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Making Magic -マジック開発秘話-
古いものと新しいものと
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Making Magic
古いものと新しいものと
Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2012年2月13日
今回は特集が組まれていないので、私の書きたいことを書くことができる。書きたいことを書けと言われると、アーティストというものはしばしば非常に困るものだ(「制限は創造の母」といつも私が言っている通り)。だが、幸いにして、私には書きたいことがいくつも貯まっている。つまり、何を書くべきか探すのではなく、どれを書くべきか考えればいいのだ(その方がずっといい話だ)。
今年の「基本根本」コラムを書かなければならない(「基本根本」を知らない諸君は、ここ(リンク先は英語)、ここ(リンク先は英語)、ここを確認してくれたまえ)。先日、私は娘の学校に招かれ、「夢の職業に就くにはどうしたらいいか」という内容でスピーチをした。先日の記事はそのときのことにヒントを得たもので、もう一本ぐらい書いてもいいと思った。また、以前のコラムで人気が高かったものをもう一度掘り下げるのもいい("Timmy, Johnny, Spike"(リンク先は英語)を"Timmy, Johnny, Spike Revisited"(リンク先は英語)としたように?ちなみにどちらのページのスクリプトも今は動いていない)。しかし、どれも闇の隆盛には関係していない。新しいセットが世に出たら、コラムの内容もそれにあったものにすることにしているのだ。そこで今回は、ここしばらく話したかったことについて話したいと思う。それは、闇の隆盛のデザインに大きな影響を与えたことなのだ。
新しいこととは?
今回のコラムでは、全てのクリエイターが挑まなければならない矛盾について語ろう。それは、古いものと新しいものの争いだ。過去の創造の跡をたどっているときに必ず生じる緊張の話である。続編、第二弾、あるいはその後の話。私がこれから語るのは、すでに存在する何かに基づいて何かを作るときのことについての話である。
私の仕事は非常に創造的なものだが、何かをゼロから作っているわけではない。実際のところ、ゼロからにはほど遠いのだ。闇の隆盛は57個目のエキスパート拡張セットである。ここには基本セットは含まないし、ポータルやアンシリーズ、プレインチェイスも含まない。私が闇の隆盛のデザインに着手したとき、そこには18年の歴史がすでに存在していた。ほとんどの創作活動は、これほど多くの既存の創造物を踏まえる必要はないが、それでも過去のものを踏まえて創造しなければならないことは少なくないものである。
この問題に取り組むアーティストは、みな同じ問題に突き当たる。
DailyMTG.com 10周年記念回のコラム(Turning Ten(リンク先は英語))の中で、私は(意思疎通理論の3本柱の1つとして)「安心」の重要性について語った。人々は知っていて理解しているものに集まるものだ。世界は怖い場所で、慣れ親しんだもののそばに集まるのはありがたいことだ。つまり、それまでのものに基づいて何かを作るなら、古いものを連想させる要素を新しいものに含ませることが重要だということになる。そうでなければ、新しいものが古いものに基づいていないとして文句が出ることだろう。古いものは、愛されたものなのだ。それを見捨ててはならない。
また、その「Turning Ten」コラムの中で、(意思疎通理論の3本柱の1つとして)「驚き」の重要性についても語った(ちなみにもう1つは「構造」だが、それはここでは重要ではない)。人間というものは、すぐに飽きるものだ。変化がなければ、古いものにはやがて興味が示されなくなる。続編が出たら、何が新しいのか、何が変わったのかに興味を持つものである。新しいものが古いものに比べてどう違う形で興奮させてくれるのか? 彼らは古いものについてはもう知っている。新しいものはどんな違いを提供してくれるのか?
