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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

厳粛なる誓い その2

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厳粛なる誓い その2

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年1月4日


 前回、『ゲートウォッチの誓い』の素晴らしきデザイン・チームを紹介したとき、『戦乱のゼンディカー』ブロックの第2セットの中心に来るのは、もうゼンディカー次元を離れたものだと誰もが思っていたエルドラージの巨人、コジレックになる予定だったことを話した。コジレックはゼンディカーを離れてなどおらず、地下に潜み、ともに囚われていた仲間の巨人ウラモグを助けるために姿を見せたのだ。デザイン・チームは、コジレックの現実をゆがめる能力を表すために、コストとして無色マナを必要とするというアイデアを思いついた。この結果、我々は新しく無色マナを表すマナ・シンボルを作り、新しい基本土地である《荒地》を作ることになったのだ。

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 問題は、物語があまりにもコジレックを中心にしすぎていることだった。このセットは、プレインズウォーカーたちが集まり、エルドラージのような脅威に立ち向かうためのチームを結成するセットでもあるのだ。メカニズム的に物語のその一面を表すデザインも必要なのだが、途中までデザイン・チームはそのことに気付いてもいなかった。今日は、デザイン・チームがこの問題をどう解決したかを見ていこう。

結集

 その直後の(ブランド・チームが、新しい軍団に注目を集めたいと言った直後だ)会議で、イーサンはデザイン・チームに新しい目標を示した。このセットの中心にコジレックがいるのはそのままに、さらに加えてゲートウォッチの結成を伝えるメカニズム的要素も必要である、と。ブレインストーミングの結果、次のような要素が上がってきた。

  • プレイヤー間の協力を含むメカニズム
  • 組み合わせを評価するメカニズム
  • 何かを積み上げていくメカニズム
  • クリーチャー同士が協力できるようにするメカニズム

 ここから我々は2系統の共通点を見出した。1つ目が、ある集団(プレイヤーにせよクリーチャーにせよ)が有利になる協力関係を結ぶというもの。2つ目が、積み上げることによって象徴的に表され、強化されるという、チームとしての協力を見出すもの。これが我々にとっての出発点となった。

怒濤の評価

 デザインで新メカニズムを作るためにブレインストーミングを行うのは、どうにも「ありえない」提案から始めるためである。何度もたどってきた路をたどったところで、既存のメカニズムを再生産するだけになる。しかし、それまでにないところから始めれば、一度も掘り下げたことのない空間を掘り下げることができるかもしれないのだ。

 そのため、我々が最初に掘り下げたアイデアは、他のプレイヤーを助けるメカニズムだった。何年も前のセット『Unglued』は、対戦相手1人以外のプレイヤーを意識した5枚のサイクルで、マジック史上初めてこの部分に触れたセットだった。

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 マジックで多人数戦はできるが、我々は黒枠カードにおいては2人戦で意味がわかるような文章にしてきた。従って、ルール文には「チームメイト」のような単語を入れることを避けてきたのだ。しかし、今回のセットはチーム結成をテーマにしている。場合によっては、このテーマを表すためにルールを曲げることもできるだろう。

 もちろん、2人戦で無意味になるカードを黒枠で印刷したくはない。それでは、どうすればチームメイトの存在に意味があり、かつ古典的な2人戦でも無意味にならないようにできるだろうか?

 その解決法は、チームメイトも協力できるが、そうでなくても可能な何かを参照する方法を探すことだった。それにあてはまるものは何か、しばらくの話し合いの結果、もっとも簡単なものの1つが唱えられた呪文だということが明らかになった。他のプレイヤーも、自分自身もできることだ。アリ/Ari Levitchは、そのターンの間に既に呪文が唱えられているかどうかを参照するカードという案を出した。自分がプレイしたものでも、チームメイトがプレイしたものでもいいのだ。

 興味深いことに、このメカニズムと同じような、ただしチームメイトを参照する部分がなかったものについて、遠い昔、『オデッセイ』のデザイン中に検討したことがあった(アリはそのことを知らない。私は、デザインの経験を積み重ねる間に、こういった平行デザイン、つまり複数の人物やグループが結果的に同じデザインにたどり着くということを何度も目にしてきている)。

