By 矢吹 哲也

　スポーツの世界では、競い合う両者の間に勝利と敗北で天と地の差が生まれる状況のことを「on the bubble」と呼ぶ。いつしかそれはマジックの世界でも使われるようになり、そこから転じて「バブル・マッチ」という言葉が生まれた。

　今、藤村 和晃はそのバブル・マッチに臨んでいる。ここで勝てばトップ８入賞が大きく近づき、そして負ければトップ８入賞への挑戦はここで終わる。

　口を結んでやや力の入った表情の藤村に、「Hi」と対戦相手が右手を差し出してきた。

　相手はプロツアー『異界月』トップ８入賞者のサミュエル・パーディー/Samuel Pardee。彼は今大会でもここまで２敗の高いパフォーマンスを見せ、ついにこのときを迎えた。ここで負けても敗退が決まるわけではないものの、勝利すれば自身２度目のプロツアー・トップ８入賞確定。当然、彼としても勝ちを譲るつもりはさらさらない。

それぞれのデッキ

　奇しくも「緑黒」の同系戦となったこの試合。両者とも赤系アグロの隆盛を見越した黒絡みのミッドレンジであり、それが今回の結果に繋がったのだろう。

　パーディーの緑黒は、メインデッキに《不屈の追跡者》やプレインズウォーカー、《ウルヴェンワルド横断》が投入されており、より消耗戦に強い形に見受けられる。一方の藤村の側では、４枚フル投入された《新緑の機械巨人》が目を引く。クリーチャー・サイズの勝負ではこちらに分がありそうだ。

　初手の７枚をキープした両者は、試合開始の合図を静かに待つ――この緊張感は、この場の人間しか味わえない。

藤村 和晃（黒緑エネルギー） vs. サミュエル・パーディー（黒緑「巻きつき蛇」）

　《風切る泥沼》のタップインから始めた藤村に対し、パーディーは２ターン目に《残忍な剥ぎ取り》。それを《致命的な一押し》で対処した藤村は、《地下墓地の選別者》で盤面の構築を始める。

　パーディーが《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を呼び出すと、藤村は迎えたターンに《巻きつき蛇》と《歩行バリスタ》を盤面へ追加して植物・トークンを排除すると、《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を攻撃してその忠誠度を１まで落とした。

　パーディーは［+1］能力を起動し、優先権を保持したまま《造反者の解放》を《歩行バリスタ》へ撃ち込んだ。藤村は植物・トークンに２枚目の《致命的な一押し》を差し向け、続く攻撃でパーディーの《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を退場させる。パーディーは《闇の掌握》で《巻きつき蛇》を墓地へ送り、藤村の攻勢を和らげた。

　依然として《地下墓地の選別者》と末裔・トークンを戦場に残す藤村は、攻めの姿勢を崩さない。パーディーは《歩行バリスタ》をＸ=２で繰り出したが、藤村の《闇の掌握》がそれを除去し、彼はさらに《光袖会の収集者》を追加する。

　パーディーは２枚目の《歩行バリスタ》を展開し、《光袖会の収集者》を除去。しかしその返しのターン、藤村の手札からは《新緑の機械巨人》が解き放たれる！　＋１/+１カウンターが３個置かれた《地下墓地の選別者》は、パーディーの残りライフを一気に11点まで後退させた。

　パーディーは「昂揚」を達成した《残忍な剥ぎ取り》を２体展開し、盤面を固めた。藤村は構わず《風切る泥沼》の起動を含めて全軍で攻撃し、パーディーは《地下墓地の選別者》を２体の《残忍な剥ぎ取り》でブロック。これで７点が入り、残り４点。

　パーディーは《ゲトの裏切り者、カリタス》を盤面に追加し、藤村の攻撃を迎え撃つ。藤村は《風切る泥沼》のみで攻撃し、それは残った《残忍な剥ぎ取り》と相討ちになった。

　ここで盤面の追加ができなかった藤村に対し、パーディーは《ウルヴェンワルド横断》で《新緑の機械巨人》をサーチ。《ゲトの裏切り者、カリタス》と《歩行バリスタ》を強化すると、《ゲトの裏切り者、カリタス》で反撃。危険域だったライフも一気に回復した。

　これで盤面を制圧された藤村は、最後のドローでも対抗する手段が見つからないことを悟り、カードを片付けた。

　両者とも《風切る泥沼》でスタートした第２ゲームは、再びパーディーが２ターン目に《残忍な剥ぎ取り》を繰り出し、先手の藤村は《大災厄》でそれを屠った。

　しかしパーディーが３ターン目に《最後の望み、リリアナ》を繰り出すと、ここから藤村はプレッシャーをかけられ続けることになる。

　《牙長獣の仔》を展開した藤村は続くターンに《新緑の機械巨人》を繰り出し、《牙長獣の仔》に+１/+１カウンターを３個置いた。これで《最後の望み、リリアナ》の［+1］能力を受けた上で忠誠度を一気に減らしたが、返しのターンに《闇の掌握》と《最後の望み、リリアナ》の［+1］の合わせ技で《新緑の機械巨人》を失う。それでも藤村は２枚目の《新緑の機械巨人》を繰り出し、誘発対応の《闇の掌握》で《新緑の機械巨人》自体は墓地へ送られたものの、《牙長獣の仔》を強化し続けた。

　......だがしかし、パーディーの《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》が、藤村の希望を断ち切った。

　盤面を失った藤村は《風切る泥沼》で《灯の再覚醒、オブ・ニクシリス》を落としたものの、依然として苦しい状況。パーディーの側には《歩行バリスタ》も加わり、藤村の攻勢を最後まで睨む。

　それでも藤村は《闇の掌握》で《歩行バリスタ》を除去すると、《風切る泥沼》で《最後の望み、リリアナ》も退場させた。

　だがパーディーの繰り出す脅威は止まらない。《不屈の追跡者》を盤面に追加し、さらに《ゼンディカーの代弁者、ニッサ》を戦線に加える。

　最後に引き込んだ３枚目の《新緑の機械巨人》にも《不帰》を受けると、藤村は再び盤面を制圧され、間もなくして右手を差し出すことになったのだった。

パーディー 2-0 藤村

「１ゲーム目ですね。《致命的な一押し》を植物・トークンに撃ってしまったのはミスでした。あれが残っていれば、最後に《新緑の機械巨人》の攻撃を通すこともできた」と、試合後に敗北を噛み締める藤村。沈痛な面持ちで名残り惜しそうにデッキのひとり回しを始めたが、やがて顔を上げると「プロツアーはまだまだ、そんな甘いもんじゃないぞってことか！」と次を見据えて立ち上がった。

　今大会の活躍で、藤村はプロ・プレイヤーズ・クラブ「ゴールド」レベルを達成。「次のチャンス」は目の前に広がっている。

サミュエル・パーディーが最終戦を残し、トップ８入賞確定！