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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

イゼット・テンポ(スタンダード)

岩SHOW

 『カルドハイム』リリース直後で活躍したデッキを紹介しようと思い、いつものようにPCを起動してネットの海を漁る。そこでいくつかのオンライン・トーナメントで上位に食い込んでいるデッキタイプを発見。同様のコンセプトのデッキが複数同時に勝っているということはたまたまの偶然ではなく、そのデッキのポテンシャルの高さを証明するものと捉えて良いだろう。

 そのデッキは期待の新神話レア《黄金架のドラゴン》をフィニッシャー(ゲームを終わらせる役目を持つカード)に据えたものだ。

 ドラゴンはマジックの象徴のひとつでもあり、コラムで取り上げるにはうってつけと言える。じゃあ悩むことはないなとそのデッキを取り上げよう、と思ったのだが……そのデッキの呼ばれ方には少々思うところがあった。以下はデッキ内容とは直接関係なく、マジック界で長く続く伝統について触れたものであるので飛ばしてくれても構わない。

 そのデッキは「イゼット・テンポ」と分類されている。イゼットはラヴニカにおける青赤のギルドのことであり、そこから転じてこの2色で組まれたデッキをこう表すようになったのはすっかり常識として根付いている。一度説明されれば意味も分かる。

 だがその後が問題だ。テンポとは? これが何かと聞かれると、実はちょっと難しい問題だ。本来のテンポとは音楽からきて、話すことやその他の行動における速度のことだ。テンポが速い、テンポが良い、というフレーズは日常の会話で度々飛び出す。

 ではマジックにおけるテンポ、テンポデッキとは何なのかというと……特別な定義はなく、かなり抽象的だ。おおまかには速度と手数に対して用いられる。1ターン目に1マナ、2ターン目に2マナ、3ターン目に1マナ+2マナとマナを使い切りつつ、手数多く呪文を唱えていければそれはテンポの良い展開だと言える。逆に得られる効果に対してマナがかかりすぎるカードなどはテンポが悪いというように言われる。

 たとえばクリーチャーを手札に戻す、バウンスと呼ばれる呪文。これらはそのクリーチャーを再度唱えられてしまい根本的な解決にはならない。しかしながらそのため、破壊や追放する呪文と比べてコストが軽く、対象にするクリーチャーの条件もないものがほとんどだ。

 《送還》を見ればわかることだろう。同じクリーチャーに対して《とどめの一撃》を唱えた場合と《送還》の場合とで、攻撃をブロックされずに通すという目的で用いるのであれば後者の方が1マナと軽く勝っている。残った4マナは追加のクリーチャーを唱えることなどに使えるというわけだ。

 《巨大な戦慄大口》を《無情な行動》で破壊したとする。6マナのカードに対して2マナで対処できたわけで、同じ6マナ得られる状況であればこちらは4マナも別のことに使って、相手に対して優位に立てる。

 これをテンポ・アドバンテージを取る――縮めてそのままテンポを取るなどと表現する。

 テンポデッキとは、こうした単一のカードパワーで見れば高くはないが、手数で相手と差を付けて押し切るデッキのことを指す。

 ……と、ここまで長々と書いてきたが「そもそもテンポってなんだ?」という議論はマジックのプロプレイヤー同士でも意見が分かれることがあり、厳密にコレといった定義はなく抽象的なものだ。だからデッキ名が「○○・テンポ」と書かれている場合は、バウンスや打ち消しといったカードを使って相手の大振りをかいくぐるデッキ、ぐらいに認識するのが良いんじゃないかなと個人的には考えている。

Kenny Radermacher - 「イゼット・テンポ」
Jaffer’s Cheese Emporium Open 準優勝 / スタンダード (2021年1月30日、『エルドレインの王権』~『カルドハイム』)[MO] [ARENA]
8 《冠雪の島
3 《冠雪の山
3 《移り変わるフィヨルド
4 《河川滑りの小道
1 《不詳の安息地
4 《寓話の小道

-土地(23)-

4 《砕骨の巨人
4 《厚かましい借り手
4 《黄金架のドラゴン

-クリーチャー(12)-
4 《霜噛み
2 《軽蔑的な一撃
2 《本質の散乱
2 《否認
2 《精神迷わせの秘本
3 《襲来の予測
4 《多元宇宙の警告
4 《サメ台風
2 《髑髏砕きの一撃

-呪文(25)-
2 《魂標ランタン
1 《レッドキャップの乱闘
2 《精神迷わせの秘本
2 《否認
1 《切り裂かれた帆
3 《神秘の論争
2 《ツンドラの噴気孔
2 《嵐の怒り

-サイドボード(15)-
MTG Arena Zone より引用)

 

 その昔、容易にテンポが取れるカードとして《対抗呪文》があった。2マナで何でも打ち消せるのだから、コストが重いものを打ち消せればそれだけで優位に立てたってもんだ。

 《襲来の予測》はそのテンポの良さに近づくことができるカード。

 2マナで予顕しておけば、以降はいつでも《対抗呪文》と同じ2マナ打ち消しだ。やることのない2ターン目に裏向きに追放しておけば、あとは要所要所で土地2枚を立てておくだけでかなりのプレッシャーになるし、開き直って動いてきたらこれで3マナ以上の呪文を打ち消してごっつあんです。

 動いてこなかった時、あるいはこれにはわざわざ打ち消しは使わないというアクションだった場合、その残した2マナが無駄になってしまいテンポが失われてしまうようにも見える。そんな時にも《多元宇宙の警告》と併用していればまったく問題ない。

 相手のターン終了時にその2マナで占術2と2枚ドローで、一気に手札を肥やして態勢を整える。これら予顕呪文と、その他の軽いインスタントを寄せ集めて、軽いマナでかつインスタントタイミングで対戦相手の動きに対応。さらに《霜噛み》はかなりテンポ良くクリーチャーを捌いてくれる。

 そうやってゲームの主導権を相手に握らせないまま、《黄金架のドラゴン》や《サメ台風》などで殴り勝つ。まるで武術の達人のように、相手の攻勢を捌いてこちらの攻勢に切り替えるテクニカルなデッキだ。

 《黄金架のドラゴン》はこのテンポ戦術にも噛み合っている。攻撃すれば宝物・トークンを生成し、その宝物はドラゴンの能力で2マナ発生させる。予顕している呪文など、このデッキの多くのカードをそこから唱えられる。5マナフルに使って攻めながら、続く相手の行動を打ち消せてしまう。これぞまさに達人、神業。テンポ◎ってとこだ。

 5ターン目にドラゴン+2マナの打ち消しなどのインスタントという動きは今後かなり見られる、新スタンダードでも屈指のブン回りムーヴとなるだろう。テンポという概念についてはざっくりと説明してみたが、正直なところ僕もテンポと真剣に向き合って考えたこともないし、難しいことはわからず、人の話を見聞きしているだけなので……答えは各自で出そう! 投げっぱなしでエンディング、そういう回もあっていいでしょう。

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