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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

オリジンのスピン

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オリジンのスピン

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2015年8月17日


 そろそろ『マジック・オリジン』の話も終わりにする頃合いだが、その前にカード個別のデザインの話と議論についての記事を書いておきたい。話すべきことはいくらでもあるが、時間の都合で記事はこれ1本しか使えない。それでは早速。

高位調停者、アルハマレット》[ORI]

ネタバレ注意:まだジェイスの「オリジン」を読んでいない諸君は、この先でその内容に関する話をすることになるので是非先に読んできてくれたまえ。

 《高位調停者、アルハマレット》はジェイスの師匠で、後に彼の敵になったスフィンクスだ。彼は強力な精神魔法を侵略的に使う人物なので、デザイン的にもそれを反映させたかった。このカードに関する大きな疑問点は、「この能力は青というより白じゃないのか」ということだった。一般的にはその通り、事前に打ち消すのは伝統的に白のほうが多い傾向にあるが、青は打ち消し呪文の王なのでこの分野も扱うことができるのだ。

 この能力の文章を調整してもっと青らしく見えるようにする方法はあった(たとえば、唱えることを禁止するのではなく、唱えられた後で打ち消すようにするなど)。しかし、そうしてもただ文章量が増えるだけで基本的には同じ効果を持つことになる。一般的な規則として、色同士の違いをはっきりさせるためにはそのような差は重要だが、ただでさえ文章量の多いカードにおいて文章量の問題が生じる場合には、「その色らしさ」が多少減ったとしても、文章量を減らして明瞭にしてしまうものだ。

満月の呼び声》[ORI]

 『マジック・オリジン』、そしてそこで今まで訪れた多くの世界を旅するうちでクールなことの1つが、その再訪するセットにメカニズム的な意味で立ち戻ったカードを作ることができるということである。《満月の呼び声》はまさにそれだ。このカードのフレイバーは、エンチャントされたクリーチャーが狼男になり、やがて太陽が昇ると元のクリーチャーに戻るというものだ。デザインはただ誘発型能力を使うのではなく、『イニストラード』ブロックで狼男を人間に戻すときに使われていた、1ターンに1人のプレイヤーが2枚カードを唱えた場合、という誘発型能力を使っている。

 このカードはまた、デザインでおこなわれたもう1つのことの例でもある。『マジック・オリジン』のプレビュー期間に、10個の世界をドラフト用の2色のアーキタイプに割り振ったという話をした。しかし、そこで説明しなかったのは、その世界を描いたカードがその2色に限られるわけではない、ということである。たとえば、『イニストラード』はリリアナが訪れた世界であり、アーキタイプ的には『イニストラード』ブロックのゾンビの色であった青黒である。しかし、《満月の呼び声》は赤のカードだ。狼男と関連づけるためには、このカードは『イニストラード』ブロックで狼男が存在した2色、赤と緑のどちらかでなければならない。『マジック・オリジン』を見渡すと、他にも同じようにそれぞれの2色ではない、その世界を描いたカードがたくさんあることに気付くだろう。

チャンドラの灯の目覚め》[ORI]

 物語をベースにしたデザインにおいて楽しいことの1つが、ゲーム内で用いるゲームのメカニズムが見事に物語を反映したクールな瞬間を見つけることだ。《チャンドラの灯の目覚め》はまさにその好例である。チャンドラの物語の中で、チャンドラやその家族にとって状況は最悪になっていた。チャンドラが全ての感情を解き放ち、かっと燃え上がったとき(ここではもちろん文字通りの意味だ)、彼女は処刑される寸前だったのだ。そしてその瞬間、彼女の灯が点り、初めてのプレインズウォークをしてその場からかき消えたのだ。ここで、灯が点る前の姿を現している伝説のクリーチャーとしてのチャンドラを見てみよう。

 《カラデシュの火、チャンドラ》は両面カードだ。このターンにチャンドラが3点以上のダメージを与えたら、彼女は変身してプレインズウォーカーの《燃え盛る炎、チャンドラ》になる。《チャンドラの灯の目覚め》そのものはダメージを与えず、クリーチャーにダメージを与えさせる。つまり、2/2である《カラデシュの火、チャンドラ》は2点のダメージを与えることになる。その後タップしてもう1点与えれば、彼女は変身することができるというわけだ。これがうまく組み合わさっているのはラッキーな偶然などではなく、デザインとデベロップによって綿密に計画されたことなのである。

