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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

神啓を受けて その1

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神啓を受けて その1

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2014年2月10日


 神啓特集へようこそ。今週のテーマは『神々の軍勢』で導入された新メカニズム神啓だが、神啓メカニズムのデザインがどのように行われたかは既に記事にしているので、今週のテーマを少しばかり違う形で掘り下げてみることにした。諸君も知っての通り、私はつねづねこんな質問を受けている。私は、あるいは私たちデザイナーは、どこから神啓を受けているのか、と。そこで今週の(さらには来週の)記事では、『テーロス』から順にマジックのブロックを遡り、何が我々に神啓を与えてくれたのかについて見ていくことにしよう。面白そうだとは思わないかね?


オレスコスの太陽導き》 アート:Mathias Kollros

1%の神啓

 本題に入って各ブロックの神啓の源について語る前に、ブロックごとに異なる神啓がなぜ重要なのかについて説明しておこう。マジックはその本質において変化のゲームである。私はマジックのことを、常に進化し続ける生命ある存在だと考えるのが好きだ。同じことを繰り返していれば、マジックは淀んだものになり、プレイヤーも飽きてきてしまうだろう。つまり、開発部の責任として、新しいプレイスタイルを作り続けなければならないのだ。そのための最高の方法が、マジックを新しい方向に推し進める新しいブロックを作ることなのである。

 しかし、創造的思考には大きな障害が存在する。人間の思考回路である。知っての通り、我々の脳は非常に複雑な組織であり、想像を絶するほどの仕事をこなしている。その仕事を最大化するため、脳は可能な限りのショートカットを試みる。前回どうやったかを踏まえて、それを繰り返そうとするのだ。脳は、常時成長し続ける脳内の小径を作り始めることになる。

 それだけならイイ話だ。単純化するために、という前提では。50回やった手法を使って51回目をするのは、それだけなら問題ない(諸君の多くはただ51回の行動をするということはないだろうと思うが、私には子供がいて、子供というものは、とてもとても面倒なものなのだ)。脳のショートカット能力は、ほとんどの場合には祝福だと言える。それによって、頭を使わずに必要なことをすることができるのだ。

 しかし、これが創造的なこととなると、前回やったとおりの方法で、というのは祝福とは言えなくなる。実際、問題を解決しようとしたときに同じ解決手段を執ったことはないかね? それは、脳が同じ脳内の小径を使っているからだ。この問題をどう解決すべきか? 問題に対して、異なる視点から挑むのだ(「Connect the Dots(リンク先は英語)」という記事の中で、構造的思考について深く掘り下げている。興味のある向きは読んでみてくれたまえ)。異なる文脈を用いて考えることにすれば、脳は新しい脳内の小径を作ることになり、新しい回答にたどり着くことになる。これが、私がカード(や、メカニズムやテーマ)のデザインで行き詰まったときに、異なった思考を絞り出すために自分で自分に制約をかける理由である(うん、「制限は創造の母である」のだよ)。

 ブロックごとに異なった神啓を必要とする理由は、ブロックごとに異なったアプローチをして、それまでどのデザイン・チームもしていなかったアプローチができるようにするためである。

 ブロック個別の話に入る前にもう一言、私がこれから話すのは各デザインの出発点であり、終着点ではないということを言っておこう。これから見ればわかるとおり、ブロックの中には出発点と終着点が異なるものもある。ここからもう一つ重要な創造的教訓が得られる。すなわち、今居る場所に囚われて目的地を見失うことなかれ、である。出発点は、単に始点にすぎないのだ。創造的な検討の結果移動することになったなら、移動するべきなのである。

 それをふまえて、神啓の話を始めよう。

『テーロス』ブロック

 このブロックのデザインは、エンチャント要素を持った、ギリシャ・ローマの神話に神啓を受けたトップダウンのセットを作ろう、という単純なアイデアから始まった。エンチャント要素を持っているのがなぜ重要だったのか? 単に「トップダウンのギリシャ・ローマ神話セット」から始めることはできなかったのか? 私は、ギリシャ・ローマ神話は、かつて成功したトップダウン・ブロックである『イニストラード』のホラー・テーマよりもゲームのメカニズムに繋がる要素が少ないので厳しいものになるとわかっていたのだ。


神に寵愛された将軍》 アート:David Palumbo

 また、私はトップダウンのクリエイティブに神啓を受けたデザインが大好きであると同時に、デザインには出発点としてそれと組み合わせて働くメカニズム的要素が必要なのである。メカニズム的アイデアがなければ、1つのセットになるために必要な凝集力が最初の一揃いのコモンにも存在しないことになる。

