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Making Magic -マジック開発秘話-

暗き影 その3

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Making Magic

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暗き影 その3

Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年2月6日


 プロツアー・闇の隆盛特集にようこそ。今後は、プロツアーに先駆けてプロツアー特集を組むことになった。プロツアー特集で何をするのか、新編集長のトリック・ジャレット/Trick Jarretに尋ねたところ、来るべきフォーマットや、そのプロツアーに冠されているセットについて語るのだと言った。「......つまり、闇の隆盛について語ればいいんだな?」「もちろん」

 ということで、今回はその3になる。私は、望んで、闇の隆盛の発売直後からコラムを費やしてきているのだ。前置きはこれぐらいにして、さっそく闇の隆盛のデザイン話に戻ることにしよう。

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 かつて、私はホームコメディの脚本家時代のこと(リンク先は英語)を話したことがある。当時、立ったままで(これはルイス・CKの教えによるものだ――が、その話はまた別の機会に)考え、大学での即興劇のようなことをしていた(無意識にだ)。カードをデザインするときに、冗談から始まる比率については語ったことがなかった。たとえば、そう、《貪欲なる悪魔》のように。

回転

 私の血管には、コメディ書きの血が流れている。私は物事を「リフ」するのが好きだ。「リフする」とは、ある主題について語り、それの面白いところを見つけ出すことを意味する。私は人間を食らう悪魔というところから発想を始めた。

 悪魔が人間をどう見ているか、平均的な人間には分からないだろう。悪魔から見たら、我々はスナック菓子のようなものだ。悪魔は自分の魔界に座したまま、他の悪魔に語りかけるのだ。「なあ、これから何する? 俺は人間食いたいんだけど」

 人間は悪魔の健康にいいものではない。ポテトチップスのようなものだ。一個だけ食べるなんてことはできない。口を付けたら、次々に食いたくなるものだ。だからこそ、悪魔は人間から距離を取る。悪魔はダイエット中なのだ。

 この冗談は私の頭にこびりついて、そしてこのカードが生まれた。発想は単純で、「悪魔が存在している。強大な存在だが、その本来の力はまだ発揮されていない。人間を食ってしまえば、悪魔の本能が目覚め、さらに強大になる。しかし人間の味を覚えてしまった悪魔は元には戻ることはないので、プレインズウォーカーである君は悪魔に餌付けして機嫌を取らなければならない」というものだ。

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天啓の光

 それでは、開発部のお気に入りのゲーム・ショー、「完全な再録を探せ」のコーナーだ。

 何が起こったかを説明しよう。ファイルと取り組む間に、チーム内の各メンバーはこのセットのために作られたと思える様なカードを過去の記録から探すべく時間の井戸に潜っていき、これまでのセットを探っていった。そして、誰もが同意できるような完璧なカードを探し続けた。

 この競争に勝ったのは、《天啓の光》だった。闇の隆盛には色違いのフラッシュバック・サイクルが存在していて、イニストラードのそれとは逆回りになっていた。そして、チームはエンチャント除去を探していた。誰だったかが《天啓の光》をジャッジメントから見つけたとき、誰もが「それだ!」と言ったのだ。カード名でさえ、このセットの白にふさわしいものだった。

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 私は、フラッシュバックでゾンビ・トークンというのがお気に入りだ。イニストラードでは実際にカードになったもの(《神聖を汚す者のうめき》、《忌むべき者の軍団》の2枚)よりずっと多くのそういったカードがデザインされた。闇の隆盛で、青のフラッシュバック・コストを持つ黒のカードが必要になった。黒と青と言えばゾンビの色、ここはゾンビ・トークン生成カードの出番だ。

 青と黒のゾンビの違いを表すために、最初はフラッシュバック・コストはより軽い代わりに墓地のクリーチャー・カードを追放することが必要となっていた。黒は黒らしく屍体を蘇らせ、青は青らしく屍体に科学実験を施すことでゾンビを作るのだ。トムはその発想を気に入ってくれたが、マナ以外のフラッシュバック・コストが存在するのはこのサイクルでこれ1枚だけになってしまって不均衡だということで今のものに変更した。彼の心配はもっともだったので理解はするが、初期版が私のお気に入りだということに変わりはない。

