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プレイヤーズコンベンション千葉2023

戦略記事

デッキテク:森本 悠太郎(埼玉)のディミーア・オラクル

大久保 寛

※本記事はチャンピオンズカップファイナル サイクル3の4回戦終了時点でインタビューを行ったものです。

 今でこそ環境の均衡が取れているパイオニア・フォーマットだが、環境が整備される前にはあるデッキが圧倒的な強さを誇っていた時代があった。

 

 青黒《真実を覆すもの》。国内で初めて開催されたパイオニアのプレミアイベントであるプレイヤーズツアー・名古屋2020にてトップ8に5名が進出した圧倒的強さを誇ったコンボデッキだ。

 

 《真実を覆すもの》によってライブラリーを消し飛ばして《タッサの神託者》を出すだけという、単純ながらもわずか2枚のカードで完結するコンボデッキ。このデッキには、この2種のコンボパーツ以外のほとんどのスロットを除去やドロー、手札破壊、打ち消し呪文で埋めることができるという強みがあった。最速でも5ターンキルとさほど速くもないこのコンボが環境を席巻していたのも、まさしくこうした強みがあったからに他ならない。

 実際のところそこまで圧倒的な勝率を誇っていたというわけでもないのだが、いくらなんでもコンボがお手軽すぎたためか、《真実を覆すもの》は2020年8月3日にパイオニア・フォーマットで禁止カードに指定され、このデッキのコンセプトが瓦解。相棒だった《タッサの神託者》もまた、環境から姿を消した。

 そして今大会の第4回戦。フィーチャーマッチテーブルでは、いなくなったはずの《タッサの神託者》が「ディミーア・オラクル」なる超コンボ特化デッキのキーパーツとして生まれ変わり、よもや勝利を収めて4-0の好成績を記録していた。

 果たして《タッサの神託者》は"ガチ"なのか? ここでは、デッキを使用していた森本 悠太郎(埼玉)に話を伺った。


森本 悠太郎(埼玉)
 

デッキ作成の経緯

──「デッキ作成の経緯を教えてください」

森本「元々このデッキは、プレイヤーズコンベンション・愛知2022の直前にMagic Onlineで開催されていたPioneer Challengeのリストで、おもしろそうだなと思って友人と調整して、店舗予選やエリア予選でも使い続けていました」

──「このデッキの簡単な動きを教えてください」

森本「《縫い師への供給者》や《ファラジの考古学者》、《悪魔の取り引き》を使って自分のライブラリーを削っていき、《タッサの神託者》を出して勝つデッキですね。特に地上でまっすぐ殴ってくるデッキに対してはめっぽう強くて、コンボさえ成立すればどれだけライフ差があっても一瞬で勝負が決まるので、負けない程度にライフを守っているだけで勝てます」

 

──「ありがとうございます。《真実を覆すもの》のようなカードで一気に決めるのではなく、地道に自分のライブラリーを削っていくコンセプトは斬新に思えますね」

森本「元々《真実を覆すもの》が禁止されてからも一部のローグデッキ好きが細々と似たようなコンセプトのデッキを作っていたのですが、従来の形ではスゥルタイの3色で、《忌まわしい回収》などを採用していました。しかしこれだと土地からのペイライフやタップインによるテンポロスが厳しくて、とてもじゃないですがまともにゲームができるデッキではありませんでした。しかし、『兄弟戦争』で《ファラジの考古学者》が出たことで2色で構築できるようになり、コンセプトが成立するようになりました」

 

──「一見地味なカードに見えますが、強いのですか?」

森本「やっていることはだいたい《ボーラスの占い師》ですし、掘削できる枚数も多くありませんが、このデッキはチャンプブロッカーによってライフを管理しながらドローと掘削でデッキを減らしていくデッキなので、わずかとはいえライブラリーを掘れる軽量クリーチャーは重要です。また、《命取りの論争》のコストにすることもできます」

──「意外なカードが活躍するんですね。とはいえチャンピオンズカップファイナルの場にこのデッキを持ち込むのはなかなかチャレンジングな気もします」

森本「ええ。なので、友人と調整する中で『リスト公開制でまったく勝てないなら諦めよう』と考えていたんです。しかし、リストを知っているはずの友人と対戦していても意外と勝てるぞ、ということが分かって、このデッキを持ち込むことに決めました」

採用カードの解説

──「《ファラジの考古学者》の強さはわかったのですが、見慣れないカードがいくつか入っているので採用理由などをお聞かせいただきたいです。たとえば《異世界の凝視》とか。これは単純に6枚掘削できるカードとしての採用ですかね?」

 

森本「概ねそうなのですが、このデッキはドロー操作がほとんどなく、手札に土地が溜まっていくような展開も多々あります。そのため、意外とデッキトップにカードを残すこともありますね。《命取りの論争》をプレイする前に擬似『諜報』として使ったりですね。カードアドバンテージは失ってしまいますが、このデッキには《宝船の巡航》が3枚採用されているのでそれほど気になりません。ただ、さすがに2枚は引きたくないので1枚だけ採用しています」

──「なるほど。逆に《絶滅の契機》のような全体除去ももっと入れてもよさそうに思えますが、1枚だけなのですね」

 

森本「そうですね。これはサイドボードのカードを散らしている理由にもつながるのですが、このデッキでは《悪魔の取り引き》によるサーチが行えるため、シルバーバレット的な戦略が取りやすいです。そのため、特定のマッチアップでのみ活躍するようなカードは1枚だけ採用して、その分コンボ成立のためのドローや掘削カードに枠を割いています」