 最終的に、このセットはギリシャ神話(ローマ神話はデザインの初期に取り除かれた)を売りにすることになったが、一方でクリエイティブ要素に興味を持たない顧客にアピールできる要素が必要だということなのである。「ふーん、ギリシャ神話か。で、このセットはメカニズム的に何ができるの?」

『ラヴニカへの回帰』ブロック

 このブロックは我々の手がけた中でもっとも奇妙なものの1つだ。『ラヴニカ』ブロックは、もしかしたら史上最もと言えるほどに人気が出たブロックだったので、我々は前回の成功をもたらした要素を充分踏襲しようとした。問題は、上述の問題を繰り返さないよう、異なる視点が必要だということだった。ハリウッドでよくジョークの種にされる、「同じだが違う」というやつだ。

 このブロックは神啓を導く2つのことが核になった。

1. ブロック構造

 これは旧『ラヴニカ』ブロックとは大きく異なる部分だった。大/小/小という構造で4/3/3のギルドを扱っていた旧『ラヴニカ』に対し、『ラヴニカへの回帰』は大/大/小で5/5/10という構造になった。また、『ギルド門侵犯』の初登場時には『ラヴニカへの回帰』とは別にドラフトされたのだ。セットをこの構造にするため、デザイン・チームは全く異なったアプローチでこのセットに挑むことになった。

2. ギルドの特徴

 旧『ラヴニカ』ブロックはかなりの部分で正しかったが、いくつかの誤りと、いくつかの当時の環境に基づいた判断が含まれていた。アゾリウスはその本来の姿とは違うことをさせられていた。シミックはギルドが本来すべきこととはかけ離れたクリエイティブ的位置づけを与えられていた。光輝などの一部のメカニズムはそのギルドに相応しいものではなかった。つまり、『ラヴニカへの回帰』ブロックは1回目にした誤りを正す機会でもあったのだ。

 この2つから、デザイン上の神啓に必要な異なる視点を得ることができた。

『イニストラード』ブロック

 一見すると、このブロックの神啓は、ホラーの物語に神啓を受けたトップダウンのセットを作る、という単純なものに見える。実際は、少しばかり違っていた。軸となる神啓は、「ホラーのセットを作る」ではなく「トップダウンのセットが成立すると証明する」だった。この後で触れることになるが、『神河物語』ブロックは我々の初めて挑んだトップダウン・デザインであり、そのトラウマから何年もトップダウンのデザインを忌避してきたのだ。


苦痛の予見者》 アート:Tyler Jacobson

 私の初期の神啓は、どうすればトップダウン・デザインに挑めるかということから来ていた。クリエイティブ・チームとどう協力して、フレイバーとメカニズムが関連するようにできるだろうか? 元ネタを再現しながら、色のバランスなどのデザイン上の必要を満たすにはどうすればいいか? それらしく、かつメカニズム的関連性を保ったカードを作るにはどうすればいいのか?

 結局の所、カードやメカニズムの多くは、元ネタから直接神啓を受けたものであった。私はゾンビをゾンビらしく、狼男を狼男らしく、吸血鬼を吸血鬼らしくするのに時間を費やしたのだった。

 私は、両方の神啓を上手く扱うことができたことにとても満足している。

『ミラディンの傷跡』ブロック

 このブロックの神啓は、ファイレクシアの再来というものだった。マジックの初期には巨大な悪役として君臨していたが、『インベイジョン』ブロックでウェザーライト・サーガが終わるとともに姿を消していた。我々がミラディンを作った時、クリエイティブ・チームはファイレクシアの再来に向けて種を仕込んでおり、このブロックの本来の計画では新たなるファイレクシアになる予定だったのだ。本来の計画では、このブロックの後半で「なんとこれがミラディンだったのだ!」と大公開する予定だったのだ(ジャジャジャーン!)

 私がこのブロックのデザインを始めた時の目標は、ファイレクシア人とその思想をゲーム中に体現できるようなカードやメカニズムを作ることだった。このブロックをただ単にファイレクシア人に関するものにするだけでなく、ファイレクシア人を表し、ファイレクシア人を感じて欲しかったのだ。『ミラディンの傷跡』のデザインを始めてから、ファイレクシア人のブロックではなくミラディンが新たなるファイレクシアになるまでのブロックになるということが決まるまでには数ヶ月を要した。

 そして、ミラディンだということを公開するのがブロックの後半の予定だったので、このセットの目標として定めたのはミラディンであることの仄めかしであり、後で真実が明らかになったときに見返して「ああ、なんでこれに気付かなかったんだ」と思わせるようなものであって、世界のミラディンらしさを直接示すようなものではなかった。