 重要なのは、他の呪文が唱えられていたことによって呪文がどのように影響されるか、だった。呪文の効果を大きくしたり、シナジーのある効果を追加したりという形で呪文を強化することを試してみた。しかし、最終的にわかったのは、そもそも唱えられるようにすることのほうが重要だということだった。そして、2人戦では、他の呪文を唱えている必要がある、つまりマナはあまり残っていないのだ。こうして、呪文のコストを減らすという有利を得ることにしたのだった。

 注釈文に「チームメイト」という単語を入れたことで、怒濤は多少の議論を呼んだ。デザイン・チームは、通常向かわない方向に向かうことがセットを特徴付けることだという立場を取った。今後全てのセットで「チームメイト」という単語を使うわけではなく、チーム結成をテーマにしたこのセットでなら受け入れられるものだとしたのだ。我々は、このメカニズムはチームメイト部分をなくしても有効なもので、この能力を試してから「チームメイト」を含むことに問題があると判断してからでも簡単に取り除くことができるのだということをデベロップ・チームに強調したのだった。

 このメカニズムを採用したことによって、もう1つ起こったことがある。それは、『ゲートウォッチの誓い』の発売とともに双頭巨人戦を推すことがテーマ的に楽しいということだった。通常、怒濤のようにチームメイトを指すようなメカニズムは存在しない。そこで、より大きなテーマの一環として、組織化プレイにも双頭巨人戦をサポートするように推薦したのだ。こうして、デザインとデベロップはそれぞれが双頭巨人戦でもこのセットのテストプレイを行うことになった。これは異例なことだった。

 最終的に、デザインの直感が正しく、チームメイトに関する部分もそのまま怒濤メカニズムの一部として残ることになったのだった。

支援に感謝

 次に我々が手をつけたのは、クリーチャー同士が協力するというアイデアだった。ゲートウォッチはプレインズウォーカーの集まりなので、プレインズウォーカーを助ける方法を探すこともできただろう。しかし、プレインズウォーカーだけを助けるのはコモンでやるようなことではなく、我々が探していたのはコモンで使えるメカニズムだった。つまり、クリーチャーを助けるものである必要があったのだ。


アート:Kieran Yanner

 まず、プレイヤーがクリーチャーとプレインズウォーカーの両方を助ける方法を探すことから始めた。助けるということは、以下の3つの分類に分けられるということがわかった。

  1. クリーチャーやプレインズウォーカーを戦場に出しやすくすることができる
  2. 戦場にあるクリーチャーやプレインズウォーカーを強化することができる
  3. クリーチャーやプレインズウォーカーを守り、対戦相手が対処しにくくすることができる

 既に怒濤は代替コスト・メカニズムなので、1つ目の選択肢は候補から消えた。妨害を防ぐのは単に強化するのに比べて明瞭とは言えないので、3つ目は2つ目よりも迂遠だと感じた。次の問題は、クリーチャーとプレインズウォーカーの両方を強化する方法とは何かというものだった。プレインズウォーカーのほうが難しいので、そちらから手をつけることにした。戦場にあるプレインズウォーカーで意識するところと言えばまず忠誠度であり、プレインズウォーカーを強化するといえば忠誠度を増やすということになる。問題は、クリーチャーには忠誠度が存在しないということであった。

 そこで、我々は一歩離れたところから、忠誠度について抽象化して検討していった。プレインズウォーカーはカウンターによって表されるリソースを有している。クリーチャーも、+1/+1カウンターのようなものをリソースとすることができる。我々は、+1/+1カウンターと忠誠度を両方ともカウンターという枠でくくることができるということを、増殖メカニズムの中で学んだ。お互いに協力するというフレイバーを重視していて、このメカニズムは、プレインズウォーカーには忠誠カウンター、クリーチャーには+1/+1カウンターを与えるということができる。

 他の選択肢も検討したが、最終的には我々はこれをキーワード処理にすることにした。この処理は、フレイバー的に適切で最適に働くと感じたときならいつでも、呪文でも、「戦場に出たとき」の効果でも可能なものである。チームワークらしさを表すため(支援の開発名はチームワーク/Teamworkだった)、複数のカウンターを分配する場合にはそれを複数のクリーチャーやプレインズウォーカーに撒かなければならないということにした。こうすることで、すべてを1体のクリーチャーに積むのではなく、クリーチャーの数を増やして軍隊を積み上げることになる。