領事補佐官》[ORI]

 高名は、何かをする必要があって、その変化をいくつかの+1/+1カウンターで示し、そのクリーチャーが変化したかどうかを後で参照することがある、という、『テーロス』の怪物化と似たメカニズムである。怪物化はマナを支払うこと、高名は攻撃に成功することが必要となる。デザイン・チームは、このセットのテーマであるオリジン・ストーリーにふさわしい、成長や進化を表すメカニズムを選ぶのに苦心した。人物の成長や進歩を見るように、メカニズム的にも同じことを自分のクリーチャー(高名)や呪文(魔巧)で体験できるのだ。

 高名でデザイン上調整できるところは3ヶ所ある。1つめは高名の数。そのクリーチャーはどれほど大きくなるのか。レアに1体例外はいるものの、『マジック・オリジン』における高名の数は全て1か2である。ほとんどのコモンは1である(例外は《ロウクスのやっかいもの》)。2つめはそのクリーチャーの持つ能力。これらの能力で攻撃が通しやすくなっていたり、大きくなったときにさらに強力になったりする。たとえば《領事補佐官》は先制攻撃を持っている。これは両方の意味で役に立つ。先制攻撃があればブロックされにくくなり、高名になりやすくなる。そして、先制攻撃の価値はそのクリーチャーのパワーと密接に関わっており、高名になったときの強さがさらに増すのだ。3つめは高いレアリティの高名クリーチャーによく見られる能力で、高名になったときのボーナスである。《領事補佐官》の場合、この能力はそのコントローラーの、他の攻撃クリーチャーを強化するというものだ。

 興味深いことに、このメカニズムについて受けた最大の批判は、怪物化で受けたものと同じである。クリーチャーが高名になっているかどうかを知る方法は+1/+1カウンターであるが、マジックでは(『マジック・オリジン』ではそうでもないが)他にも+1/+1カウンターを置く方法は存在する。クリーチャーの能力では高名であるかどうかではなく+1/+1カウンターが置かれているかどうかで判断すべきだという意見もあるが、その場合、あまりない方法とはいえそのカードの価値を高めることになり、そのクリーチャーを重くする必要があるのだ。そうなると、このメカニズムは弱くなってしまい、ほとんどのプレイヤーには利点と感じられることはないだろう。一般的な考え方として、私は、高名や怪物化のようなメカニズムは、その時点でほとんどのプレイヤーには明確になっているもので、何か問題が起こりうるような稀な場合には何か他の識別方法を考えることになるだろう。

闇の誓願》[ORI]

 今週も取り上げているテーマの1つが、カラー・パイに関する質問だ。このセットのデザイン・チームに私は参加していないので、舞台裏の話はいつもより少なくなる。そこで、なぜカラー・パイを時々曲げるのか、ということについて検証してみよう。《闇の誓願》はいい例である。問題を理解するために、まず魔巧メカニズムについて説明しよう。

 私が「おまけメカニズム」と呼んでいるメカニズムが存在する。それらは、カードに何かおまけを付け足すものだ。魔巧カードは、何か効果があって、魔巧が有効であればその後でその効果に関連する別の効果が発生する。《闇の誓願》は教示者になりたい。オーケー。黒の中で教示者と相性のいい能力は何だろう。一見すると、ちょうどいい答えがなさそうに見える。手に入れたばかりの呪文とやりとりしたいが、黒にはそうする方法はそれほどないのだ。

 答えは、黒がかつてやっていたこと、つまりマナを生み出すこと、だった。今は、ただ呪文を軽くすることしかできないが、それは黒のできることだ。しかし文章にするのも難しく、フレイバー的にもよろしくない。問題は、黒の儀式は赤に移っているということだ――黒がやってもいいことなのだろうか? 何かがカラー・パイを曲げているのか、それとも破っているのかを考えるとき、常に考えるべきことは、「この効果はその色の弱点を埋めているか」である。この場合、埋めてはいない。黒には、代償を必要とするとはいえ、マナを出す方法は存在する。つまりこの儀式は黒に不可能なことをやらせているわけではないのだ。そしてフレイバー的にも魅力的なので、この儀式が採用されることになった。

