- HOME
- >
- READING
- >
- Beyond the Basics -上級者への道-
- >
- 世界を変えたカード
READING
Beyond the Basics -上級者への道-
世界を変えたカード
世界を変えたカード
Gavin Verhey / Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing
2017年3月2日
23年以上になるマジックの歴史の中には、本当に何もかもを変えてしまったと言えるカードがいくつかある。
あるカードが、あらゆるフォーマットに影響を与え、かつ禁止にならない、ということは極々まれである。それは複数のフォーマットで複数のデッキを定義し、それを利用するためだけに色をタッチする。それの名称は一般的なマジック用語となった。舌を素早くかつ滑らかに転がしつつも重厚さが感じられるその発音は、厳かな壮大さによって完璧な構成がなされている。
それが今、ここにある。これまでに印刷されたマジックのカードの中でも、最も有名なものの1つ。それが『モダンマスターズ 2017年版』で帰ってきた。
大勢の読者が、それがどんな活躍をしてきたかの記憶を鮮明に思い起こせるよう、一度は名前を読み上げたほうがいいだろう。何のカードのことだか思い浮かばない人も、安心してほしい。すぐにわかるさ。準備はいいかな?
《タルモゴイフ》だ。
とても成功するようなカードには見えないだろうか? 不定のパワーとタフネスを持つ、2マナのクリーチャー。小さくてかわいいやつ、って感じだ。
しかしこの鋸歯を持つ脅威は――依然として――そのフォーマットを定義するものの1つであり、いくつものデッキの勝ち手段であり、対戦相手側に登場するところを絶対に見たくないカードだ。モダンマスターズの名を冠するセットにふさわしく、モダンで使うために手に入れたい最も重要なカードの1枚だろう。
それはなぜだろうか? 10年が経過した今も《タルモゴイフ》が極めて強力な存在であり続けている理由は? 今やマジックの歴史の一部として名をはせるほどの存在になった、その原因とは?
《タルモゴイフ》は、カードの評価とデッキの構築において、大きな学びを与えてくれる。では、今日はその点について解説していってもいいかな?
初めに無があった
......そして《タルモゴイフ》があった。
今は有名なこのカードも、『未来予知』で登場した当時は(カードは紙だから物をつかめないというだけじゃなく、本当に)プレイヤーの心を全く掴めなかった、と言うと驚く読者もいるかもしれない。
とはいえ公平を期すために解説するなら、『未来予知』は、少なくとも定義上はマジックというゲームの一部であると主張する、おかしなカードばかりで構成されていたセットだった。《呪文織りの渦巻》や《肉捻り》のようなカードがプレイヤーの頭を混乱させていた世界では、「パワーとタフネスが変わるだけ」のクリーチャーには注意が向かわなかったんだ。
《タルモゴイフ》は最初の数週間、何かのトレードの「おまけに付けるレア」程度の扱いだったと記憶している。今思えばとんでもないことだが、しかし当時のほとんどのプレイヤーは、このカードについて何も気づいていなかったんだ。そして私はと言えば、偶然にも、早くから《タルモゴイフ》を手に入れていた。この時は発掘デッキを調整していて、《ゴルガリの墓トロール》と一緒に使うといけるんじゃないかと考えていたからだ。
そして、「Regionals」と呼ばれるスタンダードの大型イベントが開催される時期が来る。(Regionalsは、当時行われていた国別選手権/National Championshipへの参加資格を得る手段となる、地区予選大会だ。)スタンダード注目のトーナメントだったにもかかわらず、《タルモゴイフ》はほとんど使われていなかった。先見の明のあるプレイヤー何人かが、《タルモゴイフ》の暗号を解き明かしてはいたものの、《タルモゴイフ》に注目しているはずのそのデッキで使われている枚数は4枚より少ないか、あるいはサイドボードに入っているという程度でしかなかった。(もし懐かしい記憶をたどりたいなら、ここで報告されている2007年のRegionalsデッキリストを確認できる。)