そう、新しい挑戦というものは、古き良きものと充分似通っていて、充分違っていなければならないのだ。このバランスは難しいものだ。今回のコラムでは、アーティストがこの問題を解決するために使っている手法について語り、マジックにおけるその実用例として闇の隆盛を取り上げることにする。
#1 - 古いものを一ひねりして新しいものにしろ
最も簡単な手法は、以前のものから何かを取り出し、それを何らかの形で変化させるというものだ。オースティン・パワーズの第1作目でドクター・イーブルが面白かったなら、続編でそのミニチュア版を出さない理由があるだろうか? この手法がうまくいくのは、古いものと新しいものの橋渡しをするからである。新しいものは目新しさを得るが、古いものに基づいているのは明らかなので、そこに懐かしさが生じるのだ。
闇の隆盛におけるこの一例が、イニストラードからのメカニズムの進化である。両面カードは再び投入されたが、今回はクリーチャー(や、プレインズウォーカー)だけにとどまるものではなくなっている。フラッシュバックも再録されたが、色違いのサイクルは逆回りになり、また今まで存在しなかった派手な効果(フラッシュバック時の効果が二倍になる)を持ったレアのサイクルもお目見えした。部族は全て戻ってきたが、それぞれが新しい武器を手に入れ、戦略にも変化が加わったのだ。
この技法の肝は、前の版で受け手が楽しんでいた部分がどこなのかを理解することにある。人気に関して、何かが好まれたとき、その全てが好まれているかのように思われがちである。人間というのは、物事を二極化させて考える傾向にある。人間の脳は、いくつかの(あるいは1つのこともある)特徴を選び挙げ、その特徴によって物事を関連づけるものだ。そのため、「これのほとんどはよかった」あるいは「これのいい部分は楽しんだが、悪い部分はそれ以上にダメだった」という感想ではなく「これはよかった」「これは悪かった」という感想が出ることになる。
これが、前の版の一部を一ひねりするということを成功させるための鍵である。どういうことかについては、次の項目で掘り下げることにしよう。
#2 - 本質を理解し、それにそぐう新しい何かを作れ
ひねって何とかなることもあるが、場合によっては、何か新しい者を作らなければならないこともある。そのためにはどうしたらいいか? 前の版を成功せしめていた中心が何かを理解することだ。中心とは、あらゆる創造的なことにおいて、そのデザインの中心に位置する何かである。比喩的に、そのデザインをビル建築に喩えるなら、中心は基礎に当たる。ビルそのものが何かの上に建てられるのだ。それが何かを見つければ、古いものを成功に導いたものを使って新しいものを作ることができることになる。
たとえば、イニストラードのデザインの中心はホラーの再現であるということがわかっていた。全てのメカニズム、全てのカードはホラーを再現するためにデザインされていたのだ。つまり、闇の隆盛のために新しいものをデザインするにあたっても、それを使ってデザインを始めることができるということになる。これはこのセットで導入された2つの新メカニズムを見ても明らかだろう。
不死は英雄の手によって死んだはずの化け物が、より強力になって蘇ってくるというシーンを再現するための能力だ。ただ殺しただけでは相手が強くなるだけなのだ。窮地は追い詰められた人間を描くための能力だ。最悪の事態になったとき、人間は底力を発揮する。いかに状況は悪くても、人間をなめてはいけないのだ。
このどちらも、メカニズム自体は新しいものだ。しかし、どちらもイニストラードの本質を踏まえているので、イニストラードの拡張として受け止められた。その本質が、「安心」の役目を果たしていたのだ。「イニストラードがホラー映画のようで好きだった。闇の隆盛もホラー映画のようだ」
この分類で忘れてはならないのは、アイデアと実装の切り分けである。一旦成功すると、以前成功したことの中心を見極めず、ただ同じ事を繰り返してしまいがちになる。「うまくいった」ものをそのまま使うだけで、全体像に比べて一つ一つの選択はそれほど重要でないということを理解できていないのだ。
アルファ版を例に取ってみよう。マジックの一番最初の版の本当の特質は、多くの驚くべき発想にあった。私はよく黄金の三原則について語る――マジックをマジックたらしめている3つ、つまり「トレーディング・カードゲーム」「カラー・ホイール」「マナ・システム」だ。この3つはどれも本当に革命的だが、それらを作りあげていた選択は時間とともに変化していった。
ここで、それぞれについて例を挙げてみよう。
トレーディング・カードゲーム
リチャード/Richardはアンティ・カードを使っていたが、これは問題があると証明された。レアリティのシステムは消費されるであろう金額を想定して作られたが(リチャードは、人々は一般的なボードゲームにかける程度の金額、40?80ドル程度を費やすだろうと想定していた)、それははるかに低すぎる金額だったと証明された。最初はプレイヤーにどのカードがどのレアリティかが分からないように、レアリティは非公開になっていたが、これもすぐに改められた。カードの(4枚)枚数制限が設定され、デッキの枚数も(40枚から60枚に)調整された。
カラー・ホイール
カラー・パイがどれほど無秩序だったか、初期のマジックのカードを見るだけで充分だろう。青には直接ダメージがあり、緑は呪文を打ち消し、赤はエンチャントを破壊できた。基本的な方針はあったものの、リチャードは色の一貫性よりもフレイバーを重視したのだ。
マナ・システム
皮肉なことに、多くのプレイヤーが一番問題だと思っているこれこそが今の状態にもっとも近いものだ。初期のマジックでは素早く色つきのマナを揃えることがずっと簡単だった(初期のマナ関連の壊れたカードは沢山ある)。そして、フレイバー的には魅力的だったものの、不必要な複雑さをもたらしていたマナ・バーンが存在していた。