 このメカニズムはデザインからデベロップに渡され、そしてデベロップのほとんどの期間はそのままだった。しかし、後半になって、プレインズウォーカーに忠誠カウンターを置くことはデベロップ上の問題をいくつも生じさせることが明らかになった。デベロップの終盤だったので、もはやこのメカニズムを作り直す時間はなく、残念ながら忠誠カウンターを与える部分を取り除くしかなかったのだった。幸い、この変更は、このメカニズムが実力を発揮するリミテッドではほとんど影響しないものだった。

幕間:現状へのさらなる変更

 話を続ける前に、『ゲートウォッチの誓い』のデザイン・チームに投げられたもう1つの変化球について説明しなければならない(はっきり言うなら、今回のデザイン・チームの抱えた問題は普通の小型セットよりずっと多かったのだ)。

 マジックには22年の歴史があり、物事のやり方には一定のリズムが存在する。『マジック・オリジン』で、このリズムを崩すような大きな変化があり、違うことを試すことになった。年に1ブロックだったものが2ブロックになり、ブロックに3セットだったものが2セットになり、基本セットはなくなった。物語にさらに重点を置くようになり、カードを通して物語を語り描写する新しい手法を作り上げた。こういった大きな変化を生じさせたときは、他の大きな変化を生じる可能性があるのだ。

 これまで、小型セットについて受けていた要請のなかで最多のものといえば、何だろうか。プレイヤーは、セットが発売されたらそれを多く使いたいと思っている、ということである。プレリリースで使うパックの数を調整はしたが、ユーザーはそれ以上の変化を求めていた。なぜドラフトを小型セット2パックと大型セット1パックでできないのか、新カードを多く使ったドラフトは不可能なのか、と。


ハヤバイ》 アート:Michael Komarck

 長年にわたって、我々はこの提案を無視してきていた。それは、カードプールが小さいことによってドラフト経験の安定性が損なわれると我々が信じていたからである。しかし、変化の気質の中で、我々はこの前提を疑うことにした。変更すべきかどうかを問うのではなく、変化させるためには何を変更する必要があるのかを問うことにしたのだ。

 『ゲートウォッチの誓い』のデザイン・チームやデベロップ・チームはこの問題に時間をかけて取り組み、そしてうまく変化させるための方法をいくつか提案するに到った。その中の1つがセットの枚数を増やすことであり、またもう1つが新セットによってブロックの要素の扱いを進化させられるように前もって準備しておくことである。この後者の決定は、やがて重要になってくる。幸いにも、我々は答えを得ることができた。そして、先を見据えて、小型セットは小小大の形でドラフトされることになったのだ。

盟友探し

 デザイン・チームはブロックの要素を切り替えるための事前準備を始めた。ウラモグ系メカニズムからコジレックのメカニズムへの道はできていたので、エルドラージ側の根本的変更はできていた。つまり、デザイン・チームはゼンディカー側にも同じようなものを作らなければならなかったのだ。そのための計画は、同盟者関連の新しいキーワード・メカニズムを導入することだった。

 デザイン・チームはさまざまなデザインを実験し、最終的には打開/breakthroughと呼ばれるものに落ち着いた。打開は、「戦闘終了時に、あなたの同盟者が対戦相手に戦闘ダメージを与えていた場合、[誘発効果]する」というものだった。このメカニズムは、同盟者がエルドラージを止めるために攻撃的になることを表していて、それまでよりも戦闘寄りになるように仕向けていたのだ。

 しかし、デベロップに渡り、このメカニズムはあまりにも全軍突撃を推奨しすぎているという判断が下された。『戦乱のゼンディカー』の同盟者もかなり攻撃寄りで、同盟者の戦略を単に攻撃するだけでない別の方向に向けるようなメカニズムが望まれていたのだ。デベロップ中に新しいデザインが必要になったときによくあるように、小チームが結成された。同盟者を別の方向に向けるようなメカニズムを探すため、イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerはチームを率いたのだった。