悪魔の契約》[ORI]

 このカードは元々、「You Make the Card 4」(リンク先は英語)のためにジェームス・クラーク/James Clarkeが提出したものだ。そのカードは黒のエンチャントで、一般からルール・テキストを募集したのだ。提出された全てのアイデアのなかから8つが選ばれ、投票にかけられることになった。《悪魔の契約》(当時は〈消耗する契約〉と呼ばれていた)はその8つの候補の中に選ばれていた。準々決勝を通過して準決勝に進んだが、そこで脱落してしまい、カードになるかどうかの決勝にはたどり着けなかった。最終的に印刷されたのは『基本セット2015』の《無駄省き》だった。

 〈消耗する契約〉は負けたが、我々はこのデザインの核である、3つの強力な効果と4つめの「ゲームに負ける」の合計4つを選ぶという部分は素晴らしいと思った。また、『マジック・オリジン』では、我々はリリアナの物語を描いていた。彼女は4体の悪魔と取引したのだ。このカードはまさにふさわしかった。問題は、3つの効果をどうするかということだった。元のカードでは「カードを2枚引き、2点のライフを失う」「クリーチャー1体を対象とし、それを破壊する」「マナ・コストを支払うことなく呪文を1つ唱える」というものだった。最後の能力はあまりにも強い上に黒とは言えない(黒なら墓地から呪文を唱えてほしい)。「You Make the Card」においてさえ、我々はこの能力を取り除き、このカード・テキストが優勝したら最後の1つについて投票をおこなう、と告示したのだった。

 全ての選択肢を検討した後、クリーチャー除去はしないことにした。戦場にクリーチャーが出ていなければ、その能力が無駄になるからである。3つの能力はどれもどんな局面でも働くものであって欲しいのだ。カードを2枚引く、はそのままにして、対戦相手から4点《生命吸収》して2枚捨てさせることにした。カードを引くことについていたライフ部分は、このカードにはもともとリスクがあるのに加えて《生命吸収》能力との違いを表すために削除した(そうしたら、文章量も減った)。最後に、リリアナの物語を再現するためにカード名が変更になった。そう、このアートの中で「契約」している、全身入れ墨はリリアナその人なのだ。

心酔させる勝者》[ORI]

 我々はときどき、プレイヤーが一目惚れするとわかっている、ちょっとした間抜けなものを表すだけのカードを作ることがある。なぜ一目惚れするとわかるのか? もちろん、我々が先に一目惚れしたからだ! 私が《心酔させる勝者》のことを初めて耳にしたのはこのセットのリード・デベロッパーだったサム・ストッダート/Sam Stoddardからだった。私は『マジック・オリジン』のアドバイザーを務めていたので(これについては近いうちに話そう)、サムと私は定期的に、このセットについて話し合うための会合を開いていた。ある日、サムが「これを見るべきですぞ」と言って見せてきたのが、届いたばかりの《心酔させる勝者》のアートだった。


心酔させる勝者》 アート:Winona Nelson

 デザインの後期に、このカード名は笑いを誘うという理由でカード名を変えようという議論があったのだ。しかし、サムはその反響が素晴らしいと理解し、名前を維持するように強く主張したのだ(全体のことを知っているわけではないが、クリエイティブ・チームの中にもこれ全体のファンがいて、名前を残すように運動していたと信じている)。このカードがプレビューされたら同じような反響が来ることに疑いはなかったし、そうであることを証明するには時間はいらなかった。実際、一般に公開されてから1時間もしないうちにインターネットで話題になったと思う。

ギラプールの歯車造り》[ORI]

 このカードについては、私のソーシャルメディアに多くの質問が寄せられている。赤は伝統的に飛行が、特に小型クリーチャーでは弱いものだ、と。その通り、赤にはドラゴンやフェニックスはいるが、これらの例外を除いては伝統的に飛行クリーチャーは非常に少ないものである。赤(と青)のカラデシュ部分では、飛行機械を作ることが非常に多い。飛行機械は1/1の飛行・アーティファクト・クリーチャーである。一体どういうことか? なぜ赤がこんなことをするのか?