アルファ版でマジックをすばらしいものたらしめたのは、リチャードの多くの秀でたアイデアだ。その実装には多くの改善すべき点があったが、それはアイデアの優秀さを傷つけるものではなかった。初期の開発部はリチャードの実装をそのままコピーしていた。これは、同じ事をすれば同じ反応が得られると思い込んでいたのだ。もしその手法をとっていたなら、マジックは今のようにはなっていなかっただろう。
マジックが成功したのは、実装を改善することを続けてきたからである。栄冠に満足することなく、さらなる高みを目指したからなのだ。
#3 - すべてを使おうとせず、切り捨てろ
創造する過程においてよく見られる現象に、「惰性反復」というものがある。アーティストが作品Aを作り、これが人気を博した。その後、そのアーティストは作品Bを作るにあたって作品Aでのいろいろなことを取り入れ、少しの新要素を加えた。その後、さらに作品Cを作るにあたり、AやBで成功したすべてを取り入れようとした。そしてやがて、そのアーティストは過去に作ったものに縛られて、新しいことをする余地がなくなってしまった。
別の見方をすれば、芸術性が自分の成功の犠牲になることがあるという言い方もできる。何か完全に新しいものを作る場合、何にも縛られることはない。アーティストとして、自分の感性に基づいて選択できる。成功してしまうと、そこに予断が生じる。受け手の側も以前のようなものを想定するようになり、作り手は受け手が望むであろうと感じるものをそこに入れるようになる。
マジックには、この現象に対応する道具がいくつか存在する。1つめは、システムに組み込まれている変化の量である。毎年、新しいメカニズムと新しい雰囲気のある新しい次元に行く。私の好む言い方で言えば、振り子(砂の穴の上にある紐付きの重りを想像してくれたまえ)を揺らすことでマジックは新しい世界に飛び込み続けるのだ。これによって、我々はマジックが淀まないようにしている。たとえば過去に何かが成功したからと言って、それをすぐに現在のセットに入れるというようなことはないのだ。
これは一つ重要なことを示唆している。何かをしたとしても、それを繰り返すことも、あるいはそれを進化させることも、義務ではないのだ。マジックは毎年変わり続けるので、惰性反復についてはそれほど心配はない。つまり、イニストラードから闇の隆盛の間で何かを切り捨てることを焦る必要はないのだ。とはいえ、私はある要素は進化させずにそのまま残している。闇の隆盛で言えば陰鬱メカニズムがそうだ。ほんの数枚のカードしか存在してはいないが、メカニズム自体にはイニストラードから何も手を加えていない。
パブロ・ピカソの言葉を借りれば「すべての創造は破壊から始まる」である。以前のもののうえに何かを建てるのであれば、何を使うべきで何を捨てるべきかを考えなければならない。最初は、いい物を残して悪い物を捨てればいいと考えがちだが、そうではない。もちろん、悪い物は捨てるべきだが、いい物の中にも残せないものはある。作品を新鮮に保つためには、成功から離れなければならないときもあるのだ。
これは、マジックのデザインの原動力である。毎年、我々は新しいイカしたものを作り出すが、それには寿命があることは分かっている。将来戻ってこれるほどにイカしたものだとしても、何にせよ一度は舞台を去るのだ。よく受ける質問に、「プレイヤーはXが好きです。Xを他の物のように常磐木メカニズムにしてはどうですか?」というものがある。これへの返答がこでだ。物事を刺激的に保つためには、それが常時ある状態でないようにすることが必要である。毎年のセットに多色カードが詰め込まれていたら、プレイヤーはただそれを受け入れるだけで期待して見ることはなくなるだろう。人気が出たものを溜めておくことで、それが復活したときに人々は歓喜し、興奮するのだ。
#4 - 変化を望め
マジックが18年間生き続けてきた秘訣は? その最大の理由の一つに、マジックが生まれたときと今とでは別物になっているということが挙げられる。リチャードやアルファ版に問題があったわけではない。マジックがあれほど速く進化したのは、リチャードの天才的なゲーム・デザインがあったからこそだ。マジックが生き抜いてきた理由は、マジックがその本来の展望――探検を続けてきたからである。
新しい芸術というものは、危険が伴うものだ。失うものはなにもない。いざとなったら逃げ出せばいい。しかし、一旦成功を収めてしまうと、守るものができてしまう。すでに何かを建てたのなら、今度はそれを守らなければならなくなる。この現象によって多くのアーティストが臆病になるものだ。リスクを追うのをやめ、最初の成功に安住してしまう。
これをマジックに当てはめてみよう。マジックをマジックたらしめているものは、ルールを破ることだ。買ったときから同じものは存在しない。マジックは、どの1パックよりも大きいものだ。プレイヤーは、何が可能なのかを知らなかった。ゲームをプレイすることは、存在するものを探索することに等しかった。
マジックが今も生きているのは、探索の重要性を失っていないからだと思う。18年後、我々はやはり諸君の想像していないこと、マジックに存在していなかったことをして、諸君を驚かせることができる。たとえば、マジックのカードでは片面にしかテキストがない。――と、イニストラードまでは誰もが思っていたはずだ。
新しいデザインを作ることには、新しい物に挑戦するという意志が含まれる。これまでのことを踏まえる必要はもちろんあるが、すべてがそれに囚われる必要はない。昔の要素を再利用するのが問題ないのと同様に、新しい要素を導入するのにも問題はないのだ。
古い犬に新しい芸を
今日のコラムはここまでだ。闇の隆盛のようなセットが取り組まなければならない、ちょっと違う問題についての講釈を楽しんでもらえたなら幸いである。
それではまた次回、語ることが墓地から蘇ってくるときに。
その日まで、新しいアイデアと古いアイデアがあなたとともにありますように。
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