ともあれ、《タルモゴイフ》が旋風を巻き起こしたことを私や当時のプレイヤーが思い起こす最初のイベントと言えば、モントリオールで行われたグランプリだろう。これは『時のらせん』ブロックのカードだけでデッキを構築するという、『時のらせん』ブロック構築フォーマットで開催された。《タルモゴイフ》に注目したデッキがいくつかTOP8に入賞し、そのうちの1つが優勝した。TOP8入賞者、ジェイソン・インペリアル/Jason Imperialeのデッキリストを見てみよう。
4 《森》 3 《平地》 4 《地平線の梢》 2 《ラノワールの再生地》 4 《トロウケアの敷石》 4 《広漠なる変幻地》 1 《ヴェズーヴァ》 -土地(22)- 4 《マイアー・ボア》 4 《タルモゴイフ》 3 《裂け目掃き》 3 《サッフィー・エリクスドッター》 3 《セラの報復者》 4 《秘教の処罰者》 -クリーチャー(21)- |
3 《彩色の星》 2 《狩りの興奮》 4 《秋の際》 4 《グリフィンの導き》 3 《獣群の呼び声》 1 《岩石樹の祈り》 -呪文(17)- |
3 《ソーンウィールドの射手》 3 《疾風のデルヴィッシュ》 3 《雲を追うケストレル》 1 《隆盛なる勇士クロウヴァクス》 1 《ヴェズーヴァ》 4 《時間の孤立》 -サイドボード(15)- |
ジェイソンのデッキは緑白のビートダウンで、優秀なクリーチャーを展開しての攻撃で対戦相手を倒すことが狙いのデッキだ。それぞれのカードが何をするのかという点は、それほど重要ではない――この10年前のデッキリストを全て調べつくすことが必要なわけではない――が、注目してもらいたい点がある。
十分に大きくする手段さえあれば、《タルモゴイフ》は強力なカードなのだ、と認識されるようになっていた。では、ジェイソンのデッキをいくつか調べてみよう。
2色デッキなのに、《彩色の星》と《広漠なる変幻地》が採用されている。戦略上3マナ以上をほとんど必要としないが、《秋の際》が入っている。(とは言うものの、《トロウケアの敷石》との素晴らしい相互作用があることは認めよう。)《タルモゴイフ》を、デッキに入れて使うにふさわしい強さまで高めるために、ジェイソンはこういったカードを数多く投入していた。
ジェイソンは、急速に成長した《タルモゴイフ》は驚異的な強さとなる、と判断したのだろう。《タルモゴイフ》を強化するために使えるのであれば、それ自身が多少弱いカードであっても採用することにしたんだ。
個々のカードの強さを単純に足す以上の効果を、デッキ全体で発揮させること――これはデッキ構築時に挑戦してみる価値のあることだ。自分のデッキの本当に強い部分が特定できたなら、それを最高の戦略へと高めるために、普段使わないようなカードを採用する価値があるかもしれない。常に意識しておくべき、デッキ構築の重要な知恵だ。
これが《タルモゴイフ》の始まりだが、終わりはまだ見えない。
進化
時間が経ち実績を上げるにつれ、まるで《タルモゴイフ》が成長するように、このカードの存在感はあっという間に増していった。
《タルモゴイフ》はスタンダードのあらゆる隙間にじわじわと入り込み始めた。先ほどのジェイソンのデッキのような初期段階においては、さまざまなカード・タイプをデッキに採用することで《タルモゴイフ》を巨大化させていたが、その手法はすぐ単純なやり方へと変わっていった。「とりあえず《タルモゴイフ》を入れよう。」というものにね。
自分のカードで《タルモゴイフ》を強化するというジェイソンのデッキ構築判断は、基本的に(とりわけブロック構築においては)正しいものだった。しかし、一貫して2ターン目にパワー2以上になり、ゲームが長引けば巨大に成長する、ただそれだけでも十分に良いカードだ、ということが判明したんだ。うまくやるためにデッキ構築の時点で妥協する必要はほとんどなかった。自分と対戦相手の墓地に、必要なものは落ちる。
私にとっての転機は、《タルモゴイフ》がエクステンデッド――今でいうモダンに少し近い感じのフォーマット――で定番となったときかな。エクステンデッドにはフェッチランドがあったし、すぐに墓地に置ける軽量呪文も大量にあった。そして《タルモゴイフ》はエクステンデッドで、『未来予知』で終わりの一発屋ではないことを証明する。《タルモゴイフ》ここにありだ。
エクステンデッドは、私や多くのプレイヤーの《タルモゴイフ》に対する考え方に大きな変革をもたらしたフォーマットでもあった。
それまで、《タルモゴイフ》と言えばビートダウンやミッドレンジ向けのカードだと考えられていた。大きなクリーチャーとして、同類のクリーチャーの上に君臨していた。しかしパトリック・チャピン/Patrick Chapinがすべてを変えた。