 その答えは、しばしば、セットのテーマによっては、カラー・パイを少し曲げることはある、ということだ。赤に小型の飛行クリーチャーがあり得ないのではない。あまりない、というだけだ。青と赤がカラデシュらしくあることは重要で、そこにはアーティファクトが含まれる。青と赤はこれまで、どちらもメカニズム的にアーティファクトと良い関係にあった(赤は破壊できるというだけではない)。飛行機械というテーマは、青赤にふさわしいものに感じられたし、確かにこれは赤の範囲を少しばかり拡張するものではあるが、何も根本的に壊してしまうものではなかった。赤は飛行できるし、赤はしばしばアーティファクトが好きだ。ということで、これはこのセットで許容できる範囲だと判断されたのだ。これは、赤に何か大きな変更をしたというわけではなく、このセットを成立させるために許容できる範囲の曲げというだけなのだということに注意して欲しい。

光り葉の選別者》[ORI]

 しばしばメカニズム的にデザインと繊細な概念が矛盾することはあるが、このカードはデザインにおいてこの偽善らしさを描くことができているので、私のお気に入りのデザインの1つだ。これは非常に印象的だ。衆知の通り、ローウィンのエルフは完璧であるべきだという強迫観念にいくらか囚われている。彼らにとって、完璧でないクリーチャーは忌むべきものなのだ。では「完璧でない」とは一体何なのか。このカードのデザインそのものにおいて、パワーとタフネスが等しくない(開発部語で言うところの「正方」でない)もののことだと定義している。しかし、クールなのはここなのだ。《光り葉の選別者》そのものは正方ではない。ルール的には、《光り葉の選別者》はエルフであり、対象に取れるのはエルフでないクリーチャーだけなので破壊できないが、このカードが定義している「完璧でない」という条件に自分自身が(ほとんど)当てはまってしまっているのだ。このカードを作ってくれたデザインとデベロップ・チームを賞賛しよう。

搭載歩行機械》[ORI]

 マジックのデザインに関する歴史家として、私は奇妙な異常値にいつも魅入られる。たとえば、マジックの歴史上、{X}{X}のマナ・コストを持つアーティファクトはいくつあるか。その答えは2つ。

 『ミラディン』の《虚空の杯》と、『神河物語』の《大蛇の孵卵器》だ。しかし《搭載歩行機械》は、この両者どちらとも違う特徴がある。そう、《搭載歩行機械》はクリーチャーなのだ。コストが{X}{X}の史上初のクリーチャーと言われても諸君はぴんと来ないだろうが、私は満足だ。これはアーティファクト・クリーチャーなので、このセットの舞台の1つであるアーティファクトをテーマとした世界カラデシュに位置づけられる。コストが{X}{X}のX/Xクリーチャーは弱い方なので、何かクールなものを付け加える余地があるということになる。死亡したときにX体の飛行機械を出すというのはこのカードをカラデシュらしくしてくれるし、魅力的な一ひねりを加えることにもなる。5/5クリーチャーを相手にするか、それとも5体の1/1飛行クリーチャーを出させるか、どちらが問題だろう?

牢獄の管理人、ヒクサス》[ORI]

 既に述べたとおり、伝説のクリーチャーのデザインには2つのまとめ方がある。1つめは、クールなデザインを作ってそれを登場人物にする、あるいはそのデザインにふさわしい人物を探すというもの。2つめは、まず登場人物を選び、そこからトップダウンでふさわしいカードをデザインしていくというものだ。《牢獄の管理人、ヒクサス》は後者の例である。デザイン・チームは、彼が牢獄の管理人であり、白だということ、そして、善人で、ギデオン(ストーリー上、当時はキテオン)の師匠だというところから始めた。


牢獄の管理人、ヒクサス》 アート:Chris Rallis

 問題は、白の管理人をどうやって作るかである。明白なところから始めよう。管理人がすることは? 囚人を閉じ込めることだ。白が閉じ込めるといえば? 『アラビアン・ナイト』のカード《Oubliette》に由来を見いだせる、いわゆる「《忘却の輪》」能力だ。

 《Oubliette》は牢獄なので、この能力はまさにふさわしいと言える。次の問題は、この能力をどう使うかだ。1回限りの効果にすることも、再利用できる効果にすることもできる。クリーチャーを除去することはかなり有効なので、デザイン・チームはこれを1回限りにして、戦場に出たときの誘発型能力にした。問題は、善人だということである。誰でも投獄するというわけではない。彼が投獄するのは犯罪者だけだ。これをどうやってカードに表せばいいだろうか?