──「たしかに、このデッキの《悪魔の取り引き》はかなり強力そうですね。このカードの4枚採用は納得です」

 

森本「ええ、このデッキの中でも替えの効かない非常に重要なキーカードです。コンボ成立の速度が重要なマッチアップや暇なターンができた際には、《悪魔の取り引き》で《悪魔の取り引き》をサーチしてライブラリーを26枚減らすといった動きもありますね」

──「それだけ削れるなら初期手札の7枚や通常ドロー、他の掘削やドロー呪文も合わせればだいたい40枚以上はライブラリーを減らせていそうで、かなり勝利に近づきそうです。続いて土地ですが、《見捨てられたぬかるみ、竹沼》が3枚で《天上都市、大田原》が1枚なんですね。これはデッキコンセプト的にもライフを守れる《天上都市、大田原》2枚でも良さそうに思えます」

 

森本「実は《天上都市、大田原》は2枚になったり1枚になったりしている枠で、自分でもどちらがベストなのか分かっていません。また、《見捨てられたぬかるみ、竹沼》は僕が心配性なので3枚にしていますが、このデッキをコピーして使うという人がいるなら2枚にしてもよいと思います」

──「ありがとうございます。サイドボードのカードはどういった基準で採用されているのでしょうか?」

森本「除去呪文はそれぞれアグロに対してサイドインするカードで、逆に《思考囲い》と《神秘の論争》は《致命的な一押し》が刺さらない相手に入れます。《真髄の針》は緑単信心やロータスコンボに、《神秘を操る者、ジェイス》は《殺戮遊戯》や《屍呆症》を入れてくる相手に、《黄金牙、タシグル》はアグロ相手に壁として出すために、《闇の裏切り》は《黙示録、シェオルドレッド》を除去するために入れています」

各種マッチアップについて

──「ここまでデッキの動きやカードの採用理由について伺いましたが、環境の主要なデッキとのマッチアップについても伺いたいと思います。まずは今大会でも最も多いデッキであるラクドスとのマッチアップはどうでしょうか?」

森本「ラクドス側のサイドボードや引きにも左右されますが、ほとんど五分で、まぁ戦えるという感じですね。ロングゲームをしてくれる相手ならこちらもコンボの準備に時間を使えるのですが、殴ってくる形だとラクドス側も除去でブロッカーをどかしてくるので厳しいです」

──「アゾリウス・コントロールはどうでしょう? 一見するとかなり苦手そうな相手に思えますが……」

森本「この手のコンボデッキはコントロールデッキに弱いというのが定説ですが、実はそうでもなく、かなり有利です。基本的にこういった受けのデッキは中盤以降まで圧をかけてこないですし、こちらからすると『カードを引いているだけで勝ちに近づく相手』なので、《宝船の巡航》や《命取りの論争》を連打しているだけでいいんです」

 

森本「また、アゾリウスはメインデッキで《タッサの神託者》を打ち消せるカードが3マナの打ち消ししかありません。なので手札に《タッサの神託者》を溜めておいて、決めのターンで2枚3枚と立て続けに《タッサの神託者》を連打することで相手のカウンター用のマナが先に尽きる、というのが勝ちパターンです」

──「意外な相性ですね。緑単やバントスピリットなどはどうでしょうか?」

森本「緑単はかなり厳しいです。コンボスピードが相手のほうが速く、かつメインデッキから《大いなる創造者、カーン》で《石の脳》を探されて簡単に負けるマッチアップです。また、スピリット系のアグロデッキも地上のブロッカーが機能しないので不利で、すぐに殴り倒されちゃいますね」

──「ありがとうございました!このあともがんばってください!」


 独自の調整を加えた「ディミーア・オラクル」を巧みに操り、フィーチャーマッチテーブルで見事な勝利を掴んだ森本。ローグデッキならではの分からん殺しを狙いつつも、デッキリスト公開制で行われる今大会でもしっかりと結果を残しているのはさすがと言うほかない。

 このあと森本は見事に初日ラウンドを抜け、2日目進出を果たしている。はたしてこのディミーア・オラクルが今後パイオニア環境に一石を投じるデッキとなってゆくのか? 今後の活躍にも注目していきたい。

森本 悠太郎 - 「ディミーア・オラクル」
チャンピオンズカップファイナル サイクル3 / パイオニア (2023年6月24~25日)[MO] [ARENA]
4 《清水の小道
4 《湿った墓
3 《闇滑りの岸
3 《難破船の湿地
3 《見捨てられたぬかるみ、竹沼
2 《
1 《天上都市、大田原
1 《地底の大河
-土地(21)-

4 《ファラジの考古学者
4 《縫い師への供給者
4 《タッサの神託者
-クリーチャー(12)-
1 《アズカンタの探索
4 《悪魔の取り引き
4 《宝船の巡航
1 《立身 // 出世
1 《絶滅の契機
1 《思考囲い
4 《考慮
4 《命取りの論争
4 《致命的な一押し
1 《かき消し
1 《異世界の凝視
1 《呪文貫き
-呪文(27)-
3 《神秘の論争
3 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント
2 《真髄の針
1 《闇の裏切り
1 《神秘を操る者、ジェイス
1 《衰滅
1 《危難の道
1 《黄金牙、タシグル
1 《思考囲い
1 《魔女の復讐
-サイドボード(15)-
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