パトリックの才気あふれるデッキ、「ネクストレベル・ブルー/Next Level Blue」は、マジックにおいて「新たな段階/Next level」という言葉が示す範囲を一気に広げたのみならず、プロツアー予選で脚光を浴びるほどのまさに新世代と言えるデッキを送り出した。
ここで紹介するのは、トム・ラピル/Tom LaPilleが使用したバージョンのネクストレベル・ブルーだ。(トムはその後、去年退職するまでウィザーズでデザイナーとして活躍した。)
8 《島》 1 《繁殖池》 1 《神聖なる泉》 1 《蒸気孔》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 1 《伝承の樹》 1 《アカデミーの廃墟》 -土地(21)- 4 《タルモゴイフ》 3 《粗石の魔道士》 -クリーチャー(7)- |
4 《金属モックス》 1 《トーモッドの墓所》 4 《師範の占い独楽》 3 《呪文嵌め》 1 《真髄の針》 4 《相殺》 4 《対抗呪文》 4 《知識の渇望》 3 《不忠の糸》 3 《ヴィダルケンの枷》 1 《仕組まれた爆薬》 -呪文(32)- |
3 《誘惑蒔き》 3 《トーモッドの墓所》 3 《古えの遺恨》 2 《クローサの掌握》 1 《不忠の糸》 2 《世界の荒廃》 1 《仕組まれた爆薬》 -サイドボード(15)- |
《対抗呪文》や《呪文嵌め》で序盤から打ち消しを構えつつ、《相殺》と《師範の占い独楽》で長期的に対戦相手を封じ込め、さらに《ヴィダルケンの枷》まであるという、徹頭徹尾相手を支配する青のコントロール・デッキだ。その妨害をすり抜けて登場する相手の《タルモゴイフ》を奪い取ることが可能な《不忠の糸》も採用されているところが素晴らしい。
そしてメインに緑のカードが1種類4枚登用されていて、フェッチランドで持ってこれる少量の緑マナ源によって出せるようになっている。これがゲームに決着を付けるためのカードだ。
《タルモゴイフ》はこの時期すでに、ビートダウンやミッドレンジよりも遅いデッキで使われるようになっていた。例えば、少し前にレミ・フォルティエ/Remi Fortierがプロツアー・バレンシア2007で優勝したときの3色コントロール・デッキがそうだ。チャピンの名前だけを取り上げるのは確かに不公平だろう。しかしチャピンのデッキを見た時に、明確に《タルモゴイフ》のためだけに緑を入れているこのデッキは、プロツアー予選シーズンに波乱を起こすであろう、これまでとは全く違うデッキだ、と初めて感じたんだ。(チャピンのデッキには《生ける願い》も入っていたけれどもね。)
この採用手法を機能させている根本的な原因は、《タルモゴイフ》に必要な緑マナが1つだけだという点にある。タッチ色で利用できるという持ち前の能力こそが、この領域に到達した理由だ。
《タルモゴイフ》は今やどこでも活躍できるほどに強い――そして、誰もがそれを知っている。
タルモゴイフをお持ち帰り
年月を重ねた今、《タルモゴイフ》は、それが使用可能な現行フォーマット全てにおいて、不可欠な存在としての立場を確立している。
スタンダードでどれほど強かったかは、歴史が証明しているだろう。『ローウィン』の部族エルフ・デッキで唯一、非エルフ・クリーチャーとして採用されるほどだった。それはエクステンデッドからレガシーに至るまで、全てで成功していった。これは今までに印刷されたすべてのクリーチャーで考えても、使用可能な各フォーマットで最も使われているクリーチャーの1つと言えるだろう。
そしてモダンでも、《タルモゴイフ》はクリーチャーの王座についている。
ジャンドからバントから《死の影》やらなにやら、あらゆるデッキで切り込み隊長を務めているが、どのデッキでも利用者には喜びを与え、対戦相手には恐怖をもたらす存在だ。《タルモゴイフ》はそこにいる。
ここで、知っておくべき3つの物事について話しておこう。
1つ目、パワーとタフネスが強いだけで能力を持たないクリーチャーは、それでも十分に強い。誰かがそんなことはないと言うかもしれないが、《タルモゴイフ》はそれに対する完璧な反論となる。
2つ目、デッキ全体をゆがませることなく、他のカードを強くするためのカードを採用することは、おそらくほとんどの場合デッキを総合的に良いものとするだろう。《タルモゴイフ》は可能な限り強化するために早期から多様的支援を取り入れた。(もちろん、《タルモゴイフ》のように支援が無くても強いということが分かった場合は必要ない!)