 後に、現在のミラディンを表すデザインを導入して、新たなるファイレクシアになる前、ミラディン時代から物語を始めることにしたのだった。

『ゼンディカー』ブロック

 このブロックは非常にフレイバー的に仕上がったが、最初はその真逆から始まったのだ。最初にこのブロックの話を当時のボスのランディ・ビューラー/Randy Buehlerに提示したとき、私は、土地関連のデザイン空間に余裕があるのでこのブロックを使って何が可能か実験したいと言ったのだ。冒険世界、エルドラージ、面晶体、それらはすべて後付けである。『ゼンディカー』のデザイン最初の2ヶ月は、新しい土地メカニズムの発見に費やされたのだ。


深海の催眠術師》 アート:Christopher Moeller

 ここで言っておきたいのは、ブロックへのアプローチ法を変えるための鍵は、最初に頼る手法の変更にある、ということである。ブロックの中にはクリエイティブ的に始まるものもあればメカニズム的に始まるものもあるのだ。クリエイティブ・チームの進化によって、どちらから始めるにせよメカニズムとフレイバーには明確な繋がりを見付けることができるようになっているのである。

 もう一つ面白いのは、いかにして冒険世界という考えにたどり着いたかである。土地メカニズムは土地とマナに焦点を当てることになり、クリエイティブはなぜこの世界がそれほどマナに満ちているのかを考え、そしてプレインズウォーカーが「宝」を探しにやってくるという構想を手に入れた。そこから、世界そのものが危険な冒険世界という発想に至り、なぜ世界が危険なのかを考え、エルドラージが創造されることになった。

 『ゼンディカー』のデザインは大きく2つに分けられる。1つめが、セットのメカニズム的中核であり、上陸やキッカーがこれにあたる。2つめは、クリエイティブ的なものであり、同盟者や罠、探索がこれにあたる。

『アラーラの断片』ブロック

 このブロックは、『インベイジョン』でも『ラヴニカ』でもない多色ブロック、というところから始まった。『インベイジョン』は5色、『ラヴニカ』は2色だったので、『アラーラの断片』と『コンフラックス』のリード・デザイナーであったビル・ローズ/Bill Roseは3色を試すことにした。ただしビルはそれ以上の神啓を受けていた。ビルは全部が多色のエキスパンションに興味があったのだ。しばらく考えてから、ビルは全部多色なのは大/小/小構造の第3セットであるべきだと気がついた。理由は単純で、ブロック全体を使ってそれを扱えるような環境を作らなければならないからである。

 上で、ブロックがある起点から始まり、その後デザインが進化するにつれて焦点が変わるということについて語った。ビルがこのブロックを手がけたとき、断片という概念は存在しなかった。初期のデザインは3色の特徴を作るのではなく、3色がプレイできる環境を作ることに重きを置いていた。後のクリエイティブ・ディレクターであるブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthは、3色に焦点を置くための方法として断片という概念に行き着いた。その後、各断片はそれぞれの生命を得て、デザインの軸となった(これは後に述べる『ラヴニカ』ブロックの進化とも似ている)。このことからセットの5分の1ずつだけに焦点を当てた断片単位のデザイン・チームが組織されることになる。

 ここで、多色というのは我々にとって難しいテーマだと指摘しておきたい。広く好評なので続けていきたいが、そこにはマナの必要性や色のバランスの固定性による多くの構造上の必要が存在する(多色カードを作るたびに、あらゆる面から見た必要性を満たさなければならないのだ)。

『ローウィン』『シャドウムーア』ブロック

 このブロックは、なんと、『コールドスナップ』から神啓を受けている。なんだって? この2年前、開発部は年に4つめのエキスパンションを作るためにはどうしたらいいかという質問を受けていた。我々はいくつかの意見を戦わせ、そして「失われたマジックのセット」、『アイスエイジ』ブロックの第3セットという構想に到った。最終的には、『コールドスナップ』の出来は満足いくものではなかった。その時、私はビルに「次に第4セットを作るなら、そのブロックをデザインする前に私に言ってくれ。そうすればもう少し有機的に感じるものを作ることができるから」と言ったのだ。


フィーリーズ団の略奪者》 アート:Ryan Barger

 それほど時を置かずに、ビルは私の所に来て言ったのだ。

「マーク、また第4セットのある年を迎えることになる。君の魔法を見せてくれ」

 そう、このブロックの神啓は、ブロック構造であった。自然だと感じられる方法で4セットを作るにはどうしたらいいか? 『コールドスナップ』のように付け足しではなく、そこに当たり前にあるような第4セットが欲しかった。この問題を検討するうちに、私は大型セットと小型セットからなる小型ブロック2つという構想にたどり着いたのだった。