 その答えは、追放できる相手を制限することだった。そのクリーチャーは先にあなたにダメージを与えていなければならない。「犯罪を犯して」いなければならないのだ(プレイヤーを殴るのは間違いなく犯罪だ)。これは、あなたを傷つけたクリーチャーを罰するという他の白の効果にも関わってくる。その後、デザイン・チームは瞬速を持たせたが、これはこの効果が対戦相手のターンに使えなければならないからである。白は瞬速の主な色ではないが、メカニズム的に必要であればどの色でも使うことができる(たいていの場合は、対戦相手のターンに使う必要のある戦場に出たときの誘発型能力を持っているからである)。強い戦士でなければならないので、4/4になった。

ピア・ナラーとキラン・ナラー》[ORI]

 彼女の両親抜きにチャンドラの物語は語れない。そして、そのどちらか一方だけを伝説のクリーチャーにすることはできなかったので、伝説の2人組でカードにすることにした。このカードはトップダウンでデザインされたもので、ピアとキランを再現しようとしたものだ(ピアはチャンドラの母親で、キランは父親だ)。彼らは発明家だが、反骨精神を持っていた。飛行機械は彼らが発明家であることを表していると同時に、その起動型能力で刃を仕込んでいることを示している。このデザインのトップダウン性に加えて、《ピア・ナラーとキラン・ナラー》は飛行機械デッキの軸になるように作られた。飛行機械を作ることはクールですべてだが、それだけでは問題を解決できるとは限らない。《ピア・ナラーとキラン・ナラー》を加えることで、問題を解決してくれるのだ。もう1つ言うと、キランが頭につけているゴーグルにも注目してほしい。

紅蓮術師のゴーグル》[ORI]

 オーケー、クイズの時間だ。これは誰のゴーグルか? 伝説のパーマネントなので、適当な紅蓮術師のゴーグルではなく特定の誰かのゴーグルなのは間違いない。


紅蓮術師のゴーグル》 アート:James Paick

 チャンドラ、と答えた諸君、残念ながら不正解だ。これはチャンドラのゴーグルではない。これは、ヤヤ・バラードのゴーグルなのだ!

 チャンドラが最後にたどり着いたレガーサの修道院は、マジックの歴史に名を残す古の紅蓮術師ヤヤ・バラードその人の設立したものだった。もう1問行こう、ヤヤの名字がついたのはどこでか? 答えは、シアトルの近くだ。(遠い昔の)クリエイティブ・チームのメンバーがそこに住んでいて、ヤヤ・バラードという人物を作ったときにその名前を使ったのだ。

 さて、それではなぜこれがヤヤのゴーグルであってチャンドラのゴーグルではないのか? 正直なところ、最初はチャンドラのゴーグルにするつもりだったが、問題があった。マジックのアーティファクトは魔法的な性質を持っているものであり、チャンドラのゴーグルは何も魔法の力を帯びていないのだ。ただの、普通のゴーグルなのだ。ここで、レガーサに縁のある名高い紅蓮術師はチャンドラだけではないということに気がついた。ヤヤ・バラードもまたゴーグルをしており、彼女のゴーグルは魔法の品だったのだ。『マジック・オリジン』に紅蓮術師のゴーグルが必要だ、という前提でのこの問題は、こうして解決されたのだった。

ニクスの星原》[ORI]

 もう1つ、以前に訪れたことのある世界を振り返るセットで楽しいことは、その世界のテーマを強化するカードを作れることである。『テーロス』はもちろんエンチャントをテーマとしていた。《ニクスの星原》は、『テーロス』のカードを使い、新しくてテーマ的に繋がりのあるデッキを作れるようにする、デッキ構築の軸となるカードとして作られている。このデザインを見ると、私は遠い昔、このカードを作ったときのことを思い出す。

