は、その2つのメカニズムの処理が同一ではないということだ。分割カードは、どの領域でもその両方のカードである。(この議論がされていた時点では変身する両面カードしか存在していない)両面カードは、スタックや戦場以外のあらゆる領域で第1面だけである。私の考えでは、MDFCの雰囲気は分割カードに近いものだったので、そのように働くようにする方法を掘り下げたかった。当時のルール・マネージャーであったイーライ/Eliは、それが一体何を意味しているのか、そしてどのようなコーナーケースをルールが扱わなければならなくなるかについて長い時間をかけて私に語った。そのリストには多くのことが書かれており、その回答の多くはお互いに直感的に整合していた。この議論が進行している間に、我々は(「マジック:ザ・ギャザリング アリーナ」と「Magic Online」担当の)デジタル担当者との会議を開き、『ゼンディカーの夜明け』のために必要なものについて語った。そこでこの問題を取り上げたのだ。イーライと私が議論した多くの問題について語ると、彼らは考えるための時間が欲しいと言ってきた。数日後戻ってきた彼らは、実行するのが非常に難しいと言ったのだ。それは我々にとってどれだけ重要なものだろうか。イーライと私は、MDFCを扱うための明快な方法があるにも関わらず、全員に困難を押し付けるだけの価値はないと判断し、両面カード的な方法を取ることにしたのだった。

もう一方の面が何であるかがわかるようにするために、一方の面にどれだけの情報を置くか両方の面に他方の面についての情報を書くべきか、それとも第1面だけにすべきか。

 一番最初から、私は、どちらの面がオモテになっていても、もう一方の面が何であるか、そのカードを裏返すことなく、そして対戦相手に両面カードを持っていることを知られることなく、知ることができるように、情報がカードの両方の面に書かれるべきだと確信していた。初期の構想では、もう一方の面についての情報は可能な限り多く書くことにしていた。MDFC枠を手掛けていくと、文章欄を可能な限り広く取りたければ、もう一方の面について記す文章量は制限しなければならないということがわかってきた。最終的に、1行だけに絞ったのだった。諸君の中には、「『ゼンディカーの夜明け』のMDFCはどれも充分な余裕があるのに」、なぜもう一方の面についてもっとスペースを取らないのか、と言う者もいることだろう。それに答えるなら、我々は『ゼンディカーの夜明け』のMDFCだけでなく、『カルドハイム』や『ストリクスヘイヴン』のMDFCも考慮してカード枠を作っており、それらの中にはタップして1色のマナを出す土地よりも文章が長いものがありうるからだ、となる。

どんなシンボルが必要か

 イニストラードを舞台にしたさまざまなセットに存在したTDFCには、2つの面のどちらかを示すシンボルがあったので、MDFCにもそれが必要になることはわかっていた。重要な問題は、どうやって「第1面」「第2面」を画像化するかだった。様々なものを試したが、選ばれたのは第1面のシンボルは「何か」1つ、第2面のシンボルは「何か」2つにするというものだった。さまざまなものがデザインされ、最も視覚的に美しかったのが三角形だったのだ。

どちらの面が第1面でどちらの面が第2面か

 何らかの形で一貫性が必要であることはわかっていた。MDFCで一方の面だけが土地であるなら、土地は常に第1面か、常に第2面であるべきである。シンボルとともに、これはどちらがどちらの面なのか覚えておく助けになるだろう。ここはゼンディカーであり、このセットのMDFCに共通のテーマは土地なので、最初は土地を第1面にしていた。しかしプレイテストの結果、他の領域ではこれらのカードが土地であるかどうかよりも他の何らかのカード・タイプであるかどうかを意識するほうが多かった(基本土地でなく基本土地タイプも持たないので、ライブラリーから探してくるのは難しい)のだ。そこで、土地を第2面にすることにした。

 

Q: このセットにはクリーチャー・土地が1枚あります。『ワールドウェイク』から再録することは検討しましたか?

 動く土地は非常にゼンディカーらしい存在なので、我々はクリーチャー・土地についてかなりの掘り下げを行なった。(先週の展望デザイン提出文書の中でその掘り下げの一例を示している。)基本的に、それらはMDFCに追い出されたのだ。セット内の土地の枚数には限りがあり、MDFCはそのほとんどを占めてしまった。ちなみに、セットごとに特定のテーマを扱える量には限りがあるという事実は、ゼンディカーに大量のデザイン空間が残っているという理由である。

 

Q: 黒が対象を取るエンチャント破壊ができるようになったというのは、どのような議論と理念の変化によるものですか?

 この変化は、私とエリック・ラウアー/Erik Lauerの話し合いから始まった。エリックは、青以外で黒だけが2種類のカード・タイプを破壊できない色であり、それがプレイデザイン上の問題を引き起こしていることに気づいていた。また、アーティファクトに対処できる色が3つあって、エンチャントに対応できる色が2つしかないという奇妙さにも気づいていた。黒は、青以外で唯一アーティファクトを破壊できない色であるが、赤はエンチャントを破壊できない。黒がエンチャントを破壊できるようにすると、アーティファクト破壊とエンチャント破壊のバランスを取ることができるようになり、また、青以外の各色に単体除去できないカード・タイプ(白は土地、黒はアーティファクト、赤はエンチャント、緑はクリーチャー)があるようになる。

 2つだけ私が依頼したのは、黒には「悪魔との取引」なエンチャントを作ることが多く、それに簡単に対処できるようでは困るので、自陣のエンチャントを破壊できないようにするということと。そして黒はエンチャント破壊に関して白、緑に次ぐ3種色であるということだった。我々はまず試してから加速していけるように、少しずつ始めた。『ゼンディカーの夜明け』では、それがやりすぎかどうか確かめるために対象を取る破壊を試している。やりすぎだとなれば、将来は引き下げることができるのだ。

 

Q: なぜD&Dのセットまでパーティー・メカニズムを温存しなかったんですか?