 2つのブロックはフレイバー的に、またメカニズム的に繋がっているが、別のブロックとしても機能する。秋セットは部族セットと仮に割り振られていたので、それと組み合わせられる2つめのテーマを探した。そして、起点となり得る混成に気付いたのだ。『シャドウムーア』が『ローウィン』と同じ部族を扱い(これは後に『シャドウムーア』ブロックでは変更されて、さらにいいものになった)、『ローウィン』のカードは、『シャドウムーア』の「色テーマ」とかみ合う色つきにしたのだ。

 『ローウィン』のフレイバーは2つの理由から生じた。1つめに、一方の世界とその陰の世界という2つの世界という発想、これはクリエイティブ・チームの手によって、対比のために1つめの世界がより明るく輝くものになった。2つめに、我々の選んだクリーチャー・タイプは、次の部族ブロックのファンが楽しむように、妖精譚のような雰囲気をもたらすようにした。『シャドウムーア』のクリエイティブ的なデザインは、『ローウィン』の闇の側を描くものだった。

 世界の変遷という構想から、クリーチャー・タイプの色がこの小ブロック間で変化することにした。『シャドウムーア』で新しい部族デッキが作れるように、色を変更して新しい色の組み合わせができるようにするというのが当時の発想だった。完全に後付けだが、『ローウィン』で2色だったものが『シャドウムーア』で3色になり、何かを作れば『ローウィン』の部族デッキに入る新しいカードを作ることにもなったのだ。

『時のらせん』ブロック

 今日語ってきた全てのブロックの中で(マジックの初期の10ブロックについては来週語る)、このブロックが最も始点から終点までの変遷が大きかったものとなる。『時のらせん』ブロックは、『神河救済』のデザイン・チームが思いついたメカニズム、待機を使いたいというところから始まったのだ。ここから、時をテーマとしたブロックという構想が生まれた。『コールドスナップ』のデザイン中に2つめのメカニズムが生まれ、それを『時のらせん』に取り込んだ。3つめの時間メカニズムは瞬速であり、これは遠い昔から存在していた能力だがキーワード化はされていなかった。

 時間というテーマから、過去/現在/未来というブロック構想が生まれた(それ以外に時間の分け方があるかね?)。過去を表現するために、マジックの過去のカードを見返し、そしてそこから郷愁が雪だるま式にふくれあがっていった。やがて、この郷愁というテーマは時間というテーマから主役の座を奪うことになる(時間というテーマも残ってはいるが)。

 『時のらせん』を今日作るとしたら色々と変更するところはあるが、当時、デザインする上での発見そのものを楽しんだのも事実である。私のお気に入りのデザインの中には、デザイン中に大きく軌道を変更した結果想像もしていなかったところに着地したことから生まれたものもあるのだ。

『ラヴニカ』ブロック

 このブロックは『アラーラの断片』ブロックと同じように始まった。すなわち、それまでやったことのない多色ブロック、というものである。この前の多色ブロックは『インベイジョン』であり、「可能な限り多くの色をプレイする」というテーマを強く持っていた。『インベイジョン』と違う多色を作るにあたって、私はその逆の方向性を取ることにした。多色の中でもっとも少ない色といえば......ということで、2色テーマに行き着いたのだった。


静寂の歌のセイレーン》 アート:Anthony Palumbo

 次に私が進んだ先は、10色を同等に扱うということであった。このブロックでは友好色と敵対色の組み合わせに差をつけないのだ。私はこの考えをクリエイティブ・チームに持ち込み、ブレイディ・ドマーマスはギルドという素晴らしい突破口を作ってくれた。私はギルドという考えを聞いてすぐに気に入り、完全にギルドを軸としたデザインに変更した。ここから、4/3/3モデルが出来、あとはご存じの通りだ。

 これもまた、テーマを神啓として始め、そして掘り下げていくうちにその神啓となった以上のものを掘り当てたブロックである。2色の組み合わせの一部だけを取り上げたセットという発想は、ギルドという発想なしでは生まれなかったかも知れない。『ラヴニカ』は、デザインとクリエイティブが手を取ればどんな素晴らしいものが出来るのかの素晴らしい例なのである。

あと10個

 半分終わったところで文字数が来たので、この神啓の旅は来週に続くことになった。マジックの最近10年のブロックを見てきたが、諸君が楽しんでくれたなら、そしてマジックの最初の10年についての話を楽しんでもらえるなら何よりである。見ての通り、時とともに多くのことがデザインの礎となっている。

 いつも通り、記事に関する諸君のコメントを待っている。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、さらなる神啓の話でお会いしよう。

 その日まで、あなたの創造にも神啓の導きがありますように。

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