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プレイヤーズコンベンション千葉2025

観戦記事

決勝:森山 優(神奈川県) vs. 水谷 直生(埼玉県) ~リミテッドの筋肉~

富澤 洋平(撮影者:瀬尾 亜沙子)


 総勢900名が参加した「世界最速級!! 『霊気走破』リミテッドオープン ~エーテル・フォーミュラ2025~ Supported by 楽天ブックス」(以下、リミテッドオープン)は残る2名のプレイヤーとなった。

 おそらく決勝ラウンドへ進んだ8名も『霊気走破』ドラフトに関しては未知の環境であったはずだ。エンジン始動!、消尽、機体と乗騎、親和、サイクリングなど複数のメカニズムがあったが、手探りで進んだドラフトの先に待っていたのはそのいずれかをフィーチャーしたデッキではなかった。予想外といえばやや陳腐に聞こえるかもしれないが、実際決勝まで進んだ2つのデッキは大方の予想を越えていたと表現するしかなかった。

 過去に世界選手権への出場経験を持ち、独自の構築力とドラフト眼で知られる古豪・水谷 直生。『イニストラード:真夜中の狩り』~『団結のドミナリア』環境のスタンダードでは早期に《大スライム、スローグルク》の可能性に気づき、多色レジェンズの原型ともいえるリストを構築したプレイヤーである。

 初日のシールドデッキこそ綺麗な2色デッキであったが、決勝ドラフトでは水谷節全開となった。

 ここ10年、ドラフトでは5色以外ピックしたことがないと豪語する水谷は、その言葉に違わず見事な5色デッキをドラフトしてみせた。1パック目1手目で《崇められし擬態の原形質》をピックしフィニッシャーを確保した一方で、カードパワーの高いカードをピックしがちな2手目にはタップイン土地をピックと5色を見据えた足掛かりとしている。

 完成したデッキはレアカードが7枚に、それを運用するための堅実なマナベースが用意されている。5色ピックには一家言ある水谷からすれば、自身のデッキを強化できると同時にパワーカードが周囲へと流れなくなるためほかのデッキのパワーダウンというメリットもあるとのことだった。

 リミテッドオープンを走破するのは5色デッキだろうか。

 

 対する森山 優はつい2ヶ月前に開催されたアリーナ・チャンピオンシップ7へ出場した経歴を持つ精鋭だ。普段からMTGアリーナでリミテッドに興じる森山の経験値は伊達ではない。

 プレリリースとほぼ同時のタイミングで開催されたリミテッドオープンは誰もフライングスタートできない大会である。カードプールの確認やアーキタイプなどの知識を蓄えることはできたとしても、シールドでのデッキ構築、ドラフトのピック、指針や色変更、対戦における大局観などリミテッドの筋肉は一朝一夕で身につくものではない。つまり今大会はこれまでのリミテッドの経験値が問われる大会でもあるのだ。

 青と黒をベースに構築されたデッキは序盤の守りはかたく、ダメージレースを優位に進める飛行クリーチャー、脅威に対処する3枚の《スピン・アウト》、アドバンテージ源である《危険な近道》、ボムカード《悪魔憑きエンジン》と堅実で隙のないコントロールデッキであった。

 準々決勝で対戦したBIG MAGIC所属プレイヤーである松本 友樹は「かなりの強デッキ、よほどのことがない限り優勝だろう」と太鼓判を押した。

 先に最高速度へ到達するのは2色のコントロールデッキだろうか。

 『霊気走破』環境最速級の大規模リミテッドイベント、その勝者を決める戦いが始まった。

ゲーム1

 互いに《ジャングルのうろ穴》、《磨かれたやせ地》とタップインランドで始まるゆるやかな序盤。水谷が最初にプレイしたクリーチャーも《ピットストップの自動機械》と守勢を固めるもの。

 

 《屑鉄圧縮機》を置かれた返し、森山は《ミュータントの偵察員》をプレイしでエンジン始動!続くターンには《危険な近道》により、リソースを伸ばしながら戦闘を介さずに速度を2へ進める

 5ターン目に水谷は《多弁な司会、ヴンウクスト》を召喚し、こちらもエンジン始動!

 返すターン、森山は《ミュータントの偵察員》でアタックし、水谷は素早く《ピットストップの自動機械》を差し出すブロックの意思表示。森山は迷わず《ミュータントの偵察員》の起動型能力を使用しワンサイズあげると、水谷は目を見開く。どうやら起動型能力のコストが2マナではなく、3マナと勘違いしてしまったようだ。

 複数回シールドやドラフトをしていたならばこのようなブロックはしなかっただろう。環境初期だからこそテキストの勘違いが起こり、結果としてこの戦闘で一方的に《ピットストップの自動機械》を失ってしまう

 続く6ターン目、森山は《ミュータントの偵察員》、《ぬめる模倣者》を追加する。

 このエンドに水谷は《屑鉄圧縮機》を起動し、《ミュータントの偵察員》の内1体を除去。ターンが返ると2体目に《エンジン水没》を貼り、完全にボードをかためることに成功したように見えた。しかし、『霊気走破』には黒い速攻クリーチャーがいた