 様々な要素で隠されているが、『ウルザズ・サーガ』ブロックはエンチャントをテーマとしていた。そして私はエンチャントを使って何か新しいことをするカードを作ろうとしていた。私は、クリーチャーでないアーティファクトをクリーチャーにする『アンティキティ』のカード《ティタニアの歌》が大好きだった。《オパール色の輝き》は、オーラでないエンチャントに同じように働き、クリーチャーにするというものだった。ただし、ジョニー的なことをするために楽しそうだと考え、「効果をオフにする」部分は採用しなかった。そして、《オパール色の輝き》と《謙虚》はルール系の人にちょっとした頭痛をもたらすことになった。

 《ニクスの星原》は、エンチャントを墓地から戻す誘発型能力を持たせ、常在型能力を有効にするための閾値を定めることで、デザイン的に一歩進んだものになっている。私はこのカードでプレイヤーが何をするのか楽しみにしている。幸いにも、今の世の中に《謙虚》は存在しないのだ(ああ、最近のフォーマットでは、ね)。

穢れた療法》[ORI]

ネタバレ注意:まだリリアナの「オリジン」を読んでいない諸君は、内容についてのネタバレがあるのでこの節を飛ばすこと。

 トップダウンのカードは、簡単なこともあるが、頭痛の種になることもある。リリアナの物語において、彼女は彼女の兄を癒そうとして薬を渡したが、その薬のせいで彼はアンデッドの怪物になってしまった。黒はお手軽にアンデッドの怪物を作るが、このカードの難しいところは、リリアナは助けようとしていた、というところである。彼女の目的と、手にした結果は違っていたのだ。ではデザイン・チームはそれをどう再現したのか?

 鍵は、一歩引いて見ることだった。リリアナの意図は善なるものだが、彼女を穢れた療法に踏み込ませた鴉の男の意図はそうではなかった。リリアナの行動ではなく、その行動をカード化したらどうだろう? リリアナはこのカードの主体ではなく、被害者なのだ。誰かがいいことをしようとして悪い結果をもたらしたことをカードにするには、どうしたらいいか? 一番明瞭な例は、ライフを得ることをライフを失うことに変えてしまうことだろう。

大オーロラ》[ORI]

 カラー・パイに関する質問が非常に多いもう1枚のカードがこれだ。何が起こっているのか? まず、ニッサの初めてのプレインズウォークの後でローウィンを訪れた時、彼女は『ローウィン』が《大オーロラ》を経て『シャドウムーア』に変わりゆくところを目撃した。物語上で非常に重要なイベントなので、このイベントそのものもカードにすべきだと決定された。テーマ的に、このカードは緑でなければならない。この変化は自然のもので、その次元では長い長い間に規則的に起こり続けていることなのだ。問題は、そのフレイバーをどうやって緑のカードで再現するかである。


大オーロラ》 アート:Sam Burley

 最初の仕事は、このカードでメカニズム的に何をしたいかを決めることだった。《大オーロラ》が起こって、すべてが変化する。戦場にある全てのカードを変化させるのはあまりにも複雑なので、この変化をパーマネントの入れ替わりで表そうと考えた。パーマネントを他の何かに変えるというのは青と赤でやっていることであり、緑ではやっていない。何か他に方法はないか?

 そう、緑と言えば結局はマナだ。では、今使えるカードと、素早くプレイできるように大量のマナを生み出せるようになるカードを交換するならどうだろう? これなら緑らしい。このカードは緑ができることを明らかに曲げているので、サムと私はこのカードについて議論を重ねた。一歩引いて大局的にこのカードを見てみると、ちょうど《ドラゴン変化》のように正当化できると感じた。カードの部分部分を見ると問題でも、全体としては何の問題もなく緑なのだ。

始まりの終わり

 『マジック・オリジン』の様々なカードのデザインに関する話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事に関する感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、去年のデザインについて私が語る、今年のデザイン演説でお会いしよう。

 その日まで、『マジック・オリジン』の楽しみと、すばらしい冒険のためのシートベルトがあなたとともにありますように。

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