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 闇の隆盛のデザイン中、ある時点でこんなカードがファイルに存在した。

〈誰もが幽霊〉

{3}{W}

エンチャント

あなたがコントロールする、スピリットでないクリーチャーが死亡するたび、飛行を持つ白の1/1のスピリット・クリーチャー・トークンを戦場に出す。


 このカードはテンペストの《魂のフィールド》とほとんど同じだという指摘があった。

 違いは、マナ・コスト({3}{W}と{2}{W}{W})と、トークンでないクリーチャーを見ることからスピリットでないクリーチャーを見ることに変わっているだけだった。こちらの「?でない」という表記はフレイバー上のもので、幽霊が死んで幽霊になるのはおかしいという理由だった。どちらにせよ、これで作られたトークンが死ぬことで新しいトークンが出ることがないようにするという目的は果たせている。

 マナ・コストの変更は簡単だったが、もう一つはフレイバーの中核に位置するものだったので《魂のフィールド》を再録すればいいというものではなかった。とはいえ、《魂のフィールド》とほぼ同じカードをもう一度作るというのも美しくない。そこで、この能力をエンチャントに持たせるのではなく、クリーチャーに持たせることにしたのだ。

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回転

回転

回転

 赤い頭巾を被った少女。お婆さんと呼ばれるような女性。斧を持った木こり。そのどれもが邪悪な狼男になる。救いはあるのか? あるかもね。

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降霊術

 このカードは、《森での迷子》を作ったのと同じミーティングで作ったものだ。そのミーティングでの目的は、フレイバーに溢れたレアのトップダウン・カードを作ることだった。私がジェンナ(ヘランド/Jenna Helland、クリエイティブとデザインの両チームのメンバー)にイカしたカード名を提示させた中に、《降霊術》というものがあった。イニストラードのデザイン・チームがその名前のカードを作ることはなかったが、私はそれが刺激的なホラーの存在だと感じた。そこで、闇の隆盛でトップダウンのレアを増やそうというミーティングの際に、これを作ることにしたのだ。

 このカードに関してもっともよく受けた質問に、「なぜこれで出るクリーチャーに速攻を与えないのか」というものがある。一言で言うと、白は速攻の色ではないから、なのだが、諸君が質問したいのはそこではないだろう。本当の質問は「なぜそのカードを見てほとんどのプレイヤーが欲しいと思う要素を取り落としたカードをデザインしたのか」だと思う。

 アラーラの断片でこのカードを作った時にも、同じような反応を受けた。

 なぜ《軟泥の庭》は普通通り起動できないのか? ソーサリー速度に限るのか? いつでも望むときに使えれば、もっとずっと強くなるのに。

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 この質問への答えは、ゲーム・デザインに関する重大な真実に帰結する。我々ゲーム・デザイナーは、何でも使いやすくすればいいと思ってはいない。実際、意図的に使いにくいようにすることは我々の仕事だ。なぜか? ゲームの重要な要素に、プレイヤーの知恵を働かせるというものがあるからだ。

 何でも簡単すぎれば、人々はゲームなんてしはしない。ゲームをするのは、挑戦するためである。多くの活動は頭を使わなくていいものだが、ゲームはその根底から頭を使うものである。プレイヤーは苦労しなければならないのだ。

 《降霊術》がクリーチャーに速攻を与えれば使いやすくなるか、と聞かれれば、もちろんと答えよう。デザイン上の観点で見て、よりよいカードになるか、と聞かれれば、答えはノーだ。《降霊術》のイカしたところは、その使い方を考えなければならないところにある。死したクリーチャーを呼び覚まして意志を通じ合う。攻撃こそできないが、他にそれを活かすことはできないだろうか?