 

 森山は《駆け抜ける油吸い》をプレイし、速度を上げるために上空から飛来する。

 すると水谷はライフを20残したまま投了を宣言

 5色と青黒コントロールと方向性は違えどロングゲームを想定したデッキ同士であり、一時的なダメージレースやボードの有利不利ではなく、リソース勝負こそが最大の焦点となる。その点において《駆け抜ける油吸い》の登場により、森山は次のターンには最高速度へと到達することがほぼ確約されていた。

 

 最高速度へと到達した瞬間、《ぬめる模倣者》のコピー能力は解放され、除去したはずの《ミュータントの偵察員》はカードアドバンテージへと姿を変える。

水谷「エンジンマックスまでいったら、《ぬめる模倣者》でコピーされるし、墓地の《ミュータントの偵察員》でドローされると、そのリソースの差を埋めがたいとの判断したんだよね」

 序盤のエンジンを止められなかったのが響いたか。ゲーム1は森山がリソースを巡るレースを走破した。

森山 1-0 水谷

ゲーム2

 水谷はマリガンしつつも、血溜まりの洞窟》から《茨森の滝》を続けて最速で4色のマナベースの構築する。

 森山の初動はゲーム1と同じく《ミュータントの偵察員》から。エンジンを始動する。

 4枚目の土地として《平地》が置かれ、水谷のマナベースが完成する。《ミュータントの偵察員》のアタックに対し《舷側砲の一斉射撃》をプレイし、除去しつつ手札を整える。

 

 森山の次なる一手は《敏捷な飛行機械職人》。水谷は手札に《灯を追う者、チャンドラ》を抱えており、場をかためるため《雷頭の砲手》をプレイする。

 

 そこへ森山の《スピン・アウト》が突き刺さる。戦闘により速度を2へとあげながら、《レインジャーズの給油機》を追加。

 

 6枚目の土地を置くと《探し求める空蛇》をプレイし、即消尽でマナを伸ばす水谷。

 森山は《レインジャーズの給油機》の消尽を使用しクリーチャー化すると《敏捷な飛行機械職人》とアタックし、機体と蛇が相打った。タップアウトで《牽制機》を追加する。

 場がかたまらず、一向に《灯を追う者、チャンドラ》をプレイする隙が生まれない

 水谷はドローを見るとライフを17残したまま投了。その手札には《灯を追う者、チャンドラ》や機体などプレイしても相手の攻撃を止まらない手段がなく、ほかに選択肢は残されていなかったのだ。

 森山が見事にリミテッドオープン完走を果たした。

森山 2-0 水谷

 マジックとは楽しくも、残酷なゲームだ。ライフという概念が勝敗を巡るため、例え1点でも残っていればそれにすがり、あがき、わずかな可能性にかけてプレイを続けてしまう

 例えばゲーム終盤までもつれ込んだグルールアグロ対版図ランプ、攻め切ることのできなかったジェスカイ召集対ゴルガリミッドレンジ、後手に回った赤単アグロ対エスパーピクシーといずれの場合も先にあげたデッキはライフ面で優位に立ちながら、勝利の可能性をほとんど断たれた状況にあると想像がつく。

 森山と水谷の対戦は単にライフを巡るゲームではなく、場をかためるボード作り、そしてその先にあるリソースの伸ばし合いという非常に可視化しにくい部分が焦点となっていた。特にゲーム1では最高速度へと到達したことで、一気に2枚以上のリソース差が生まれてしまっていた。

 ゲームを続けるだけなら可能だっただろう。だが、水谷は自身の経験からその差は埋めがたいと判断した

 

 一見すると、森山は淡々とクリーチャーをプレイし、攻撃を繰り返していただけのように思える。それを可能にしたのは森山がこれまで培ってきた経験値という名のリミテッドの筋肉である。これまでのシールド戦が、ドラフトが、対戦が、一手一手が、森山の血肉となり、決勝ドラフトでの素晴らしい青黒コントロールへと繋がったのだ。

 プレイに関してもそうだ。当初はサイクリングカードと考えていた《シェフェトの大悪鬼》は、準決勝で横並びした小型クリーチャーの群れを一掃し、勝利を届けた。カードの役割と適切なプレイタイミングはプレイヤー自身の能力を如実に映し出す鏡のようなもの。1ターン早くても遅くても、違った結果になってしまう。

 卓越したドラフティングと先を見通したプレイスキルからは、とても『霊気走破』初見とは思えない。心技体のすべてを兼ね備えた森山だからこそ、リミテッドオープンを制したのだ。このリミテッドの筋肉、森山はまさに王者にふさわしい

 「世界最速級!! 『霊気走破』リミテッドオープン ~エーテル・フォーミュラ2025~ Supported by 楽天ブックス」、優勝は森山 優!!

 おめでとう!!

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