 展望デザインをしていた時点では、D&Dセットはまだ存在しなかった。実際、パーティー・メカニズムの社内での評判がよかったことから、D&Dセットを作るべきだということに気がつくことができたのだ。パーティーをD&Dの展望デザイン・チームに提案したが、彼らは我々が『ゼンディカーの夜明け』に残すことに同意してくれた。

 

Q: エルドラージはいないんですか?

 ゼンディカーに存在したエルドラージは間違いなくエムラクール、ウラモグ、コジレックの3体だけである。他のエルドラージ・クリーチャーは、その3体のどれかの延長にすぎなかったのだ。ウラモグとコジレックはゲートウォッチに倒され、エムラクールは別次元(イニストラード)に去ってそこで月に封印されている。現時点では、ゼンディカーにエルドラージは存在していない。

 

Q: 白や赤に碑文がないのはなぜですか?

 これまで、サイクルを作ったが、その中の数枚は間違いなくクールで、それ以外は出来が悪かったという例がどれほどあったかご存知だろうか。『ゼンディカーの夜明け』セットデザイン・チームは碑文のサイクルを作り、そしてそういう状況が起こったのだ。彼らは青、黒、緑の碑文についていいものができたと感じたが、赤と白のことはそうは感じなかった。彼らはデザインをやり直したが、それら3種の平均にまでは達しなかったので、均等でないサイクルを作るのをやめ、赤と白の碑文を他の、諸君がもっと楽しめると思われるカードに入れ替えたのだ。青と緑が特に重要なのは、緑青のドラフト・アーキタイプがキッカーを軸にしたものだからである。チームは黒の碑文を変えることも検討したが、そのデザインが本当に気に入っていたので残したのだった。

 

Q: 2016年に、『戦乱のゼンディカー』からの教訓として、「ある世界を再訪するときは、その世界を初めて訪れたときにプレイヤーが大好きだったものを再訪しなければならない」と言っていました。パーティーで、エクスペディションや探索や罠なしで、それが達成できたと思いますか?

 実際、我々は展望デザイン中に、プレイヤーが最も気に入っていたものが何なのかを調べるため、初代『ゼンディカー』のあらゆるデータを見返した。そのリストの筆頭にあったのは、フルアートの基本土地だった。再び採用した。次は上陸だった。再び採用した。その次は、革新的な土地のメカニズムだった。(MDFCという形で)再び採用した。次は同盟者だ。パーティーは同盟者が扱っていた素材空間のクールな扱い方だと感じていて、パーティーを構成するクリーチャーを同盟者にするというつもりだった。そうはならなかったが、意図としてはそうだったのだ。次はキッカーだった。再録している。

 その次は、動く土地だった。何種類かデザインしたが、MDFCに押し出されてしまった。それらの次に来たのが罠だった。罠の最大の問題は、最初に作ったときにそのデザイン空間をほとんど使い切ってしまっていたことだった。最終的に、展望デザイン中に新しい形の罠をデザインした。(こちらも先週の私の記事を参照のこと。)これらはセットデザイン中に取り除かれた。その次は探索だった。罠同様、このデザイン空間を限られていたので、展望デザイン中に新しいことを試みていた。(興味深いことに、それは我々が初代『ゼンディカー』で罠をデザインしていたときに試したものだった。)これらもまたセットデザイン中に取り除かれた。また、エクスペディションは『戦乱のゼンディカー』のもので初代『ゼンディカー』のものではないが、そのセットで最も人気の高いものだったので、これらも再登場させている。

 つまり、フルアート土地、上陸、革新的土地デザイン、クールで新しい形の冒険者たち、キッカー、エクスペディションが存在している。動く土地、罠、探索についても新しい形を模索したが、それを使うのに充分な枠がなかった。そう、我々はかなりいい仕事をしたと言ってもいいだろう。初代『ゼンディカー』の人気上位1、2、3、5位と『戦乱のゼンディカー』の人気1位を再登場させているのだ。4位については真剣に取り組んだが、環境がそれを許さなかった。セットの大きさに限界があってすべてを入れることができないことを踏まえると、我々は非常にいい仕事をしたと言える。

 

Q: 前回のゼンディカーで友好色の2色土地があってその敵対色版は存在していないのに、新しい2色土地のサイクルを作った理由はありますか?

 基本的に、突き詰めるとこうなる。MDFC2色土地を印刷できるセットというのは非常に限られていて、それはプレイヤーが絶対に気に入るであろうものだと思われる。この機会を捉えて、それを活かすことにしたのだ。需要が充分にあると考えられれば、敵対色2色土地を印刷できる製品は色々と存在する。

「私はいい日と言った」

 本日回答できる時間はこれで終わりとなる。質問を送ってくれた諸君に感謝したい。いつもの通り、今日の記事や私の回答に関する諸君の反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、元祖『ゼンディカー』を見ていく日にお会いしよう。

 その日まで、あなたが質問を抱き続けますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索