 もう一つ、最後に指摘しておきたいことは、カードはそれぞれ異なったプレイヤーを意識しているということだ。《降霊術》はいかにもジョニー向けのカードだ。どうやってこれを使ったデッキを組むか、諸君に問いかけている。それが目的だ。他のタイプのプレイヤーにとってより魅力的にすることができなかったわけではないが、よいデザインとは、想定されたユーザーが気に入るようなものであり、他のユーザーに媚びるものではないのである。私がよく言うように、我々はプレイヤーが愛するカードをデザインしなければならないのであって、プレイヤーに嫌われるカードをデザインすることを避ける必要はないのだ。(訳注:原文では逆になっていますが、さすがに間違いでしょう)

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 プレイテストをすることが重要な理由は、新しいメカニズムが想定通りに使われるとは限らないということにある。たとえば、不死がそうだ。不死能力は、一見殺された怪物がより強くなって帰ってくるというフレイバーを再現するためにデザインされたことは衆知の通りだ。私の中では、不死クリーチャーはより攻撃的になれるものだと思っていた。恐ろしい怪物が襲いかかってくるのだ。実際は、不死能力は非常に防御的に働いた。待ち伏せてブロックして相打ちにすれば、相手は死んで不死クリーチャーは強化されるのだと。

 では、如何にすれば不死クリーチャーをブロックでなく攻撃に使うようにできるだろうか? これは、特にコモンにおいて重要である。《近野の忍び寄り》は赤の4/1のクリーチャーなので、普通ならプレイヤーはこれで攻撃するはずだ。《若き狼》は1/1なので、それほど問題にならない。ここで問題になるのは、黒と青に存在する2体の問題だ。白がこのサイクルに入っていないのは、不死は怪物の能力で、白は(善良な者を除いて)怪物が存在しない色だからだ。

 この問題への解決策は非常に単純だ。「?ではブロックできない」という能力は、黒のコモンでよく使われる弱点である。コモンの黒の不死クリーチャーにブロックさせたくないのなら――これで決まりだ! 青に関しては、もう少し深く掘り下げる必要があった。答えは開発部で「高飛行」と呼ばれている能力にあった。高飛行クリーチャーとは、飛行クリーチャーしかブロックできない飛行クリーチャーのことだ。これは事実上「?ではブロックできない」という能力を与えているようなものだが、青の能力なのだ。

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 カードはありとあらゆるひらめきから生まれうるものだ。このカードは、リチャード・ウィッター/Richard Whitterという男の働きから生まれた。リチャードはクリエイティブ・チームのコンセプト・イラストレーターであり、世界を構成しているものがどういう外見をしているのか、そして世界がどのような外見をしているのかを決める助けとなる人物である。

 イニストラード世界の生成にあたって、リチャードはドライアドのイラストを描いた。

 闇の隆盛に際して、ジェンナは、スタイルガイドにあるドライアドを描いたのはリチャードだと言った。クリエイティブ・チームはそのイラストを気に入り、カードに使いたいと思ったが、ふさわしいカードはイニストラードに存在しなかったのだ。闇の隆盛ではこのドライアドにふさわしいカードを作れるだろうか? もちろんだ。

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 ソリンに関して寄せられた最多の質問は、「なぜ彼は黒単色でなかったのか」だ。ダグ・ベイアー/Doug Beyerはソリンに関するコラムの中で、フレイバー面からその解説を行なっている。ここで、私はその質問の影に潜んでいる本当の質問に答えるべきだと考えた(「それではまた次回、質問の影に潜む質問の話でお会いしよう」)。「黒単色ならソリンはもっと便利で、いろんなデッキで使えたのではないですか」というものだ。

 この質問への答えは、「そうだ、が、それは我々の目指すところではない」ということになる。多くの諸君は、我々がカードを作る際により多くの諸君にとって魅力的にするために何でもすると考えていることだろう。しかし、そうではない。デザイナーとして言えば、私は私の作ったセットを諸君すべてに愛してもらいたいと思っている。しかし、全員が同じものを愛する必要はないのだ。実際、全員がそれぞれ違うところを気に入ってもらえれば、そのほうがいいと私は思っている。

 諸君がそれぞれ違うカードについて違うことを感じてくれれば、以下のような利点が生まれる。

誰もに好かれるようなものでない「悪い」カードをデザインできる。

 (たとえばこのあたり(リンク先は英語)で)何度も述べてきたとおり、悪いカードも存在しなければならない。これはトレーディング・カードゲームの性質による。プレイヤーがそれぞれ異なるカードに価値を見いだせば、1人にとっての「悪い」カードは他のプレイヤーにとってはそうではない、ということが生まれる。その結果、各セットにいろいろなものを詰めることができるようになる。