 このチームはいくつもの選択肢を提示したが、デベロップ・チームがもっとも気に入ったのが盟友だった。盟友は、自身と他の同盟者をタップすることを必要とするクリーチャーが持つ能力語である。このメカニズムは『オンスロート』で用いられた、特定のクリーチャー・タイプのクリーチャーを特定数タップすることが必要だというデザインを元にしている。

 このメカニズムは、同盟者が協力することを表している。そして、全軍突撃でなく軍勢を整えるという意味でコンボ寄りとも言える、また、それぞれ異なる効果を持たせることができるので、様々な戦略を支えるメカニズムにできるのだ。

 興味深いことに、このメカニズムにとっての大きな障害は、その表記をどうするかと言う部分にあった。最初のデザインは『オンスロート』のカードを引き写したもので、「あなたがコントロールする同盟者2体をタップする」とだけ書かれていた。多くのプレイヤーは理解しないと思われる問題点として、唱えたターンにそのクリーチャーをタップするのに盟友を使えるかどうか、ということがあった(使えるが、それは他の同盟者の盟友能力にだけである。召喚酔いで禁止されるのは、タップ・シンボルでタップすることだけであり、コストとしてそのパーマネントをタップすること全てを禁止するわけではない)。エディット・チームとデベロップ・チームは様々な表記を試し、最終的には、タップ能力であり、他の同盟者1体をタップすることが必要、という表記に落ち着いたのだった。

誓いを立てる

 パズルの最後の1ピースは、私がこのセットで最も大きく寄与した部分である。チームの結成の表し方について話し合っていたとき、若い頃に読んだコミック「ジャスティス・リーグ/Justice League」を思い出したのだ。ジャスティス・リーグはDCコミック世界のスーパーヒーローによる巨大グループで、スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマン、フラッシュ、グリーンランタンといったその世界の有名なスーパーヒーローが皆所属している。私はジャスティス・リーグの大ファンとして育ち、そしてそのコミックの初期の本を全て読んでいたのだ。

 このチームは最初7人で結成され、その後も時々新しいメンバーを追加していった。新メンバーが入るときには、チームの理念を守るという誓いを立てるのが通例だった。私はそのイメージが好きで、我々のキャラクターが誓いを立てるのもいいシーンになるだろうと考えたのだ。メカニズム的には、チームに参加する各人を表す誓いサイクルのカードを作ることができる。そうすることで、将来的に他のプレインズウォーカーがゲートウォッチに入る助けにもなるだろう。

 問題は、メカニズム的に誓いをどう表すかだった。カード名を「[プレインズウォーカー]の誓い」にすること、従ってパーマネントらしいのでエンチャントにすることはわかっていた。我々は誓いをプレイする価値が出るよう、それぞれに強力な戦場に出たときの能力を与え、そしてそれぞれに1つずつ自分のコントロールする他のプレインズウォーカーを有利にするような常在型能力を与えた。

 最初のバージョンでは、常在型能力は自分のプレインズウォーカーに新しい忠誠度能力を与えるものだったが、そうすると全てのプレインズウォーカーが似通ったものになってしまい、ゲームプレイの画一化を招くとデベロップが指摘した。また、バランスを取るのも難しく、将来いくつもの誓いを作れるようにするためにはデザイン空間が狭すぎる、というのだ。最終的に、常在型能力の幅を広くし、他の形でプレインズウォーカーを助けるようにすることになった。サイクルとはいっても、表される色は4つしかなく、完全なサイクルではない。黒のプレインズウォーカーはゲートウォッチに参加していないのだ(ゼンディカー世界にいる候補者はオブ・ニクシリスだけで、彼はチームに協力するようなたちではない)。

 デベロップによる最後の変更が、誓いを伝説のパーマネントにしたことだった。こうすることで多少強くできるし、戦場に大量に並びすぎることを防ぐこともできる。さて、これが《ギデオンの誓い》だ。

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 今週はここまで。いつもの通り、今回のコラムやこの新セットについての意見を募集している。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、このセットのカード個別の話を始める日にお会いしよう。

 その日まで、協力できる人々があなたとともにありますように。

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