そして3つ目、カードが強力だと思ったなら、「普通」では使わないようなデッキで試すことを恐れないように。《タルモゴイフ》は超速攻デッキからコントロール、コンボに至るまで、今やあらゆるデッキで採用されている。《戦隊の鷹》はコントロールが使うカードとしては珍しいが、コントロール・デッキで試されるようになった結果、スタンダードで最も支配的なデッキの1つにまでなった。
どんな新カードが第二の《タルモゴイフ》になるかはわからない。しかし今のところは、『モダンマスターズ 2017年版』を開封して《タルモゴイフ》が手に入れば十分だね。
要約すると、「《タルモゴイフ》が帰ってきた。」そういうことさ。
また来週の「Beyond the Basics -上級者への道-」で会おう。それまであなたが、《タルモゴイフ》同士のにらみ合いを突破できるパワー強化手段を常に引けますように!
Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com
RANKING ランキング
-
広報室
年末年始もマジックづくし!「お年玉キャンペーン」&「プレマ&スリーブゲット!年末/年始スタンダード」開催決定|こちらマジック広報室!!
-
コラム
スクウェア・エニックスで「マジック体験会」を開催!?『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』に向けたインタビューも|企画記事
-
戦略記事
ラクドス・サクリファイス:クリーチャーともう一つの生け贄要員(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
戦略記事
ジャンド独創力:プランは複数、独創力のみにあらず(パイオニア)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
戦略記事
とことん!スタンダー道!まさかまさかの複製術、コピーされ続ける先駆者(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
NEWEST 最新の読み物
-
2024.12.20戦略記事
今週のCool Deck:ロータス・コンボ、遂にアリーナにて始動!(パイオニア)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.12.20読み物
第51回:0から始める統率者戦|クロタカの統率者図書館
-
2024.12.19戦略記事
とことん!スタンダー道!まさかまさかの複製術、コピーされ続ける先駆者(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.12.19コラム
スクウェア・エニックスで「マジック体験会」を開催!?『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』に向けたインタビューも|企画記事
-
2024.12.18戦略記事
ラクドス・サクリファイス:クリーチャーともう一つの生け贄要員(スタンダード)|岩SHOWの「デイリー・デッキ」
-
2024.12.18広報室
2024年12月18日号|週刊マジックニュース
CATEGORY 読み物カテゴリー
戦略記事
コラム
読み物
BACK NUMBER 連載終了
- Beyond the Basics -上級者への道-
- Latest Developments -デベロップ最先端-
- ReConstructed -デッキ再構築-
- Daily Deck -今日のデッキ-
- Savor the Flavor
- 射場本正巳の「ブロールのススメ」
- 津村健志の「先取り!」スタンダード・アナライズ
- 浅原晃の「プレミアイベント三大チェックポイント!」
- ガフ提督の「ためになる」今日の1枚
- 射場本正巳の「統率者(2017年版)のススメ」
- かねこの!プロツアー食べ歩き!
- ロン・フォスターの統率者日記
- 射場本正巳の「統率者(2016年版)のススメ」
- マアヤのマジックほのぼの日記
- 金子と塚本の「勝てる!マジック」
- 射場本正巳の「統率者(2015年版)のススメ」
- 週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」
- なかしゅー世界一周
- 中村修平の「デイリー・デッキ」
- 射場本正巳の「統率者(2014年版)のススメ」
- 中村修平の「ドラフトの定石!」
- 浅原晃の「プロツアー観戦ガイド」
- 鍛冶友浩の「プロツアー観戦ガイド」
- ウィザーズプレイネットワーク通信
- Formal Magic Quiz
- 週刊デッキ構築劇場
- 木曜マジック・バラエティ
- 鍛冶友浩の「デジタル・マジック通信」
- 鍛冶友浩の「今週のリプレイ!」
- 渡辺雄也の「リミテッドのススメ」
- 「明日から使える!」渡辺リミテッド・コンボ術
- 高橋優太の「このフォーマットを極めろ!」
- 高橋優太の「このデッキを使え!」
- 黒田正城の「エターナルへの招待」
- 三田村リミテッド研究室
- 新セットめった切り!
- シングルカードストラテジー
- プレインズウォーカーレビュー
- メカニズムレビュー
- その他記事