話し合いのタネになる。

 マジックはただゲームするだけのものではないということは今までにも語ってきたとおりだ。開発部では「メタゲーム」と呼んでいる(イベントで言う強いデッキや弱いデッキというものを示すのとは別の意味だ)。その大部分は、議論を呼び覚ますようなゲームということになる。マジックの楽しい部分は、各プレイヤーが大事だと思うことを決定し、そしてその考えを他人と共有するというところにある。プレイヤーがそれぞれ違うカードを気に入れば、そういった話し合いが生まれることになる。

各カードのファンが生まれる。

 カードが嫌われないようにするのではなく、カードが好かれるようにすることの重要性については、上で言ってきた通りだ。この考え方の裏付けについて、もう少し話させてもらおう。人々に各カードの好き嫌いを0点から10点で採点してもらったとする。10点が最高点だとして、以下のどちらかを選ばなければならないとしてみよう。つまり、全てのカードが7点になるか、カードが0点から10点まで満遍なく分布しているかだ。一見すると、全部7点のセットのほうが魅力的に思える。後者の方は平均が5点となり、前者よりも点数が低くなるからだ。

 しかし、そこには問題がある。人々は平均点に基づいて判断したりはせず、飛び抜けたものに基づいて評価を下すものである。7点は悪い点ではないが、飛び抜けてよくもない。全て7点というのは、「そこそこ」という評価にとどまり、何も心に残らないものだ。満遍なく分布している方の最高点は10点であり、ずっと高い。セットの何かで興奮したなら、その興奮が意見を決定づけるのだ。その結果、そのほうが強く印象に残ることになる。

 ソリンが黒単色でなく白黒になっている理由だが、白黒にすることで、気に入る人にはより強く気に入られるカードにできるからである。より高得点にする諸君は少ないかも知れないが、そういう諸君にとってはこれは10点満点のカードということになる。

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回転

 このカードは闇の隆盛プレビューの第1回で私が紹介したプレビュー・カードだ。このカードに関してよくある質問といえば、このカードとの関係を問うものが挙げられる。

「なぜ、スタンダードにあるカードの下位互換のカードを作ったのか」

 まず第一に、この質問そのものが間違いである。《魂を捕えるもの》/《恐ろしい憑依》は下位互換ではなく、別物なのだ。よしんばカードパワーが下回っていたとしても、それだけで下位互換のカードだと言えるわけではない。マジックの面白みの一つに、プレイヤーが自分の手でカードの最高の使い方を見つけることができるということがある。構築戦において、《精神の制御》よりも《魂を捕えるもの》のほうが優秀であるという結論が出されたとしても、私にとっては驚きではない。実際、クリーチャーであるということ自体が利点になることもあるのだ。

 さらに、カードパワーはマジックの一面に過ぎない。《魂を捕えるもの》/《恐ろしい憑依》は、両面カードで幽霊の特徴を再現するために作られたカードだ。《精神の制御》に取って代わるためのものではなく、もう一つの選択肢を提供するものなのだ。マジックはそういうものだ。スタンダードにおいても、ある効果を実現する効果が複数あることはよくあることだ。重要なのは、各種の効果には存在意義があるということ。《精神の制御》を{4}{U}{U}で再録するのではそれほど意味がなく、他のプレイ価値を持つ選択肢を提供することこそが有意義なのだ。

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 このカードについての質問で一番多かったのは間違いなくこれだ。

「なぜこのカードは緑なんですか?」

 不死は白以外のあらゆる色に存在する。言ってみれば再生と+1/+1カウンターという緑の要素同士の組み合わせなので、緑に不死が存在するのも当然に思える。では速攻は――何ヶ月かおきに言っていると思うが、速攻は緑にも第3色として存在するので、ときどき緑にも速攻持ちが存在できる。ただし、コモンではなく、また能力を与えるものでもないのが普通だ。デベロップは緑に速攻を与えるのが好きで(構築で緑を強化するためには有効な能力だ)、しばしば散らし入れるのだ。

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 このカードは、ゼンディカーのデザイン中のプレイテストで、同盟者デッキを担当することになったときのことだ。私の記憶が確かなら(間違っているかもしれないが)、赤白デッキだったと思う。デッキはよく動いたが、ゲームが長引くと失速する嫌いがあった。この問題を解消するため、私はこんなカードをデザインした。

〈集団ちらつき〉

{4}{W}{W}

ソーサリー

プレイヤー1人を対象とする。あなたが[このカード]を唱えたとき、パーマネント・タイプを1つ選ぶ。そのプレイヤーがコントロールするそのタイプのカードを追放し、その後、それらを戦場に戻す。


 このカードは強く、同盟者デッキ以外でも有効だった。たとえば私の上陸デッキで土地をちらつかせ、全ての上陸能力を再び誘発させるのは楽しかった。しかしデベロップはこのカードを気に入らず、ファイルから取り除いたのだった。

 私は再び、今度はワールドウェイクのファイルにこのカードを入れた。やはり取り除かれた。エルドラージ覚醒にも入れた。取り除かれた。ミラディンの傷跡――取り除かれた。ミラディン包囲戦、新たなるファイレクシア、イニストラード......ツキがなかった。

 何があったのかを示すために、「モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル」の一シーンを引用しよう。

沼城の王:「わしが初めてここに来たとき、ここは一面の沼だった。沼の上に城を建てるわしを見て、誰もが間抜けだと言ったものだ。わしは皆に見せるべく、ここに今と同じ城を建てた。その城は沼に沈んだ。わしはもう一度城を建てた。その城は沼に沈んだ。三度目の城を建てた。火事になって焼け落ちて、そして沼に沈んだ。しかし四度目の城は沈まなかった。それこそがお主が手にしようとしている、イングランドで最も堅固な城だ」

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 まあ、実際はカードは沼に沈んではいない。だが、途中で変更は加えられている。エルドラージ覚醒の時はターン終了時まで追放されているようにした。コストもそうだ。単純なものにするために、タイプ1つではなくそのプレイヤーのパーマネントすべてをちらつかせるようにもした。

 最後の変更はデベロップ中に行なわれたもので、このカードと《無限の日時計》を組み合わせて使ったらファンデッキでは済まない強力コンボに変貌してしまうことが発見された。そこでこのカードは土地以外のパーマネントをちらつかせるものに変更されたのだ。

 3年かかったが、石の上にも三年という諺はデザイナーにも当てはまるのだ。

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 このカードは、諸君の想像通り、デザイン中は「銀の矢」と呼ばれていた。

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 最後の最後にお気に入りの話の1つがやってきた。もともと、闇の隆盛チームは2枚のカードをデザインしたのだ。

〈ゾンビの黙示録〉

{4}{B}{B}

ソーサリー

あなたの墓地にあるすべてのゾンビ・クリーチャー・カードをタップ状態で戦場に戻す。

〈人類破壊〉

{2}{B}{B}

ソーサリー

すべての人間を破壊する。


 これらのカードはデザイン・チームの別々のメンバーによって作られた。前者は我々がゾンビ好きだから(好きなんてもんじゃない!)、後者は闇の隆盛において人間は苦難の時を迎えるからデザインされたのだ。どちらもファイルに投入され、デザインの海を泳ぎ渡ってデベロップへとたどり着いた。

 ある日、闇の隆盛のデベロップ・リーダーのトム・ラピル/Tom LaPilleが私のところにやってきて、こんな会話を交わした。

トム:時間はある?

:ああ。

トム:今日、デベロップのミーティングがあったんだけど。〈ゾンビの黙示録〉と〈人間破壊〉を1枚のカードにする、って言ったらどう思う?

:それはすごい。文句があるとしたら、なんでそれをこっちで思いつかなかったのかだよ。

トム:問題ないってこと?

:1つだけ頼みがあるんだが。

トム:頼み?

:そのカード、《ゾンビの黙示録》というカード名にしてくれないか?

トム:もうそうなってるよ。

 そして、このお気に入りのカードがセットに加えられることになったのだった。

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カードになって

 ふー! 闇の隆盛の話をするのに、たった1万語で済んだ!

 諸君が楽しんでくれたなら幸いだ。

 それではまた次回、闇の隆盛の別の側面についての話でお会いしよう。

 その日まで、ちょっとした話を共有することの楽しみがあなたとともにありますように。

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